惜しい、もう一声! → 叶わず終焉 SONY WM-GX822

  タイマー録音機能付きウォークマン。しかし ① マイクからはタイマー録音できない ② タイマーが曜日指定できない  という、そこまでやっておきながらの片手落ちなスペックに躊躇、当時持ってたWM-GX707型からの移行を促すまでには至らなかった(写真は中古)。



  今でこそ AMステレオを、出先でタイマー録りできるポータブルタイプは貴重(ひょっとすると皆無)だが、これを境にレコーディングウォークマンも縮小の一途を辿ったこと からして 市場の手応えは芳しくなかったのか。意 外と言えば意外だし、当然と言えば当然だったかも。なぜなら本機は「できるはずのことをやらなかった」からだ。この頃のソニーがMDに注力して いたこともあったろう。しかしMDがAM録音に適さない以上、カセット版の録音機能を引き上げる手法は依然有効だった はず。それに、WM-D6C型が在庫抱え なかなかカタログ落ちしなかったのは、必ずしも 高機能型の需要が減っていたからではない。アレはRECリバースがない時点で既に時代遅れだったのだ。そっ ち共々 個人 的にはもう一押しのブラッシュアップを望んでいたのに残念。

 そんな視点で改めて本機を眺めると ”オール・オア・ナッシング” と いう言葉が浮かぶ。高機能なんだけれど、セールスポイントなはずのタイマーが中途半端で選ばれなかった。もっとも、企画サイドにしてみれば、それまで(OBモデルにしか)無かった機能を付けて満足していたはずだ。しかし そうでなくとも、 一般人なら再生専用止まりのとこ ろを、敢えて録 再モデル選ぶようなマニアを、または 手持ちに予算はある貧乏性(1台で済ませたい)な購買層をくすぐる マーケティングにスキがあったのでないかと思う。結局、外部マイクや曜日指定ができ、かつ音楽もそこそこ楽しめる機器がようやく市場に認知されはじめるに は、本機からさらに10年以上の歳月を待たねばならなかった。

 それでも、昨今のメモリプレイヤーよりは複雑な カセット操作を、このパッケージングに収めた事例として紹介する。コンストラクションに興味ある人はどーぞ。

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 ・・・ といっても、 基本は従来のレコーディングウォークマンに、下図2と3のCLOCK(時計合わせ)、TIMER(録音時刻設定)をプラスしたモノ。だが他にスピード コントロールや3wayリピートなどの小技も持っている* の で、本体の スイッチ/キー/ダイヤル数の合計は  しめて17に及ぶ(スイッチ×2、キー×13、ダイヤル×2)。これは「ウェアラブルオー ディオをエレガントに操作 するためのキー類は最低18(うち1つは予備)」という、アバウトな持論とほぼ一致する。

*「乗り越し防止アラーム」など、削除された機能もある。元々、下車駅を乗り越してしまうような人はアラームでも起きられないと思うが・・・

 一 方、取捨選択のセンスが問われるリモコン操作部は、再生、停止、REWとFFのシーソー、音量、ホールド、リピート、バンド、重低音/シャカ減衰切替、録 音 /録音ポーズ、そしてバックライトとてんこ盛り。副作用として、音量ダイヤルの位置が悪く、ボリューム回すついでに意図せぬボタンを押してしまうことが度々。もしカセットウォークマンのジャンルが生きていたら、これにさら に液晶の表示モード切替キーあたりがリモコンにも追加されていたことだろう。



本機で特筆すべき機能を幾つか挙げる(番号は取説に準じる)。

[2] 時計合わせボタン:時刻が点滅するまで押す→9のダイヤルで時刻を合わせ もう一度押す。本当のこれだけのボタンで、通電中押してもOFF時のような時刻表示はしない。名称を「CLOCK SET」にすべき所。

[3] タイマーボタン:録音したい局をカレントにし、REC START が点灯するまで押す。9で録音開始時刻と終了時刻をセットしその都度押す。タイマーの解除は本体停止ボタン、またはカセット蓋を開ける。なの でスタンバイ中は他のテープを聴くことができない。ちなみにタイマーセット後にこのキーを押しても設定確認表示ができたりということはなく、うっかり押す となぜかBANDボタンと同じ挙動を返し、さらにタイマーも解除されてしまう謎仕様。余談だが、番組開始の1分以上前までにセットしとかないと、作動しな いそうだ。

[7] リピートボタン:本体、もしくはリモコンで設定したモードで発動(区間リピートか、4秒戻って繰り返すICリピート)。区間リピート時は、1度目と2度目 に押した区間をリピート。カセットなので、律儀に巻き戻しと再生を繰り返す。ICリピート時は、常時プールしてある4秒前を遡って再生(その間テープは一 時停止)。ICリピート中REWキーを押せば速度一割減、FFキーで通常速度。本体での操作に限り、再生中でも区間リピートとICリピートとの切替可。停 止中にリモコンのリピートモードボタンを押すと、何も起こらない、のではなく 押すたび区間リピートとICリピートが切り替わる(本体メ ニューを使わなくても切り替えられるということ)。解 除方法は、リピート中にもう一度押すか、または再生ボタンを押す。なおICリピートは5分経った場合も自動で解除。ICリピートを使用しない時は、モード を区間リピートにしてお かないと、電池の消耗が早まる。

このほかに一曲リピートというのもあり、再生中に再生ボタンを2秒以上押せば、その曲が終わった時に一曲巻き戻し→再生が予約される(”一回のみリピート”ではない)。区間/ICリピートとの併用は不可。解除は再生ボタンをもう一度。

[8] :REC/PAUSEボタン:携行時の誤消去を防ぐため スライド式に。さらに本体側では、そのボタンの中にもう一つ付いているボタンを押しながらでないとスライドできない徹底ぶり。ここまでやってくれると逆に 録音・停止をこまめに繰り返すような録音シーンには持って行きたくないほど。折角ポーズ機能もウリのひとつなのだが。あと、タイマー使ってるわけでもない のにラジオ録音中、テープが終わると( or 録音停止を押すと)ラジオも一緒に切れてしまう。この辺も意図不明な仕様である。

[9] SPEED CONTROL・TIME/TUNEつまみ:いわゆるジョグダイヤル。再生速度変更時は、左に回す毎に-10%、-20%、左に回す毎に+10%、+ 20%、+30%と変わる。傾きを保持すると速度は段階的にシフトアップ/ダウンする(取説には「連続的に変化します」とあるが 間違い)。マイナスに回すと女性ボーカルも男声に、プラスに回すと「オラは死んでまっただぁ」声になる(ピッチが変わる)。スピードコントロールは意 識的に解除しない限り テープを止めたりラジオに切り替えても保持されている(解除条件は、テープ交換/録音操作)。このように速度変更関係は  そつなくまとめてある。
  問題はタイマー合わせ。時刻を進めたり戻したりする時の初動が遅い上、回し続ければ速くなるが今度は速すぎる(限度はあ る)。かといって、小刻みに調整するにはジョグが反応するまでのストロークがあり過ぎる(意図せぬ接触との区別? 7~8°も回せば十分と思うのだが)。このため あーっと、おーっとと遣りながら合わせなければならず、非ッ常に煩わしい。何かのキーを押しな がら、な時のみ早く/遅くなる、というのならいいが、ここの速度を制御できないがための使いにくさは、タイマー録音使おうかやめようか(このままラジオ付けとい て時間来たら押すか)と迷うくらい、私にはハードルになる。

[20] 照明ボタン:よくある 何かの操作で副次点灯するモノではなく、この専用キーを押した時だけ5秒点く(ホールド時でも有効)。

[21] 低音増強/快適音量ボタン:リモコン固有の機能。普通に押すと低音切替。長押しでシャカ低減のON/OFF。頻繁に切り替えるわけではないこの機能程度な ら 長押しを許そう。個人的にAVLSのニコちゃんマーク(☺)は、デザイン的にはちょっとねぇ・・・ と思う。



 GX型番では、本 機よりひとつ前のモデルあたりから、背面の物理スイッチ項目がLCD表示内へ移動した(「MENU」で表示部のカーソル移動、「SET」 で変更)。カーソルの応答はやや遅いが、常時表示のメニュー階層が浅いので露呈しにくい。かといって、これ以上項目が増えるとカーソルが一方通行では煩 わしくなるだろう。暗いとカーソル(写真ではIC.REPの位置にあるバー)が見えなくて困る。この方式にするなら、本体表示部にもバックライトが欲しかったところ(?)。



AMS (Auto Music Sensor):通常は4秒以上の無音部を曲間と判断する。「LOW」に設定すると、会議やラジオ録音のような多少雑音のある 休止部もブランクとみなす。しかし「LOW」だけでは、「何が低くなって、だからどうなるの?」 っていう、一般人には回路担当者の言葉をそのまま持ってきたよーな意味の伝わらなさである。厳密の反対ならてきとー =「About」とかの方がイメージ伝わりやすいのでは? (2つ以上意味持つ言葉ではダメか・・・)。

REC:録音モード切替。「LIVE」を表示させると通常より大音量の録音に対応。とは言っても レベルベーターは無いからちゃんと録れてるのか不安ではある。

BL SKIP:ブランクスキップ。12秒以上無音が続くと次曲、またはその面の最後まで早送り。この便利機能、ぜひカセット全盛期にリアルタイムで恩恵を享受したかった・・・

DIR: リバースモードの切替。片面のみの再生モードはない。ビス穴の有無でA面B面をインテリジェントに識別しているわけではなく、カセットを入れ直した時は決 まってフタ側から録再生を始めることで、機械がユーザーに「フタ側をA面にして下さい」と暗に要求している。巻ききった面をフタ側に入れて両面録音しようとすると、すぐリバースして結 局片側にしか録音してくれないので注意。あえて片面にのみ録音する場合は、巻き取ってある側に注意しながら録音したい面が本体側になるようにカセットを入 れ(るだ けではダメで、REVになるまで■を押し続け)る。なお、エンドレス設定にしていても録音時は1往復に切り替わる。誤消去防止の配慮なのは解るがドライブ レコーダー的な用途には使いづらく、余計なお世話だったりする。



↑参考まで にコレは別機種(上:同77型) 822型はNRとリバースモード、走行方向、FMモノ/ステレオ切替、バスブーストなどがLCDメニューへ。ビートキャンセルをメニューに押し込まなかったのは正解。テープポジションセレクタは同707型の頃から自動検出に。




↑これも参考ま でに、本機とほぼ同時期の別機種(FX-855型)こちらはリバースモードとブランクスキップが兼用、さらにNRとFMモノ/ステレオ切替も兼用だった りとやや強引。


その他(順不同)

○ バッテリーランプは、消灯時 色の出ないクリアランプなのがイカス
○ マイク端子がシックなワインレッドというのもイカス
○ ACアダプタが使える
○ 電源二段構えでポップノイズを防ぐ(または聴き終えて、ヘッドホンを耳から外したくらいの遅延で小さく鳴ってる)
○ リモコンの機能表示はすべて無印刷(凹凸で表示)ある意味理想的。本体機能表示部は、仕様が固まってから追加されたであろうシルク印刷が僅かに見られる。
○ ワールドチューナー。海外のラジオも聴ける、録れる。そんな重いモノじゃないので旅行には持って行くべし
○ ワールドモデル仕様を選べる。こちらはコンセントの変換アダプタと240V対応充電器が付いてくる

× ↑なのに何を根拠に動作保証が購入日から90日間までなのか?
× ヘッドホンジャックは独自仕様。囲い込みが目的のようでユーザーには何らメリットなし。
× 携行型が艶消しというのはスレが目立ってしまってよろしくない(裏面)。
× 再 生中の操作におけるビープ音の割り込みは最低限にして欲しいかも。



△ 通常、フタ開けた時にヘッドが奥に来るデッキやラジカセに慣れた手前、両面録音の際はこう、上下逆さまに持たないとセット方向間違えそうで不安だ。なので本機において
両リールの動きを目で確認できるのは非常にありがたい(さらに可能なら、テープ残量をバックライトで確認できたりすれば なお安心だった)。にしても、やっぱりこの違和感どうにかならんのかと思っていたら、この次の機種では”直って”(ヘッドが奥に配置されて)いた。


最後に、取説冒頭の「主な特長」を。メーカーがどこをセールスポイントにしていたか判る。

・付属のステレオマイクまたはラジオからの、オートリバース録音機能。
    → 時代背景としては、テレコもリバースは再生のみなんていう、削るところを間違ったようなモデルが各社から出始めていた。

・ラジオの留守録音ができる、タイマー録音機能。
   → 前述の通り、ウィークリータイマーや外部マイクからのニーズには応えてない。

・語学学習に威力を発揮するlCリピート、A-B区間リピート機能。
・+30%~-20%まで、6段階の再生スピードが選べる、スピードコントロール機能。
 → リピート聴きながらの採譜や文字起こしは、専らMDやPCで遣っていた。ICリピートはモノラルだが採譜はステレオの方が有利なのだ。

・14倍速の高速サーチで、前後3曲の頭出しが簡単にできるAMS。
 → そのうち36倍高速サーチとか前後9曲頭出しなどインフレーション化していった。

・FM/AMステレオおよび丁∨の青も聞ける、ワールドワイドチューナー。
 → ”丁∨の青”ってのはOCR誤認。

・ワンタッチで自分の地域の放送局が呼び出せる、オートステーションプリセット(ASP)。

・本体の液晶表示で機能の切り換えができる、LCDメニュー方式。
 → 特長だが、この変更をメリットと感じるかどうかは 人による。

・充電式電池と乾電池の併用で、21時間の長時間再生。
 → なのだが付属電池はニッケル水素からニカドにグレードダウン(同707型比)。あと付属キャリングポーチも緩衝材としての用をなさないぺらっぺらなモノにグレードダウン。

・迫力ある重低音を再生する、MEGABASS(メガベース)。
 → 録音中の音をモニターする時は、録音前にオフにしとかないと雑音が。録音に入るとMEGABASSの設定は変えられない。

・暗やみでも動作確認ができる、ELパックライト付き液晶リモコン。
 → 欲を言えば、同社のDAT、TCD-D7/8みたく一度押して点灯、もう一度押して消灯、のモード切替も欲しかった。

・コンサートやライブハウスなどの録音に便利なLlVE録音モード。

・録音を一時停止する、REC/PAUSE。
 → 本体のブランクスキップ機能をフル活用させるべく、4秒間の無音を任意に作れるMUTE機能があっても良かった。

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