-9章-
ヒャダルコ



「オレが考えなしでヒノキの棒を召還したとでも思ったか」
「たりめっだ」
 即答。
「あのなぁ、そんなわけねぇだろ……。まぁいいさ 、見せてやるよ。オレの秘策を!」
 エンは遠い間合いにも関わらず、ヒノキの棒を振り上げた。
「うりゃぁぁぁぁぁーーー!!」
 そして、そのままヒノキの棒を投げだした!
 勢いよく飛んだヒノキの棒はしかし、ラゴが振り払って上空に舞い上がる。
 だが、それを待ってましたとばかりにエンはヒノキの棒を指差し、精神を集中させた。
「ウェチェンジ!」
 ヒノキの棒が光だし、バーニングアックスに変化した。バーニングアックスはそのまま落下し、刃の部分ではなく柄の部分がラゴの頭部に直撃し、鈍い音がエンの耳にまで届いた。
「ぐひゃっ!」
 鈍器か何かで頭を思いっきり殴られたような痛みに、ラゴはダウン。そのまま立ちあがることは無かった。
「勝者! エン選手!!」
 勝者が決定し、歓声がわく。バーニングアックスを消しながらエンが観客席に向かい手を振った。


「まさか『ロングチェンジ』を成功させるとはね」
 観客席に来たエンに、飲み物を渡しながらロベルが言った。
「『ロングチェンジ』?」
 また知らない単語に、エンが飲みながら首をかしげる。
「『ロングチェンジ』というのは、自分が召還した武器を遠隔変化させることなんだ。かなりの高度技術を必要とするんだよ」
「ふ〜ん。オレはただできるかな〜とかなんとか思っただけなんだけどな」
 人間、思い込みが激しいと凄い力を発揮することがある。正に今回のエンは思い込みが激しかった――単純なだけだが――おかげだろう。
「そうそう、賞品がなんなのか解ったよ」
「ホントか!? で、なにが貰えるんだ?」
「真聖の宝珠。それが何なのかわからないけど、多分魔法アイテムじゃないかな」
 聞いてもあまり意味はなかったような感じで、エンは落胆の意思表示を見せた。
「多分って…」
「僕はアイテムに詳しい方じゃないんだよ」
 ロベルが謝るが、エンは、そんなことはどうでもいいと判断する。どうせ違うものでも何がなんだか解からないに決まっているのだから。それよりも気になることがある。数時間後に、ルイナの試合があるということだ。

 そして数時間後。
「最終試合のこの試合、どちらが勝ち残れるのでしょうか!? 両者、準備は良いですか?」
「最終試合?」
 審判の言葉に、少々驚くエン。ロベルが呆れたように説明をした。
「言っただろ。この大会は何日かに分けて行われる。明日は2回戦、明後日は3回戦と4回戦、その次の日が決勝戦だ」
「そうだっけ?」
 やはりエンはルールを忘れていたようだ。
「それでは!パワル選手対ルイナ選手、始め!!」
 審判の声が響き渡り、歓声が一気に沸いた。

「うがぁぁーー!」
 先に動いたのはパワル、見ためからして筋肉バカといったところか、召還した武器も『パワー級』の武器だ。
「パワーハンマーか。ルイナに当たったら、死ぬかもな」
 ロベルが極冷静に言う。まるで、ルイナの心配をしていないようだ。
「冷静に言うなよ。ルイナ、勝てそうなのか?」
「さっき、ルイナは君の心配をしなかった。大丈夫だと信じてたんだろう。エンも信じたらどうだい?」
 エンはそのことを理解し、冷静に試合を見る。まだ、ルイナは余裕の表情だった。いつも無表情だが、それが変わっていないなら余裕ということだろう。
 それを証明するかのように、ルイナはパワルが間合いに入る前に反撃に出た。
「……」
 物静かに召還した武器は、鋼のムチではなかった。
「なんだ……アレは?」
 さすがのロベルもそれを知らなかった。もっと武器に詳しいものなら解ったかもしれない。
 竜の口から水が出てきているようにも見える。ムチは水色に輝き、長いようにも、短いようにも見えた。一瞬見惚れてしまいそうなムチが、穏やかな水から荒れ狂う水へと、川の激流を思わせる勢いでパワルに向かった。
 それは、瞬間的なものだった。一瞬の間に、ルイナのムチがパワルに巻きつき、動きを封じたのだ。
「なんじゃこりゃあ!? 水のクセに、こんなに硬ぇ?!」
 一見、すぐ破られてしまいそうな水のムチは、かなりの強度を持っているらしい。ルイナは、さらに追い討ちをかけた。
「――ヒャダルコ=v
 片手をパワルに向けたかと思うと、大気が凝結し、パワルの顔を残して、体全体を氷漬けにしてしまったのだ。
 歓声が沸く中、エンとロベルは目を丸くして現状を見ていた。

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