架空プラレールセット「走れ就職列車」で遊ぶ


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頼んであったプラレールのセットが届いた。



「はしれしゅうしょくれっしゃ」と言うタイトルで、面白い構成なのでつい手が出てしまったのだ。

内容は、Uターンレール×2、ターンアウトレール×2、直線レール×8、ストップレール×2、田舎の駅×1、上野駅×1、C60×1、オハ35客車×2。それに多数のプラキッズが封入されている。

説明書によれば、二つのUターンレールを向い合せ、その途中にターンアウト(ポイント)を入れてその先に「上野駅(駅アナウンス付)」をセットする。エンドレスの途中には「いなかのえき」をセットするように指示されている。

そして大量に同梱されているプラキッズだが、最初はその組合せの意味が分からなかった。

・先生×1(ソフト帽にチョビ髭、眼鏡)
・学生×3(学帽に学生服、一人は中肉中背、一人は背が高く、もう一人はずんぐり)
・母ちゃ×1(モンペに姉さん被り、白髪)
・花子ちゃ×1(セーラー服にツインテール、頬っぺた赤)
・村長さん×1(山高帽に紋付羽織袴、手に日の丸を持たせる事が出来る)
・社長×1(作業服に禿げ上がった頭、鷲のような表情)
・優しい先輩×1(作業服に、そばかすの浮いた大人しい顔、目は笑っている)
・意地悪な先輩×2(同じ作業服に細い目、口元が歪んでいる)
・お得意さん×1(取引先の社長、ワイシャツにネクタイ、眼鏡)
・都会の性悪女×1(赤いワンピースに派手な化粧、口元が歪んでいる)
・社長の優しい娘×1(白ブラウスに黒スカート、パッチリした目元)
・出世した後の僕×1(スーツにネクタイ、髪は七三分け)

途中の「都会の性悪女」辺りでその意図がようやく理解出来た。要するにプラレールに名を借りて「一人人形劇団」をやれって事を言っているんだ。

ではご期待に応えて、一人人形劇団、「プラキッズ出世物語」の幕開け。



シーン1 いなかの駅

田舎の駅に列車が停まっている。先生が3人の学生を引率して列車に乗り込む。ホームには村長、母ちゃ、花子ちゃが見送りに来ている。

村長「ではまず、先生。一つ無事に彼らば東京さ届けてやって下さい」

先生「お任せ下さい。無事に雇い主さあの所ば送って参ります」

母「生水飲んで腹壊すなよ、盆暮れには手紙さ送れ、あとそれからな、畑とベコの面倒は兄ちゃがちゃんとさるはでな、お前は何も心配さねえで良いだからなあ」

花子「東京には悪い女がいるから、気を付げれ、手紙寄越せやあ」

生徒「頑張って来っからなあ。正月には帰るからなあ」

列車は駅を発車する。



シーン2 列車内

車中。

先生「お前達、東京の社長さあの所ば行ったら、何て挨拶すっだ?」

学生A「本日は御日柄も良く、御両家様に置かれまスては」

先生「まねそれまね、そいだば披露宴の挨拶だべ。お前、やって見れ」

学生B「本日は足元の御悪い中、かぐも大勢のご参列を賜り、故人も草葉の陰で」

先生「たくらんけえ、そいだば出棺の挨拶でねえか、あいあい、こいだばまね」

学生C「先生、もうじき上野だなす」

列車はポイントを渡って上野に到着する。



シーン3 上野駅

ホームに就職先の社長が出迎えに来ている。

先生「社長様、田舎出の訳つ判らねえ童コですが、どうぞ仕事ば覚えさせてやって下せえまし」

社長「ええ、責任持ってお預かり致します。おい君。最初は少し辛いかも知れないが、一生懸命やっていれば道は拓ける」

学生A「はい、社長、よろスくお願いします」

社長と学生Aは連れ立って工場(クッキーの空缶)へ行く。



シーン4 工場

工場には、優しい先輩、意地悪な先輩A、B、社長の娘が集まっていて、学生Aと対面している。

社長「と言う訳で、彼がこれから皆と一緒に仕事をする事になった幸夫君だ(学生Aは「幸夫」にした、今)」

幸夫「皆さん、どぞよろスくお願い致します」

社長「彼はこの工場で一番長く仕事をしている、勝君だ(優しい先輩は「勝」になった)。何でも彼に相談すると良い」

幸夫「勝さん、よろスくお願いします」

勝「よろしく、幸夫君。早く仕事を覚えてくれ。判らない事は何でも教えてあげるよ」





シーン5 朝の工場

先に出勤していた幸夫が、後から来た悪先輩ABに挨拶する

幸夫「あ、悪先輩、おはようございます。今日からよろスくお願いします」

悪A「ああ? それが挨拶かよ。カーッだから田舎者はイヤだってんだ。よろスくだとよ」

悪B「俺達ゃなあ、忙しいんだよ。田舎者の言葉まで面倒見切れねえよ」

社長の娘、登場。

娘「ちょっと、あんた達、油売ってる暇は無いわよ。あっち行って箱詰めと検品を手伝えって」

悪AB「へーい」

幸夫「あ、あの」

娘「京子よ(今、「京子」になった)。ここの工場の娘。色々やり難いでしょうけど、私たちはちゃんと見てるから、頑張るのよ」

幸夫「お嬢さん、ありがとうございます」





シーン6 工場

ネジ止め作業をしていた幸夫に悪ABが近付く。

悪A「おいこら、幸夫。何だこの仕上げはよ」

悪B「田舎者はネジ一つ満足に締めらんねえのかよ」

勝、登場。

勝「お前達はすぐに表の部品箱を仕舞うんだ。雨が降って来たぞ、急げ。幸夫」

幸夫「あ、勝さん。ありがとうございます」

勝「あいつらの言っていた事も一理あるんだよ。幸夫のやっていたようにネジを思いっきり締めると、遊びってモノが無くなるんだ。そうすると機械は十分に動かなくなってしまうんだ。良いか、ネジ一つにも心があるんだよ。ネジが痛がらないように、ジワっと締める事だ」

幸夫「ネジにも心がある」

勝「そうだ。何にでも心はある。それを思いやる事が出来たら、一人前に一歩近づくんだよ」





シーン7 幸夫の部屋

休日、社長の家の二階の幸夫の部屋(クッキー缶の上に菓子箱を重ねる)。
階下(クッキー缶)から京子が声を掛ける。

京子「幸ちゃーん、電話よー」

幸夫「誰だ? まさか母ちゃから? あ、もしもし、母ちゃか? オラあ元気だよ、大事ねえか?」

学生B、公衆電話(カマボコ板)から電話している。

学生B「俺だ俺だよ、幸夫ちゃ、アハハ、お前もうホームシックば罹っただか? 今Cと一緒にお前の工場の近くば来てんだ。日曜だはで出て来ねえか?」

幸夫「うん、今支度して行ぐから待ってれや」

京子「お友達?」

幸夫「あい。田舎の中学で一緒だった連中です」

京子「そう。良いわね。働いてばっかりじゃダメよ。休みの日は外に出なきゃ。あそうだ、ちょっと待ってて…お父さん…わあ、ありがとう。幸ちゃん喜ぶわ。幸ちゃん」

幸夫「はい」

京子「これ、お父さんから、特別に。皆の前で恥をかいちゃダメだって」

幸夫「あっ、あの、はい。お嬢さんありがとうございます」

京子「私じゃないわよ、お礼はお父さんに言って」

幸夫「あっ、社長、ありがとうございます、ありがとうございます」

社長、事務机(キャラメルの空き箱)の前で腕を組んで目を閉じている。



シーン8 繁華街

繁華街にある喫茶店(ティッシュの空き箱の天井を抜いたの)に三人がおずおずと入る。

幸夫「わあ、こいが喫茶店つうもんだばあ」

学生B「何だ幸夫ちゃ、お前喫茶店初めてだっきゃ?」

学生C「わいだも初めてなんずな」

学生B「そいは喋てはまねんだっど」

笑う三人に近寄る性悪女。

悪女「あんた達集団就職の子かい?」

学生B「そんだ」

悪女「あたいも田舎の出だよ。懐かしいねえ。あたいはこの喫茶店で働いている「お軽(にした、今)」ってんだ。あんた達暇があったら遠慮なくおいでな。お足が無くってもコーヒーの一杯位はご馳走してあげようよ」

学生C「そうだな事して貰ってははあ、悪いずな」

悪女「悪い事なんざありゃしないよ。あたいだって人の子さね。たまには他人の為に何かしたいじゃないかね。だから、さ、またおいでな」

幸夫「はい、あ、お軽さん、ありがとうございます」

学生B「東京って怖い人ばっかりだって聞いてたけど、そんでもねえようだずな」

悪女「またおいで、きっとだよ」





シーン9 工場

昼前の工場。機械部品をいじっている幸夫に京子が近付く。

京子「はい、幸ちゃん。お弁当こさえといたわよ。あんた何時もインスタントラーメンばっかりなんだから、たまには栄養をちゃんと付けないとダメよ」

幸夫「お嬢さん、ありがとうございます。お嬢さんの弁当は本当に本当に美味しいです」

京子「遠慮しなさんな」

社長、事務机(空き箱)の前で幸夫を呼ぶ。

社長「おい、幸夫」

幸夫「はい、社長」

社長「お前、済まないけどな、これから取引先へこのサンプルを持って行ってくれ。場所はこうこうだ。迷ったら人に聞けよ」

幸夫「はい、行って来ます」





シーン10 取引先

取引先の会社(ミドリガメの水槽。「鳥曳電業」に今した)。
取引先の社長と幸夫が面会している。

鳥曳「じゃあ、確かにサンプル受け取りましたよ。暑い中ご苦労さん。冷えた麦茶があるから飲んで行きなさい」

幸夫「いえ、社長さん、私はこの後用事があるので」

鳥曳「おおそうだったのかい。じゃあ引き止めちゃ悪いな。今度来た時はゆっくりして行きなさい。社長によろしくね」





シーン11 喫茶店

繁華街の喫茶店(ティッシュ箱)の前で、中に入ろうかどうしようか迷っている幸夫。
そんな幸夫に、お軽が気付いて呼び込む。

お軽「あんた、昨日の。えと、確か。幸夫ちゃんだったわね」

幸夫「あはい、お軽さん、お久しぶりです」

お軽「バカ、昨日の今日でお久しぶりも何もあったもんかね。さあ、何してるのさ、早くお入りな」

幸夫「はいでは」

ティッシュ箱に入る二人。

お軽「でもさあ、嬉しいねえ、昨日会ったばっかりなのにさ、今日もまた会いに来るなんて。ダメだよ、あたいはこう見えても身持ちが堅い女なんだからね、フフッ」

幸夫「ああ、いえ、何も、そんな」

お軽「冗談さ。ねえ、幸夫ちゃん、ちょっとあたいの愚痴に付き合ってくれないかい?」

幸夫「あ、ええ」

お軽「あたいはね、故郷におっ母さんと弟を残して来たのさ。おっ母さん肺病でね、まとまったお金が無いと入院すら出来ないのさ。まとまった、そうねえ、一万円も必要なんだ」

幸夫「え、あの、その」

お軽「あはは、バカだねえ。あたいが幸夫ちゃんにお金の無心をする筈がないじゃないか。だからあたいそう言ったろ? 愚痴だよ、ただの愚痴。だけどさ、あんたの顔見てると、ふと羨ましくなってね。あんたはまだこれからの人じゃないか。あたいみたいに泥沼の底まで沈んじまった女とは訳が違うんだよ。あんたはまだこれから幾らでも親孝行出来る。それが羨ましいし、眩しくってさ、何だか罪の意識まで感じちまうんだよ。あっごめんよ、別にあんたを責めてる訳じゃないよ。あたいはあんたの顔見てるとね、何だかホッとするんだ。ああ、あたいにもあんたみたいな純朴な頃があったんだってさあ」

幸夫「お軽さん、俺、俺あの」

お軽「あんた、何を言ってるのさ。これはただのお話だよ。ああもう判った判った。これは全部嘘っパチ。出まかせなのさ。だから気にするんじゃないよ…ふう…でもさ、あんたがそう言ってくれただけでも嬉しいよ。本当に嬉しいよ。気持ちだけ、受け取っとくよ。もうね、もう、本当に、東京出て来て初めてだよ、こんなさ、こんな親切にされたのはさ」





シーン12 工場

幸夫、戻る。工場の前で忙しく働く悪AB。

悪A「お前、こら、今までどこほっつき歩ってたんだよ。お前のせいで俺達まで残業させられてんだぞ」

悪B「ちったあ責任感じろよこの、お前に残業代払わせるぞ」

幸夫「すいません、すいません悪先輩」

勝、登場。

勝「幸夫、帰ったのか。一緒に来い。社長が呼んでるぞ」





シーン13 工場の事務机

事務机の横に立つ幸夫と勝。社長は事務机(空き箱)の前で怒り心頭。

社長「今までどこ行ってたんだ。そんな無責任な事でどうする。勝、お前の指導がなってない」

勝「社長、申し訳ありませんでした。これから素行を指導して行きますので、幸夫はどうか叱らないでやって下さい」

社長「ん、もうちっと見込みがあると思ってたが、とんだ眼鏡違いだったようだ。まあ今日は勝の顔を立てて勘弁してやるから、幸夫、次からはよくよく気を付けるんだぞ」

勝「幸夫、返事をしろ」

幸夫「社長、どうもすいませんでした。これからは良く気を付けます」

二人、社長に頭を下げる。勝、退場。

幸夫「あの、社長」

社長「ああ、何だ」

幸夫「あの、折り入ってご相談があるんですが」

社長「今怒鳴られて、そんでもう相談事か。いい加減にしろ。立場を弁えて物を言え」

幸夫「あ、ど、どうもすいません」





シーン14 工場

工場の中。勝と幸夫が立ち話。

幸夫「あの、あの、勝さん」

勝「どうした。許して貰えたか?」

幸夫「勝さんにお願いがあるんです」

勝「何だ、改まって」

幸夫「俺、金が要るんです」

勝「おい、穏やかじゃないな。金か。幾ら必要なんだ?」

幸夫「一万円」

勝「おいおい、それはどうも莫大な金だが、一体何に使うんだ? ちゃんとした理由があるなら俺が何とかしてやるんだが」

幸夫「はい、いや、あの、それは」

勝「良いか幸夫。東京には色んな誘惑がある。それに一々打ち勝って行かないと、すぐに身を持ち崩す事になるぞ。俺もそうだった。断れる金だったら思い切って断れ、な」

幸夫「はい。判りました。そうします」





シーン15 工場

翌日、社長が事務机に幸夫を呼び出す。

社長「幸夫、鳥曳電業へ行って、代金を集金して来るんだ。この鞄に領収書が入っているから、お金と引き換えにして来るんだぞ。間違いなくな。昨日のような事があったら承知しないからそう思え」

幸夫「はい。判りました。行って参ります」





シーン16 鳥曳電業(ミドリガメの水槽)

社屋(水槽)の中で鳥曳社長から金を受け取る幸夫。





シーン17 喫茶店

喫茶店(ティッシュの空き箱)を覗き込む幸夫。

顔を出したお軽に一万円を手渡す。お軽、幸夫を伏し拝み、手を握り、頬にキスをする。卒倒しそうになる幸夫。





シーン18 喫茶店内

喫茶店の中。お軽が札を数える。店(ティッシュ箱)に入って来る悪AB。

悪A「さっすがだなあ、お軽さん」

悪B「簡単に巻き上げたね」

お軽「あんた達のようにすぐに手を上げてちゃあダメなんだよ。あの手の純情なのはね、泣き落としが一番なのさ。さ、賭けはあたいの勝ちだよ。ほれほれ、500円お寄越しな」

悪A「ちっ、敵わねえなあ」

悪B「なあ、俺達もその手で行こうや」

悪AB、喫茶店を出る。

出た所に勝。

悪A「うわっ、勝さん」

悪B「ちょっ、俺達サボってたんじゃ無えすよ」





シーン19 跨線橋

幸夫、跨線橋(蚊取り線香の缶二つの上に下敷を載せたヤツ)の上から無言で走り去る列車を見つめる。





シーン20 喫茶店内

喫茶店に勝が入って来る。

お軽「いらっしゃ、あ。勝さんじゃないの。どうしたのさ急に」

勝「ねえ、お軽さん。何も言わずに、幸夫から巻き上げた金、返して貰いたいんだよ」

お軽「え、何の事だい? あたいは幸夫ちゃんから何も預かってなんかいないよ」

勝「とぼけないでくれ。たった今金を貰った筈だぞ」

お軽「止しておくれよ。幾ら勝さんだって他人を泥棒扱いしたんじゃ黙っちゃいないよ、大体あたいが幸夫ちゃんから一万円も借りる理由が…あ」

勝「語るに落ちたな。お軽さん、証拠ならあるんだよ。おい、お前ら、入って来い」

お軽「ちょっ、Aちゃん、Bちゃん、あんた達、何それは、どうしたの血塗れになって!」

勝「こいつらが全部喋ってくれたよ。さあ返すのか、返さないのか?」





シーン21 跨線橋

上野から汽車が出て行く。それを見つめる幸夫。

幸夫「ああ、あの汽車は田舎へ行く汽車だなあ。あれに乗って行けば1日で母ちゃにまた会えるなあ。いや、会えないんだ。俺は飛んでも無え事をしちまった。会社のお金に手を付けちまった。俺はもう泥棒だ。一生人に後ろ指刺されながら生きて行くなんて、俺には出来ね。母ちゃ、花子ちゃ、もう一度会いたかったなあ…」

幸夫、跨線橋(下敷)から身を乗り出す。

勝「幸夫、待て、待つんだ!」

勝、幸夫を抱き止める。

幸夫「勝さん、止めねえでくれちゃ、俺あもう生きちゃいらんねえんずな!」

勝「馬鹿野郎、目を覚ませ。集金の帰り道に一万円落とした位で死ぬ奴があるか。ほら、お前が落とした一万円だ、交番にちゃんと届いていたぞ。早く帰ろう。社長も心配してるぞ」

幸夫「勝さん違う、勝さん、俺あ、俺あ、お軽さんに…」

勝「もう何も言うな。あ、そうだ。お軽って女なあ。あの人は事情があって故郷へ帰ってしまったぞ。もう東京へは二度と来ないそうだ。諦めた方が良い」





シーン22 工場-半年後

幸夫は仕事にすっかり慣れた様子。工場内(クッキーの空缶の中)で京子は幸夫のボタンを付けてやっている。

京子「へえ、幸ちゃん、鳥曳電業から仕事を貰って来たんだ。凄い、もう一人前じゃないの」

社長「鳥曳の社長がな、幸夫をえらく気に入っているらしいんだ。真面目で実直だからな、そう言う人同志は惹かれ合うもんだよ」

幸夫「いえ、俺の力じゃありません。社長や勝さんのお蔭です」

社長「幸夫もいっちょ前にお世辞を言えるようになったか。ハハハ、こりゃ将来が楽しみだ」

京子「もう、お父さん、幸ちゃん恥ずかしがっているじゃない」





シーン23 工場の外

工場の入り口前(クッキーの空缶の外側)で悪ABがヒソヒソ話。

悪A「あの時は勝さんに邪魔されたけど、しかし幸夫だけは許せねえな」

悪B「勝さん、あんな虫も殺さねえような顔して強かったな」

悪A「ああ、強え。無茶苦茶強え。俺だって腕っぷしじゃ遅れを取った事は無えけど、あいつは別格だ。化けモンだなあいつは」

悪B「だからよ、勝さんに関わらずに幸夫を痛めつける方法があるんだよ、こないだ鳥曳電業からあいつが取って来た仕事な、仕様書を書き換えちまうんだよ」

悪A「そんでどうすんだよ?」

悪B「俺はあの仕様書を盗み見たんだ。主抵抗の部品に国産品を充てているんだけどよ、あれをPT45に書き換えてやるのよ」

悪A「PT45って、外国の部品じゃねえか。それは不味くねえか? 幸夫が赤っ恥かくだけならともかく、下手すりゃ俺達まで失業しちまうぜ」

悪B「そうなったらそうなったまでよ。お払い箱になったらよ、もっともっと悪い事して、太く短く生きてやるまでさ。どうだ?」





シーン24 工場の事務机

事務机(空き箱)の前で額を寄せる社長、勝、幸夫。

社長「幸夫、仕様書によれば、主抵抗にわざわざ高価なPT45を指定しているな。おい、勝、どう言う事だろう?」

勝「珍しいですね、こんなのは。でも前例がない訳じゃないですよ」

社長「うん、それは知っているが、それにしても納期が今月末だろう。今から外国にPT45を発注したって間に合わんだろう」

幸夫「俺、鳥曳の社長さんに聞いてみましょうか?」

社長「そんな訳に行くか。相手先の仕様書に書いてある事だ。それを疑ったら、次から仕事は来なくなるんだぞ」

勝「とにかく、同業者に当たって見ます。PT45の在庫があるかどうか」

社長「うん、そうしてくれ。幸夫は主抵抗以外の部分の作業を始めるんだ。PT45が届いたらそれを嵌合すれば完成って所まで仕上げておくんだぞ」

幸夫「判りました」





シーン25 工場の外

工場の入り口前(クッキーの空缶の外側)で悪ABがヒソヒソ話。

悪A「クックック、あいつら困ってる困ってる」

悪B「PT45なんて高級品の在庫抱えてる会社なんて、日本にゃ無えっつうんだよ。馬鹿な奴らだ」





シーン26 工場

工場内、社長と幸夫が作業をしてる所へ、勝が入って来る。

勝「社長、ありました」

社長「そうか、あったか。これで納期に間に合うな」

勝「いえ、社長。あるにはあるんですが、共振電子にあるんです。どうしますか?」

幸夫「共振電子ですか、何か問題があるんですか?」

社長「うーん、共振か。そこしか無いのか」

勝「ええ」

社長「なら仕方が無い。この仕事は投げよう。今なら謝罪文を書いて違約料を払えば済む話だ」

勝「ねえ、社長。止めるかどうかは、この際幸夫に聞いて見た方が良いんじゃないですか? 元はと言えば幸夫が取って来た仕事ですよ」

社長「勝、お前何を言い出すんだ」

勝「幸夫、お前がこの仕事を取って来た時は、俺は自分の事のように嬉しかった。お前が少しづつ一人前になって行くのをこの目で見るのが楽しくてしょうがないんだ。幸夫、どうする? お前が取って来た仕事、投げるか? それとも続けるか?」

幸夫「俺は、俺はこの仕事やり遂げたいです」

勝「よし、良く言った。ならば俺がお前を男にしてやる。社長、わがまま言うようですが、共振の社長と話をして来ますよ」

社長「ダメだ、勝、止めて置け」

勝、工場を飛び出る。

幸夫「あの、社長?」

社長「幸夫、お前は本当に幸せ者だ。勝を始め、色んな人がお前を守り育てている。良いか、これから何があっても、その事を忘れちゃいけないぞ」

幸夫「はい。判りました」





シーン27 深夜の工場

工場内、幸夫が徹夜作業をしてる京子が入って来る。

京子「どう? 間に合いそう?」

幸夫「はい、主抵抗以外は何とか。後180個です」

京子「検査を含めれば何とか間に合いそうね」

幸夫「はい」

京子「幸ちゃん」

幸夫「はい」

京子「結婚について、どう思う?」

幸夫「結婚、ですか?」

京子「そう。唐突かも知れないけど、幸ちゃんの意見も聞いて置きたいなと思ったの」

幸夫「さっ、それは、ちょっと俺にはまだ判んねす」

京子「幸ちゃん、慌てたでしょ? 久しぶりにお国訛りを聴いたわよ」

幸夫「結婚、ってのは、お互いが好き合っていれば、出来る事ではないですか?」

京子「そうなんだよねえ。じゃあさ、仮に幸ちゃんは私の事どう思ってるの?」

幸夫「え、さ、それ、それは」

勝、突然工場に戻る。

幸夫「あっ、勝さん、それは!」

京子「ちょっと、血だらけじゃないの、どうしたのよ、何をして来たのよ!」

勝「ああ、幸夫、ほら、PT45だ。表に500個分箱詰めになって置いてあるから、早く仕上げちまえ。…ああ、幸夫。手を動かしながら聞いてくれ。俺は、俺はな」

勝、工場内のソファ(消しゴム)に倒れ込む。

勝「俺は、元ボクサーだった。共振の今の社長は、その頃の俺のライバルだった。俺はヤツの挑戦を受けて二回闘って二回とも勝った。その内に俺は、町で詰まらない事で喧嘩をして、相手を殴り殺してしまったんだ。いや、少年院に入って、もう二度と拳は振るうまいと誓ったんだ。だから共振の社長とはそれ以来闘っていない。人を殺したこの拳をな、もう二度と使いたくは無かったんだよ。だがなあ、俺はお前と知り合って判った。人を活かす為にだったら、この拳をもう一度使っても良いんじゃないかってな。今俺は共振に出向いて、社長と果し合いをして来た所だ。勝てばPT45を丸ごと頂くって約束で、な。だからPT45はここにある。お前の初仕事への俺のはなむけだよ」

京子「勝さん、あなたは馬鹿よ。本当の大馬鹿よ」

勝「ああ、それで良いよ。少し疲れた。このままひと眠りするからな、いやちょっと待て、もう一つ仕事が残っていた」

勝が工場から出るや否や、工場の外から物凄い物音。人が二人倒れる音。

「勝さあん、もう勘弁して下さあい」と言う情けない声。



シーン28 鳥曳電業

鳥曳電業の社屋(ミドリガメの水槽)の前で鳥曳の社長と、社長、勝、京子、幸夫が並んでいる。

鳥曳「いやあ、社長。どうもありがとう。まさかここまで良いモノを仕上げてくれるとは思っていなかったですよ。収支はちゃんと合っているんですか? ウチのせいで赤字を出したなんて言われたら、寝覚めが悪いですからね」

社長「いえいえ、ちゃんと儲けは出ていますよ。御心配なく」

鳥曳「ああ、所で、聞きましたよ。お宅のお嬢さん。立派な婿さんが来られるんですってね」

社長「いやあ、この通りのじゃじゃ馬ですからね、並大抵の男じゃ務まらないでしょう。幸い一人、そんな男が身近にいたって訳でして。で、どうでしょう社長、一つ仲人をやっては貰えませんか?」

鳥曳「それは嬉しい。私なんかで良いんですか。幸夫君。どうかな、私が仲人では? おかしくないかい?」

幸夫「??あの、それでは、あの、京子さんを…」

鳥曳「そうだよ。本当に目出度いじゃないか。君の所の勝君だったら、断然お似合いだと思うよ」





シーン29 工場の外

深夜の工場。勝と幸夫が対峙している。木枯しのBGM、FI。

勝「幸夫、お前の気持ちも知っていたよ。だけどな、こればっかりは仕方が無い事なんだ。俺を呼び出してどうしたいんだ? 殴るか? 殴って気が済むなら幾らでも殴れ、その代り恨みっこ無しだぞ」

幸夫「いいえ、違います。俺は勝さんを殴りたいんじゃありません。勝さんと勝負したいんです」

勝「どうして?」

幸夫「俺、勝さんと全力でぶつかってボロボロに負けたら、それで何もかもスッキリすると思うんです。お願いです。俺と勝負して下さい!」

勝「勝負ってのは、文字通り勝ち負けだ。勝負と言われた以上は全力で行くぞ」

幸夫「望む所です!」

幸夫、勝にパンチを繰り出す。顎で受ける勝。

勝「効いたぜ。俺のチンにパンチを入れたのは、幸夫、お前が初めてだ。ようし、行くぞお!」

勝、幸夫を本気で潰しに行く。

京子、工場の陰(クッキーの空缶の隅)から飛び出し、金切声を上げる。

京子「あんたたち、何やってるの!」

幸夫「止めないで下さい、これは…男の…意地…」

勝「俺が幸夫をギタギタにすればなあ、幸夫はそれで救済されるんだよ、だから…」

京子「あんたっ、いい年して何を寝言みたいな事言ってるの。男の意地なんてモンじゃ飯は食えないのよ! 全くもうどいつもこいつもガキばっかりで嫌んなっちゃわよ。幸ちゃん、あなたもあなたよ。私が掴み取った幸せをあなたにどうこう言われる筋合いは無いわよ。悲劇の主人公になって自己陶酔するのは結構だけど、傍から見てるととんだ三枚目にしか見えないわよ。いい加減大人になりなさい!」

二人、拳を構えたままションボリする。

京子「さっ、工場に戻りましょう。熱いお茶入れてあげる」

木枯しのBGM、FO。





シーン30 工場-2か月後

工場内、先生と幸夫、社長が話し込んでいる。

先生「まあ、そう言うような訳だんで、幸夫を一つ、故郷へ帰らせてやって貰いてえと言う事で。本当に社長様には申し開きようも無えんだすけが」

社長「ううん、まあそう言う事なら。そうか、お兄さんが結核で入院とはなあ。いや、先生。ウチとしても幸夫はどうしても手放せない人材なもんですがね、仕方が無いって言うのは、こう言う事なんですかねえ」

幸夫「社長、俺ももっと社長の下で働きたいです。でも母ちゃ一人で畑やらせる訳にも行かないんです」

社長「うん、仕方が無いって事は良く判っているよ。これからはお母さんを助けて、親孝行するんだよ。先生」

先生「はい」

社長「来年の就職時期には、幸夫のような素直で真面目な子をまたお願いします。この通りです」

先生「やや、頭下げられちゃ、うわどら、わんつかどら」





シーン31 いなかのえき

駅に列車が到着する。村長、母ちゃ、花子ちゃが出迎えに来ている。テーマソング「ああ上野駅」F/I。

母「うんうん、幸夫、何も喋るでね。お前も苦労したんだすけがなあ」

幸夫「俺こそ、かちゃくちゃねえ思いばさせて済まなかったずな」

花子「幸夫ちゃ、東京で悪い女さ引っ掛らなかったずな?」

幸夫「そんたら訳あ無え」

花子「やあ、信用無えずな」

幸夫「やや、本当だてば、俺あ花ちゃ一筋だんだてばや」

花子「嘘こけこのお」


テーマソング「ああ上野駅」F/O。

Fin



とまあ、こんな感じで遊ぶ商品なのだ。プラキッズを両手に持って。自分でセリフを廻す訳だ。

これは遊び方の基本なのであって、他にも多様なサスペンスやカタルシスが味わえる商品だと思う。

(申すまでも無い事だが、プラレールにそんなセットはない)




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