(ゼネラルオーディオにおける)いい音とは
「いい音、味方。CDioss」。 音質を語れた頃のラジカセのキャッチコピーである。あの頃は良かった。仮に今、同じの造っても中高生だけをターゲットにしていてはまず数が出ない。
冒頭から偉そうなことを言うようで申し訳ないが、失われた技術であるビンテージラジカセの情報収集先-その多くは所持ラジカセの自慢サイト-を見ていて思うことがある。
それは「いい音」の基準が往々にして、管理者の”自分好みの音”にすり替わってないか、ということだ。
確
かに自分と縁のあるラジカセを持ち上げたい気持ちはよく分かる。分かるんだが、今となっては一握りの人のモノとなり、もはや公の場で比較試聴のできない状
況下で発言することの責任も考えて欲しい。その”比較”は、あくまで手持ちの機種の範囲に限られているはずであるのに、管理者の主観で何とでも言
えてしまい、しかもその主観は容易に他へと伝播する・・・。
まず、多数決や投票でいい音(するモデル)を決めるやり方。民主主義にのっとっているようで間違っている。タマ数が多かったメーカーの製品、というだけでも上位には行くので。
次
いで、経年劣化の可能性を考慮せず単純に比較試聴するやり方。その多くが、既に発売当初のコンディションでないモノ同士を比較して、何の参考になる? 仮
に現在のメーカーが、そんな”高評価だが半壊れ品”のデータを解析し製品化でもしたら、果たしてその音は世界を狙えるのか。というのも、今のメーカーの、
特にアナログを知らない(ディスクリートやブレッドボードを組まず、理論上のシミュレーションで回路検討している)世代は、実際に出てくる音の調整につい
てはズブの素人*だったりするからだ。しかも、2007年問題じゃないが それを正せる人がいない。
*あ
るメーカーで、ある機器のノイズ発生源がどうしても掴めず、”誰かアナログの判るヤツを連れてこい”と指示したところ、なんと専務が出てきた、という笑え
ない話がある。また、職場で経験したことだが
IC設計に於いて、抵抗値や容量(コンデンサ)が製造ラインで10%はバラつくプロセスなのに、出図された回路図の抵抗や容量値が小数点2桁まで指定され
ていることがあった。おおかた SPICE に突っ込んで、出てきた値をそのまま書いてきたのだろう・・・
だ
が、そんな不調な個体でも、ちゃんとレストアすれば、比較可能になるのでは? 答えは否。直したつもりで実は、元の音より悪くなっているのに、音が変わっ
た=良くなった、と思いこんでるだけ、というケースも考えられる。同じ部品と交換すれば良い、というものではない。サービスマンしか知らない、交換後にも
測定確認箇所や調整箇所というのはしっかり存在するので。
ヒドい例では、オークションの値段を吊り上げる根回しとしか思えん発言もあっ
た。どったラジカセだったっけ?
とオクを覗けばそのラジカセが出品、しかも写真の背景にはラックにズラリと並んだビンテージラジカセが(店内でないことは明らか)。そしてスタート価格
は・・・5万円!? ついでにその出品には見覚えがあり、先月あたりからずっと回転寿司だったはずだが、なんだか昨日今日でヨイショされ始めるや早速入札
が。。。なんだかなぁ。こういった、不純な動機の輩(ヤカラ)が語る”いい音”なんぞ、聴いたことがあろうとなかろーと信用できんわ。
良いものが評価されない、または価値相応でない(のは誰が決めるのかって話もあるが)状態というのは、いつかその体系ごと破綻する。そんな昨今だから、ここでひとつ冷静に考えねばならない、いい音とは何かを。
通常、いい音というのは原音再生能力-ライブで聞いた通りの音がそのまま出るか-で判断されるべきモノ(ピュアオーディオでは)。
も
しこのセンを、そのままラジカセに適用するとなると、残念ながら私のお気に入りの一品はもちろんのこと、ネットで評価の高いアレとか、物量を投じた反則ワ
ザのソレをもってしても
ことごとく全滅*となる。所詮スピーカー径の制約上、ライブの音域などとうてい出せっこないからだ。では、ラジカセは全部が全部ダメなのか。極論すればそ
うだが、それでは2行で終わってしまう。
*DAT
でライブ録りしたソースをAUXに繋ぎ、記憶の新しいうちに聴き比べる方
法を用いた。ソースは列車の音、夏祭り、蝉時雨、秋の虫の声、など。よく、聴き慣れたCDをかけて善し悪しを判定する方法がオーディオ誌などでも普通にあ
るが、アンタ録音現場に居合わせたわけでもないのにそれでいいのか? と思ってライブ録音で比較した。経年劣化?
そんなん「永く使えるよう設計してくれなかったメーカーほど不利でした」ってコトでひとつ。なお、ピュアオーディオ機器の評論家には、いいお年をした人も
多いが、自分の耳さえも既に経年劣化している可能性を考慮していない(昔と比べて何かが足りない、とか言っているのは、たぶんそれ)かもしれない。一例だ
がこれは、加齢によって聞き取りづらくなる周波数 17000Hz(音量注意)。
それで各社は、ギミックでも
いいから(というか、ラジカセの楽しさはギミックにあり、と思ってるが)電気的に低音を増強する。*自然不自然とここまでをも否定されてしまっては、小音
量時に聴き取りにくい音域を補正するオートラウドネス、センター部の中抜けを改善したり、残響音を再現する疑似サラウンド、トークばっかりの番組を聴き取り易くするボ
イスアップ、サウンドプリセットのような有用な機能までも全否定することになってしまう。
*無論、この「ギミックで補うことで原音に近づける」手法には欠点もあり、その調整に使われたジャンルから大きく外れた(想定外の)ソースに対しては、再現性は逆に悪くなってしまう。
ラ
ジカセの弱点に低域の再現性が弱いことは先に述べたが、だからといって、これをやみ
くもに追求しすぎても
今度は罠となる。極端な例では、一人か二人の小人数で構成される管楽器などの演奏曲にまで重低音をブーストする人。ラジカセの「低音ボタン」で幾らでも増
強はされるのだが、それってライブの会場には存在しなかったはずの低音が加わって、原曲の軽やかな雰囲気とはうって変わったみょーな圧迫感が・・・低音バカに
ならないよう皆も気を付けよう。
リスニングポジションが、ある程度機器から離れていたピュアオーディオでは気にならないことも、ラジカセ
では顕著になる。それは枕元や机上で使う時。超近距離からスピーカーのハム音やヒスノイズをも耳にすることになるからだ。ピュアオーディオだって残留ノイ
ズをゼロにすることはできないのに。だからといって、この辺の聴感上の処理をないがしろにするようではダメだろう。高音の再生能力と、あのシャーシャーい
う残留ノイズとがトレードオフの関係にあるのなら、自分なら(こと耳元リスニングに限っていえば)迷わず音の良さよりS/Nの良さの方を取りたい。それほ
ど気に障り出すと気になって仕方ないものだったりする。静寂さと高域の伸びの、どちらもラジカセで両立するのには、まだしばらくかかるのだろうか。しかし
もう技術的に打ち止め とは思いたくない。
一方、ピュアオーディオには絶対マネ出来ないのが可搬性である。たといデカくて重くても、ハン
ドルがあれば何とかなる。ショルダーベルトもあちこちぶつけるのが怖いがまぁ許そう。ただ、私も二台持ってるが本体両端に取っ手というのはあまり持ち運び
に適さないことが判った(両手がふさがるのはかなり不便である)。って音質の話だった。そう、皆勤しても何の得もなかった夏の巡回ラジオ体操に駆り出せる
程度には出力も欲しい。ただし電池代が学校持ちであることが条件だ。小学生をお持ちの親御さん、あの頃のラジカセをかり出して今の安いだけのラジカセへ目
にモノ見せてやるのだ・・・ってああなんか収集がつかなくなってきた。着地できなくなったところで、音楽はカネや装置ではなく心であり、好きな音楽をみ
んなで聴けて楽しめれば、それこそウン百万もかけたオーディオルームでなお不満を募らすのに勝っている、とだけ言おう。
(↑広げた風呂敷を畳まず逃走しました)
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