プレゼント





 「どうしよう」

 クリスマスのイルミネーションや色彩満載の街中をぶらぶらと歩きながら、 千尋は茫然と呟いた。
 ショーウィンドウもクリスマスカラーで彩られ、 キラキラと宝箱のように輝いて眩しい。 けれどそれすらも、今の気持ちを盛り立ててくれることはなかった。

(どうしよう〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!)

 一つのショーウィンドウの前に立ち尽くし、 うずくまりたい衝動に駆られる。

(ハクに、なにあげよう……)

 やはりクリスマスと言えば、大切な人にプレゼントを贈りたいと思うのは当然である。 これは人間の心理なのかもしれない。
 千尋もそんな一人で、大切な人に贈る物をここ二週間近く悩んでいた。
 手編みのマフラーやセーターなど定番のものが真っ先に浮かんだものの、 こっちの世界では必要なものでも向こうの世界ではまったく必要ないものとなってしまう。 しかも季節限定。
 それがとても切ないというか、淋しくて全て却下した。

(できれば……、いつも必要としてくれる、いつも使うものがいいのに……)

 いつも使うもの、その線で思考をまとめ、改めてショーウィンドウを覗き込む。 と、そこには時計が陳列されていた。

(時計、いつも使うよね)

 腕時計に目覚し時計、懐中時計に、様々な形の物が置かれていて、 目を楽しませてくれる。

(あ、これいいな……)

 目に止まったのは懐中時計。 白銀に輝いて、アンティークな彫刻が施されている、 けれどごてごてしていないスマートなデザインのものだ。

(ハクに似合いそう)

 この時計を身に付けている彼の姿を想像して、思わずにやけてしまいそうになる。
 周りの視線を感じたような気がして、慌てて表情を引き締めた。

(これにしよう!)

 そう決心して、値札へと視線を走らせて、千尋は茫然とした。 とてもお小遣いの範囲でも、来月の分を前借しても買えるようなものではない。

(いいものは高いのよね……)

 なんとなく予想はしていたけれど。
 ここまで高いとは思わなかったし、こんな予想当たって欲しくなかった。
 暗い溜息を吐き出して、また一から考え直す。

(ハクに聞く??)

 それが一番早いかもしれない。 何が欲しいのか聞けば、すぐにそれをプレゼントできる。

(ダメっ!何かわかってるプレゼントはつまらないもん)

 突然贈られるから、何かわからないから、 プレゼントというのは、わくわくして嬉しいものなのだ。
 そして何より、ハクを驚かせたい。
 その場で首をひねり、頭をフル回転させて考えても、いい案は浮かばない。 こうして立ち止まったままでいるわけにもいかず、千尋はゆっくりと歩き始めた。
 学校の友人に聞いても、「好きな人がいるの?!」と追及されるだけで、 アドバイスらしいアドバイスを与えてはくれないだろうし、 両親に聞くわけにもいかなく……。

(ハクに……会ってみよう。顔を見れば何がいいかわかるかも)

 ちょうど明日は土曜日。期末テストも終わって、授業は半日のみ。 上手くいけば向こうで一泊できるかもしれない。

(そうしよう)

 そう心に決めると、幾分か足取りが軽くなる。 まだ全てが解決したわけではないけれど、その糸口が見えそうな気がした。








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