-22章-
魔兵、起動



 『彼ら』がこの世の生を受けた時。それは己という自我を持った瞬間である。
 自身の存在を自覚したその時こそ、生誕の時だったのだ。
 『彼ら』は生まれたばかりの頃、孤独であった。水や鏡に反射して映るその姿は、周囲に比べて異質だった。だから、自分自身を恐れた。自分はどこから生まれ、どこへ行けば良いのか分からないという不安に苦悩した。
 しかしやがて、それは特別な存在にして、特別な力を持つことの証である事と気付く。
 周囲と姿形が違うからこそ、それは際立っていた。
 さて、ここで『彼ら』としているが、その『彼ら』という複数の存在がそれぞれで同種であるというわけではない。『彼ら』は『彼ら』の中で、それぞれ異なる者たちだったのだ。
 『彼ら』はやがて、その世界の頂点とも言えるべき位置に近づきつつあった。
 だが、それは叶わなかった。
 『彼ら』の中の一人が唐突に行方不明となり、一人、また一人と消えていったのだ。
 死ではない。裏切りでもない。それぞれが、その世界から隔離されてしまったからだ。それぞれは直感したことだろう。他の者たちも、自分と同じ現象が起こったのだと。
 『彼ら』は『彼ら』のいた世界とは別の世界に飛ばされてしまった。その後、他の者たちの経緯を知ることは不可能だったが、既に『彼ら』は一固体の存在で驚異的なものとなっていた。今さら『彼ら』が『彼』のみになったところで、他の種族に劣るということはない。
 『彼』は、その世界でも頂点に君臨することができた。
 その経過で多くのことがあったのだが、結果はその一文のみである。
 今、『彼』はかつて『彼ら』の一人であったものと敵対している――。


――これは、なんだろうか。
 今、エンの意識はとても深いところにあった。それでありながら、目ではない何かで見える映像。人一人分の視野ではなく、まるで自分が空になったかのようにそれは広く見える。
 直感だが、どこであるかを理解した。これは、この映像は、今エンたちがいる世界だ。しかし、自分たちが乗り込んだ荒野は見当たらない。ムドーは世界が結合したと言っていたので、もしかしたらこれはその前の光景なのだろうか。
 見えるとは言っても、時系列は自身の感覚と同一ではない。
 映像はいきなり切り替わりもすれば、全く同じ光景が続いたりもする。
 あまりに視界が広すぎるため、何処に何があるか把握しきれない。だが、少し意識をするだけで目的の部分が明確になった。
「(なんだよ、これ――)」
 エンが視た物――。死屍累々という、決して良いものではない。その屍は、全て人間であった。老若男女を問わず、武装非武装を問わず、ただの残虐な殺戮の痕跡しかない。
 吐き気すら催しそうになるその光景を、悦んでいるものたちがいた。人々の絶望を、悲しみを糧とし、嬉しげな声をあげてる。――魔物の群だ。種類雑多の魔物たちが、人の死を至高の喜びとしている。
 エンは激しい怒りに揺さぶられながらも、動けなかった。もしこの場に存在しているというのなら、今すぐにでも魔物たちの中に踊りこみ、その表情を一変させていただろう。この場を創りだした魔物たちに鉄槌を下し、人々を傷つけた罪を贖ってもらう。そうすることで死んだ人間が生き返るわけではないということは分かっているが、それでもそうしなければ溢れる感情は収まりきれない。
 しかしどれだけ願おうと、今のエンは空と同じだ。ただ上空にあるだけの存在である。
「(あいつは……)」
 魔物の群の中心。他の魔物らしい魔物と違い、一人だけ異様な姿をしている者がいた。
 それは普段見れば、どうということはないが、魔物たちに囲まれている中で見ると違和感どころではなく、異質そのものだ。それというのも、それは人間の姿をしているからで、隣にスターキメラという大型の鳥獣を従えていることや、周囲が魔物ではなかったらただの人間としか思わなかっただろう。
 その人間を、エンは見覚えがあった。なんてことはない、この世界で出会ったムドーなのである。隣にいるスターキメラも、恐らくエンが会ったのと同一の魔物だろう。
 そしてムドーは、他の魔物たちと違い、涙を流していた――。


 はたと視界が切り替わった。あまりに唐突であったため、すぐには理解できなかったが、広がる光景はつい先ほどまで自身がいた場所である。
「……どれくらい寝ていた?」
 ゆっくりと立ち上がりながら、エンは心の中の精霊に問う。
「――早かったな。五分も経っていないぞ=v
 見れば、爆発したキラーマジンガの残骸がまだ煙をあげている。時間の経過はそれほどでもなかったようだ。
 それでも身体は動かせるようになっていることを確認し、エンはこの部屋に入ってきた道を振り返る。
「これからどうする気だ?=v
「とりあえず、イサの所に戻る」
 キラーマジンガとの交戦中に感じた異常値の魔力。正体こそは分からないが、まずはイサと合流しておくべきだと判断したのだ。
 身体が動かせるとはいえまだ気だるさが残っているが、それは気力で補うことにし、もと来た道を戻り始める。
 イサに任せて部屋を飛び出した時は無我夢中であったものの、おぼろげながら道は覚えていたらしい。他の魔物に見つかることなく、すぐに見覚えのある場所に出た。
「イサ……と、しびお?」
 見覚えのある場所だったが、様子が全く違う。部屋が明るいのはまだいいとして、様子がおかしいのはイサだ。
 エンが姿を見ただけで逃げ出した蜘蛛の魔物は見当たらないのでイサが斃したのかと思ったが、そのイサはその場に座り込んで動こうとしていない。
「エンさん……」
 エンに気付いたのか、しびおが困りきった声で訴えかける。表情はほとんど変わらないが、彼がどれだけ参っているかは窺い知れた。
「なにがあったんだ?」
 魔力を追ったしびおがここにいる事より、今はイサのほうが気になった。見れば腕や脚から血が流れており、イサ自身がか細く震え、まるで何かに襲われた後かのようにも見える。
「それが、その……」
 しびおは何かを知っているようだったが、イサとエンを交互に忙しく見やる当たり、言っていいものかどうかを迷っているらしい。
「聞かない方が、いいかな」
 今のイサにはとにかく落ち着いてもらうしかない。
 敵の真っ只中ではあるが、それ以外にエンは思いつかなかった。
「……」
 イサは問い詰められなかったことに安心したのか、それとも申し訳ないと思ったのか、無言で俯いた。
「あの魔物は、もう斃してるんだよな?」
 何気なく部屋を見回しても、気配は感じられない。イサに任せて早々にこの場から逃げ出したが、無理にでも残っていればよかったかもしれないと今さらながらに思う。
「いえ、逃げられてしまいました」
「そ、そうか……」
 まだ生きていると思っただけでエンは複雑な表情を浮かべたが、今はあまり考えないようにしようと決めた。
 その後は妙な沈黙がこの場を支配したが、それも長くは続かなかった。
 どうしたものかと困り果てていたエンの顔つきは急に険しくなり、しびおも何かを感じ取ったのか辺りを見回す。
「何か、いる!」
 その言葉に呼応するかのように、エンが睨んだ先の空間に闇が生まれた。闇は拡大し、それと同時に瘴気が部屋全体を包み込んでいく。闇はやがて、魔物となった。
 二足歩行のようだが下半身は獣のような毛で覆われ、上半身からは一段と厚い毛が頭まで続いている。顔に嘴があり、背には巨大な羽が生えているうえ手は鳥の鉤爪のようになっているため、巨鳥に人の足が加わったかのようで、鳥の魔人という言葉が頭を過ぎった。
「なんだ、お前」
 明らかに好意的な存在ではない事は確かだ。エンは身構えながら、イサを庇うような位置に移動した。
「我が名はジャミラス。この世界の支配者となる存在=v
 ジャミラスと名乗った鳥魔人は細い両目の他に、額に三つめの瞳を禍々しく光らせている。その三つの視線に宛がわれただけで不快になるのは何故だろうか。否、これは不快という表現は正しくない。自身が認めていないだけで、恐怖しているのだ。
「あんたが、アタマってことか」
 ムドーが言っていた、別の世界の首脳。自分たちの感覚に置き換えるなら敵国の国王ということだ。
「クク、感じるぞ。我を斃さんとする意思が貴様から伝わってくる=v
 ジャミラスの図体はエンの数倍はあるだろう。ジャミラスはエンを見下ろす形になっているが、そこから迸る闘志はただの人間とは思えない程である。
「テメェを斃せば、わざわざ古代兵器をぶっ壊すまでもねぇだろ」
 言いつつ、エンは火龍の斧を召還した。炎龍神の斧と比べれば、随分と軽く感じてしまう。
「無駄だな=v
 武具召還に目もくれず、ジャミラスは一笑に付した。
「なに?」
「視ていたぞ、キラーマジンガとの戦いを。あれは邪神の機械兵(エビルエスターク)を元にした試作品だったが、それに苦戦する貴様が我に楯突くというのか=v
 ジャミラスの笑いは、強者の弱者へ対する優越から来るものだろう。エンとて、単純な力の差は相対しただけで感じ取っている。しかし、だからと言って退けられるわけでもない。
「楯突くさ。オレは魔王を名乗る奴をぶっ飛ばしに来たんだ。テメェなんかには、負けられないんだよ」
 火龍の斧を握る手に力を込め、エンは再び召還を行った。
 龍具はそれに応え、姿を変える。メイテオギルの力が加わったそれは、キラーマジンガをいとも簡単に破壊した炎龍神の斧である。
「それも知っているぞ。貴様自身への負荷も甚大であろう。そんな躯では満足に扱えまい=v
 確かに今のエンは、先ほど炎龍神の斧を使用した反動による疲労は回復しきっていない。その状態で再び火龍の斧を持つと、今は持っているだけで力が吸われているかのように錯覚してしまう。
 だが、それでもエンはにやりと不敵の笑みを浮かべていた。
「へへ、もとから満足に使っちゃいねぇよ。さっきだって、こいつに引っ張られてたようなもんだ」
 使っているというよりも、使われていたようなものだった。キラーマジンガを破壊することができたのは、エンの実力というよりも炎龍神の斧そのもののおかげであったのだ。
「制御できない力に振り回される愚か者か=v
「それも違うな。強い力を、最初っから使いこなせるわけねぇだろ。でもだからこそ何回でも、何十回でも使いまくって自分のものにする。オレたちは、立ち向かう度に少しずつ強くなれるんだ」
 ふと、イサが顔をあげた。
「……そう、だね」
 何が彼女を奮い立たせたのかエンは理解できなかったが、少なくとも、もう心配する必要がなさそうなので、心の中で胸をなでおろした。
「貴様も我に刃向かうというのか=v
 イサは立ち上がり、ゆっくりと飛竜の風爪を構えた。それを見たジャミラスはつまらなそうに独白したが、どことなく哀れむようにも聞こえたのは気のせいだろうか。
「敵将を前にして逃げ出すわけにはいかないからね」
 スカルスパイダーを目にしただけで早々に逃げ出したエンにとっては痛い言葉である。
「命を粗末にする愚者たちよ。ならばその代償として死を贈ろう!=v
 ギケァァァ、とジャミラスが奇声を上げた途端、強大な瘴気と魔力がエンたちに重く圧しかかった。まるで重力そのものが変わったかのように、今にも膝を屈してしまいそうになる。
「二人とも、お下がりください」
 しびおの言葉の理由を理解するより早く、エンたちとジャミラスとの間に闇が生まれた。唐突に現れたそれは、ジャミラスがこの部屋にやってきた時と酷似している。違いをあげるとするならば、親しみを持てる闇であるということだろうか。
 ジャミラスの時と同じように、その闇は形を成し、それは別の姿へと変わった。
 腰にまで届く金の髪はこんな所でも美しく輝き、聖職者風情の服装も似合っている。一見すれば美青年だが、この者が人間でない事をエンたちは知っていた。
「ムドー……」
 エンの今の依頼主たる、ムドーである。
「…………」
 ムドーは何も言わずただジャミラスを凝視しており、その表情は怒っているようにも、悲しそうにしているようにも見える。
 その様子を見たジャミラスは、納得したかのように何度か頷くと、堪えきれずに笑い出した。
「これは滑稽だ。ムドーよ、お前が人間の姿をしたまま我の前に現れるとは思ってもみなかったぞ=v
 笑声を轟かせるジャミラスに対して、ムドーは深いため息をついた。
「ジャミラス……戦いを止めよう」
「断る=v
 まるでムドーが言わんとしていることを知っていたかのような速さでジャミラスは答えを返した。
「かつて余たちは共に生きていたではないか。何故、戦い合わなければならない」
「魔界に生きる者の言葉とは思えんな。貴様の世界は退屈すぎたのか?=v
 つい先ほどまで小馬鹿にするように笑っていたというのに、ジャミラスは蔑むような目でムドーを見下ろしている。その重苦しい視線を余さず受け止めているムドーは、諦めずに説得を試みた。
「戦う必要など無いはずだ。また共に生きてゆく……それだけでいいはずだ」
「人間の姿をするだけではなく、頭も腐ったか!=v
 相手の威圧に負けまいとムドーも声を張り上げたが、ジャミラスの方が先に業を煮やし、恫喝した。
「貴様のことだ。概ね、貴様の所にも人間がいたのだろう。そして貴様は、人間との項損を望んだ=v
「それが、どうした……」
「しかしそれは叶わなかった。貴様の世界に、人間は生き残っていまい=v
 ジャミラスの推測は当たっているのか、ムドーは何も答えなかった。その無言こそ、肯定を表している。
「この世界に、人間がいた……?」
 目の前で繰り広げられる会話の中で、そのことだけは理解できたエンが呟いた。ホビットの存在は知っているが、人間がいたとは聞いていなかった。魔界はもともと人間界(ルビスフィア)の一部だったので人間の存在自体は珍しいことではないが、先ほど見た夢のせいかつい驚いてしまった。
「……何百年も前のことだ。この空間世界へやってきた時、余はすぐにこの世界の頂点となった。そして、人間と出会った――」

 ムドーは無益な争いを望まなかった。三界分戦終了後初期の人間は恐ろしい力を有していることを知っているからであり、戦いになればせっかくできた部下たちを失うことになってしまう。まだ魔物の頂点となったからといえども、なるべく戦力を失いたくなかったからだ。
 人間との不可侵条約を望み、相手もそれに応じた。この時、人間の代表となった者はムドーに匹敵するほどの力を持っていた。相手も、戦いを避けることが出来ることを望んでいたのだ。
 しかし、最初は良好と思えた関係も、すぐに潰えることになる。
 条約を結んだ時の魔物の群は、忠実にムドーの命令に従っていた。だが、その魔物が子を産み繁殖し、その子供はムドーの命令には従わなかった。ムドーの支配力は、魔物の子供にまでは及んでいなかったのだ。
 その子供が凶暴に成長し、人間を襲った。そのため不可侵条約は破られ、人間と魔物の間に戦が勃発した。
 その結果は、悲惨なものであった。
 魔物は容赦なく人間を襲い、人間は成す術なく死んでいき、ついに魔物は一体の被害も出すことなく人間を皆殺しにした。
 ムドーは我が目を疑った。人間とは、どうしてこれほど脆く、弱いのだろうと。
 不可侵条約を結んだ人間は、確かにムドーに匹敵する力を有していた。いや、匹敵どころではなく、一対一で勝負すれば相手が上回っているかもしれないほどの実力者であったはずだ。
 その者はどうしたというのだろうと探してみたが、すぐに知ることになる。
 ムドーを斃し得たであろう人間は、既に老いていたのだ。戦うことなど、できないほどに。
 それほどの時間が経っていたのだ。その間、人間は平和に慣れ、魔物の脅威を忘れた彼らは恐怖しながら死んでいった。
 そして、この世界に人間はいなくなった。

 ――その話を聞いて、エンは思いあたるものがあった。キラーマジンガと戦った後に見た夢は、ムドーの話と一致している。あれは、この世界の過去の光景だったのだろう。
「笑いたければ笑え。余は、あの者との約束を今度こそ守るつもりなのだ」
「人間との約束など、児戯にも劣る=v
 ムドーの話をつまらなさそうに聞いていたジャミラスは、威嚇するように羽を大きく広げた。
「だから戦いを止めよと? 戯言も大概にしろ! 我は貴様を八つ裂きにしこの世界の頂点に立つ!=v
「なぜそこまで世界の頂点に拘る?! お前は、何を目指すというのだ」
「愚問だな。貴様とて、気付いていないわけではあるまい?=v
 ジャミラスは、三つ目の瞳を怪しく光らせた。
「『増殖』や『分裂』していたこの魔界が、『結合』し始めている。そもそも魔界が分かれしまうのは、世界が狭すぎて魔物が殺し合い、その絶対量を減らしてしまうからだ。だが、それが元に戻ろうとしている!=v
 翼を広げ、言葉に力を入れながら話す姿はさながら演説のようである。そんな芝居かかった姿を気にするわけでもなくジャミラスは続けた。
「魔界にはその全てを統一できるものがいなかったから、『世界』が分ける必要有りと判断したのだ。今はその逆! 即ち、魔界を統一できる者が現れたため、世界が元の形に戻そうしている!!=v
 エンとイサは顔を見合わせた。時期から考えれば、もしかしたら魔王ジャルートのことかもしれない。そうは考えたものの、ジャミラスの熱弁に水を差すのもどうかと思い、ここは黙っておくことにした。
「ならば! その者を斃すことができれば、我が魔界の王となるのも夢ではないということ! その為には! 結合した世界で常に頂点に立たなければならない! その照明となることは、結合前の世界の頂点だった魔族を斃すこと他になし! これが、我が貴様を殺す理由だ!=v
 こちらの発言を許さないほどの声量と勢いが、ようやく止まった。
「……もし」
 その頃合を見計らって、ムドーが静かに声を発する。
「もし、お前が余を斃した時、余の部下や、守ってきた者たちをどうするつもりだ?」
「愚問。弱き者は要らぬ。弱者は我が糧となるのみ。貴様の世界にはホビットがいたようだな=v
 くく、とジャミラスが邪笑を浮かべた。
「あれはいいぞ。死ぬ時、特殊な魔力を採取できる。それを使えば、我が軍は更に強化されよう=v
「……させぬ!」
 ムドーの周囲で、激しい魔力が渦巻いた。強力なそれは、かつてはジャミラスと同格だったというのも頷ける。
 どちらかが先に動くのか、という緊迫した瞬間だったが、どちらが動くよりも先に、さらなる乱入者が場を乱す。
「――様! ジャミラス様ぁ!!=v
 奥の扉から、その魔物は明らかに少ない足で這って入ってきた。エンは姿を見ただけで、顔を引きつらせ、イサも悲しげな顔でそれを見た。しびおは、今までの会話すらも聞いていたのかどうかさえ怪しいほどいつも通りである。
「いひ! いひひ! じ、準備、準備が! 整いましたぞぉぉ!=v
 魔物――スカルスパイダーのガリウロは、狂ったように叫んだ。それは狂喜とも、狂気とも思えるほどである。しかしジャミラスにとってはガリウロの様子など気にする必要など無く、必要としていたのは結果のみであった。
「そうか。ついにあれが動かせるか=v
 今まで見たジャミラスの中で、笑っていないにも関わらず最も嬉しそうな表情に見えたのは決して気のせいではない。ガリウロを一瞥したあと、ジャミラスは笑みで顔を歪ませながらムドーを見た。
「その人間に、古代兵器復活の阻止を頼んだそうだな=v
 何故それを知っているのか、と疑問に思うよりも先に、嫌な予感が全身を支配した。
「まさか!」
 まだ動いていない古代兵器の実物を目にしたエンは狼狽し、それに対しジャミラスは肯定するかのように笑声を轟かせた。
「今こそ復活の時だ! 邪神の機械兵(エビルエスターク)よ!=v
 その途端、激しい地鳴りと共に、部屋全体が応えるようにぐらりと震えた。

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