……あなたは自分の身近にいる人々が何を考えているか、知っていますか?
 例えば、自分の家族や友人、学校でのクラスメイトや教師、会社の上司や同僚など。
 その人たちがいつも何を考えているか、あなたはどこまで知っていますか……?



































 黒崎康市(くろさき こういち)はいつものように午前6時に起き、慣れた手つきで支度をして、自身の勤める都内のある私立高校へと出かけていった。
 家の最寄りにある駅から電車に乗る。いつものように大勢の人の波に揺られながら、目的の駅に電車がたどり着くまで待つ。
 そして電車を降りてからは、そのまま徒歩で学校に向かい、たどり着けば職員室で荷物を整理し、職員会議を経て1時限目の授業へと向かう。
 彼は、ごく普通の数学教師だった。















 つつがなく4時限目までが終わり、校内は昼休みを迎えていた。
 康市の勤める高校は全クラスの教室がある生徒棟と、職員室のほかに化学実験室や生物実験室などがある管理棟に分かれており、昼休みはいつも生徒棟は騒がしく管理棟は静か、という構図が出来上がっていた。もちろん、この日も例外でなく。
 午後1時。
「黒崎先生、お呼びですよ」
 康市にそう声をかけたのは、徳永久実(とくなが くみ)という女性の国語教師だった。康市と久実は職員の間で恋愛関係にあると騒がれており、結婚話まである。それは本人たちも認めるところであるが、彼らはそういった感情を勤務中に態度に表すことはなかった。
 久実に声をかけられて康市が職員室の入り口を見ると、女子生徒が1人、数学の教科書とノートを抱えて立っていた。
 康市が手招きすると、その女子生徒、川村叶恵(かわむら かなえ)はおずおずとした様子でありながらも康市の目の前まで歩いてきた。
「どうした、川村さん? 何か、今日やったところで質問でもあるのかな?」
「あ、はい……ここなんですけど……」
 少々気恥ずかしさの感じられる声で、叶恵は康市に自分の抱えた疑問を質問していった。康市はそれに要領よく答えていく。



















 黒崎康市という教師は、生徒からの評判は上々だった。
 生徒が言うには、康市は授業の進め方が丁寧でわかりやすく、またときどき面白いことを言って生徒を楽しませてくれるのだと言う。
 そんな彼が担任を受け持つ2年A組は、いつも雰囲気の明るいクラスだと言われている。
「じゃあ、明日の事についての連絡は以上。終わりまーす」
 現在、終礼。今日の授業はすべて終了しており、これが終われば放課後である。康市がそう言うと、タイミングよく、
「きりーつ、きをつけー、礼」

「さよーならー」

 さようならの挨拶の後、いっせいに生徒全員が机を下げ、康市も教卓を下げる。掃除のためである。
 そのために一部の生徒が残り、康市も掃除を手伝う。
 掃除はものの10分足らずで終了し、康市はいったん職員室に戻った。









































































「疲れたねー」
「今日も遅くなっちゃったねー」
 現在、午後6時。叶恵はテニス部に所属しており、この日も完全下校時間の近くまで練習が続いた。
 そうして今、部活の友人といっしょに下校しているのである。
「あ、じゃあ私、こっちだから」
「うん。あ、叶恵! 明日、CD貸してくれる約束したよね? 忘れないで持ってきてよね〜」
「わかってるわよ。じゃ、また明日ね」
「バイバイ叶恵〜!」
 叶恵は友人と別れ、1人になって帰り道を歩いていた。





































 彼女はこのまま、いつものように無事に家に帰れると思っていた。





















 しかし、それは叶わなかった。





















































「!?」
 突然、背後から伸びてきた手のようなものが、ハンカチを使って叶恵の口と鼻を塞いだ。
「んんんっ!! んんっ!!!」
 叶恵は突然の束縛から逃れようと必死になって暴れたが、振りほどく事はできなかった。
「んんん……んん……」
 やがて、暴れる叶恵の手は力を失い、ぐったりと真下に垂れた。ハンカチには何かの薬が染み込まされていたらしい。
 黒いジーンズに襟の高い黒いジャケット、さらに黒い帽子と黒いサングラスで身を黒ずくめに隠し、たった今叶恵を眠らせた男は、動かない叶恵の体を肩越しに担いで、用意していた車に乗せ、自分は運転席に座ってそのまま車をいずこかへと走り去らせた。
































































 叶恵の母親が、娘が帰ってこないのを心配して警察に捜索願を届けたのは、それから2日後のことだった。


























































































 それからさらに2日後、叶恵の失踪は事件として新聞で報じられるようになった。そのころには、捜索人員や捜索範囲も、とてつもなく広いものになっていた。
 康市はいつも通りに学校へと向かい、朝のHRで事件について生徒達に注意を呼びかけることになった。
「みんなも知っていると思うが、大変なことになった。ウチの高校の、このクラスの生徒である川村が、突然失踪した」
 生徒達は皆、新聞で事件について知っていたようで、沈痛な面持ちで俯いている。
「警察と街の自治会とが、川村を全力で捜索してくれているそうだ。私達には川村の無事を祈ることくらいしかできないが、だったら祈るんだ。一生懸命祈るんだ」
 康市は呼びかけるように言い、生徒達も頷いた。
 その後、学校では緊急集会ということで、全校生徒が校庭に集まり、校長が先程康市が2年A組の生徒に言った事と同じ事を全校生徒に呼びかけた。
 それ以後の学校の時間の流れ方は、川村叶恵が行方不明であるという事実が存在するに相応しくないほど、いつも通りに流れていった。



















































































「ん・・・んん……」



 目覚めてすぐ、叶恵は自分の体の異常に気づいた。
 手足はロープで堅く縛られ、目はガムテープで塞がれ、口にはタオルで猿ぐつわがかけられていた。
 後ろ手で手首を固く縛られているのでドアのレバーあるいはノブを動かすことも叶わない。それ以前に両足を縛られてきっちりと揃えられ、目まで塞がれていたのでは、方向感覚およびバランス感覚は無いに等しい。
 さらに猿ぐつわをかけられているために大声を出せず、助けを呼ぶこともできない。
 完全なる束縛。それが叶恵に与えられた。
「んんんーっ!! んんーっ!!!」
 叶恵は出来る限りの声をあげた。可能な限り、助けを求めた。この、完全なる束縛の恐怖から逃げ出したかった。だから、叶恵は叫んだ。
 だが、その行為は徒労に終わるしかなかった。





































 叫び疲れたのか、やがて叶恵はぐったりと床に突っ伏してしまった。ちょうどその時。
 ガチャリと、デッドボルトが外され、ドアが開く音がした。
 その次に、声が降ってきた。





「……やれやれ。まだ起きないのかな?」





 聞こえた。はっきりと聞こえた。はっきりと聞いてしまった。叶恵はその声に聞き覚えがあった。
 いや、聞き覚えがあるのは当たり前、その声は学校に通っている時にほぼ毎日聞いていた。
 そしてその声を持つ人は、最近自分がわからなかった数学の問題について答えてくれた。
 声の持ち主、すなわち自分を拉致した人物が、これで確定してしまった。叶恵は一瞬、信じられなかった。認めたくなかった。















 黒崎康市。
 それこそが、川村叶恵を誘拐した人物の名だった。
 その事実が叶恵に突きつけられたとき、叶恵の体は少しずつ震え始めていた。それを見た康市は、
「おや? ひょっとして、起きてる?」
 そう言ったかと思うと、康市は叶恵の目に貼り付けていたガムテープを、乱暴に剥がした。
「んんっ!!」
 テープを剥がされたときに走った痛みに、叶恵が呻いた。
「さて……僕の顔が見えるかな?」
 康市はそう言って、部屋の電気を点けた。お互いの顔がよく見える明るさだった。
 叶恵はこの時、康市の目を見た。その目には、教師としての彼からは想像もつかないほど恐ろしく冷酷で残忍な光が宿っていた。少なくとも叶恵にはそう見えた。
 それを見たとき、叶恵の体の震えはいっそう強くなった。叶恵は声を漏らすことすらもかなわないようだった。
「驚いてるねぇ。まさか僕がこんなことすると思わなかったろ、川村」
 康市は震える叶恵を見て、さも楽しそうに語る。こんなことをして何が楽しいのか、叶恵にはわからなかった。
 そして康市のその様子は、叶恵に更なる恐怖を根付かせた。
「くくく……まあそれはともかく、君はこれから僕のものだ。逃げ出すことは許さないよ」
 康市はそう言うとひどく嫌らしい微笑を浮かべ、ドアノブを回してドアを開け、部屋を出て行こうとしたが、いったん振り返って叶恵にこう告げた。
「ああ、騒いでも無駄だよ。ここは防音は完璧だから」
 その言葉にショックで凍りついた叶恵の表情を楽しそうに見やり、康市は部屋を出て行った。
 叶恵は無表情のままで床に寝転んだ。その無表情に絶望を滲ませながら。














































































 捜索開始から1週間、未だに叶恵は見つからなかった。すでに街を挙げての捜索が行われているにもかかわらず。
 警察は、叶恵の行方について手がかりが全くと言っていいほど出ない現状に焦り、次第に人員を増やして丹念に聞き込みを続けるが、成果は上がっていない。
 学校では校長が叶恵の母親や教育委員会などに管理責任の追及をされるなど、事態は芳しくない方向に動いていた。










































「川村さんは未だに見つからないそうですね」
 職員室で、久実が康市にそう言う。心配を隠さない口調だった。もとより隠す必要もない。
「ええ……僕は彼女のクラスの担任ですからね、なおさらというものです」
 ため息をつきつつ、康市はそう言った。
「川村さんが行方不明になってから、もう1週間以上も経ってます。そうなると誘拐の可能性が強いって、警察の人はおっしゃってたそうです」
「誘拐……ですか。それならなおのこと、川村を助けてやらなくてはいけませんね」
 久実の心配がこもった言葉に対し、康市は当たり障りのなさそうな言葉を選んで久実に返す。
「そろそろ昼休みも終わりますね。準備しましょう」
 壁時計をちらと見やり、康市は立ち上がってから言った。
 久実はため息をつき、次の授業のテキストを取りに自分の机に戻っていった。
「(……久実も気づいていないんだ。僕が川村を誘拐したってことは絶対ばれないよな)」
 康市は心の中でそう呟き、冷たい微笑を浮かべた。それを見た人間は1人としていなかったが。





































































































 叶恵の皮膚のあちこちに、切り傷や青痣が出来ていた。康市がつけたものと思われる。
 康市は叶恵を痛めつけた。叶恵が悲鳴をあげるたび、彼は喜んだ。面白がった。
 そんな事が何度も何度も、繰り返された。
 いつしか叶恵は抵抗することをあきらめ、その時からどんどん無気力になっていった。2本の足で立つこともできないほど。
 なんで、こんなことになったんだろう―――叶恵は心の隅でそう思った。




















































































 捜索開始から2週間。捜索する人々の間であきらめの色が濃くなってきていた頃。
 この日は祝日で学校が休みで、久実も非番だった。そのため彼女は、康市も非番で家にいるだろうと思い、ここ数ヶ月間訪れることのなかった康市の家に向かっていた。
 康市は10階建てのマンションの最上階に住んでいて、そこそこにいい暮らしをしていた。
 その日の午後2時頃、久実は康市の部屋の前に立ち、インターホンで来訪を告げた。





 ピーン、ポーン…………















 インターホンが鳴る音が、康市の家の中に響き渡った。
 続けて、助けを求める声があがった。
「んー、んー、んんーっ!!」
 叶恵は必死に叫んだ。康市から防音は完璧だと聞かされていたから、半分あきらめつつも。もう半分があきらめることを許していなかった。

























「・・・あれ?」
 誰も出なかった。続けて久実はドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「おかしいわね……出かけてるのかしら?」
 仕方なく、彼女は待つことにしようと思い、康市の家のドアに寄りかかった、その時。




























  んー……




























「え……?」
 一瞬、久実の耳に、声が届いた。とても小さく、とても微かな声が。気のせいでなく。
 久実は声が聞こえた方向を振り返った。目の前には、康市の家のドア。声はその向こうから聞こえたような気がした。
「…………まさか…………」
 久実の頭の中で、川村叶恵失踪事件の記憶が瞬時にそして鮮明に掘り起こされた。そして久実はドアの向こうに待つ結果を想起し、真っ青になった。
「そんな……まさか、あの人が…………!!!」
 すぐさま彼女はマンションの管理人室に走った。














 10分もしないうちに久実は康市の部屋のドアまで走り戻ってきた。右手にマスターキーを握り。
 鍵を1つ1つ、猛スピードで合わせる。なかなか鍵は回らず、久実はじれったい気持ちを覚えた。






 しかしそのじれったい気持ちも長く続くことはなく、鍵を合わせ始めて数分後、鍵が回り、ドアが開いた。
「んーっ!!!」
 ドアが開くなり、助けを求める悲鳴が聞こえた。久実はその悲鳴の聞こえる部屋に走り、思い切りドアを開けた。
 その部屋の中には、手足を縛られ、口に猿ぐつわをかけられ、露出した肌に数多の傷を刻まれた、行方不明とされていた女子高生、川村叶恵がいた。
「川村さん!!!!」
 久実はすぐさま叶恵に駆け寄り、彼女の拘束を解いた。しかし叶恵は自分の足で立つ力すらも失っているようだった。久実は必死に叶恵を連れ出そうと、叶恵の左腕を自分の左肩に回した。その時。





 ガチャ、ガタン、ガチャ、ギィィ・・・





 鍵を回しても、開くはずのドアが開かず、もう一度鍵を回したら開いた。そんな動作を連想させるドアの音が、した。







 久実は戦慄した。叶恵も戦慄した。
 この家に帰ってくる人間は、2人が知っている人物の中では1人しかいないのだ。そしてその1人が事件の中心人物、あるいは狂気を宿した人物であることを考えれば。













「・・・こ、康市……」
 久実は部屋の入り口をちょうど塞ぐように立っている男を見て、震えた声を出した。久実と叶恵もそうだが、康市も呆然としていた。
「…………見たな………………」
 康市は、その一言だけを静かに呟き、しばらく沈黙を守っていた。
 久実は驚きで、叶恵は怯えで声を発することができず、互いの間を静けさが漂った。
 やがて、康市が口を開く。
「……見られたからには……生かして帰すわけにはいかないなぁ……」
 久実は一瞬、自失した。その言葉は、自分の知っている康市が口にする言葉とは到底思えなかった。
 そんな久実を尻目に、康市は着ていたジャケットのポケットから、バタフライナイフを取り出した。
「!!!」
 叶恵が怯えた目をする。はっと久実がその様子を見た。そして康市を厳しく睨んだ。
「……クックッ、そう非難めいた視線を向けてくれるなよ」
 康市は嫌らしく言葉を綴る。もはやそこには、久実の知る康市の顔―――高校教師としての誠実な顔、プライベートの時の人好きの顔は、面影1つ残っていなかった。
「久実、お前は怖くないのか、このナイフが」
「……怖いわよ。でもそんなもの、あなたへの怒りがどうにかしてくれそうね」
 久実は、目の前の男を微塵も恐れなかった。
「まあいい、お前にはここで死んでもらう。多くを語る必要はないか」
「やれるもんならやってみなさいよっ!!!」


















 次の瞬間、康市と久実は揉み合いになっていた。その間に叶恵は、残っていた気力を振り絞り、立ち上がり、歩き、やがて走り、逃げ出そうとしていた。
「(早く、早く逃げて、川村さん!!)」
 久実は必死に康市を食い止めながら、必死にそれを願った。
 しかし、康市も気付かないわけではなかった。部屋のドア付近で逃げ出そうとする叶恵に気付くや、
「キャアッ!!」
 久実を突きとばして、叶恵の身柄を再び部屋の奥に引きずり込もうとした。
 しかし、腕を引っ張られてその動きは止まる。
「待ちなさいよ!! 絶対、行かせないからっ!!」
 久実が渾身の力で康市の腕を引っ張っていたのだ。
「ぬ、くっそっ!!! 邪魔をするなァ!!!」
 必死に振りほどこうと、康市は久実を蹴りつけた。
「うくっ!!」
 が、それでも彼女の手は康市の腕を離さなかった。
 そうして康市が手こずっているうちに―――叶恵は康市の家から逃げ出していた。
「さて……もう少ししたら私も逃げなきゃね」
「ぬ……ぐ、ぐ、ぐ……」
 康市はうめき声をあげている。
「康市、あなたはもう終わりよ。私を殺しても、川村さんが警察に通報するのは免れないわよ。それどころか、私を殺せばますます罪は重くなるだけよ」
 久実は康市に少しでもプレッシャーを与えようと、そう言葉を綴った。
「……だったら……だったらなんだ!! 罪の重さがなんだってんだ!!! こうなったらお前だけでも殺してやる!!!!!」
 康市は久実の意図とは逆の反応に出、久実を部屋の床に押し倒した。しかし、久実の表情は真摯で、目は真っ直ぐに康市の方を見ていた。






















「ねえ……もうやめようよ。もうやめてよ、こんなこと……」
 久実は静かに、そう言った。


























 ナイフを振り上げていた康市の手が、ピタリと止まった。




























「私……高校で教師として働いてるあなたが好きだったのよ。真面目で、生徒思いで……。それに、プライベートでの明るいあなたも、私、大好きだったのよ。仕事場での同僚として、プライベートでの友人として、私、あなたの存在にすごく誇り持ってたのよ!! なのに……どうしてこんなことするの!? どうして、誰かを苦しめるようなこと、するの!?」
 堰を切ったように、久実の口からは言葉が出てきた。久実は、泣いていた。
「私、信じてたのに……あなたは絶対、道を間違わない人だって、信じてたのに!!!」










































 久実が叫んだ瞬間、康市は右手に握っていたナイフを滑り落とした。直後、力なくうなだれた。














 康市はもう、言葉を発することさえできないようであった。








































 久実は思った。私はこの人に、心臓にナイフを突き刺すよりもはるかに大きなダメージを与えてしまったのかもしれない、と。



























































 川村叶恵本人の通報を受け、警察が黒崎康市の住むマンションに駆けつけたのは、それから2、3時間が経ったころだった。
 現場には腕を下げ、俯いてうなだれた体勢のまま固まったように動かない黒崎康市と、彼を見守る徳永久実の姿があった。
 黒崎康市は何の抵抗もなく、誘拐と監禁の罪で現行犯逮捕された。























































 警察に連行されて部屋を出る直前、康市は久実にこんな言葉を向けた。
「久実、覚えておいて欲しい。どんな人間にも、魔というものが住んでいることを。俺はその魔に負けた。それだけのことだ」



































「……絶対信じないわよ、そんなもの。けど、覚えてはおくわ」
 久実は切なさに暮れつつ、そう返した。

























 警察に連行されてゆく際に言葉をくれた時の彼は、間違いなく元の彼だった。
 それが、久実には切なかった。





















































 ……とても。


















































































 ……とても切なかった。



































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