日本(インチキ)風俗大系 -7-



わたしたちの町 船橋 Episode-1







わたしたちが住む船橋は、はるか昔フナバシという王が治めていました。

フナバシ王はたいへん立派な人で、いつでも国民のことを考えていました。

あるとき、フナバシ王が町を歩いていると、一人の老人が泣いている所に出くわしました。


「もしもし、あなたは何をそんなに悲しんでいるのですか」


王はたずねました。老人は王とは知らずにこう答えました。


「はい、私の一人息子が、落ちていた財布を拾ったというだけのことで捕吏(警官のこと)に捕まってしまったのです。息子は裁判にかけられて、何も悪いことをしていないのにムチ打ちの刑に処せられてしまうのです。私は王様がにくくてなりません」


王は心を痛めました。その頃の裁判は神様にうかがわなければなりませんでした。神様の、ということは神様に仕える神官のきげんが良い時は、人を殺したような悪人でも無罪になるかも知れませんし、きげんが悪い時は、鶏を盗んだくらいの罪でも死刑になってしまうかも知れませんでした。このことをフナバシ王はいつも気にしていたのです。


「それは気の毒な。よろしい。私は王を良く知っています。私から王にその話しをしてみましょう」


こうしてフナバシ王は無実の息子を解き放つ命令を出しましたが、それだけでは満足できませんでした。このままではまた同じようなことが起こるにちがいない。そう思ったフナバシ王はある決心をしました。



ある日、フナバシ王の宮殿に国中の神官が集められました。大勢の神官の前で粘土を焼いた板をかざした王は、


「皆の者良く聞け。余はこの粘土板に全ての法律を書き記した。これから罪人を裁く時はこの法に従うのだ。このことはマルドゥック神が余に託した神意(神の意志のこと)である。よもや反対する者はあるまいな」


王の言葉であり、その上さらに船橋の守護神であったマルドゥック神の名前を持ち出されると、神官達は反対することはできませんでした。


こうして世界で最も古い成文法(文章に書かれた法律)が誕生したのです。



世界で最も古い、ということはそれまでだれもやらなかったことです。これはすばらしいことです。けれども、それまでだれもやらなかったことなので、今の目で見ればずいぶんおかしな所もありました。


『医師が手術をして患者を死なせた場合は、医師は手を切り取られる』


『神殿から物を盗んだ者は殺される。神殿から盗んだ物をそうと知って買った者も殺される』


というようにずいぶんきびしい内容になっています。これはフナバシ王が勝手に決めたことではなく、その頃普通に行われていた刑罰をそのまま書いたからそう見えるのです。王は粘土板に法律を書いている内に段々と面白くなって来たのでしょう。


『正式な契約書がないまま物を売り買いするようなヤツは泥棒と相場が決まっている』


『養子をもらって立派に成長させた後で「ウチの子を返してくれ」と実の親が言って来てもダメ。何言ってんだ今になって』


『結婚の結納金を持って行ったのに花嫁の父が「誰がお前なんかに可愛い娘をくれてやるもんか、帰れ帰れ」とえらい剣幕だった時は、花嫁の父はその人に結納金の倍の金額を払わなければならない、当たり前だそんなこと』


『余りにもずぼらで家の中を散らかし放題にして外出ばっかりして亭主のことなど洟もひっ掛けないような女房は、川にでも放り込んじまえ』


もうこうなって来ると、フナバシ王は偉大な王様というよりも、近所の口うるさいおじさんのように思えてしまうのは何ともほほえましいですね。




現在船橋市内にあるJR「船橋法典」駅は、この法律を記念して付けられた駅名なのです。



現在の船橋法典駅のようす



引用:船橋市数育委員会編副読本「わたしたちの町 船橋」(2006年刊)