55555HIT記念SS 二本目/JR宇都宮+メトロ銀座+メトロ有楽町+西武池袋+上越新幹線

 

*美味しいお菓子をどうぞ*

 

 

綺麗な包み紙にくるまれた、甘くて美味しいお菓子はいかが?
一つ口に含んだだけでふわっと心まで蕩けてしまいそうになる。
そんなお菓子を、あなたに。

 

 

「有楽町、有楽町」
「何、銀座?…って…うわー、すごい甘い香り!」
「お菓子、もらっちゃって」
「もらったって…こんな大きな紙袋一杯に?!一体誰から?」
「ほら、先月のハロウィンのときにね、地下街のイベントでお菓子の無料配布したでしょ?あれの残りをいただいたの。メトロの皆さんでって」
「え!?や、あれって、確か大奮発して外国の、すごく美味しいけど結構高いチョコ菓子を用意したとか何とか」
「そう、これ」
「えぇええ!?これ全部!?な、なんて贅沢な…」
「はい、あーん」
「え!?いきなり?」
「だって、一個、包みを開けちゃったんだもの。この部屋暑いから暖房で溶けちゃったら大変。ほら、口開けて。あーん」
「あ、あーん」

パクッ

「──!?──すごい!美味い!こんな美味いチョコ初めて食べた!」
「はは、それは良かったねぇ」
「あ〜、疲れが消えてく…幸せな甘さだ…」
「はい、じゃあね、キミにもどっさり分けてあげるから。今日は丸ノ内も半蔵門も南北もみんなそれぞれ路線ミーティングで遅くなるしね…いいよ、好きにして。食べきれなければ誰かにあげて」

 

 

苛々した気持ちも、さぁっと晴れて笑顔になれる。
そんな甘くて美味しいお菓子はいかが?

 

 

「てことで…はい、西武池袋」
「…これは何だ、営団」
「えーと、お菓子」
「それは見れば分かる!何故貴様からこんなものを受け取らなければならないのかと、それを聞いておるのだ!」
「銀座からの差し入れ。一杯もらったからおすそわけしようって思って。で、西武有楽町は?」
「フン、営団の施しなど受ける我らではない!が…“堤会長の御霊に捧げます、どうか受け取ってください”と頼めば受け取ってやらんこともないぞ!」
「何その上から目線!?結局、西武有楽町はいないのか?」
「あれは、研修のために所沢に行っておる。残念だったな」
「そっか…じゃあいいや、堤会長さんは素直にエライと思ってるから。このお菓子、受け取ってくれな」
「仕方がない、西武有楽町に渡しておいてやろう」
「あー、いや、もともとお前のなの、ソレ」
「…は?」
「西武池袋にやろうと思って持ってきたから。ま、たくさんあるから西武のみんなで分けて、な?」
「…何を企んでいる?」
「はい?」
「…ついに西武に入りたいとかそういうことを思って?賄賂か?」
「チョコ菓子で入れるもんなの西武って!?そーじゃなくってさ。その、最近すっごく疲れてるみたいだったから。これ本当に美味い菓子なんだ、甘過ぎないのに、一口食べたら疲れがスーッと引いてく感じ!」
「ふうむ、そこまで言うなら試してみるにもやぶさかではない…」
「ま、とりあえず、試しに一口」

パクッ

「──うん、これは美味い!」
「良かった!…じゃあハイ、これ。有楽町の分は小袋に分けてあるから」
「…まぁ、食べ物を粗末にしては罰が当たるからな。受け取ってやろう。堤会長に感謝して」
「…俺、メトロなんですけど…でもってそれメトロからの差し入れなんですけど…」
「フン、貴様になど感謝はせん!いやむしろ感謝されるのはコチラだろう?」
「え?」
「貴様は、私にこの菓子を受け取って欲しかったのだろう?喜んだのは貴様だ。だから感謝をするのは貴様の方だ!(ビシッ!)」
「…はぁどうも…なんて言うか今もんのすごいツンデレ見ました…いやマジでマジで…」

 

 

心の芯まで甘くする、そんな素敵なお菓子はいかが?
難しいことみんな忘れて、きっと優しい気持ちになれる。

 

 

「…はぁ、メトロからお菓子、ですか、銀座線?僕たちJRに?」
「そう、上野ではいつも乗り継ぎで頑張っていただいてるし、おすそわけのおすそわけ、になるけど」
「おー!すげぇな宇都宮―!そのチョコ知ってる!こないだテレビでもやってた外国のヤツだ!」
「…キミはこういうことにだけは記憶力が抜群なんだねぇ」
「俺の分!俺の分もとっとけよ!じゃあまた後でな!」

バタバタバタ…

「失礼しました。まったく幼児みたいに騒がしい男でして」
「いーえ、宇都宮線と高崎線。どちらも私にはとても大切な乗り継ぎ先だから」
「それはどうも」
「えっと、それじゃあ…」
「ご好意、ありがたく受け取らせていただきますよ。せっかく大荷物をJR構内までお持ちいただいたのだし」
「ふふ」
「…なんでしょう?」
「いや、最初は“お気持ちだけで結構です”って断られそうな気が…というか断る気満々な態度を見せられたけれど」
「……」
「さっきの彼。彼のおかげで僕は荷物を減らして帰れそうだなって」
「…高崎は、食べ物にうるさいんです。味なんてろくに分かってないくせに」
「ふぅん…では、キミは味が分かる、と」
「あれと一緒にしないでください」
「じゃあ、一口味見をどーぞ」
「……」
「ぜひ、JRの方の感想を聞きたいものだと」
「そんな重荷を背負わないでください、そういうのは上官のところで聞いて──」

パクッ

「──!?──おい…っし…」
「……」
「!?──ゴホン、とても美味しいです、ありがとうございます」
「嬉しいなぁ」
「何がですか?」
「いえいえ、味覚は正直だと思って。JR宇都宮線の、そんな顔が見られるなんて…ね」
「…(ぼそ)これだからイヤなんだよ…」
「何か?」
「いーえ、何も。『高崎がとても楽しみにしているようなので』遠慮なくどっさり置いて行ってください。カバンが軽くなるでしょう?」
「では、お言葉に甘えて♪」
「…え?…本当にそんなに置いて行く気?…いやちょっ…」

 

 

舌に乗せたら蕩けるような至福の甘味。
ふぅっと肩の力を抜いて。口元が自然と綻ぶ。

一口味わえばきっとあなたも──

 

 

「…新青森ねぇ…グランクラスか…ふん。みんな東北、東北ってかしましいことだ。僕のラインにはまぁカンケーないけど」

ガタン

「…?…あれ?…僕の机にこんなお菓子…誰?……ま、いっか。いっただきまーす」

パクッ

「へぇ!こいつは美味い!それにしても一体誰が…高崎かな?あ、いや、今日は終日コッチへ戻らないって言ってたし…東北?…は青森かー。秋田?山形?長野…は、さっきまで一緒だったし…他に大宮でこんなことしそうなヤツっていたっけ…???」

埼京?
京浜東北?
それとも──

「…まさか、ね」

パクッ

「……ふ、甘い。甘くって甘くって……イヤなことも忘れちゃうね」

 

 

 

綺麗な包み紙にくるまれた、甘くて美味しいお菓子はいかが?
一つ口に含んだだけでふわっと心まで蕩けてしまいそうになる。
おなかだけじゃなく、心までじんわりあったかくなる、そんな味わい。

お気に召しましたら、どうぞ。

あなたの大切なひとに。
あなたのお世話になっているひとに。
あなたがいつもつながっているひとに。

一口わけてあげましょう。

そうすれば、あなたのお菓子はきっともっと美味しくなるはず。

 

 

 

「ねぇ銀座、なんかさ、“東京メトロのチョコがすごい美味い”とかって、埼玉方面でもの凄く話題になってるみたいだけど?」
「あはは、あのチョコずいぶん旅しちゃってるみたいだね…まぁ、いいじゃない?それだけ、僕たちメトロの行く先が日本中に広がってる、っていうことなんだから」
「…そうか、そうだな」
「チョコ程度で彼らを東京メトロの傘下におさめたみたいな気分が味わえるんだから、安いものさ、ふふっ♪」
「!?ちょ──!何気に黒い発言やめて銀座──!!!」

 

 

2010/11/22 「擬人化王国4」開催記念を兼ねて。ありがとうございました!
モドル