場面緘黙(かんもく)への理解促進と支援に関する要望書(2021)

令和3年11月4日

文部科学大臣 末松 信介 様

場面緘黙(かんもく)への理解促進と支援に関する要望書

場面緘黙関連団体連合会 会長 金原洋治

 新型コロナウィルスへの対応をはじめ、大変幅広い教育行政の舵取りにご多忙のことと拝察いたします。今回、場面緘黙(選択性緘黙)への対応に関して、当事者と家族そして関係者から要望を出させていただきます。
 文部科学省において、選択性緘黙は情緒障害の一種として情緒特別支援学級の対象にも位置づけてきました。平成17年の発達障害者支援法の施行時、選択性緘黙も対象に含まれ、平成19年3月に発達障害者も特別支援教育の対象とし、発達障害者の中に選択性緘黙も含まれていました。しかし、文部科学省関係の資料で、選択性緘黙が発達障害に含まれるという広報は行われないまま今日に至りました。
 2018年 (平成30年)、ICDの第11版 (ICD-11) がWHOから正式に発表され、その訳語も検討されてきました。現在、従来の選択性緘黙は原文も名称変更され、それを受けて翻訳和名も「場面緘黙症」となることになりました。同時に、新しい大分類の「神経発達症」が作られました。この改定で、自閉スペクトラム症(ASD)、発達性学習症(SLD)、発達性協調運動症(DCD)、注意欠如多動症(ADHD)、発達性発話流暢症 (吃音症)、慢性発達性チック症などは「神経発達症」へ入りました。一方、場面緘黙症、分離不安症、反応性アタッチメント症(反応性愛着障害)などの障害は、入りませんでした。「神経発達症」だけが発達障害者支援法の対象になると予測する識者もいる状況で、場面緘黙の当事者や家族、支援者は大きな危惧を抱いております。
 そこで、場面緘黙の当事者(以前、場面緘黙で現在では会話が可能になった「経験者」を含む)、家族、支援者等へアンケート調査を行いました。すると、発達障害者支援法の対象であることを全く知らない当事者、家族がいるだけでなく、本来専門家として周知されていなければならない精神科医、発達障害者支援センターの職員、情緒障害に詳しい教師にいたるまで、場面緘黙に関する理解が極端に乏しいことが明らかになりました。
 学級の担任に理解されないという訴えは多数出ております。また、途中から話せるようになった経験者においても、いわば後遺症のような適応上の困難があり、日常的な支援のニーズがかなりあることが分かりました。医療、福祉、教育、労働の専門家においても場面緘黙は正しく理解されておらず、厚生労働省や文部科学省の公的ホームページやパンフレットでも場面緘黙に関する情報は示されておりません。これは、分離不安症や愛着障害についても同様の問題を抱えています。
 これら、いわゆる情緒障害については、一時的な障害で、いずれは治るというイメージが広がっており、なかなか積極的な支援に結び着かないまま、不登校、引きこもり、学校や職場での適応困難、あるいは社交不安症やうつ病などを発症し、失職や引きこもりに陥っている例も少なくないのです。例えば、場面緘黙の場合、家では喋れるからいずれ問題が解決するとか、人見知りの強い性格で、大人になれば解決するだろうと専門家においてもイメージされていますが、そのように簡単な困難ではありません。
 だらだらと出血する程の怪我をしても、声が出なかった事例や、生命の危機においても助けを求められなかった事例もあります。不安がベースという説が有力で、極端なあがりなどに似ていると想像されがちですが、レベルが違います。一日中一言も発する事が出来ず、うなずくことも困難な状態だったり、極度の緊張状態になり身体が動かなくなったりすることが、何年も続くことを想像すると、その困難の最中にいる場面緘黙者が抱える困難に思いを致せると思います。しかしながら、多くの教育関係者は、場面緘黙の困難をいまだ知らないでいるのが現状です。
  場面緘黙の理解促進と支援の拡充について、以下のことを要望いたします。


1.特別支援教育の対象を決定する際、医師の診断は無くても良い事を普及させるよう要望します。
 場面緘黙の場合、正しく診断できる医師が不足しており、診断に2年かかったという例や、診断してもらえない例があります。元々特別支援教育のスタート時から、特別支援教育の対象を決定する際に医師の診断は不要だったのですが、学校や教育委員会で、医師の診断が必要と言う誤解が蔓延しています。診断無しでも特別支援教育に関する委員会(いわゆる校内委員会)で決定できることを明確に示して頂くよう要望します。

2.場面緘黙に関する理解促進を含め、障害児の理解向上を学校教育で積極的に行うよう要望します。
 障害者の権利条約第8条で、明確に学校教育において障害の理解向上を図ることが示されています。大人しいだけなど、障害と認知されていないことも多々あるので、場面緘黙は発達障害者支援法の対象に含まれること、かなり長期に障害が続き、発達に多大な影響があることを周知するよう要望します。

3.場面緘黙の実践・研究を促進し、早期発見、早期教育に取り組むよう要望します。
 家庭内では顕在化し難い障害であるため、第一発見者が教諭であることは多々あります。学校において、当事者は非常に大変ですが、周囲への影響は弱いため看過されがちです。また、研究そのものも、脳機能障害を検討したものなどもありますが、他の障害に比して進んでいません。基礎研究も含めて研究の促進と、指導法の開発研究など実践研究の促進と、それらの速やかな適用を要望します。

4.後期中等教育や高等教育段階でも場面緘黙に対するケアと合理的配慮を要望します。
 大学や高等学校段階などで、会話が出来る様になる例もありますが、長年の障害で、失敗経験を大量に蓄積し、予期不安が高く、会話も含めて人々との交流がスムースに行きにくい傾向があります。経験者となったあとも、自己主張や雑談と言った社会的活動に困難を抱えている例があるため、特別な支援や合理的配慮を要望します。 

5.障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領に、障害者理解の促進と障害の有無にかかわらず共に助け合い・学び合う精神を涵養する啓発活動を加えるよう要望します。
 障害者差別解消法の改定を受けて文部科学省の対応要領も改訂されると推察されます。その際に、場面緘黙など見過ごされがちな障害も含めて、児童生徒だけでなく教職員に対しても理解啓発の積極的な研修を要望します。         

(以上)

 注:学校教育において、従来から情緒障害教育という分野が有り、「選択性緘黙(場面緘黙)」は情緒障害と位置づけられてきました。福祉の分野とは若干違った位置づけなのと、学校への要望が多数ありましたので、別に要望書を作成しまし。

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