「限定版」の魔力

限定版。いい響きだ。

これが『初回』限定版となると、焦りが生じたり、後から存在を知って悔しがったりもしたが・・・

欲しくとも まずは値下がりを待つ人の「買い控え」を防ぎ、どうしようかと迷う人の背中を押す。
メーカーが、手っ取り早く開発費と利益を回収するには うってつけの手法だったといえる。

ゲームやDVDのソフトでは、ずっと以前からメジャーな販促方法であるが、ことハードとなると
あまり事例が無い。強いて言えば、ケンウッドが二代目ランページに通常よりイイ部品を使った
LTD(リミテッド)バージョンなるモノをラインアップさせていたくらいか。もっとも、このモデルは、
残念ながらメカの耐久性が低く、しかも一旦生産終了してから量販とタイアップ増産した分が
似ても似つかぬ音質だったことが評価を下げたため、限定版の威光は発揮されなかった。

しかしコストダウンのやり過ぎで日本のゼネラルオーディオが魅力ないモノに成り下がった今、
逆転の発想で、この「限定版」の響きが持つ言葉の魔力を 借りることはできないものだろうか?

とはいえ、実力の伴わない乱発は、かえって限定版の価値を下げてしまう諸刃の剣でもある
(ゲーム市場を見よ)。したがって、遣る側のメーカーには、それなりの覚悟が求められる、と
いうことは最初に断っておきたい。

本項では、ユーザー、メーカー両方の立場から理想的な限定版のあり方について述べる。

ゼネラルオーディオ開発には、常に製造原価の制約がつきまとう。ためしに この枷を撤廃し、
開発サイドのしたいように部品選定させてみると-大抵 設定原価を大幅にオーバーするわ
チューニング箇所増えるわ 時間もかかるわで、高性能だが不採算な試作機が出来上がる。
(実際に発売されたランページLTDを例に取ると、量産モデルより1万5000円高である)。

この妥協による開発サイドのルサンチマンを部分的にでも解消させ、「その気になれば本当は
これだけの音を出せるんだゾ」という達成感を造る側に与え、次の仕事への糧にして貰うのに
この種の限定版枠の投入は有効であるように思われる。ユーザーサイドも、「ちょっと人と違う
モノが欲しい」向きに、限定版は満足度の高い選択肢になり得る(技術が伴っていれば)。

ときに、かつてのハイエンドオーディオが下位機と違いを謳う所には次のようなモノがあった。

・基本、極性表示付きコンセント
・アナログ部とデジタル部の電源分離(ツイントランス)
・コンデンサが何かでっかい(写真から)
・そして低ノイズだ
・通常、ICで済ます部分をディスクリートで
・ヘッドの材質変更(アモルファスだったりパーマロイだったり)
・無酸素導線 無酸素銅基盤(OFCだったりPCOCCだったり)
・軸受けがサファイア(ここが摩耗する前にメカが逝かれたんだが)
・カセットホルダがフェルト(音さえ良ければ材質に拘らない)
・共振防止のハニカムシャーシ
・同じく共振防止に前後の材質を変える
・限定カラー、特殊塗装、防錆電解処理無塗装ボディ
・FL管表示の場合、消灯機能(ノイズ対策)
・サイドウッド
・入出力端子が金メッキ・・・など

上記は一例に過ぎず、限定版特有のフィーチャーだったわけでもないが、通常版のどこかを
変えることで、見た目も含め劇的、または地味にでも効果が認められるレベルなら、それを
ウリにしてもイイだろう。

あと、間違いなく効果があると解っているので個人的に推奨したい限定版のウリのひとつに

・特選D/Aコンバータ

というのがある。IC選別は私も仕事で関わっていたので少し述べると・・・

IC(やLSI)は、出荷時点で、たとえ同一ロットであっても性能がまったく同じわけではない。
検査項目でズバ抜けた性能のICも、規格ギリギリでパスした低性能なICも混じっている。

そのICを使った製品の性能(または評価)のバラつきを抑えるため、各検査項目の許容範囲を
通常品より狭めた厳しい検査にもパスしたICを特別選別品(ES段階ではチャンピオンサンプル)
と呼ぶ。バーブラウン社製なら、特別選別品と判るようICに王冠マークが刻印されてたりする。
王冠マークの数の違いだったかも知れない。

当然、一度選別したICを再度選別するための手間が価格に上乗せされていることになる。が
この選別に価値を見いだし対価を払えば、(電気的特性に限って言えば)ハズレのない製品を
手にすることができる。

これはぜひ、造る側、買う側共に、限定版の際には押さえておきたいフィーチャーのひとつと
言えるだろう。普通の人が、通常品とチャンピオンサンプルとを差し替えて比べる機会なんて
滅多にないと思うが、ホント違うから。


次に、やってはいけない限定版についても述べる

・後出しである(通常版と同時発表でない)
・通常版と性能が(大して)変わらない
・上と逆に、通常版が見劣りしてしまう
・製品とは別なところに目が行く
・オマケが製品よりデカい
・そのオマケが中古屋で売られている
・どこ行っても売ってない(欲しい人に行き渡らない)
・「○○万台ありがとうキャンペーン」に至るまでの寄与者が蚊帳の外(例:○ガ)
・通常版とユニット単位の互換性がない
・限定版相当へのアップグレードができない
・あるところでは あり余っている
・しかも処分価格だ
・十分な耐久試験をせず売り出す
・しかもサポート体制に不備
・使用時間に関係なく1年経ったら無保証だ
・買った時のハコと梱包材で修理出したのに、戻ってきたら ハコが通常版のだ
・買った時のハコと梱包材で修理出したのに、戻ってきたら ハコがぼろぼろだ
・買った時のハコと梱包材で修理出したのに、戻ってきたら 本体にスレがある
・スグ値崩れする(利益を回収できない)
・オープン価格
・モデルチェンジのためのモデルチェンジを繰り返す(最初から長く売る気がない)
・店によって値段が違う(仕入れる側の技量だろうが、不公平感はある)
・実はモノラルで200万する
・LRそろえると400万する(例:デ○オン)
・ラジDVDの、通常品を、さらに木製キャビネットで覆い とんでもない値付け
・なので所有者は情報弱者と成金趣味者だ(例:あえて言うまい・・・)
・もう手に入らないのに、いつまでも公式webに載ってる(例:ダ○ワ精工)


限定版の生産調整としては受注生産方式やネット販売、買い控えを防ぐためのワンプライス制も
視野に入れねばならないかもしれない。ハード(製品)だけでなく、ソフト(販売方法、レンタル、
サポートなどの)面でも新しい手法を探っていかねば日本のゼネラルオーディオは低迷を続ける。
訳あって特別に設計された限定版なら、それを造る側 使う側の双方にメリットをもたらすだろう。

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