オラが銀ちゃんだと。
むむむっ!ナメタ名前付けやがって。
俺様は由々しき血統のイングリッシュポインターであるぞ。
なんたってお袋がコーンバリーとスコットニーの血をひく高貴な生まれで
オヤジが全日本フィールドトライアルの初代チャンピョン。
誉れ高きア・オ・アの血統だゾ!
とオヤジに威張ってもハアってなもんで豚に真珠だ。
ジャア、一丁教えてやろっか。





あの勇名なア○サ○ピレネーになんてことすんだ。




フィールドトライアルっていうのはな、鳥猟だけの犬種
英、独ポインター、イングリッシュ、アイリッシュセターと呼ばれる
ヤツラを集めて、広い野原といっても観客や審判は軽トラックの荷台に乗って
ポコポコとハンドラーと競技犬追いかけるくらいダッタピロい野原だぞ。
その野原にボブホワイト(ウズラみたいな鳥)を催眠術に掛けて隠しておく
それをハンドラーとトライアル犬とが一体となってワラワラと探すのだ。
ただ一直線に野原を駆け巡ると獲物に遭遇するチャンスは少なくなるので
広いの野原をジグザグに、そして広範囲に掛けめぐるのだ。
その運動能力とスピードは「すごい」の一言である。
ボブホワイトが潜んでいそうなブッシュ周りに競技犬を遊動するために
ハンドラーはホイッスッルで左右へとトライアル犬を遊動する様は
完璧に犬をコントロールしてるっていう美しさが有る。
それをワンラウンド二組のペアーで争うゲームなのだ。
鳥の残臭で探し出したトライアル犬は、尾をピンと跳ね上げ
「オヤジここにいるぞ」とアピールし、ハンドラーの到着を待つ間
歌舞伎役者の大見得を切るようにキッと鳥を睨み付け
鳥が飛び立つか立たないかのぎりぎりの間合いを取って
鳥と勝負するのだ、これが俗に言う「ポイント」っていうやつだ。
オヤジがようやく到着すると(やれやれ)ハンドラーは隠れていた鳥を
探し出し審判に片手を挙げてアピールし
晴れてポイントゲットとなる。
なかには、そこそこと思っている場所を通り過ぎて行くポーなヤツやら
そのポイントの真上をジャンプして行く抜けた奴がいたりしてナカナカ楽しい。
このトライアル犬の一連の動作を審判し、この鳥猟の究極のプロセスの部分だけを
抽出したのが
フィールドトライアル(猟野鳥猟捜索犬品評会)だ。
だからこのフィールドトライアルにどっぷりとはまってしまい
鉄砲を持つのを止めてしまった御仁も多いと聞くぞ。

この大会が始まると、どこからとも無く飛んできた鷹や鷲がピューッと上空を舞い始め
それにカラスが混じって近くの木に止まりカアカアと、猟野はにわかに緊張感が走る。
それは、隠しておいたボブホワイトが、催眠術から解けて我に返り
慌てて飛び立つ所を狙って、サアッとばかりにかっさらおうという
漁夫の利的な鳥ッこが集まってくるからなのだ。
もちろん、催眠術に掛かったままのボブホワイトの方が多いので
競技終了後、審判が手際よく回収に当たるのだ。

ホンチャンの狩猟では、鳥が居そうな所まで来たら「ウオー」と叫んで
いったん立ち止まらせ「バァー バァー」と言って犬に
注意を呼びかけるのだ。
首尾よく犬がポイントしたのを確認したオヤジは
犬の近くまで悠々と近づいて行って
あらためて、猟銃に弾を込めて銃を構えてから
「ゴーとかファイト」の号令で犬を鳥に突っ込ませ
舞い上がった所を「ドン」とやるわけだ。
ハンターたるオヤジは鳥猟犬の能力を借りて人犬一体となって
楽にそして安全にハンティングを楽しめるってわけなんだな。
犬がいない場合は、猟銃の機関部に弾を込めたとっても危険な状態
(銃の引き金はショックや枝が軽く触っただけで暴発するゲキヤバもんだ)で
鳥がいつ飛び出すか分からない緊張状態を維持しながら山野を歩くわけで
犬がいないと気が休まる時が無いので物凄く疲れるのだな


わかったぁヒゲオヤジ。



お前ってフユカモそのものだな。

そんなオラは生まれ持っての鳥猟犬なのである。。
でも最初に言っていた「ジュゲムがどうたらで9丁目の長介がどうの」って言う
やけに長い、ふざけた名前よりはイイが、でもなあ やっぱ銀はなあ。。。。。

オラが生まれて30日経った頃、もらわれていく所は
某大会社の社長の家だったらしいが、その社長って人が病気で
引き取りが延び延びになって4ヶ月経っても、その社長って人の
病気が良くならず、オラの事をあきらめたそうだ。
それで名前も付けられずに育ててくれた高さんが困り果てて
行き付けの武田さんちに頼んで「飼い手はいね〜か」の張り紙を出した所
まんまと引っ掛かったのが、犬欲しい欲しい病に掛かっていた
ヒゲオヤジであったのだそうだ。


ウリャッと勇ましい銀ちゃん

ヒゲオヤジは2ヶ月前に「しょうちゃん」っていうガリガリの真っ黒けの犬を
獣医さんに頼んで薬殺しばかりで、エラク落ち込んでたそうだ。
まわりの民が口々に「犬の穴は犬でしか埋まらない」と言ったそうだ。
近所じゅうに、知り合いホウボウ、ツテを頼りに探しまわっていたそうだが
なかなかこれといった犬が見つからずにいたのだそうだ。
そんなヒゲオヤジ、武田さんに遊びに行った時
カレンダーに張り付けてあった張り紙を目ざとく見つけ
叩き売りに出ていたオラの事を首尾よくゲットしたらしい。

でもな、同じ社長は社長でも貰われて行った先が
弱小貧困、左前の店の社長じゃな〜 ちょいとばかし話が違う。
オラはかなり運が悪く、人生最低の貧乏クジを引いてしまったのかなあ
と思うとりますですハイ





「しょうちゃん」で犬の訓練に自信を持ったヒゲオヤジは
たった3ヶ月のオラに容赦無くビシバシと訓練を入れやがる。
ホレ、このとおりオラはヨダレを流しながら頑張っているのだゾ。


うううっ待てん!




こないだまで居候してとこの高さんはヒゲ親父に言った。
「お手だの伏せなどの服従訓練は入れなくてもいい
大事なのは来い待ての二つだけ、これを完璧に出来るようにすると
後は自然と犬とのコミニュケーションがとれる」と言い切った。
「ポインターは殴って仕込んでも服従は入らない
誉め殺しのほうが効果が高い」とも教えてくれた。
そうだそうだとオラも思った。
オヤジもそうだそうだみたいな顔をして聞いていた。
をいッ、本当に分かってんだろうな。
だから、食事のときは徹底してマテの訓練を入れられている。

この家にきて最初のころだったが、なんか得体の知らない物体を
ポーンと投げられて「何じゃいな」とその物体があるところまで行ったら
なんだか知らないが、とっても素敵な匂いがして「誰にもこれはやらんぞ」と
「出せ」の命令も無視して知らん振りを決め込んでいたら
オラの口からオヤジはそれを無理やり取ろうとした。
オラはカッと頭に血が上ってしまい、オヤジの手にガブリと噛み付いてやった。
したら、お返しにオヤジにたっぷりと焼きを入れられてしまった。
いつも優しいオヤジが鬼になってしまったような気がした。



オラは怖くなり尻尾を丸めて「もうしないから」って、お願いしたら
オヤジは優しい顔をして「分かればいんだいんだ」と言って
オラをギュッと抱きしめてくれた。
なんだかこの件でオラは「こいつについていくしかね〜な」とも思った。
それからはオラの方から折れてやってる。
だからオヤジとの関係はけっこう巧くいってんじゃないかな。
でも、なんかハメラレた気もしないではないが。。。。




オヤジは山に行きたくてうずうずしていたのがオラでも分かった。
そんな忙しそうな12月の後半、もう少し寝てりゃ〜いいもの
仕事疲れしている顔をしたオヤジがドタドタと朝早く起きてきて
「ど〜れ、銀の初めての山入りをさしてやるか」と言いながら
車の中に積んであるのケネルの中に押し込められた。
そして車に揺られて着いた所は砂子沢という山奥だった。
車から降ろされ細い林道をオヤジと一緒に歩いていった。

オヤジは疲れた顔も消え、なんかサッパリとした顔をしながら歩いている。
いつもなら右だの左!とか止まれ、なんて口うるさいのに
今日はただニコニコしているだけで薄気味悪い。
小鳥のさえずりやら、カモシカの足跡なんか見ながら1時間半ほどかけて
ゆっくりと歩き散策したがその途中、沢を何本か越さなくちゃ先へ進めないのだった。
オヤジはヒザカブまでの長い靴をはいているからいいようなもの
オラはまだチビッコでちっちゃな沢でも川くらいの大きさに感じるので
渡るのにいっぱい勇気がいるのだ。
キャインキャインと鳴いてオヤジに助けを求めたが
ただニコニコしているだけでゼンゼン助けてはくれない薄情なやつ。
置いてけぼりはもっと嫌なので、エエイっままよとばかりに
水の中に飛び込み必死の思いで渡った。
フウッ、な〜んだケッコウ軽く渡れんじゃん。



オヤジは「よし良し」というだけで、さっさと先へ進むのだった。
1時間くらい登ったところで、一休みもほどほどにUターンした。
その途中ガンシャイのテストとか言って、ばぁぁぁ〜んと勇ましい音を聞かされたが
オラはこんなもんじゃ何とも無かったのだよ〜ん。
帰りの車の中では、初めての山入りだったので疲れが出てしまい
思わず目が落ちてしまって「をいっ銀」と言われるまで記憶が飛んでしまったのだ。

こんな日が3日続いてチョッとオラは疲れが出てきた。


また山かよ、ところでここはどこォ。


という訳で、お正月の休みも無く、今度は川に連れて行かれた。
まさか川の中で水泳の特訓じゃね〜だろうなと、ちょと不安。
でも、川の中じゃなく川原の枯れ果てたススキ林の中を
ガサガサと掻き分けながらの難行苦行散歩だった。
オラはまだ小っちゃいから、枯れた草っぱを越えながら歩くのも
楽じゃねえんだよッ、オヤジもっとゆっくり歩いてくれよ。

今日の散歩は山の中を歩くのよりズット疲れた。
家に帰って朝飯?をもらったら、午後の日差しが柔らかくて気持ち良い
そんで腹を出して寝ていたら、お天道様の日で腹がヒリヒリしだした。
川原の枯れた草っぱで、お腹をこすり擦り傷だらけになっちまったからだ。
縁側からオラを見ていたオヤジが、白いビンに茶色の蓋で
オロナインとか書いてあるモノを大事そうに持ってきた。
オヤジは「これは痔でも何でも効く魔法の薬だからな」と言いながら
チョビッコ指に取りオラのお腹に痔じゃないんだけどべたべたと塗り付けやがった。
でも気持ちいいから許してやった。

こんな傷だらけじゃ、明日は川原は無いナと思っていたら
また違う川原に連れて行かれた。
でもここは、畑が広がって昨日の川原みたいに藪だらけじゃないし
オラも散歩は嫌いじゃねえから、ま いいっか。
30分くらい進んだところで、オヤジがなんだかわからねえがバンとか言って
急に畑の脇をスタスタと走り出した。
オラも負けじと走ったが、ご老体のくせにオヤジは妙に速い。
オヤジがアッチアッチってうるさいから、指差す方にズンズン進んでいったら
おおおッ素敵な匂いの物があるではないの、これはオラ一人でイタダキ!
と思ったその瞬間、オヤジの「コイッ!」というデカイ声が川原にこだました。


おしごと おしごと。


オラはこの言葉になんでか逆らえなく、体が勝手に動くのだ。
オヤジの所に着いたら、今度は「マテッ」ときたもんだ。
この言葉も大好きなご飯の時、毎度掛けられているので
口に入れているのを離して、おすわりをしてしまった。
そしたらオヤジは「よくやった、よくやった」ってニコニコ顔してポケットから
何とか酒店って書いてある白い袋を出し、その素敵な匂いの物をしまおうとした。
オラはちっちゃな声で「コリャッ」と言いながら、くわえようとしたら
またオヤジのマテが飛んで、素敵な物が袋の中に消えちまったのだった。
代わりにくれた物がいつものご褒美、小っせいサラミみたいなモノ。
チョッと割が合わねえけど、オヤジがこんなに喜んでくれるなら
これもアリかなと、潔く諦めてやることにした。



バロン師匠のフラッシュ技を盗んでやれ









ワン系のHPに、よく張り付いている英文。
THE TEN COMMANDMENTS of dog stewardship。


そのお題は「お銀の述懐」だッ。

早い話がWANを飼うには、相当覚悟がいるゾって話だな。
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1、My life is likely to last ten to fifteen years.
Any separation from you will be painful for me.
Remember that before you adopt me.

川原で会うぺキちゃんや華ちゃん達チビッコは15年。
オラ達大きい犬は10年生きるって言っても
それは運が良ければって話なんだけどネ。

だからオラ達を飼うって事は、お金も掛かるが時間も掛かるって話。
お金に換算するとわかり易いから、ザット見積もってみるか。
餌代月4000円、フィラリア、ダニ退治費が年20000円
登録等で6000円で雑費が10000円って事は
ギリギリ最低ラインでも年9万円は掛かるって事。
これに病気したらばって事考えたらエライこってす。
ちなみにレトリバーに多いガンは、一発30万って数字が出てます。

ほんでもって、飼いぱなしって事も出来ないんで
一日WANに付き合う時間は、散歩も含めて
最低希望タイム2時間が平均か。
あんたの稼ぎはどれくらいか分からないけど、不況デフレでは
WANシッターは時給800円が良いところ。
で、現金化すれば一日1600円のロスで月48000円だな。

わかったぁ。


2、Give me time to understand what you want of me.

「私の犬は生涯80の言語を聞き分けられた」って
自慢してた人がいたけど、それは天才犬か
そのくらい犬と向き合う時間が異常に
長かったかのどちらかでしょう。
だから一般家庭犬もソーなると思い込んではいけません。
世の中ツケ、マテ、コイさえままならない犬ばかり。
まあ、犬に服着せて靴まで履かせる犬馬鹿さんには
それで、じゅうぶん可愛いんだがね。。。。。。
早い話が、それが出来ない人は
犬の学校に入れましょうって話だな。

わかったぁ。


 

3. Place your trust in me…it's crucial to my well- being.

他人の言葉に惑わされてア〜でもないコ〜でもないって
オラをいじくり回さないでほしいんだナ。
人間でもそうなんだが、強いやつには巻かれろ
寄らば大樹の陰って格言があるっしょ。
それと同じで、飼い主たるあんた自身が
しっかりと信念でオラ達を見守ってくれって事。
そしたらオラ達は、食い扶持たるアンタに
迷わないで、真っ直ぐついていけるって話だな。

わかったぁ。


4. Don't be angry to me for long and don't lock me up as punishment.
You have your work, your entertainment and your friends. I have only you.

あんたらが生きていく上で、社会ってモノに逆らっちゃいけないから
その分イライラが募るわけで、オラ達がへまやったモンダラ
そのストレス発散を、オラたちに向けて爆発しないでほしいって事。
24時間アンタと一緒に遊べる時間は、多くても2時間だけ。
そのたった2時間しかない一緒の時間を、よ〜く考えて欲しいって事だな。

わかったぁ。



5. Talk to me sometimes.
Even I don't know your words,
I do understand your voice when its speaking to me.

ただ話し掛けるんじゃ、やだよって事。
ちゃんと目を見て、時には身振り手振りを交えて伝えて欲しいんだな。
あんたらの言語は分からないが、こうした時ア〜ゆうふうな
イントネーションで言ったナってのはちゃんと覚えるから
それを何回も繰り返してほしんだな。
なんたって、アンタの声はオラを包んでくれる音でもあるんだから。
だから、その音の調子でアンタの体調や心の動きもチャンと分かるんだよ。

わかったぁ。



6. Be aware that however you treat me, I'll never forget it.

うれしい事ってケッコウ忘れる。
何でって?
嬉しかった時の比率と、怒られた時の比率は9対1だから
少ない方が、インパクトは強いのは当たり前。
だからオラに辛く当たった事は絶対忘れない、死ぬまで忘れない。
そんな思いは少なくていい、無い方がもっといい。
ホレ、子供は叱るより誉めろって、よく言うじゃない。

わかったぁ。


7 、Remember before you hit me
that I have teeth that could easily crush the bones of your hand
but I choose not to bite you.

オラぁ、滅多に怒らないのが自慢なんだけど
ぶち切れた時は覚悟しとけよって事。
まあ滅多にって言うか、死ぬまで無いだろうネそんな事。
有ったとしてもそこまではやらないよ。
アイラブあんた。

わかったぁ


8. Before you scold me for being uncooperative, obstinate or lazy,
ask yourself if something might be bothering me.
Perhaps I'm not getting the right food, or I've been out in the sun too
long, or my heart is getting old and weak.

今まで言い放ったことの総まとめだなコレハ。
自分の犬を悪く言うやつは、自分の犬の飼い方
仕付け方がド下手だと言ってるようなもの。
飼い犬は自分の鏡でやんす。

わかったぁ


9. Take care of me when I get old;  you,too, will grow old.

なんたってオラの寿命は10年。
人生80年に例えると、一年で8歳年取るわけ。
一ヶ月でおおよそ半歳年取るスピードだ。
だからあんたらは、少しも気付かないかもしれないな。
オラがもの凄いスピードで、お爺さんになって行く事。
昔と変わらない元気でいても、もう歳なんだからねって事。

わかったぁ



10. Go with me on difficult journeys. Never say, I can't bear to watch it
   or let it happen in my absence. Everything is easier for me if you are
there. Remember -- I love you.

あんたと遊んだことや嬉しかったこと、驚いたこと、怒られたこと
み〜んなオラは一つ残さず覚えている。
何たって、あんたしか見て生きて来なかったんだから。
それをみんな一緒くたにして、オラは死んで行く。
だから最後は、それをあんたの温かさでみんなくるみ
アッチの方に持って行きたいんだ。
あんたに愛されたことを確認しながら.............。

わかったぁ


おまけ

オヤジがガリガリの真っ黒けの犬を殺して落ち込んでいた時(ペットロス シンドロームかァ)
河原のママ達が口々に言っていた事。
「犬の穴は犬でしか埋まらない」と。

「男のアナは男でしか埋まらない」と言い変えたのはうまかもんのママ。
長い人生がそう言わせたか、けだし名言。







(しんちゃんふうに)やれやれ、オヤジとのランバ通いも無事終わってほっとした。
でも、これで野山や川原を思いっきり走り回れなくなるかと思うと
少しっていうか、かなり悲しい。
もっと悲しかったのが、ランバに落ちていた物を拾ってくわえて
オヤジの所に持ってくると、「マテ!」と気合を入れられて
横取りされるのが、もっと悲しかった。
けど、オサンドンをもらってる身では文句の一つも言えやしない。
「はあ〜あ」と溜息ついていたら、いつものようにオヤジが家から出てきて
「マテ」と言って続けざまに「ケネル」と言って車に押し込められた。
まだランバに通うつもりなのかナ、と思いながら車に揺られていると
オヤジが運転席で「今日からジュウキン通いだ」とかなんとか
ぶつぶつ独り言のようにつぶやいていた。
着いた先がジュウキンとか言う所らしいが、な〜んだランバと変わらんじゃねェのか?
と思ったし、マタいつものように跳ね回れるならウレシイナっ。

ランバ通いしていたときと違って、オヤジは左だの右だのアッチだのとヤケにウルサイ。
言われた通りしないと、あーだのこーだのってデカイ声だしてうるさいから
言われるがままに藪に突っ込んでいったら、でっかい物がゴトゴトと飛んで行った。
オヤジはと言えば「バーバー」って、やけに興奮して騒いでいる。
それにしてもゴトゴトと飛んで行った物は、とってもいい匂いがしたにゃ〜。って、おまえは猫か。

オヤジのところに跳んで行って報告したら「そ〜だ、そ〜だ」と
ニコニコ顔して背中をナデナデしてくれた。
よっしゃあ、この調子でやればオヤジが喜ぶんだなと思った。
ソ〜と決まれば話は早い。
さっきとおんなじ匂いの物を探しにピョンガピョンガと、はね跳んでいたら
オヤジが後ろの方で「ウオーウオー、左のオブジェクション気い付けろッ!」と叫んだ。
その瞬間、さっきとおんなじ物が、ゴトゴトゴトといっぱい飛んでいった。
オヤジは真っ赤な顔して「バーバーバー」と手をぐるぐる回しながら騒いでいた。
ふ〜ん、これってもしかしたら「フィールドトライアル」ってヤツかなと思った。


フィールドになれたギンギン艶姿。
フラッシュさせたモノの確認スタンチ七変化。
この後ラウンドしながら見事にリフラッシュ晴れ姿。

ヤマで稼いでもらうつもりだから、ニンテイはいらない。
これでいいのだッ


フィールドトライアル大好きハシモさん。
近くの川原で練習トライアル。
自慢のセター二頭立て。
川原の絶好オブジェクション。
「ウオーウオー、ババー、ババー」と川原に響く、大声だみ声怒鳴り声。

所在なげに近くの畑を見回っていた婆さん。
「こりゃー、すぎのかどッ。ババアたらなんて言い草だァ
ほれにウオーウオーなんか付けるもんでねッ」と怒った。
そーな。
笑えた?
これで笑えたらアンタもトライアラー。

そうそう、今でも田舎に行くと苗字とか名前では呼び会わない、屋号で呼び合う。
この話の場合「すぎのかど」ってのがハシモさんの屋号で、ご当地ではこの方が話のとおりは早い。
田舎のヒトのうちを訪ねて行くときは、前もって屋号を聞いていた方がイイかもしんないね。


オラのうちは「三代ぼろや」ってのが屋号だ。






ガハハ正体バレたか。









さてと、たっぷり昼寝もしたし、お銀に夕飯をやって仕事にでも行くか
と、縁側に行ってお銀を呼んだら、いつものようにノタノタと
「うるせいな、オヤジなんか用か」てな感じで縁側のガラス戸に
へばり付いて来た。
オラはそんなお銀の顔を見てプッと噴出してしまった。



両まぶたがプクッと膨れて、いつもの目の大きさが1/3になっていたからだ。



大笑いしたところで「こりゃまずい」と我に返った。
体全体の観察をすることにした。
鼻は元から渇き気味なので異常なし。
口を開けて口臭を嗅ぐと臭くないから異物を飲み込んでのジンマシンではない。
目は充血してないので、薬品関係でもない。
耳の内側もなんでもないし、膨れたマブタ上に虫などが着いてはいない。
それじゃ他の柔らかい皮膚の部分はどうなのかなと隈なく観察。
体をグルンとひっくり返してみた。
タマタマの脇の毛が薄くなった部分が赤く腫れていて
そこに黒い小さな物体が張り付いていた。
オラはピントきた。
ヒル、蛭、ひるだと。
お昼に川の中をさんざん暴れさせたから、そん時に付いたかと思った。
ヒルだとしたら、指なんかではチョッとやソッとでは取れないので
ピンセットを持って来ることにした。
また、お銀をヒックリかえして、タマタマの脇をヨ〜ク見てみたらヒルではなかった。
小さな蜂だった。
オヤジは近頃、老眼が入って来て小さな物が分かりずらくなってきたのだ。
ピンセットでその蜂をつまみ、お銀のタマタマから引き離そうとしたら
アッケ無く取れてしまった。
そう、もはや死んでいたのだったハチ君は。
推測すると、お銀が小屋から出て、外でダラシナクおマタをオッピロゲて
お昼寝してたところに、件の蜂が飛んできてタマタマにピタッと止まって休んでたんだが
お銀が寝返りを打った時にタマタマに挟まれてしまい
苦しまぎれの、蜂の一刺しって事になったらしい。
まぶたの腫れの原因が分かったから、そのままにしておく事にした。
えッ〜、医者に連れていかねェ〜の?って。
全猟っていう本に書いていたが、犬はマムシに噛まれても死なない。
そのくらい自己解毒機能があるのだそうだ。
一応は顔が腫れるのだそうだが、3日くらいで腫れが引いて
完治するって書いてあったから、蜂なら一日くらいで腫れが引けるんじゃないかと
勝手に思い込む事にして、ほっとく事にしたのだった。

マアこれとは別な話なんだが、腹から腸がはみ出すくらいの事故にあっても
傷口とはみ出た腸を、水道のホースからの水で、土だのクサッパなんかを軽く洗い流してから
腹の中に腸を押し込んで、その傷口を木綿針で縫い合わせる
なんていう素人荒療治でも案外、犬は平気なそうだ。

コレマタ別な話なんだが、病気かなんかで使い物にならなくなった足も
ほっとけば、犬は自分で噛み切ってサッパリとするとの事。
これは実際にあった話を、別々なヒトから聞いたから本当の話。
そういや、しょうちゃんの足を骨肉腫で切断する時に、唯一反対したヒトは
この話をしてくれたひとりであった。
これくらい犬ってゆう動物は、人間の計り知れないパワーを持っているんだな。
だから、犬は犬。
人間は人間って割り切って飼った方がいいかも知れんな。

ちなみに、動物愛護精神で名高いエゲレスでは
血統的に半端に生まれて来た子犬は即殺してしまうそうだ。
良い血だけを残していく為には、それくらいの非情さが無ければ
今日の純血種は生まれなかったそうだ。
だから何でもかんでも同じ品種ならOKとばかりに、見境無く作出してまう
素人ブリーダーや悪徳増産ブリーダーがバッコしてる日本のペット事情には
エゲレスの方々はニガニガしくおもっているらしいゾ。

だから、お銀よ。
ヘマしたらギャロンだよ。なんてね。








3月28日生まれのオラの弟たちは、全部で6匹だ。
えッ、戸籍はオラとおんなじかって?
ん〜、それがオヤジはおんなじなんだが、おっかさんが違う。
だから、腹違いの弟ってことだな。
そんなおとっつあんは超モテモテのプレイボーイらしい。
オラもそーなりたいが、現実はそんなに甘くないらしい。

どこぞにカワイイ弟たちの、もらい手はいませんかね。
オラとおんなじで、立てばポインター座ればポインター
歩く姿もポインターだ。




ひげオヤジの英ポインター談

その一、マア食う事食う事、その量たるや一升飯。
だからエンゲル係数が異常に高い事K2並だ。
そんなにやって太らないかって?
それに見合う運動をしてるからスタイル抜群じゃ。
でも、何にも分かっちゃいない愛犬家達は
「ガリガリの痩せっポッチ」っていうけど、アンタの犬がデブなだけなんだよ。
WANは背骨が手の平で触って分かるくらいがBEST。
つまりガリガリに見えるくらいが丁度いいのだ。
だって喰いたがるもんって御仁は、それを完全消費するに見合う運動をさせなさい。ってこと。。
そのまんままじゃ、糖尿病やら心臓衰弱で死んじゃうぞ。

その二、たれる事たれる事、山の如し。
運子袋が破れるくらいの重量になるぞ。
でも運子は箸で拾ってるくらい堅いから、腹はいたって丈夫だ。

その三、滅多に吼えない、だから番犬にはならない。
猫を見ても無視、怪しい人見ても無視、でも鳥にはメポウ目が無い。
だから暇なときは、空を見上げて飛ぶ鳥を探してる癖がある。
小さい頃はムヤミニ吼えた時も会ったが、そこはビシッと躾を入れたからワンたれないのだ。

その四、体臭が無いとは言わないけど強くないからシャンプーはいらない。
でも、毛が白いからシャンプーをサボってるのがすぐバレル。
けど、自称愛犬家みなさんは洗いすぎじゃないのかな。
家の中で飼うから臭くない方が良いに決まってるが
それは、人間の身勝手ちゅうもんじゃ。
WANの匂いの元、脂はバクテリアなどから皮膚を守る大事なバリアなのだ。
言ってみれば、魚のあのヌルヌルと同じ役目をしてるそうだ。
それを毎日とは言わないが、一週間に2回も洗ったらカサカサになって
アトピーやら湿疹などが出来てしまうのは明白の事実だ。
シャンプーはよっぽど汚くなった時だけにし、あとは豚毛のブラシで体を
キレイキレイにブラッシングしましょうね。

その五、ポインターは寒さに弱いって言うけど、極寒の岩手で飼い続けられて来たので
南の地で飼われているポインターよりは、だいぶ耐寒性が強くなっている。
ナンモ知らない愛犬家は「プルプル震えてかわいそう」なんていうが
寒いからこそプルプル筋肉を震わして発熱してるんだ。
それもあって、大食漢なのかも知らんな。

その六、前頭葉が発達してるのが分かるくらいデコチン犬。
だから、物覚えが異常に速い。
ってことは、いつかは主人を出し抜こうと思ってるフシがある。

その七、足が長いから主人の足の短さがヤケに強調される。
ウエストも細いから、主人のビールッパラがばれる。
でも、犬に負けないで頑張って散歩すれば、やせ薬なんぞとはオサラバか。

どーお、飼う気うせたでしょ。



寅と馬



グルオジっていう犬の散歩とシャンプーを生業としている人がいる。
川原の口うるさいオバン連の中にあっても、一歩も退かない。
そんなケッコウおしゃれな格好をしている、ご意見番的お爺さんがいる。
そのグルオジさんちでは、小さい頃からグレートデンとかボクサーとか
今でも珍しい犬種を数多く飼っていたらしく
5,60年前としては、とてもハイカラなお家のご子息であられたらしい。
だから、犬の飼い方についてはヤケに詳しいっていう〜か
その独断と偏見に満ちたその解説は、歴史と思い入れが
いっぱい詰まった一過言が有り、まともに受け取らない限りは
とても面白く興味深いものだ。
そんなグルオジの事をヒゲオヤジはケッコウ好きらしく
遠くでグルオジの姿を発見すると、オラのリードをグイグイ引っ張りながら走り寄って行く。

ある日、ひげオヤジはグルオジとの会話に詰まったらしく
要らない事を聞き始めた。
「うちの銀は前飼っていたフラットコーテッドレトリバーより
水の入りが悪いんですけど、ポインターってこんなもんですか?」と尋ねていた。
グルオジはここぞとばかりに、体験から割り出したいつもの講釈を
展開しながら、お客さんから預かって散歩している体重50kgオーバーの
巨大ラブラドールレトリバー「平蔵」君を呼び寄せた。
この平蔵くんは川の中を駆け回るのが、三度の飯よりも好きな水商売なワンコだ。
その平蔵君の首輪に50cmくらいの紐くくり付け、その端をオラの首輪に結びつけた。
そして平蔵君の大好きなオレンジのボールを、川の向こう岸近くにグルオジが投げた。
それしか目に入らない平蔵くんは、オラが繋がれている事なんかすっかり忘れ
あの巨体でオラの事をグリグリと引きずって川の中へと突進した。
オラはその勢いに負けて首をへの字に曲げられ溺れそうになりながら
川の中へ引き込まれていったのだった。
そんな事を3回もされちまって、オラは川の中に入るのが怖くなって
水恐怖症になってしまった。
グルオジは「これをあと2,3回すれば水の中に黙ってても入るようになる」って断言した。
をいをい、オラを殺す気か。
さすがのヒゲオヤジもこれには付いて行けないっていうか、呆れてしまい
これには二の句がつげないでいた。
この事がトラウマになってしまったオラは川が怖くなって
川岸から離れて歩くようになってしまった。
ヒゲオヤジは困った顔をして「今年の冬から川の中に入ってモノを回収してくる
お仕事が待っているのに困ったもんだ」と
オラのトラウマをどう消そうかなとブツブツ一人言をいっていた。
それからはオラの事をなだめたりすかしたりして頑張っているので
オラも頑張って川の中に入れるようにと、少しづつ足を濡らす事にした。
でも、一回勇気を出して川の中を泳いでみたら、ケッコウ楽しいもんで
今じゃ散歩の途中の水泳が病み付きになったのだッ。




















7月1日、オヤジはいつもと違い、なにやらイソイソとして顔がにやけている。
「今日は鮎釣りの解禁だから、2時間繰り上げて散歩だぞ」と言った。
オラ的には9時過ぎまで、散歩を待たされるのは嫌だし
それ以上に散歩が終わってからの遅い朝ご飯なので、早ければ早いほどOKだなと思った。



初めて朝6時に川原に行ったら、見かけない連中がむれむれと騒いでいた。
いつもの遅い時間はロートル連中が、ノッシノッシと偉そうに歩いているだけだが
早朝の川原は、元気イッパイのチビッコがピョンピョン跳びハネている。
だからロートル連中のように、オラの事を嫌な顔をしてうるさがらず
一緒に遊ぼアソボと絡んでくる。
その中でも、いつも目にクマをこしらえてている柴MIXの「ふうちゃん」と
体がちっちゃくて10円ハゲェをこしらえているラブラドールの「ちゃこちゃん」と仲良くなった。
こいつらは女の子くせにプロレスゴッコとか、噛み付き鬼ごっこがとっても好きで
休む事を知らず、疲れもしないで川原を縦横無尽にビュンビュン暴れまくっている。
もちろんオラは女子に負けねェでガンガン暴れてやるぞ。

これから毎日こいつらと遊べるのかと思ったら、オラは思いっきりワクワクしてきた。。






川原で遊び疲れたし、クソ暑いし、ナンカ用ヲ?

 

オラが一番だいっ嫌いな事、それはシャンプーとかいうこと。
そのだいっ嫌いな一回目は、菊池家に貰われ来たその日に
速攻で、シーブリーズとかいうシャンプーで洗われてしまった。
それは里親と一緒にいた犬舎は、コンクリートのタタキだったので
そこにうんこやらションベンを、たれ放題に垂れていたのだ。
だから毎朝コンクリートのタタキを掃除してもらってはいたのだが
マル一日はそこで暮らしていたので、エモイワレヌいい匂いで
オラ的にはケッコウ素敵な匂いだと思っていたのだが
菊池家では大ヒンシュクをかった匂いだったらしい。
だから速攻で泡だらけ。
なにが嫌だって、生ぬるい水が頭からジャンジャン掛けられて
次はニュルニュルした薬品を掛けられて、顔といわず体中
それでまぶされてブクブクにされちまうってことだ。
そして、あの生ぬるい水をこれでもかって言うくらいに掛けられる。
嫌だって暴れるとオヤジにコブラツイストを掛けられるし。

次ぎに洗われたのは半年くらい経った頃
川原の常連、オラと同じホルスタイン模様が似ているが
体型はガッチりおでぶ体型のレイちゃん。
そのママにすりすりしてやったら、真っ白いスラックスに黒いものがついた。
「ど〜してくれんのよ、ズボンが汚れたんだじゃない」って
オヤジに噛み付いたレイママ。
「川原に真っ白いズボンを履いて来るほうが悪い」って
スーパーでマルハの魚肉ソーセージを万引きして
店長に捕まった主婦が「盗まれるほうが悪い」って開き直ってるような
事を言って煙に巻いていた。
あくる日の朝「銀ちゃんこないで」って叫んだレイママ。
「そんなに言わなくてもイイじゃね〜か」ってオヤジは言った。
そしたら「銀ちゃんが汚くした所、自動車の廃油と同じでなかなか取れない」
と言いやがった。
さすがのオヤジも、これには参ったようで速攻でその日のうちに洗われてしまった。
廃油のような汚れって聞かされたものだから、今回は油汚れに強いママレモンっていう
強力な濃縮食器洗剤だった。
オヤジは「肌にも優しいママレモン」とか言いながら、車のフックにリードを結び付け
コンリンザイ逃げられないように拘束して、庭の水道の蛇口からジャンジャン
水を出しながらゴーカイに洗ってくれた。

3回目が今日だった。
夏の終わりに中津川に上ってくる鮭。
それらの産卵が終わると川原に打ち寄せられて死んで行く。
そしてだんだん白く腐っていく鮭。
それを「いい匂いだにゃ〜、体にスリスリしたいにゃ〜」って
いつも思ってはいるものの、オヤジの怖い顔があるので
シランプリを決め込んでいた。
秋も終わり、ちょうどいいくらいに腐って熟成された鮭の腐敗臭に
オラは居てもたっても居られなくなった。
オヤジの目を盗んで、立ち枯れた葦の陰にもぐりこみ
頭から腰回りまでたっぷりとそれを擦り込んだ。
それはそれはトテーモいい匂いなんだニャ。ってオラは猫か。
これならあの可愛いソーニャちゃんにモテモテだぞっと思った。
とりあえず、オヤジに自慢しに行った。
オヤジは「ナンカ臭せ〜な」って顔していたがオラの事だとは気づいていない。
首を傾げながら歩いていた親父。
「アッ、そ〜か。昨日店に出入りしている業者から貰った
臨界点ギリギリのゴルゴンゾーラチーズ(メデューサの体臭といわれてる
イタリアの青カビチーズ)をタラフク喰ったから俺の口臭かな」とか
ブツブツ言いながらハアハア息をしながら「こんななら可愛いエリちゃんに
嫌われるな」って言いながら歩いていた。
向こうから来るのは白い日本犬のソーニャちゃん。
オラはさっそくディスプレイしに掛けて行った。
いつもスマシテ歩いているソーニャちゃんが、オラに擦り寄ってきて
「アンタってケッコウいいオトコじゃん」って言った。
「えへへへ、そんなでもぉ」って言いながらソーニャちゃんに乗ろうとしたら
ギャンと吠えながらガブッってかじられてしまった。
世の中そんなに甘くね〜ナ・・・。
首を傾げながら歩いていたオヤジに、リードを付けらるその瞬間
「クッセエ!!」と吠えられてしまった。
こりゃキマリかなと思った。
が川で何回も泳がされて、ど〜やらシャンプーは無さそ〜ナ雰囲気。
散歩から帰って朝ご飯を食べている最中ファブリーズとかいうものを
ここんちの長男しゅうちゃんの部屋から持ってきて「しゅうちゃんも臭いが
お前の方がもっと臭さい」って言いながらシュッシュされた。
飯喰ってる時ぐらい静かにしてくれよな、もう。
それに目に染みるじゃね〜か
それでも良い匂いが取れない次の日、それは実行された。
「金銀パールプレゼント♪」とか歌いながらブルーダイヤとか書いてある
ちっちゃな箱を持ってきて、それを大量に背中にぶちまけられる。
「シツコイ汚れにザブ」なんて言いながらゴッシゴッシと
大根を荒縄で洗うように手荒に洗われてしまった。
一度暴れようとしたら卍固めを決められたので、仕方なくおとなしくしていた。

シャンプーっていうか、洗濯も終わって2,3回ブルブルってしたら
あっという間に乾いて「短毛ハゲ犬は乾きが早い」ってオヤジは言ったが
ハゲは余計じゃっ!薄いだけだ。
「これで明日からの山入りも、奇麗に身を清めたし
山の神のご機嫌を損なわないから大猟間違いなし」って
オヤジだけ妙に悦にいっていた。
で、お約束どおり、山の神からのプレゼントをゲット。






11月は猟芸向上委員会強化月間
今日は対鴨戦略評議会の開催日である。
just午前10時、北上川左岸到着。
車から降りた銀隊員、気合一発、糞一発。
いきなしダッシュ。



ススキ林を掻き分けながら川原に向かってガサガサと走り出した。
そこは本流に取り残された三日月湖っていうか、そんな感じのちっちゃな水溜りで鴨を見つけたわけだが
そこに浮かんでいたヒネ鴨達にグワッグワッと馬鹿にされて
それが悔しく悔しくてワンワン吠えながらバッシャバッシャと泳ぎ
、百戦錬磨のヤリテババァ鴨を追い掛けていた。
見切りが早い銀隊員は、なかなか捕まらない古鴨を追うのはやめて
若い娘鴨を探しにさっさと下流に歩き出した。
そして北上川のT橋下流の中洲に向かったのである。
そこは左岸から渡るのには、ニーブーツじゃ苦労するくらい深い水の流れなんだが
今年はやけに台風が多く凶暴な増水で川の流れがヒドク変わってしまい
今じゃその見る影も無く、たやすく渡れちゃうサラサラの浅瀬になってしまった。
そんな流れを渡渉し中洲に渡って上流へと鴨をさがしながら歩きだしたオラと銀隊員。
橋の下をくぐった所で何かを嗅ぎ取った銀隊員、左岸を目指し石カラの川原をいきなりガラガラと走り出した。
中洲が切れるあたりの上流部まで行ったところで、カルガモの群れが左岸柳の木の下から
次々と飛び出しては、水面で脚をばたつかせながら助走をつけ対岸や上流へと飛びだった。
その数、日本野鳥の会並に素早く数えると50ッパはくだらない数だった。

銀隊員といえば更に加速を増しスピードに乗って、その群れの後方部隊に突っ込んで行った。
最後の最後に遅れながらも助走を付け初め飛び立ったカルガモ1羽。
それを上手くリブにのせてスウイングでjustタイミング。



それに照準を合わせるかのように、MAXスピードに乗った銀隊員、三段跳びのようにホップ、ステップと脚を刻み
最後の ジャンプで、ゴジラ松井の打球のように低くそして長くライナーで跳んだ。
その口先方はjust鴨とバッチリとタイミングが合っていた。
閃光一閃、鴨の毛が飛び散り空中戦が展開された。
モチロン、銀隊員が一方的な勝利を もぎ取った。
そして、しっかりと鴨の胴体を咥えて川岸に軟着陸した銀隊員。


雫石川での鮎釣りで、よく行き会う鮎釣り師の羽上さんはフィールドトライアルが大好きで
それが嵩じて今じゃ鉄砲を持つのを止めてまで、お犬さまにぞっこんフィールドトライアル一筋だ。
そんなだから、各大会に合わせてロングレンジとミディアムレンジとショートレンジの犬3匹を飼っていらっしゃる。
その犬たちを使い分けてJFTと全猟の大会二つにエントリーしまくって、点数を稼いでいるのだ。

鮎釣りも一段落した夏の終わりに銀ちゃんを連れて羽上さんの家を訪ねた。
それは銀隊員を狩猟犬として立派に完成させるべく、訓練の仕方を教えてもらう為であった。
羽上さんも言っていたが、一番大事なことは「来い」で、次が「待て」最後に「付け」だった。
そんな「来い」の訓練の仕方を教えてもらったのは、笛を使っての呼び戻しの訓練の仕方だった。
それから毎日川原の散歩の途中で、この呼び戻しの訓練を重ねてきたのだった。
その徹底的に仕込んだ成果が今、問われる時なのである。


羽上さんにしごかれてる銀隊員、よそ見すんなッ!


軟着陸した銀隊員に、オラはすかさず呼び戻しの笛を鋭くピッと吹いた。
それに素早く反応した銀隊員は反転し、鴨を咥えたままオラの足元まで走り戻ってきた。

そして「マテ」でオラの足元にドタっと戦利品を落とした。
それを見届けたオラは、一連の銀ちゃんの行動にとっても驚いたし
なんつうか、日頃の訓練で狩猟犬としてあるべき姿になった銀ちゃんに
なみだが出そうになるくらい嬉しさが込み上げるのであった。
そんな銀ちゃんの頭をポンポン軽く叩きながら、銀ちゃんと戦利品の回りをクルクル踊り
そしてピョンぴょんと飛び跳ねっちまったオラだったのだ。





ど〜よ。

えッ、ところでその鴨のお味はド〜でしたか?って
ソウソウその話なんだが、いつも寝酒に赤ワインを引っ掛けに来て頂いているテツビン屋さん。
早朝、中津川カワラ組のふうちゃんのパパである。
事の次第を話してから、鴨鍋をつついてもらったらテツビン屋さんは言った。
「食べ物にお話があるっていう料理は、これまた格別なお味ですね」と。

そっそう、そうなんだッ。

山菜採りにしろキノコ取りにしたって釣りでも、狩猟でも
誰かと何処そこに行って苦労して獲ったとか。
いやぁ〜、まさかあんな所で採れたなんてオドロキとか。
危ない目に合ってヤバかったとか、いろんな体験やそれに付いてのモロモロの事件があってから
はじめて口に入る食材とその料理は、言葉には言い表せれない格別なご馳走だったんだ。

スーパーで売っている野菜や豚ロースやカルビなんかには、微塵もストーリーは感じられない。
ましてや何を使っているのか不明のお惣菜なんか、ただのウンコになる物としてしか感じれなかった。
だから何時も、どっかが違う食いもんだなぁと、喰う前からさめた舌で感じては
食べていたんだけど、今の今までそれが何だかはわからなかった
ふうパパに言われて、今初めて気づき合点がいったのだ。

今までバカみたいに真剣に遊んでいた事が、実は「ストーリーを持った食べ物の追求」だったんだなと
初めて気づかされたし、その一言でとっても納得いって心が楽しくなった。
だから、ふうパパの何気ない一言で遊びと料理との融合を、しっかりと確信したしだいである。
これと話は似たようなものだが、有機野菜や低抗生物質肥育豚などには
作った人の紹介が有ったりして、これも一つのストーリーかもしれないな。
うちで喰っている米は釣り仲間が作っている、もっちりとして大粒な東和町の「ひとめぼれ」だが
その年の収穫するまでの話なんか直に聞けたりして、一噛み一噛みに
ご飯の美味しさが口中に染み渡る美味さなんだな。

これからの俺の遊び事全般は「ストーリーを食す」ってのが標語となった。
だから、山に行ってきま〜す、川に釣り行ってきま〜す、海行ってきま〜す
じゃなく  「仕入れに行ってきま〜す」 だす。

とどのつまり、馳せて走って集めた獲物。
これぞまさしくご馳走なり.
にゃにゃぷす。。





おりゃぁ、ご馳走イッパイ喰って満腹だなもし。


山窩集