燃料切れで命運尽きる SEAGRAND RAVEMETAL RM200M
舶来品のカセット型MP3プレイヤー。カセットしかないカーステレオでCDなどを聴くための「カセットアダプタ」同様、カセットデッキでMP3を聴ける
のが特長(本体のヘッドホン端子からでも聴ける)。
このメーカー以外からも何種類か輸入されていたが、いずれも国内モデルはFMラジオが省かれており、厳密にはラジカセとは言えない。
2003年頃、秋葉原は石○電器の売り場でこの風変わりな製品サンプルを目にした。第一印象は、ハイテク武装した新しいカセットテープといったところ。高級感あるメタルボディが物欲をそそった。
しかし不幸なことに、海外ではまだまだ現役のカセットテープも、こと国内ではMDにそのシェアを浸食され続け、この頃既に日本のカセットは世界に先駆けて死に体状態だったと言っていいだろう。
そのせいだったかMP3プレイヤー第1弾にこれを輸入したSEAGRAND社は後日倒産し、バッタ品が秋葉原界隈の怪しい店で本体のみ699円などの捨て値で売られることになる。
もっとも、本機は本体のみでは使い物ならないので(後述)、その多くは燃えないゴミになってしまったはずだ。
時は経ち、MDに別れを告げ、DATはテープが入手困難に、後釜のPCMレコーダーもお眼鏡にかなう製品が(その時点で)無い状態が長く続いたため、私の録音メディアは
何と、カセットに逆戻りしていたことがある。その時困ったのがテープの種類の無さ。メタルテープが絶滅したのは知ってたが、地元の売り
場じゃノーマルテープはかつての最下級グレードAEのみ、TYPEⅡに至っては
CDingしか置いてない(最近のラジカセがTYPEⅡにも対応してくれないのだから当たり前)。しかたなく、買いだめしていた高性能テープのストックに手を付ける日々が続いた。
今回、本機(「レイブメタル」と呼ぶ)を入手することになった背景には、これがあれば、高性能テープが入手できなくても、引き続き 手持ちのラジカセを有効活用できるのではないか? との目論見があったのである(結論から書くと、ダメでした)。
本機はその見た目に反し、普通のカセット感覚では使えない数々のハードルが控えている。
×
充電池が入手困難:一応、複数のメーカーで造られていた規格品だが、現在国内では生産されていない。どうして
も電池を新調したかったら海外から個人輸入でもするしかない。専用電池がヘタってしまったら、ハイテクカセットも「タダのテープに似たオブジェ」である。
× 公称値よりはるかに持たないバッテリー
× 本体USBコネクタも特殊:4PINヒロセタイプの、さらに変形版。出先でケーブル忘れたり紛失したらアウト。
× 本体がマスストレージクラスでない:CD-ROMで提供された専用ローダーソフトがないと、本体メモリにはアクセスも書き込みもできない。
× 外部メモリーカードスロットはMMC(マルチメディアカード)用。日本ではSDカードに取って代わったため入手困難 & 今となっては超割高。
× MMCによっては消費電力が高く、起動しない(取説には『メモリカード挿入時は電源をOFFにすること』と書いてあるが、これじゃ守れない)
× MMCによっては消費電力が高く、運良く起動しても電池が持たない:動作報告を知りたくても手だてがない。
× 普通のカセットのようには録音できない。カセットより手間がかかる。
①(できればリモコンを装着し)本体の電源ボタンを長押しして電源を入れる
②電池残量の確認
③本体停止ボタンを長押しして電源を切り、リモコンが付いていたら外す
④本体のスライドスイッチを「REC」に合わせ、電源を入れる
⑤本機のボタンが付いている面を上にしてカ
セットデッキにセット
⑥録音開始
⑦録音が終わったら、デッキを停止して
⑧本機の停止ボタンを押す
注:取説も言葉足らずである(電源が入っていることを前提に記載されている)。スライドスイッチを「REC」にしてても、電源手動で入れないと、電源OFF状態でただ回ってるだけで録音されない。
また、どういうわけか、この手順を守っても、周囲のカチャカチャやってる時の音(⑦⑧のプロセス?)を実況したトラックがオマケで出来ちゃったりもする。
※これが普通のカセットだったら
①テープをセットし
②録音開始
③停止ボタンで録音停止、だ。
× ↑ 自動で電源が入らない、5分でオートパワーオフ、ということは、本機を留守録には使えないということでもある(待機中に電池切れたら)
田舎のおじいちゃんおばあちゃんに、アナログカセットから徐々にデジタルオーディオへ移行してもらう用途には、恐らく使えなかっただろう。
○ リーダーテープの巻き取りや、テープをひっくり返す必要がないのは利点かも知れない。
× しかし電池が持たないので、入れ替えの手間がかかるのは悲しいかな、従来のテープと同じだ。
なお、録音レベルの大小は、レイブメタル本体の再生ボリュームに依存する。メーターも何もないラジカセでのレベル調整は、手探りで遣るしかない。他のプレイヤーと違い、ボリュームが、押しっぱなしだと変化しないのは、こういう事情を加味してのことかも知れない。
× 外部メモリを増設しても、内蔵メモリにしか録音できない。これは残念。
× 本機でラジオを録音し、できたファイルはMP3ベースの独自形式(~.MPE)。つまり本機でしか聴かれない。
× そのくせ外からの受け入れはDRM(著作権保護された)ファイルに非対応だったりと矛盾がある。
× そして普通のカセットのようにも再生できない。一手間必要。
①再生ボタンを長押しして、本体の電源を入れる
②本体のスライドボタンを「ON」に合わせ、再生モードにする
③本機のボタンが付いている方を上にしてカセットデッキにセット
④再生
※これも普通のカセットなら
①テープをセットし
②再生ボタンで再生開始 でいいわけだから
やはりカセットしか知らないからって田舎のおじいちゃんおばあちゃんにくれてやっても猫に(←くどい)
×
停止状態が5分続くと電池消耗を防ぐため自動で電源が切れるのはいいが、再度聴く時は、いったんレイブメタルをデッキから取り出し、電源を入れ直して
再びセットしなければならない。ここも使い勝手を大いに異にする。
※ さすがにコレはどうかと思ったか、後継機のRM600型は、カセットデッキの再生と連動してレイブメタルの電源も入るよう改良された。
× デッキの構造によっては、再生を止めて5分経っても電源が切れてくれず、そのまま電池切れとなる。
× カセットデッキに再度投入する際は(イコライザ設定の揮発はともかく)音量設定が保持されてない。これは怖い。
× 再生時の音量は、ラジカセのボリュームだけでは調整しきれない。レイブメタル本体を取り出して、ボリュームを調整する必要がある。(RM600では、音量の上げ下げは本体で行なう、とある。少し変わった?)。
× ヘッド経由の録音品質はいまひとつ。普通にカセットに録った方が高音質。そのため後継機では削除された。しかし録音機能を諦めたレイブメタルは、もはやカセットアダプタに対してのアドバンテージも無いような。
手持ちのがどっか埋まってるので店のを撮らしてもらった。昔はもっと高かったがiPodなどの普及で数が出るようになったのか、
3000円でおつりが来る。
×
デッキ側のカセットガイドやスタビライザが金属製だと、レイブメタル本体に擦り傷が付く。普通のプラスチックのカセットを頻繁に出し入れしてもハーフが擦
れることはあるが、メタルボディの見栄えをウリにしたハーフも同様に擦れるのは結構イタタな感じである。スク
ラッチガードが欲しいところ。
もし、こういうプラスチッキーなデザインだったら、手に取ったかどうか疑問だが。
×
「多機能なのに無表情」というのも問題だ。動いてるんだか止まってるんだか、録れたのか録れなかったのか、ヘッド録音のつもりがボイスレコーディングに
なっていたとか(ボイスレコーディングモードもあると明記されているが、その方法は取説にまったく記載がない。RM600のweb取説でやっと判った、電源投入後「REC」にスライドだった)、電池切れたのか切れてないのか、など、カ
レントの動作状況を示すモノがLEDひとつじゃサッパリわからない(しかもデッキに入れたら見えない位置にある)。録音中、電池が切れそうになろうが切れようが、物理的には回っているわけで。結局リモ
コンをぶっ差して状況確認、抜いてカセットデッキへ入れる、なんていうのは当たり前だ。
× 無表情なのに、少ないボタンで長押しと単押しの使い分けを要求する。リモコンがないと、なんで(どこで)ハマッって意図通りの動作しないのか判らなくなり、いったん電池を抜いてやり直す、なんていうのも当たり前だ。
× リモコンを付けると本体での操作ができない+リモコンではファイル消去できない=リモコンで確認しながらのファイル消去はできないのでキケン(そしてその解法は「再生してカレントを確認、止めて消す」)。
×
カセットデッキとの相性が存在する:顕著なのは、カセットデッキに入れた状態でのバーチャル早送り・巻き戻し機能(マウスのカウンタ機構のような、回転速度
を監視する装置が付いているようだ。短く高速回転→次曲へ飛ぶ、高速回転が長く続く→キュー、というように)。取説には、「ボタンを押す長さは、長押しは
二秒程度、短く押す場合は一秒以内を目安として下さい」とあり、これで期待通りの挙動を返すデッキもあれば、そうでないのもある。
オートパワーオフが働かない。そもそもテープとして認識しない、リバース方向にしか動作しない、レイブ
メタル使用後に普通のテープを使うと何やらキーキー異音がする(←これも恐怖)など。
恐らく、カセットを模するための走行系が、インタフェースの関係上、片側にしか付いてないのが一因かと。手元のラジカセ ZS-D1では、リバース方向にしか回らない。もっと普通のカセットの振る舞いを期待していたのだが・・・。
× 内蔵メモリと外付けメモリを瞬時に切り替えられない:ヘッド録音先の制約といい、いっそ内蔵メモリはナシにして、外部メモリだけで増設した方が、良かったのではないか?
× 電池の蓋が異様にカタい(開ける時、勢い余って壊す人続出)
×
外部メモリが、何メガ(あるいは何ギガ)まで理論上対応しているかの(公式な)アナウンスがない。カセットテープの代用品を期待するなら、レジュームが効
かなくなる容量のMMCでは、コンセプトを逸することになるので(しかし本機には、カセットもど
き らしからぬランダム再生機能がある・・・)
△ ギアはカラカラと安いプラスチックで耐久性に不安が:それくらいは考えられていると思いたいが、普通のカセットテープを、一本だけ、とことん回し続けるということはしたことがないので。
・・・思いつくまま列挙してしまったが、こんなところだろうか。
カセットテープを模しながら、カセットのように使えない。特に相性問題が痛い。大手が本気出せば、新型ラジカセ同梱のサポートユニットとして、カセットデッキ内部に電源取るための接触端子設けることぐらい朝飯前なんだろうが、時機を逸したか。
結
局、改良が中途半端なままこのシリーズは終わってしまった。こういうエポックメイキングな製品も、認知され、利益が出る前に体力無くなり解散or破産申し
立て、というパターンがリキッドオーディオといいシーグランドといいNHJといい多すぎる気がする。大手企業はウン千億円の赤字が出ても信用で生き長らえ
るのに。ベンチャー支援などかけ声倒れ、真に受けた人ほど溺れ死ぬ。やはりこういう仕事を続けていきたければ「寄らば大樹」なのか?
本機を使いこなすには、かえって相当の手間と維持費がかかる。カセットアダプタ比で、せっかく本体からコードが無くなりラジカセにもセットできるようになったのに。
結論:ビンテージラジカセ有効活用のツールになるかと思えた本機だが、専用電池がほとんど持たなくなった今、カセットより先に滅びそうだ。バッテリーチェッカーのような吹き抜け構造にすれば単四電池でもイケただろうがそれはデザイナーが許さなかっただろう。
「昔はこんなのあったんよ」と、話のネタに飾っておくのがいいだろう。
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