国鉄(インチキ)車両図鑑-特別私用車(全2頁)2/2
形式スヤ59 2




運用離脱後のスヤ59の内、品川に在籍した1は廃車解体された。一方宮原にあった2は浜松工場に入場の上、再度改造を受けている。

大きな側扉は再び埋められて小窓が開けられた。他に外見上大きな改造はされていない。
車内はまた大きく変化している。

旧1号室はベッドを取り外した跡に、貴重品庫と書状棚が設けられ、業務員用の机が置かれている。


スヤ59 2


左側、旧便所・洗面所はシャワー室兼便所、洗面所に改造され、引き戸で仕切られた旧1号室は厨房である。
流し、電気コンロ、電子レンジ、冷蔵庫が効率よく配置され、その上には小さな棚があって、簡単な調理位なら出来るようになっている。

流しの後ろは靴脱ぎである。靴箱とロッカーが設けられ、ロッカーは実質上インスタント食品庫として使われている(理由は後で述べる)。

引き戸を通って旧2・3号室に入るとそこはデイルームである。

左下に書机、左上にクロークがあり、その奥には大きめのテーブルを取り囲んでL字型のソファーがある。長旅に飽きたら横になって惰眠を貪っても良い。

テーブルの左側にはマガジンラック、テーブルの下にはここにも小型の冷蔵庫が据えられている。

書机の上にはビデオプロジェクタがあるが、余り頻繁に使用していない。どんな名画であっても流れ去る車窓に勝るものは無いのだ。

旧4・5号室は寝室として使用している。モハネ582から派生したパンタ下の寝台を中央壁際に据え付け、左側(頭側)には照明等のコントロールパネル、右側には書棚が造り付けられている。書棚には「ローマ帝国衰亡史」や「唐詩撰」「日本の民家」等の気に入りの本が並べられ、そして大抵は読まれない。

コントロールパネルの下はリネン類を収納しておく棚になっていて、定期清掃が入る駅で専用の袋に入れてデッキに出しておくと、出発時刻までに新品が返って来るようになっている。



大体お判りかと思うが、旧1~5号室までは私の専用室、即ち「特別私用車」なのである。

旧6号室は表向き貴重品庫や書状棚として使われているようになっているが、この部屋が実際に何かに使われている所に出くわした事が無い。何時乗っても施錠されているし、誰かが室内に居るような気配もない。これは詰まり、1車両を丸々私が専用する事は営業的に巧くないので、方便として6号室を公用のスペースとして使っているように見せているに過ぎないと推測するのである。

現在スヤ592は隅田川に配属されている。

大抵は荷物列車の最後尾に連結される。隅田川発青森行き荷43レであれば、丸20時間掛けて青森に至る。

大体どの荷物列車もそうだが、殆どの駅に停車する、そして途中駅での停車時間は非常に短い。途中駅で食料を入手する事は不可能なのである。

その上、駅弁を求めて荷物列車の最後尾に連結された職用車から乗客のような不審な男が現れてホームをウロウロするのは、営業施策上好ましくないのは理の当然である。従って乗車前に食料をある程度買い込んでおかなければならない。

当然インスタント食品率は高くなろうと言うものだ。

以下、日程の一例を掲げる。

荷43レ隅田川発20:48 青 森着15:43+1
荷2048レ青 森発00:30大 阪着06:22+1
回5666レ大 阪発06:45吹 田着06:57
回5970レ吹 田発02:31+1京 都着03:03
荷45レ京 都発04:48鹿児島着11:22+1
荷44レ鹿児島発20:19汐 留着14:54+2
回6338レ汐 留発15:31隅田川着15:59



荷物列車最後尾に付く特別私用車


二軸台車ならば「トテタタッタタ、トテタタッタタ…」と聞こえるジョイント音は、三軸のTR73にあっては「タタタラタタン…トトトン…タタタラタタン…」と刻むのである。賑やかなボレロのリズムは、何時しか耳に馴染んでやがて無音の境地に入るのではないかと怪しむのである。





本稿参考資料 スターリン・ジョーク(河出文庫)



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