小田急新デニ



アルバイト情報誌「バイト・アルバイテン」誌2002年10月号記事より






刻々と流動する需要に対応するため、様々な技術革新を迫られる運命にあるのが流通業界。今号の「来た!見た!働いた!」は、そんな流通業界でも異例中の異例、主に電車で荷物を運ぶ小田急ラゲージシステム(OLS:本文P252)で働く、高松シンヤ君(20)に、その高度にシステム化された職場を紹介してもらおう。



「こんにちわ、高松シンヤです。こないだ20になりました。今は高井戸に住んでいて、バイトの傍ら『ジンジャーペッパー』ってバンドでベースやってます。メジャーデビューはまだまだなんスけど、月二回のペースでシモキタとかのハウス借りて活動してます。

OLSでのバイトは、高校出てこっちに来てからずっと続けています。バイト仲間じゃ一番の古株ってトコです。OLSの仕事は『駅務さん』と『車扱さん』に分かれていて、誰でも最初は『駅務』から始めます。その内仕事に慣れて来たヒトから『車扱』になるんですけど、フルデー出勤とかできないヒトは『駅務』のまんまですね。

『駅務』って言うのは全部の駅に1~3人位派遣されるんです。駅に集まって来る荷物を受け取ってデータ入力して、専用の袋に詰めたり貴重品や冷蔵品なんかを仕分けする仕事もします。で、荷物扱いの電車は午前3本午後2本、夜に1本なんで、結構一日の仕事に波があるんですよ。駅によって忙しかったり超ヒマだったりする事もあって、特にハイテク産業の多い東林間や渋沢に行く事になったらもうメシ食うヒマもないんです。

到着電車から受け取る荷物は、契約しているバイク便さんや宅配業者さんに地区別に渡して行くんですが、タマに手違いがあったりすると、その後始末とかまで任される事があります。駅員さんはOLSの仕事には関係ないんですけど、アセりまくってる俺達を見るに見かねて手伝ってくれたなんて事が良くありました。




小田急電鉄デニ3000


『車扱』はそう言う大変さはありませんけど、別の意味で、慣れとか必要だなぁって仕事です。去年新しい荷物電車が入るまでは割りに人手がいる仕事でしたね。古い形の電車を荷物車に改造しただけなんで、駅で集めた荷物を、次の駅に着くまでに仕分けしなきゃいけなかったんです。もう全部手作業ですよ。

1電車に3人の正社員と5人のバイトが乗り込むんですけど、バイトの内必ず1人が交替で休憩しながら行かないと終点までに全員死にます。前使ってた電車は冷房が無かったんで、夏はキツかったですよ。紙が飛ぶからって窓も開けられなかったんです。




経堂電車区にて
左からデニ1300、デハ2200、デハ4000、キハ5800


今の「新デニ」は冷房とかも付いているし、殆ど全部の作業が自動化されたんでかなり楽になりました。OLSで扱う荷物は殆どが書状だったり小箱だったりなんで、その封筒のバーコードをハンドスキャナで読ませてやれば、後は自動的に各駅行きの定便袋に落とされる仕組みなんです。でも大箱モノや貴重品はちょっと面倒で、特に貴重品はチーフの封緘が必要です。決算時期にサバー区間扱いをする江ノ島系統に乗り合わせると、この封緘作業が結構時間を食うんですね。

俺は今「車扱」専門で、バンドの練習日以外は基本的にフル出です。朝の5時前にJR代々木駅の近くにあるOLS事務所で点呼を受けて、そのまま荷電ホームに行きます。そんで電車に乗って、昨日までに集まった荷物のスキャニングをします。これしとくと特に駅間の短いサバー区間は楽なんですよ。






俺は良く江ノ島系統に乗務してます。朝の江ノ島系統は5時23分発の各停に連結されて、江ノ島まで全部の駅で荷扱いをしてます。と言っても平日の下りは殆どやる事が無いんですよ。大変なのは午前の上りと夕方の下り便ですね。どっちも新百合ヶ丘で多摩線方面発着の荷物の積み下しをすると後は殆どやる事がありません。

反対に小田原系統は、相模大野から先各駅停車の急行に連結されるんで、大野までは割合とヒマです。午前便は大野で乗せる厚木行き秦野行きの荷物とかが超多いんで、もうアセりまくりです。渋沢を過ぎるまでは息がつけないですね。






江ノ島でも小田原でも、折り返しに結構時間があるんで、皆メシ食いに行ったりダベったりして時間を過ごしてます。俺もチーフに頼んで自分のベース持ち込んで、折り返し待ちの間に練習したりとかしてました。そう、メシって言えば、夕方便に乗ると嬉しい事があるんですよ。これ言っちゃって良いのかな? ロマンスカーで売れ残ったサンドイッチを、姐さん達が置いてってくれるんですよ。若いんだから食べられるだけ食べときなさいって。あの、この部分マズかったらカットとかしといて下さいね。

仕事してて楽しい事ですか? そうだなぁ、自分の手で次々と着先が決まって行く楽しさってのもありますし、正社員さんや乗務員さんといろんな話ができるし、あの、電車の会社って硬いイメージとかあるじゃないですか。でも実際にしゃべって見ると結構クダけたヒトやゴーカイなヒトがいて、楽しいんですよね。
これからですか? モチロン続けます! メジャーデビューするまでですけどね(笑)」




メジャーデビューを目指すシンヤ君(右)。これからも頑張って欲しい。
左はバンドリーダーのウラジミール・レーニン氏だ。一体どんなバンドなんだろう?



註:言うまでも無い事だが、現実にOLSと言う会社は無い。老婆心乍問い合わせるべからず。