西部を往くローカル鉄道とその周辺
今から30年以上前、私が幼稚園児の頃夢中になっていたアニメがありました。
東京12チャンネル(現テレビ東京)で夕方放映していた「キッズルーム」と言う番組があり、1時間の放映時間に4本のアメリカ製アニメが詰め込まれていました。「スーパーシューター」「バードマン」「気の良い火星人」「ジュディーとパパ」等に混じってたまに放映されていたのが、「シルバーバレーの汽車ぽっぽ(原作:エレン・スチュアート)」でした。
現題を「Silver Valley Choochoo」と言うそうで、西部の田舎を走る鉄道を走るオンボロSLと、それを取り巻く(アメコミ的なやたら極端な)人々が起こす騒動が主題となっています。そこは良く覚えているのですが、肝心のディテールについては今一つ曖昧でして、「やたら極端な人々」等と書きましたが、どんな極端な人々だったかは、余り覚えていないのです。
以下にうろ覚えで書いて見ますが、詳細をご存知の方はご教示頂ければ幸いです。
・SL:かなり古いSLで、確か「ジャクソン号」と言ったと思います。普通の開拓時代の2-B型ではなく、2-A型でした。
動輪は非常に巨大で、水車のようでした。車体は緑色をしており金色の鐘が付いていました。運転中にトラブルがあると、後述する機関士の「マファロー叔父さん」に何時も腹立ち紛れにカマの焚き口を蹴っ飛ばされます。一瞬赤い煙を出して怒ったように「ピュー」と走り出したのを覚えています。トーマスの如く擬人化はされていなかったように思います。あれ?「ハリソン号」だったかな?
・マファロー叔父さん:この漫画の主役。腰の曲がったおじいさん機関士。短気な所もあるがSLの良き相棒。どうやら「シルバーバレー鉄道」唯一の機関士。声は雨森良治だったかと。
・クマ:「熊吉」だったか「熊五郎」だったかと言う名前の熊です。人手不足のシルバータウンでは重宝する労働力らしく、機関車の釜焚きもやれば保安官助手もする働き者。台詞は「オウ、オウ」しか無かったと思います。
・銀行家のビル:銀鉱山のある「シルバータウン」で銀行を経営する資産家。痩せて顔色がやたらに悪く、何時でも瓶から胃薬をむさぼり食っている人。後述するドジな列車強盗「ダンディー」が登場する回には大抵セットで出演していました。
・山に住むネイティブアメリカン:面倒なのでインディアンと称します。名前は忘れました。太った酋長(アンクルトリスに似ている)とやたら痩せたその妻(確か名前は「トト」だった筈)。いつも二人連れだって町にやって来ては何か騒ぎを起こします。奥さんは常にフライパンを持っていて、何かに付けて夫婦喧嘩を繰り広げる人々でした。大抵フライパンで脳天を叩かれた酋長は首まで地面に埋まります。
・保安官のコービー:口うるさい保安官。町で出会った誰彼構わず小言を言うので町の人々には敬遠されているが本人は至って真面目です。スカーフが撚れているの長靴に泥が付いているのと、どうでも良い事を注意して回っていたように覚えています。その代わり拳銃の腕はからっきしで、何かの回で荒くれ者の「ハッタリー(これは覚えている)」と決闘した際、「3、2、1」でお互いに物陰に飛び込み、二人とも神に祈っていると言う話がありました。あ、今気が付いたけど、コービーって「小言幸兵衛」から来ているのか? 恐らく現
題では違う名前かも知れません(ハッタリーも)。声は大泉明か?
・退役軍人:威張りやの「大佐」。名前が出て来ません。何時もボロボロの服に立派な勲章を沢山付けて痩せ馬(名前はガリー)にうち跨り、望遠鏡を片手に通りを闊歩していました。インディアンの夫婦とセットで出て来る事が多く、特に酋長と何時も口喧嘩する(それもかなり幼稚な)仲でしたが、本当は酋長と仲良しみたいでした。一度「トト」のフライパン攻撃を食らい、酋長と一緒に首まで地面に埋まった回があったと思います。
・孫娘ドリー:「大佐」の孫娘。威張りやの大佐も彼女の前ではイエスマンでした。やたらにおマセな女の子で、どの回にも必ず顔を出してその辺を引っ掻き回して去って行きます。ですが彼女の言葉が至って的を得ているせいか、誰も彼女に文句が言えません。後述するダンディーが牢屋に繋がれている時にドリーがチョコチョコ出て来て、彼の顔について延々と悪口を言う回がありました。牢屋の中はダンディーの流した涙で洪水になっていたと思います。
・列車強盗のダンディー:名前とは裏腹に蝦蟇みたいな醜男でそれでも金ピカの服を纏い、何時でも神経質に髪をブラシで梳いていました。シルバーバレー鉄道は銀塊を運ぶ事が多い為、ダンディー一味に狙われているのですが、大抵上手く行きません。確か服に付いた埃に気を取られたりする事で失敗すると言う流れだったと思いますが、顔の事を誰かに言われるとすぐ泣き出してしまう為だったかも知れません。
・メキシコ人:名前が出て来ません。「サンチョス」だったか「ゴメス」だったと思います。髭面にソンブレロ、派手なポンチョを纏い、背中に赤ん坊を4人ばかりおぶって、何時も怪しげな物を売り付けにやって来ます。インチキな機械や派手な色の水虫薬等があったと思います。今なら人種差別だと言われ兼ねません。一説には日本人をモデルにしているとも聞きました。だからと言う訳ではありませんが、私は子煩悩なこのメキシコ人が一番のお気に入りで、彼が出て来ると「今度はどんなインチキな物を出すんだろう」とワクワクして見入っていたものでした。
さて本稿は、先般アメリカの鉄道関連のサイトを探っている時、偶然「The Silver Valley Choochoo」に関するサイトを発見し、私の過去のマイブームに再び火が点いたと言う訳です。
同サイトによれば、機関車の名前は「クランプトン号(車軸配置名称そのまんま)」。釜焚きのクマは「サー・ベア(唯のクマなのにサーが付いているのが面白い)」。酋長は「ボイルドヘッド(まんまや)」。奥さんの名は「トト」で合っていました。保安官の名は「ガトリング」。成る程、ガトリング砲宜しくポンポン小言が飛び出すって訳ですね。メキシコ人は「サンチョス・ザ・オーバーワークド」が本名のようです。働き者なのでしょう。
所で、どうやらこのアニメの「シルバーバレー鉄道」にはモデルとなった鉄道があるらしいと知り、リンク先の「The Silver
Valley Club」と言うサイトに飛んで見ました。
そこで判った事は、1870年代にモンタナ州バーリントンから小規模な銀山を繋ぎながらワイオミング州フランクリンまでを連絡する為に建設された地方鉄道「バーリントン&ウォランザ鉄道(Burlington & Wolansa R.R.)」がモデルになっているらしく、その根拠として、作者のエレン・スチュアートの生まれがB&W沿線、ワイオミング州ジャクソン郡のフレデリクトンであると言う点、更に同鉄道の2号機関車「パーマストン号」(1857 Norris)が「シルバーバレー鉄道」の機関車と生き写しである点が挙げられていました。
モンタナ州バーリントンと言えば、附近に「リトル・ビッグホーン」があります。カスター少佐率いる騎兵隊が大酋長シッティング・ブルの指揮するシャイアン・ネズパース連合軍によって全滅させられた地点です。
附近にはネイティブアメリカンの為の保留地(これも嫌な言葉です)が幾つも存在しており、幼少時代のエレンは窮乏しながらも誇りを失わない彼らネイティブ達を目にして来た事でしょう。だから山から下りてくるインディアンと町の白人は決して争いません。
因みにエレンは後にアニメで得た収入を注ぎ込んで、地元の「チェマング族」「クナスディ族」の子供達の為の教育基金を開設したそうです。
肝心の「B&W鉄道」ですが、銀山の枯渇した1920年代には、途中のモンタナ州ダーリントンとワイオミング州フランクリン間を廃止し、更に1946年には残った区間の内モンタナ州ニューマーケットからダーリントン間を閉鎖します。
僅かに残ったバーリントン/ニューマーケット間は、途中にあるモンテレーマイニングCoから積み出される銅鉱石の運搬の為現在でも運転されています。
貨物列車ばかりかと思うとさにあらず、モンテレー鉱山会社がB&Wの残存区間を買い取り、「バーリントンライン(Burlington Lines)」と称する鉄道会社を興しました。1991年の事です。
そして地元への還元サービスとしてバーリントンジャンクションからニューマーケットまで、日に3本(土日運休)の「サービストレイン」を走らせているとあります。
これは地元の人(詰まりパインリッジ郡とチェマング郡在住者)はIDカードを見せれば無料で乗車出来、そうでない人でも16マイルの距離にしては破格の50セントを支払えば乗車出来ると言う物だそうです。
← ノーケイジャンクションにて。画面中央の黒い線が本線。奥の樹間に保存(放置?)されているカブースが見える。
航空機から撮影したウォランザ渓谷一帯。画面中央を左右に横切る線がW&B鉄道の廃線跡。モンタナ州ピースベースン付近 →
流石に使用される客車はどれも古い物ばかりで、戦後間も無くのスムースサイドや1920年代のWルーフ等を寄せ集めたに過ぎません。しかし「動く博物館」と言う意味で近年人気が集まっているそうで、いずれGP鉄道博物館に保存されている1930年製のコンソリデーションを復元して走らせようかと言う話も出て来ているとありました。
ともかく子供の頃夢中になったアニメの曖昧な記憶から、胸の踊るような様々な情報に辿り着く事が出来たと報告して、本稿を終わります。
追加情報:現在モンタナ州の郡名になっている「ウォランザ(Wolansa)」と言う地名ですが、「シルバータウン & ノーケイ(Silver Town & Knorkey)」と言うサイトによれば、元々この辺りに住んでいたネイティブの名前では無く、彼らが「私達」を表す意味で使っていた「オランザ」と言う言葉が訛って付いた地名であると記載されています。
更にリンク先の「The Languages of Native Americans」によれば、1861年、チェマング族の酋長代理「ツワジイ」が、侵入して来た白人に
「(原文):Cuna tanyar WOLANSA numun danie. Keteni zupaletu wibusser dazu! (We are a possession tribe on this valley. It is dangerous when entering without notice.)」
と宣言した事から名が付いたと記されており、元々チェマング族の言葉では無いこの不思議な宣言、そして「オランザ」と言う言葉が一体どこの言葉であるのか全く不明であるとしています。
まさかとは思いますが・・・いや、まさかそんな訳は無いですね。「彼」は大戸の関所破りの咎で嘉永三年に磔にされた筈ですから・・・。
「この谷ゃあオランザのモンだに、勝手にツッペェルとイブッセェだぞ(この谷は俺達の物だ、勝手に入ると危険だぞ。訳:都々目紅一氏)」。クナスディ族、ツワジイ・・・、クナスディ・ツワジ、か。いやまさかまさか!