月刊カノープス通信
2003年12月号

 目次

・季節の便り
・今月の勘違い
・近況報告『自分の脳みそを見た!』
・近況報告『赤痣青痣人生』
・近況報告『パンチ焼き???』
・読書録
(『吹け南の風』『鳥姫伝』『エルフギフト』他)
*
『今月の詩』の連載は終了しました。
今までの詩(26編)は『季節の詩集』としてまとめてあります。




 季節の便り

 犬の散歩道にスミレが何輪か咲いていました。
 11月から12月ごろって、よく、スミレが狂い咲きしますよね。
 ちょうど、スミレの季節である3月4月に気温が近いからでしょうか?

 ところで、今月は、トップページに合せてクリスマス壁紙を貼ってみました。どうせトップページでいったん読み込むんだから、このページでもう一度表示しても時間がかからなくて良いかと思って……。(来月以降にバックナンバー目次から読む人には背景読み込みの時間がかかってしまって悪いかも)
 でも、このゴージャスで神秘的な壁紙、この通信の内容に、すごく不似合いですね……(^_^;)




 今月の勘違い

 毎度おなじみ、あいかわらずのとんちんかん会話集です。

★私:「ジュラシックパークってさ……」
 夫:「えっ? フナ食パン?」

★私:「この間読んだファンタジーの本に出てきたモンスターが、名前を忘れちゃったけど、たしかナントカ・ドラゴンみたいなので……」
  夫:「えっ、ナントカざえもん?」

★私:「そんな相手にはこっちから願い下げだって言ってやれば?」
  夫:「えっ? 口が臭いすぎだ?」

★夫:「あのさ、急ぎの話じゃないんだけど……」
 私:「えっ、兎の話?」

★テレビでシャンプーのコマーシャルが流れていた時の会話。
 テレビ:「コラーゲンの潤いを、髪にも
 私:「えっ、コラーゲンの匂いを髪にも?(どんな匂いだろう……(@_@))」
 夫:「ええっ、ラーメンの匂いを髪にも?」




 近況報告『自分の脳みそを見た!』

 先日、日記にちらっとだけ書きましたが、先日、ちょっと体調を崩しました。
 あ、これも日記に書きましたが、もうなんともありませんので、ご心配なく。
 で、生まれて初めてCTスキャンを取ったり車椅子に乗ったりして、てんやわんやだったので、記念に、ちょっと体験記をば……。(お食事中の人には不向きな表現もあるかもしれませんのでご注意ください)

 症状は、ひどい頭痛と吐き気でした。
 私は普段、とても丈夫(常日頃からアレルギー持ちでへなへなしてるわりには、案外大きな病気はしない質)なので、ちょっとした風邪程度なら医者に行かず、売薬を飲んで家で一日寝て、治してしまいます。
 風邪なんて、医者に行けば治るというものじゃなく、どうせ『たぶん風邪でしょう』といわれて薬をくれて、それを飲んで家で寝るわけだから、だったら一番苦しいときに無理して出歩くだけ損で、最初から市販の風邪薬を飲んで家で寝てるほうが楽じゃないですか。

 でも、この日は、さすがに、まともに起き上がることも出来ずに胃液を吐いて苦しんでいるという、いくらなんでもちょっとひどい状態だったし、数日前から皮膚にアレルギーらしい症状が出ていたことや、他に熱や咳などの風邪の症状も下痢や腹痛などの症状もなくて原因が分からないという不安もあって、たまたま休みで家にいた夫が心配し、ちょうど別件で病院に行く用事があったりもしたので、家で寝ているからいいと言い張る私を説得して、ついでに病院に連れて行ってくれました。
 とにかく苦しくて、起き上がるのも辛かったので、ほんとはあまり行きたくなかったんですが、病院って、そういう、起き上がれないほど具合が悪い時に限って行かなきゃいけない場所なんですよね(ーー;)

 ちなみに、皮膚のアレルギー症状というのは両脚の虫刺され様の発疹でした。
 最初はただの虫刺されと思っていたのですが、どんどんひどくなって、刺されたようになっている箇所以外でも掻いたところが内出血状になったり、昼間はそれほどでもないのが夕方になると脚中腫れあがって全体的に激烈に痒くなるなど、もし最初のきっかけが虫刺されだったとしても、すでに虫さされに対する正常な反応を超えたアレルギー症状が起きていると思われる症状だったので(体質的に、虫刺されで過剰なアレルギー反応を起こすことがよくあるのです)、医者に行った方がいいとは思っていたのですが、面倒なので我慢していたのです。
 だって、いくらひどくなったからって、たかが虫刺されだの痒みだので医者に行くなんて、なんか、ばかみたいな気がするじゃないですか。(以前にも、虫刺されで腕が上がらないほどパンパンに腫れあがって何週間も医者に通い、その後10年以上たっても痕が残っているという経験があるにもかかわらず、ぜんぜん学習していません……(^_^;))

 で、吐いた直後でちょっと楽になったときを見計らって、朦朧としながらなんとか車に乗り込み、町医者に連れて行ってもらい、診察のときに、万が一アレルギー性の全身症状だといけないというのと、そうでなくてもついでに塗り薬が欲しかったので、発疹だらけの脚を見せたら、皮膚をこすってみたり指で押してみたりしたあげく、これは虫刺されではなくアレルギー性の内出血だとのこと。
 で、『アレルギー性紫斑病の疑い』と言われて、紹介状を書くから今すぐK病院の救急外来に行くようにと言われ、そりゃもうびっくり!
 K病院というのは最寄りの総合大病院ですが、日ごろ丈夫な私は、これまで手近な開業医にしかかかったことが無く、今回も、まさかそんなおおごとだとは思っていなかったのです。

 K病院は、車で30分くらいかかるのですが、以前、一度、お産で入院した知人のお見舞いで行ったことがあるので場所は知っていました。
「向うの先生が時間外なのに待っているから、寄り道せずにまっすぐ行くように」と念を押され、せめて夫が待ち時間に読む文庫本とリップクリームを持ってくればよかったと後悔しながら直行。私は助手席で胃液を吐きながら苦しんでました。

 途中でふと心配になって、夫に、
「ねえ、胃液って、吐いたら無くなるの?」と聞くと、
「うん、無くなるよ♪」との返事。
「えっ。無くなったらどうなるの?」と聞くと、吐き気がしても何も出ないので、ものすごく苦しむことになるとのこと。夫は、経験があるそうなのです。そうなったらやだなあ……。

 救急外来に辿りつき、待っていたのは脳外科の先生。
「頭痛とめまいですね?」と言われ、
「いえ、頭痛と吐き気ですが……」
 どうやら話が行き違っていたようです。私は、診察のとき、めまいは訴えなかったのですが、歩くときにふらふらしていたので、めまいがしていると思われたのでしょう。
 でも、まずは一応CTスキャンをということで、またびっくり。CTスキャンなんて初めてです! 私、日頃、いたって健康なので、今までバリウムも飲んだことないんですよ。
 はじめて自分の脳みそを見てしまいましたよ!
 その時はまだ具合が悪かったのでそれどころじゃなかったですが、今にして思えば、面白いものを見ました。
 仰向けに寝ている自分の頭蓋骨の写真を見て、骨ってなんかちょっと可愛いかも……と思った私って異常?
 で、検査結果は、特に異常なし。

 で、その後、点滴(いっても、ただの電解液)しながら採血。
 アレルギーの疑いなら当然血液検査はすると思っていましたが、まさか点滴をすることになるとは……。点滴なんてお産のとき以来です。
 でも、そういえば朝から全く飲まず食わずで胃液を吐いていたので、たしかに点滴が必要だったのかもしれません。もしかすると、水を飲んでみれば飲めたのかも知れなけいけど、身体を起こすのも辛かったし、とにかく苦しかったので物を考える余裕も無くて、水を飲むことを思いつかなかったのです。それに、あの状態では、飲んだらどうせ吐いただろうし……。

 その後、点滴の袋をぶら下げて、なんと車椅子で皮膚科に移動。
 まさか車椅子に乗るなんて思ってもいなかったので、びっくりして、「大丈夫です、歩けます」と言い張ったのですが、「でも、点滴もしてるし……」と言われ、「まあいいじゃないですか、たまには……」と押し切られ、看護婦さんに車椅子を押されて別の棟に向かうことに。

 救急外来の棟を出て一般の棟に行ったら待合室に人が沢山いて、その中を車椅子を押されて歩いていたら恥ずかしくて……。
 いえ、別に車椅子が恥ずかしいものだというわけじゃないんですよ。足が悪かったり、怪我をしてたり、重病人だったりお年寄りだったりする人が乗るのは別にいいんだけど、そんな、ちょっとした頭痛やら吐き気やら虫刺され(?)程度で車椅子に乗っている自分が、なんか軟弱みたいで恥ずかしいのです。

 で、思わず、
(いやぁ、これしきのことで車椅子だなんて、軟弱モノでお恥ずかしい……。大げさでごめんなさい。てへっ)とついつい照れ笑いしそうになるのを、不謹慎だからと我慢して神妙な顔をして、肩身が狭い気分を表現するために肩をすくめて小さくなっていたら、それが傍目にはすご〜く暗い顔で痛々しい様子に見えたらしく、後で夫が言うには、
「あの姿を見た人は、きっとみんな(可愛そうに、あんなにやつれて、あの人はきっともう長くないんだ)と思ったに違いない」だそうです(^_^;)

 その後、横になって点滴をしながら皮膚科と内科の診察を受け、点滴が終わるまで診察室でうとうとしているうちに、家を出たのは朝10時ごろだったのに、すっかり午後も遅くなっていて、点滴以外に治療もしていないのに、かなり気分が良くなっていました。
 なんだ、こんなことならやっぱり家で寝てれば良かった!
 一番辛いときに胃液を吐きながら車で運ばれて、吐き気をこらえながら診察を受けて、診察室で眠っただけで治ってしまったなんて……(^_^;)

 でも、点滴が終わった後、帰り道も車椅子が出てきたところを見ると、やっぱり、治った・元気になったと思っていたのは自分だけで、傍目にはふらふらしていたらしいです。

 そして、朝から病院をはしごして、やっと薬にありついたのは、夕方5時近く。吐き気止めなどを貰ったんですが、吐き気はもう、ほとんど収まっていました(^_^;)
 で、結局、脚のほうはアレルギー性の紫斑だろうということになったけど、頭痛と吐き気は原因は不明のまま。アレルギーと関係あるのかどうかも不明。(頭痛は原因不明ですが、吐き気の原因は、たぶん頭痛だと思います。吐き気だけで、腹痛も下痢も全くなかったから……。あんまり痛いと、吐きません? 吐きますよね? 私だけ? 私はお産のときにも痛みで吐いたんですが……)

 というわけで、いったいあの大騒ぎはなんだったんでしょう(^_^;) 病院二箇所回ってCTスキャンなんか撮って、合計で1万円くらいかかったんですよ。やっぱり家で寝てればよかった〜!!

 でも、これで異常が無かったからそんなことを言ってられるのであって、もしCTスキャンで異常が発見されてたら、(たかをくくらずにちゃんと診察を受けてよかった!)ということになっていたはず。
 翌日一日、熱も無いのにトロトロ眠って過ごしたことからみても、原因は不明だけど、とにかく本当に具合は悪かったらしいし。
 それに、皮膚科で出してもらった薬は、たしかによく効きました。それはもう、劇的に。同じ副腎皮質ホルモン軟膏でも、売薬とは濃度が違うらしいです。
 だから、まあ、とりあえず、医者に行ったのは無駄では無かったのですね。




 近況報告『赤痣青痣人生』


 上の話で書いたとおり、私はアレルギー体質です。
 で、今回に限らず、普段から内出血をしやすいらしいです。
 しょっちゅう、体のどこかに赤痣や青痣があります。
 今回の採血の後も、もちろん、立派な青痣になっています。これは看護婦さんが特にヘタだったわけでなはく、私の体質のせいで、誰がやっても、ほぼ必ず、こうなるのです。

 脚など、ちょっとどこかにぶつけだだけで痣が出来るので、いつのまにか原因に心当たりがない痣が出来ていることも日常茶飯事です。
 なにしろ床に片膝をつく時にちょっと勢いが良すぎただけでも膝に青痣が出来るくらいなので、ちょっとどこかにぶつけて「あ痛っ」と思ってすぐ忘れてしまった時も、しっかり痣になり、あとで、どうしていつのまにかこんなところに痣が出来ているのだろうと首を捻ることになるのです。しかも、人一倍そそっかしいもので、しょっちゅうどこかに身体をぶつけては痣を作っています。
 私の人生、赤痣・青痣が道連れです(^_^;)

 今回はたまたま虫刺されではありませんでしたが、虫刺されの痕も、よく痣のようになります。
 子供の頃から、毎年冬になっても前の夏に蚊に刺された痕が残っていて、(きっと、みんなは蚊に刺されても我慢して掻かないのに私だけ我慢が足りなくてこうなるんだ)と、長年、精神力の足りない自分をふがいなく感じ続けていたものです。
 それが精神力の問題ではなく体質のせいだったのに気づいたのは、大人になってからのことです。

 だから、私の脚は一年中、虫刺されの痕だらけ。真夏でも、長ズボンを脱ぐなら濃い色のストッキングかハイソックスが欠かせません!
 もちろん、虫刺されには人一倍注意して、虫がいそうなところに行く時は夏でも長袖長ズボン、あるいは虫除けスプレーを忘れず、常に蚊に刺された時に付けるための塩を携帯しています(刺されてすぐに刷り込めば、たいていの薬より効きますよ!)。
 それだけ注意しても、まず、生脚ファッションは無理です(T-T)
 今回の内出血も、絶対に、次の夏まで痕が残るでしょう。ああ、来年の夏も、ストッキングは嫌いなのに生脚では過ごせない……(T-T)

 こんな私が、たまたま家の中で階段から転落死したりしたら、きっと、夫のDV殺人と疑われてしまいます!
 そうだ、そういう場合は、この文章を、証拠にとして警察に見せてもらおう。



 近況報告『パンチ焼き???』

 私は、大型スーパーのファーストフードコーナー内のクレープ屋でパートしています。
 先日、一人のおばあちゃんが来店し、うちと、向かいのラーメン屋のあいだを言ったり来たりして、ケースの中のサンプルや貼り出してあるメニューを散々眺めて迷った挙句、うちの店のほうに来てくれました。

 で、コーヒーバーの看板を指差しながら、
「この、『コーヒーバーガー』っていうのは、ここでいいんですかね?」というのです。
「はい、コーヒーバーですね。○○円です」とさりげなく言い直しましたが、おばあちゃんは、まだ、
「そうそう、コーヒーバーガーね」と言っています(^_^;)
 目の前にコーヒーを出すまで、(もしかして、『これはバーガーじゃないじゃないか。コーヒー味のハンバーガーのことだと思って注文したのに』とか言われたらどうしよう』と、ちょっとだけはらはらしていましたが(会計の済んだ注文を取り消す手続きは、けっこう面倒なのです)、どうやら本当にコーヒーが飲みたかったようで、ほっとしました。

 で、おばあちゃん、今度は食べ物を食べたくなったらしく、
「あと、こういう(と、手で丸を作って見せながら)、パンチ焼きみたいなのはないですか?」と。
 パ、パンチ焼き……?(((゚□゚;))) それはいったいどういう食べ物でしょう。
 おばあちゃんが手で作って見せた円からして、丸いものらしいです。そして、ハンバーガーよりは大きいもののようです。まさか、ピザのことでしょうか? いや、そんな、まさか……。
 それとも、地方色によっていろんな呼び名を持っているらしい今川焼きのこと?

 以前、隣に、今川焼きの店があったのです。
 で、その店の今川焼きは、お年寄りには根強い人気があったらしく、その店が撤退してから既に何年も経つのに、いまだにうちの店に『今川焼きはやめたのか』などと聞いてくるお年寄りが後を絶たないのです。ただ場所が隣だというだけで、どう見てもぜんぜん違う店なのに、鉄板があるからでしょうか……。
 で、そのお年寄りたちが、今川焼きのことを呼ぶ呼び名が、実にバラエティに富んでいるのです。
 『大判焼き』は知っていましたが、『おやき』『回転焼き』『自慢焼き』『甘太郎』『太鼓焼き』などなど。
(ちなみに、なぜか、その店は、店名は『大判』なのに売り物は『今川焼き』と称していました)

 そんなわけで、もしかしたら今川焼きのことかもしれないと思いながら、しかたがないので、
「すみません、当店ではクレープしか扱っていないのですが……」と、クレープのメニューを見せ、
「これはどういうものなの?」というおばあちゃんの質問に、
「えっと、薄く焼いた皮をこういう風に細長く巻いてあって、中にこういう具が……」と身振り手振りつきで説明。
 おばあちゃん、どこまで分かってくれたものか、しばらく迷ってから『イチゴチョコ』クレープを選んでくれました。
 で、これも、実際に現物を受け取ってもらうまで、『もっと違うものだと思ってた』と言われるのではないかと、ちょっと不安だったのですが、ちゃんと受け取ってくれました。ああ、よかった。

 この方に限らず、クレープがどういう食べ物か知らないままに注文してくれるお年寄りって、たまにいるのです。
 で、中には、「こういうの、初めて食べたんだけど美味しかったわv」などと言ってくれる人もいて、そういう時はとても嬉しいのですが、中には、注文してみたものの想像と違ったものだったので困ってしまう人とか、幼児やお年寄りにとってはあの皮は意外と噛み切りにくいものらしいので、うまく食べられなくて残してしまう人もいるのです。
 だから、 その後も、席についたおばあちゃんが本当にクレープを食べてくれるかどうか心配で、ちらちら見ていたところ、ちゃんと全部たべてくれてました\(^o^)/ お口にあったようで幸いですv

 後で、別のパートの人に、この話をしたら、『パンチ焼き』とは、お好み焼きのことだそうです。一般にそういうのかどうかは知りませんが、あのおばあちゃんは、そのパートさんが前に勤めていた別の店に、いつも『パンチ焼き』といってお好み焼きを買いに来てくれていた人だったそうなのです。今川焼きじゃなかったんだ……(@_@)
 お好み焼きが食べたかったのに、軽食系のクレープじゃなくイチゴチョコで、ほんとによかったのでしょうか……。


 読書録

(注・この読書録は、あくまで私の備忘録・個人的な感想文であって、その本を未読の人にマジメに紹介しようという気は、ほとんどありません(^^ゞ (……たまに、少しだけ、あります)。 ただ、自分の記録のためと、あとは、たまたま同じ本を読んだことのある人と感想を語り合いたくてアップしているものなので、本の内容紹介はほとんど無いことが多く、ものによってはネタバレもバリバリです。あまり問題がありそうな場合は、そのつど警告するか、伏字にしています。)

『吹け南の風3 開戦への序曲』(秋山完 朝日ソノラマ文庫)
 
 しばらく前に読書録で、この作者さんの作品は一作ごとにどんどん長くなる……と書いた気がするんですが、全くその通りでした! このシリーズの中だけでも、一巻、二巻、三巻と、後に行くにしたがってどんどん厚くなってる!

 しかも、サブタイトルが『開戦への序曲』! 三巻かけてやっと序曲ですよ、序曲。タイトルだけでなく、実際に、三巻のラストで『ついに開戦!』なのです。
 きっと、(もしちゃんとこれが売れてれば、)まだまだ別シリーズが続くんですね。

 夫がこの本の第一巻を読んで「話の本筋がなかなか始まらない……」と文句を言っており、その時、私は、「なんで? もう始まってるじゃん。彼にとってはどういうのが『始まってる』状態なの? 私にはこれはもう始まってる状態に見えるんだけど……」と思っていたのですが、どうやら、夫が正解だったようです。私が、『もう始まっている、話の本筋』だと思っていたのは、プロローグにすぎない部分だったようです(^_^;)

 というわけで、三巻目を読み終わっての感想は、『面白かったけど、長かった……』でした(^_^;)

 確かに、どこをとってもちゃんと面白いんですよ。
 エピソードがとにかく多岐に渡って、話の枝葉が非常に繁茂しているのですが、ひとつひとつのエピソードは、どれも確かに面白く、感動的だったり、痛快だったり、はらはらどきどきしたりと、カットするには惜しい、美味しいものばかり。
 しかも、この方の場合、短編長編合わせたほぼすべての作品がすべて一つの世界の年代記の一部になっていて、あらゆるエピソードが、一見単発ネタに見えても、後で他のエピソードと有機的に関連してきたりする。
 細かいエピソードが、どれも孤立することなく、世界を織り上げているのです。すごいです。
 そして、SF的な薀蓄や、随所にちりばめられた細かいパロディも、みんないちいち面白く、楽しめる。

 でも、全体として、読んでいてなかなか進まないのも確かなんです(^_^;)
 図書館の返却期限が迫ってなくて、時間が有り余ってるときなら、ページの進みが遅いのなんか気にせずに、ゆったり楽しめたのかもしれませんが……。
 こういうのにゆったりどっぷり浸るのも、時間にゆとりのある方には最高の楽しみかもしれません。

 ところで、ちょっとネタバレなんですけど、私、ジルーネがリリエットさんに発泡水を勧めた時、てっきりリリエットさんは消されるのかと思いましたよ。でも、そうじゃなかったんですね。深読みのしすぎでした。
 で、その後、ジルーネがリリエットさんにみんなの前で花を持たせたので、今度こそ、その後で消されるのかと思いましたよ。すべてを彼女の手柄ということにして人前で花を持たせたということは、責任を押し付けたということですからね。
 でも、まだ消されませんでしたね。まあ、まだ使えますしね。まだ、消す必要は無いですね。でも、いざそれが必要になった時に全責任をおっかぶせて消すための下準備は整ってますね。
 というわけで、私の予想。
 リリエットさんはそのうちジルーネに消される(ただし、消す必要が生じた場合。必要が生じなければ、消さずに有効利用する)。だって、私がジルーネなら、消しますもん、リリエットさん。


『鳥姫伝』 (バリー・ヒューガート 早川文庫)

 アメリカ人の著者が、空想上の唐代中国を舞台に、白髪3千丈式の誇張やレトリックを駆使して描いたファンタジー。世界幻想文学大賞の受賞作だそうです。
 愉快痛快、奇想天外、民話的なおおらかさ、人を食ったようなユーモア、そして、西洋人の妄想の中の『なんちゃって中国』のいかしたトンデモぶりが、なんとも楽しいです(といっても、私には、どのヘンまでが現実にも有り得たことでどこからが違うのか、よく分かりませんが(^_^;))。
 これは、きっと、わざと史実を無視して『昔の西洋人が夢見た東洋のワンダーランド・中国』(ある意味、異世界)を意図的に再現したのでしょうね。東洋趣味のおもちゃ箱をひっくり返した、まさにおとぎの国です。

 ファンタジーとか幻想文学とかいっても、いろいろタイプがありますが、これは、民話的なホラ話という趣です。実際、民話のモチーフがそのまま生かされて、効果を上げています。
 飄々とした李老師、実直純朴一辺倒と見えてけっこうちゃっかりものの十牛君、民話の登場人物そのものの戯画的な小悪党たち、学者肌の好人物ホウ恐妻(『ぶった、ぶった、ぶった切れ!』の名セリフが忘れられません!)など、多彩なキャラクターも魅力的。

 でも、これ、訳者は大変だっただろうなあ……。英語で書かれた物語の中の中国語の固有名詞(しかも、必ずしも正確な、きちんとしたものじゃなく、かなりテキトーな)を、さらに日本語に訳したり……。
 中に出てくる漢詩風の詩なんかも、当然、元は英語の詩だったはずと思いますが、それを、普通の日本語ではなく、ちゃんと漢詩の翻訳風に訳したり。
 書いた人もすごいけど、訳した人もすごい!

 ところで、この本、すごく面白かったのに、実は、一度は最初の数ページで挫折しかけたのでした。
 冒頭に語られる『うじ虫』マーと質屋のファンとそのどちらかの奥さんの話の、人間関係が掴めず、いきさつがよくわからなくて。
 中国ものは人名が覚えられないから苦手という自覚があったので、(まだほんのプロローグでキャラも三人しか出てきていないのに、もう人間関係が分からなくなっちゃった、これはダメだ……)と。
 たしかに、レトリックを駆使した語り口が、たまにちょっと、分かりにくいことがあるんです。
 でも、ここで諦めなくて良かったです。というのは、ファン(またはマー)の奥さんの件は、話の本筋にはあまり関係なく、いきさつが分からないままでもまったく差し支えないことだったらしいのです。
 冒頭からさっそく分からないようじゃ、もうダメだ……と、一瞬諦めかけたけど、読み進めてみてよかった!

 ちなみに、この本、既に二冊目が出版されてて、全部で三冊のシリーズだそうです。


『エルフギフト 上・下』 (スーザン・プライス ポプラ社)

 これはまた、すごい作品でした。ずっしりした手触りで、何やら並々ならぬパワーがあります。
 同じファンタジーでも、『鳥姫伝』が民話なら、これは、神話。混沌とした原初的な力に満ちた物語です。
 歴史ファンタジー的な現実的な王権争いの物語と、その世界の裏側に平行して在る神話の世界が、二本の糸を拠り合わせるように、裏になり表になり、くっついたり離れたりしながら、一つの織物を織り出していきます。その、現実的な部分と神話的な部分、どちらもすごい存在感なのです。
 
 最初のうちは、神話的な要素、超自然的な要素はあっても、主に、現実的な生活・政治の世界が描かれます。生活などは非常に泥臭く、リアルです。
 それが途中から、主人公のエルフギフトだけ神話の世界に行ってしまい、そのエルフギフトが表の現実の世界に戻ってきたとき、一緒に神話が『現実』の中に持ち込まれたようになり、しだいに神話が『現実』を覆いはじめます。
 神々が人間に混じって地上を闊歩しはじめ、もともとエルフと人間のハーフとして二つの世界にまたがった存在だったエルフギフトはどんどん神話の登場人物に近づき始め、装った狂気と本物の狂気の境界、生と死の境界が徐々に崩壊していくのです。

 この辺から、ちょっとネタバレかも。あまり具体的じゃないから大丈夫だとは思うんですけど、これからエルフギフトを読む予定のある人でネタバレが特に大嫌いな人はご注意ください。一応、伏字にしておきます。反転してお読みください。

 そして、下巻後半のクライマックス、ユルの祭りの場面では、大地に開いた穴から『神話』が一挙に『現実』世界に噴き出してきて、『現実』世界を神話の世界に作り変えてしまいます。
 そこでは、忘れられた兄弟神が墓場で踊り、死んだ人も生き返り、死者と生者が手を携えあって行進し、並んで宴席につくのです。
 (日本で言えばお盆、現代西洋で言えばハロウィーンみたいなものですね。墓場に死者を迎えに行くとか、死者のために咳を用意して食事を備えるとか、お盆を髣髴とさせる行事です)
 はっきりいって、ラストなんか、なにがどうなって話が終わったのか良く分からないのですが(^_^;)、その頃にはもう、物語の裏側からあふれ出してきた神話的混沌と、物語世界の中での表面的な『現実』が混沌と交じり合って線引きできないような状態になっているので、なにがなんだかうやむやのうちに納得させられてしまいます。
 結局、物語の中の『現実』世界が祭りの後でどうなったのか、王権の行方はどうなるのか、いまいちよくわからないのですが、とりあえず、『祭りは終わった』ということだけは分かり、それで、物語は終わったんだなあと納得できてしまうのです。

 でも、結局、誰が次の王様になるんでしょうね? ゴッドウィンでしょうか? で、デーン人との戦争は、どうなったんでしょうね? アンウィンが死んだから終わりなんでしょうか?
 きっと、一夜の狂乱の祭りの後で、世界は夢から覚めたように徐々に秩序を取り戻し、歴史は、キリスト教の支配に向かって動いていくことになるのでしょうね……。


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