日本(インチキ)風俗大系 -9-


無声映画「快傑赤頭巾」1936

快傑赤頭巾は戦前期無声映画全盛時代に発表され、所謂B級娯楽映画としてヒットした。
赤井主水こと赤頭巾を演じる主役は当時無名の新人、柳沢伴太郎が務めた。その存在感のある独特の風貌は、戦後の大俳優としての片鱗を伺わせる。

ここではスペースの関係で、全編を解説する事が叶わないので、字幕部分のみを掲載する。字幕から銀幕を想像して頂きたいものである。



「慶応二年、京」

「主水、そちに頼みとは」
「この密書を長州藩邸に届けるのだ」
「藩公御母堂、病に伏せておる故、病気見舞と称して參れば」
「所司代の目も誤魔化せよう。心して參れ」
「うむ、頼んだぞ」



「吾等は泣く子も黙る『人狼組』よ」
「我から狂犬病に罹り、人間の知恵と狼の力を持った吾等は」
「所司代の手先となり憎き赤頭巾奴を倒すのぢや」

「何々、赤頭巾奴、長州藩邸に參るとな」
「者共、支度ぢや。今日こそ赤頭巾奴を血祭に上げるのぢや。抜かるで無いぞ」



「何奴じや」
「吾等は人狼組。御母堂は吾等の言ひなりになつて頂く」

「おのれ、人狼組。卑劣な」
「御母堂様を放せ」

「狼藉とは吾等の為に有る言葉よ。赤頭巾、覚悟せよ」
「皆々掛れ」

「残るは貴公独りぢや。観念せい」
「黙れ、赤頭巾。刀を捨てよ。御母堂のお命は無いぞ」
「赤頭巾、妾に構はず、悪党を倒して給れ」
「-御母堂様は長州藩の討幕派の要」
「-倒されてはならぬ」

「呵々、刀を捨てたか。赤頭巾、貴様の命も此にて仕舞ぢや」

「アツツ、飛び道具とは卑怯なり」
「流石の人狼組も此の六連発拳銃には適はぬと見える」
「アツツ、貴方様は」
「おのれ、鞍馬天狗。此次は容赦はせぬぞ」



「赤頭巾君、此からも帝の世の為に力を貸して呉れ給へ」
「危ない処を忝うござつた。鞍馬天狗様」
「ではさらば。赤頭巾ちやん」

「ちやん付けで呼ぶ者は、誰であらうと斬る!」

「完」