SUNSHINE -8-

 

 

「いやー、その、なんつーか…さァ」
「……」
「ホンマ、引くわー」
「う───」

 

一夜明け。

東海道は山陽とともに、新大阪から東京へと戻ってきた。
そう、2人仲良く──言い争いながら。

 

「だってオマエ、あんだけ再会ムード盛り上げといて…人の制服を涙と鼻水で汚しといて…次の瞬間に“爆睡”て…」
「ね、眠かったのだ!仕方ないだろう!」
「コッチはめちゃくちゃ焦ったっつーの!大慌てで医務室に担いでったっつーの!」
「…煩い…」
「ドクターなんてさァ、アレ、もう苦笑だよ、苦笑!“大丈夫、寝てます”とかって!そりゃないだろオマエー!おかげでこっちは大恥かいたわ!」
「煩いっ!黙れっ!貴様が医務室などに連れ込むからこんな大事になったんだろうがっ!」
「え?オレ?何でオレが逆ギレされんだよ!おかしーだろどう考えても!」
「とにかく、一言でもそのことを東日本にバラしたら、貴様の命はないと思え!」
「…なんでやねん…」

「山陽せんぱいっ!」

バンッ!とドアが開いて、中から小さな緑色の体が山陽に突進してきた。

「お…っと…長野ォ」
「おかえりなさいっ!声が聞こえたので!」
「そっか…」
「とーかいどーせんぱいも、おかえりなさいっ!」
「…うむ…ただい…」

「さーんーよーっ!」

ドカッ!

「うげっ!?」

今度は、山陽とそうガタイの変わらぬ体が渾身の力でぶつかった。

「いってーっ!…って、上越!?」
「山陽ッ!会いたかった!」

さらりとした黒髪が首筋を埋め、巻きついた両腕に力がこもる。
その言葉が嘘でないことを物語る。

「寂しかったよ、山陽!」
「…そ、か。ん…悪かっ…」
「寂しさのあまり、キミの部屋のベッドで明かす夜が何度あったか!」
「……ちょっと待て、何さらっと不法侵入告白してんだよ…つかテメェよもや人のベッドで口にするのもアレなコトとかやってたんじゃ…」
「まぁまぁ、あはは♪」
「…シーツにシミ一個でもあったらぶっ殺す…」

「山陽、おかえり」
「山陽、ほら、早く中に入るべ」
「…久しぶりだな」

秋田、山形、東北が、ずらりと並んで迎え入れてくれた。
何も変わらぬ態度で。まるで空白の時間などなかったように。

「やぁやぁ諸君、熱烈歓迎ご苦労ごくろー!やー、やっぱオレがいないとアレ?火が消えたように寂しかったってヤツ?!」

いつものようにおちゃらけた態度でケラケラ笑う山陽。
東海道はその背中を眺めて、ようやく心の底から日常が戻ってきたことを実感した。

そんな東海道を、東の仲間は同じく温かく出迎えた。むしろ、労わるように。

「あ、東海道も入って、ほら、大変だったね、医務室で爆睡だって?」
「…は…」
「とーかいどーせんぱい、おんぶされたんですかー?山陽せんぱいにー?うらやましーです!」
「…え…」
「寝不足はやっぱりいがんでなァ、飴でもなめっか?」
「もう少し横になった方がいいのではないか?」
「さ──ん──よ──う──ッ!何故私の個人情報がだだ漏れなのだ──ッ!」
「いやいやいやいや!オレじゃねーよ!知らねーっつーの!」
「あ、ソレ、ボクぅ♪」

上越が山陽にしっかと抱きついたまま、満面の笑みで親指を立てる。

「西日本から仕入れたばっかの情報ォ♪」
「…だからオマエなんでそんな広範囲なニュースソース持ってんの?…怖いよ…マジ怖いよ…」
「──上越ッ!まったく貴様というヤツは!──」

東海道は怒りに頬を染めながら、つかつかと歩み寄ると上越を睨みつけ…
ひと呼吸つくと、今度は驚くほど穏やかな口調で言葉を続けた。

「…山陽に会えた、な」
「…!?…」
「これが望みだったのだろう?」
「……」
「良かったな、上越」
「……東海道……」

途端、上越は山陽から離れ、今度は有無を言わさず東海道の一回り小さな体をがっしり捉えてぎゅっうううううう〜〜〜っ!と──

「──う!?じょっ、じょ、じょ」
「東海道ッ!とーかいどーったら!もう!可愛いなぁキミってぇ!ああもう!大好きだよー東海道ー!」

ぐぐぐぐぐぐ

「──●×△!?×◎◆〜〜〜!!!」
「上越っ!ちょ!潰れてる!東海道が潰れてる!」
「ちょうど顔が胸に埋もれて!ほら!潰れてるって!息が!息ッ!」
「…あ、ゴメーン」
「ぷはっ!!」

ようやく上越の熱い抱擁から開放された東海道は、咳き込みながら必死で空気を肺に送り込んだ。

「ゲホッ…こ…の…バカモノ…ッ…死ぬかと思っ…」
「でも、こないだよりはいいでしょ?」
「…!?」
「こないだみたいなのよりは、ねぇ、東海道?」

肩を竦め、わざとらしくウインクして見せる上越に、東海道は苦笑いするように表情を緩めた。

「…フッ…この不良が…」
「ふふっ」

上越の腕に抱えられながら、意味ありげな視線を交わす。

「ねぇねぇ、何、何?何のハナシ?」
「山陽には教えなーい!ボクらをほっぽって、西のコたちとイチャついてたような人には──ねぇ?」
「──ああ、同感だな」
「そりゃないべー!つーか、別にイチャついてねーっつーの!それ何情報!?なぁ、それ何情報!?」
「ああ、騒いだら喉渇いちゃったァ、お茶にしない?東海道」
「うむ、そうしよう」
「え!?ドン無視!?ねぇオレまるっとドン無視!?さっきまでの流れだと、ここ主役はこの山陽サンだよねぇ!?東海道?上越?ねぇってばぁ!」
「「う・る・さ・い!」」

「…ねぇ……東海道と上越って、あんなに仲良かったっけ?」
「…“雨降って地固まる”、というヤツじゃないのか?」
「…んだなァ」
「みんな仲良し、で、ボク、うれしーです♪」
「ああ…そうだね、長野」

 

本当に。
山陽が戻ってきた途端に、どうだろうコレ。

まるで台風一過の蒼天みたいじゃないか。

 

ねぇ、山陽。

 

「とうかいどー!東海道ちゃーんてば!オレにもお茶ちょーだい!」

 

ねぇ、東海道。

 

「ええい!鬱陶しい!黙れ!もちょっと離れろ山陽ッ!」

 

 

高速鉄道の仲間を、未来を、夢を照らす。

 

まるで太陽みたい。

 

だから、ね。

 

いつまでも一緒にいたい。

 

いつまでも。

いつまでも。

 

 

 

 

You are the Sunshine─Always.

 

 

 

 

 


 2008/8/17

 

おまけ→