月刊カノープス通信
2003年8月号−2

目次
・季節の便り
・今月の勘違い
・近況報告『東急文化会館を偲ぶ(T-T)』
・近況報告『犬猫三昧』
・読書録
(今月は『砂王の覇王7〜9』『手塚治虫COVER』他です)




季節の便り ・今年も竹切りの日々

 去年の7月の『月刊カノープス通信』にも書きましたが、例年、梅雨時には、我が家の庭に接する傾斜面に竹が生えます。
 普通、タケノコは春先のものですが、どうやら、うちの竹やぶのは、竹の種類が違うらしくて、タケノコが出る季節も違うのです(ちなみに、このタケノコ、えぐ味が強くて食べられないのです!)。
 今年は、梅雨明けが遅いせいか、8月を迎えようとしている今になってもタケノコの発生が止まりません。

 そんなわけで、今年もまた、竹切りの日々。
 タケノコが伸びすぎて青竹になってしまったのを、鎌で切るのです。
 シーズン中は数日おきにこれをやらないと、竹がどんどん庭のほうに進出してきて、そのうち庭が竹林になってしまいかねないのです。それどころか、床下から竹が生えかねないのです。

 竹も、まだ半分タケノコなうちは見かけによらずやわらかいので簡単に切れますが、ちょっとうっかりして育ちすぎてしまうと硬くなって、草刈用の華奢な鎌で無理やり切りつけると鎌が痛むようになります。刃こぼれするだけでなく、無理な力を加えるので刃が曲がってしまったりするし、たいていは、それ以前に、刃と柄の接合部が壊れて、ぶらぶらになり、使えなくなってしまいます。
 で、毎年、このシーズンには、私は何本も鎌を駄目にします。貧乏なのに……(^_^;)

 今年の鎌は、安物ながら運良く接合部が丈夫だったので、ぐらぐらにならなかったかわりに、おもいっきり刃がねじれました(^_^;)
 捻じ曲がっただけなら、向きに気をつければ今後も使えないことも無いので、助かりました。

 本当は、育って竹になってしまったタケノコは、鎌ではなくノコギリで切るべきなのでしょうが、私はノコギリはまどろっこしくて好きでないのです。鎌でスパッとやるのが好きなんです!
 そんなわがままで、毎年鎌を何本も駄目にするなんて……(^^ゞ

 でも、どうしても鎌では無理な時は、諦めてノコギリも使います。
 たまには、ノコギリで、竹だけでなく、木も切ります。
 去年は、二階の屋根まで届くくらいの木を、がんばって一人でノコギリで切り倒しました。そしたら、家のほうに木が倒れて、二階のベランダの柵にぶつかってしまいました。ベランダ側の窓ガラスが割れるかと思って一瞬慌てましたが、なんとか無事でした。

 ガーデニングブームの昨今ですが、こんなワイルドな庭仕事をしている奥様って、たぶん、珍しいのでは……?(^_^;)
 こんなの、ガーデニングとか園芸とかいうものじゃないですよね(^_^;)



 今月の勘違い

★外出先で知人に会った夫が、相手が体調が悪いらしく顔がむくんでいたと話してくれました。
 で、そのあとに続けた言葉が、
タケノコ水煮だと、ああいう顔になるけど……」
 ……えっ、タケノコの水煮? タケノコは水煮で食べると顔がむくむのでしょうか?
 ちょっと本気で考え込んでいたら、実は、『酒の飲みすぎだと……』の聞き間違いでした。

★夫がペットボトルのお茶を買ってきたときの会話です。
夫:「これ、『純そば茶』だって」
私:「えっ? 『ヤキソバ茶』!?」
息子:「えっ、『ジュース馬鹿』?」

★夫が息子に靴をかってやりました。
 で、夫が報告して言うことには、
「健太郎にラテン系の靴買っちゃったよ」
 えっ、ラテン系の靴? それって、どんな靴? 派手な原色の靴とか、何やらフリンジなどの楽しげな飾りが付いてるとか? ……と、本気で想像していたら、夫が取り出して見せた靴は、ただの白い運動靴でした。
 実は、その靴は、量販店の外のワゴンに積んであった安売りの大人用作業靴で、地下足袋がわりというコンセプトのものらしく、夫は、肉体労働の人がはくような靴という意味で『ガテン系の靴』と言ったのでした。

★夫と、渋谷の東急文化会館がつぶれた話をしていたら、それを小耳に挟んだ息子が、突然、慌てた様子で口を出してきました。
「えっ、それって、『あさひがり』のところ? じゃあ、もう行かれないの!?」
 一瞬、何のことかわかりませんでしたが、そういえば、息子は、小さい頃から『潮干狩り』のことを『あさひがり』と呼び間違えていえました。
 でも、なぜ、東急文化会館を潮干狩り場と間違えたのでしょう。
 不思議に思って聞いてみると、
「だって、『かいがん』って言ってたから……」
 『東急文化海岸』という名前の潮干狩り場だと思ったらしいです。



 近況報告・東急文化会館を偲ぶ(T-T)

 
 上で勘違いネタにしたので思い出したのですが、先ごろ閉鎖された渋谷の東急文化会館は、私にとって、けっこう思い出深い場所だったりします。
 高校生の頃、家も学校も東急沿線で、渋谷に近かったので、映画はたいていあそこで見たものです。映画館の他にレコード屋(CD屋じゃなくて『レコード』屋!)や本屋など私に必要な娯楽は大体揃っており、たしか小さなアニメショップもあったし、一足早く閉館してしまった屋上のプラネタリウムも、実際に行った回数は数えるほどだけど、そこに存在してくれているだけで嬉しいものでした。

 ひざの抜けたジーパンにダサダサのトレーナー、みたいな格好で一人で渋谷に行き、東急文化会館で映画を見て、本とレコードを買って(または眺めて)、帰りがけにはディスカウントの一風堂で安いカセットテープ(時代を感じますね……)をまとめ買い。資金に余裕のある日は道玄坂の喫茶店サンエトワールでチョコレートパフェ。それが私の渋谷フルコースでしたっけ(洋服やファッション小物には興味なし(^^ゞ)。懐かしや……。道玄坂のサンエトワールって、まだあるのでしょうか?

 あまり(というかぜんぜん)人並の女子高生をやっていなかった私ですが(一人で渋谷を徘徊してたことからして普通じゃなかった)、それなりに、渋谷は青春の思い出の街だったようです。
 だから、東急文化会館が無くなったと聞いたときは、ちょっと寂しかったのでした。



 近況報告・犬猫三昧

 なんか、ここ数ヶ月、猫の話ばかりしていますが……。今月も犬猫話です。

 まずは、猫。
 日記の方ではこのあいだから散々書いているのですが、7月頭に、夫が、捨て猫を6匹拾ってきまして。
 目が開いたばかりの仔猫です。推定、生後二週間。手乗りサイズの、まだ耳も小さくて丸くて頭の横にへばりついている、ネズミみたいなヤツ。
 事情があって、うちでは、もう、これ以上、猫を飼えないのですが、里親を探すにしても、離乳してからでないと話になりません。仕方なく、猫用粉ミルクで育てました。6匹もいるので、ミルク代が1万円くらいかかってしまいました(T-T) 数が多いと、ミルクも排泄も時間がかかって大変!

 でも、苦労の甲斐あって、猫たちはみなすくすくと育ち、そろそろ離乳です。トイレも自分で出来るようになりました。片手に乗っちゃうネズミ・サイズから、両手に余る大きさになり、耳も三角に立ってきて、赤ちゃん時代はみんな青っぽい目も徐々にそれぞれの本来の色に変わってきつつあります。
 固まりあってもじょもじょうごめいてるだけだったのが、元気にじゃれあったり走り回るようになり、なすがままだったのが、自分から甘えて寄りついてくるようになって、かわいい盛りですv

 動きが活発になりすぎて今までケージ代わりにしていた古いベビーベッド(通称『猫の国』)の柵を飛び越えて出てしまうようになったので、昨日、夫が、ベビーベッドの中板を取り外して柵を伸張し(もともとそうやってベビーサークルに変形させられるベッドだったのです)、約4メートル四方の専用飼育コーナーを作りました。
 もう使わなくなったベビーベッド、捨てるのが面倒で出しっぱなしにしてあってよかった!
(いつも思うんですが、一年間使わなかったものは捨てていいなんて嘘ですよ! 何でも取って置けば、いつか何かの役に立つ!……なんて言っているから我が家はどんどん散らかっていくんですが……(^^ゞ)

 ベビーベッドの『猫の国』には、人間は入れなくて、上から見下ろしたり手を差し出すだけだったけど、今度の、ベビーサークル利用の運動場には、人間も体ごと入れます。
 中に入ると、6匹の仔猫が、いっせいにごろごろ喉を鳴らしながらわらわらと駆け寄ってきて、先を争って足にしがみ付きます!
 目が開いた直後から人の手で育てた仔猫なので、とっても慣れてます。甘えん坊です。
 座ると、我勝ちに押しのけあって膝に上がってきます! 我こそは撫でてもらおうと伸び上がって、ミーミーとかわいい声で鳴きながら、小首をかしげて、まあるい瞳で見上げてきます。

 小さくてあったかいふわふわの仔猫がうじゃうじゃ、よりどりみどり、さわり放題、撫で放題。うわあ、ここは猫好きのパラダイスだ〜!(背中によじ登られると爪がちょっと痛いけど^_^;)

 だから、このサークル、名づけて『仔猫天国』(^^ゞ またの名を、『仔猫ふれ合いコーナー』。

 赤ちゃん猫の育児は大変だけど、かわいいから報われます。
 それにしても、猫でも人でも、育っていく過程って似通っていますね。ただ、仔猫の場合、その成長が、人間の赤ちゃんの10倍速くらい(?)なので、大変なのも短い間です。
 大変な間は早く大きくなって手が離れて欲しいと思うのに、いざ離乳・断乳になると一抹の寂しさがあるのも同じこと。もうお皿からでもミルクを飲めるのに、どうせ調乳に哺乳瓶を使うからと、ついでにそのまま哺乳瓶でミルクをやって、ミルクを飲むかわいい姿を鑑賞してしまったりしてv

 というわけで、現在、我が家には、元から居る老猫とあわせて、猫が7匹。仔猫5匹の里親、募集中!


 そして、話は変わって、犬。
 猫の育児にてんやわんや、てんてこまいの一ヶ月だったというのに、なぜか、私、おせっかいにも、よその犬の散歩にまで手を出していました(^_^;)
 息子の友達である近所の子供の犬なんですが、その子が、うちの犬の散歩について来るのに、気まぐれを起こして自分ちの犬も連れてきたのがきっかけで、その犬は普段全く散歩に連れて行ってもらっていないということが判明し、放って置けなくて。

 散歩に行っていなくても、家の中で放し飼いとか、広いケージで放し飼いとか、繋いでおくにしても、ロープなどを張り渡したところに紐を通してある程度走り回れるようになっているならともかく、聞きただしてみたら、普通の短い紐で繋ぎっぱなしなんだそうなんです。

 で、それはあまりにかわいそうだから、うちの犬の散歩に行くときに一緒に散歩に誘うことにしました。
 その家の親に意見するわけにもいかないけど、それなら子供を誘えばいいんです。

 子供が犬の散歩を嫌がるのは、犬が言うことを聞かずにリードを引っ張るからなので、言うことを聞くようになれば愛着も湧いて散歩につれていく気になるかと、まずはリードの持ち方から教え、空き地についたらご褒美用のジャーキーを子供に渡して、犬のしつけ教室(?)です。
 犬が私の言うことをきくようにするのが目的ではなく、飼い主である子供に従うようにするのが目的なので、子供にしつけのし方を説明して自分で訓練させたのです。

 しつけも全くされていないらしいですが、もともとわりとおとなしい犬で、頭もよいらしく、5分ほどでお座りを覚えました。もしかすると、お座りは、昔、一応、教わっていたのかもしれません。
 子供も、犬がだんだん自分の言うことを聞くようになるのはやはり嬉しいようで、熱心に取り組んでいました。

 ただ、このワンちゃん、飛びつき癖があるので、私、飛びつこうとした犬に、遠慮なく膝蹴りを入れてしまいました。犬と私の身長差がちょうどよかったので、正面から飛びつこうとした犬の胸に見事に膝蹴りが入って、犬はびっくりしてキャンキャン。
 私ったら、よそ様の犬になんてことを……(^^ゞ それも、一度ならず二度までも……。
 でも、飛びつき癖のある犬は、嫌われて、構ってもらえなくて、散歩に連れて行ってもらえなかったりして、自分が不幸じゃないですか。何回か蹴りを入れれば飛びつき癖が直るんだったら直してやった方が本人(本犬?)のためじゃないですか。全く悪いと思っていません。確信犯です。

 そして、よそ様の犬に躊躇無く蹴りを入れているばかりでなく、子供のほうも躊躇無く怒鳴ってます。
「ほら、そこでご褒美をやる! 違う、違う、座ったらすぐにやるの! で、餌をやるだけでなく、そこで褒めながら撫でる! ほら、今すぐ撫でる!」とか(^^ゞ ……『よく出来ました』の特訓?

 こうやってよその子供でも平気で怒鳴り飛ばすから、私、一時期、近所の人の一部から、すごく子沢山のお母さんだと思われていたらしいです。自分ちの子もよその子も分け隔てなく人前で怒鳴り飛ばしてるから……(^^ゞ
「違うんです、うちの子供は二人だけです。あとはよその子です」なんて、何人もに説明しましたっけ。
 今回も、うちの子2人と、犬の飼い主である子のほかに、たまたま一緒に遊んでいた関係ない子供も付いてきて、犬二匹と小学生4人を引き連れて散歩していたから、また、通りすがりの誰かに子沢山母さんだと思われたかもしれません(^_^;)

 それにしても、やっぱり、子供が犬の相手をしているところを見ると、なぜ犬が子供の言うことを聞かないのか、わかりますね。見ていると、どうやら、ただ小さくて力が無いから馬鹿にされるだけじゃなく、子供は犬に適切な指示を与えたりタイミングよく叱ったり褒めたりが出来ないから言うことを聞いてもらえないらしいです。
 その子だけじゃなく、うちの子もそうなんですが、見ていて、褒めるタイミングとか、指示の与え方とか、ぜんぜんダメですもん。毅然とすることと威張ること、明確に指示を出すことと怒鳴ることの差が分かってないのです。
 犬が言うことを聞かないのには、ちゃんとわけがあるのですね。

 たぶん、うちの犬が、私の言うことより夫の言うことの方をよく聞くのも、体格・腕力・迫力の差だけでなく、接し方の技術にも差があるんでしょう。私もまだまだ至らない飼い主です。

 よく、自分ちの犬のことを、馬鹿犬だから駄目だ、みたいに言う人が居ますが、それは、犬がバカなんじゃなく、飼い主のほうが主人として至らない場合も多いんじゃないかと思います。犬を適切にしつけてあげることが出来ない飼い主が、飼い主として未熟なんだと。本当は、ダメ犬の飼い主は、犬をけなすのではなく、わが身を省みるべきなんじゃないかなと。

 かくいう私も、子供の頃、実家で飼っていた犬には何も適切なしつけをせずにいて、うちの犬は馬鹿犬だなどと言っていました。私だけじゃなく、一家の誰も、犬をちゃんとしつける方法を知らなかったのですが、今にして思えば、あの犬には悪いことをしました。
 でも、かわいがってたんですけどね。私の子供の頃のアルバム、自分の写真はあんまり無くて、ほとんど一冊丸ごと、自分で撮った飼い犬の写真ばかりですもん(^_^;)
 私の子供時代のアルバムだよと言って人に見せたものが、ページをめくってもめくっても犬ばかりで人間の子供が写っていないんじゃ、冬木は子供の頃は犬だったのかと思われちゃう!(そんなバカな^_^;)

 話がそれましたが、というわけで、よその子供の犬への接し方を見て、改めてわが身を反省しました。
 私はまだまだ未熟な飼い主です。至らない飼い主で、犬に申し訳ない。修行せねば。



 読書録

(注・この読書録は、あくまで私の備忘録・個人的な感想文であって、その本を未読の人にマジメに紹介しようという気は、ほとんどありません(^^ゞ (……たまに、少しだけ、あります)。 ただ、自分の記録のためと、あとは、たまたま同じ本を読んだことのある人と感想を語り合いたくてアップしているものなので、本の内容紹介はほとんど無いことが多く、ものによってはネタバレもバリバリです。あまり問題がありそうな場合は、そのつど警告するか、伏字にしています。)

 先月は、読んだ本をメモしておかずに図書館に返してしまったので、何を読んだか忘れてしまいました……(^_^;)
 覚えているものだけ感想を書いておきます。

『手塚治虫COVER・エロス編・タナトス編』  (徳間デュアル文庫)
 手塚治虫作品の数々を、いろんな作家がカバーした短編集。
 ノヴェライズじゃなくて、手塚作品をモチーフにしたオリジナル作品のテーマ競作と言う感じで、けっこう読み応えがありました。
 ものによっては、例えば『アトム』や『三つ目が通る』みたいな一話完結型のものでは、その中の一話みたいな感じで普通にアトムなどのお話をやっていたり、また、ものによっては、手塚作品をモチーフとした変奏曲と言う感じだったり、手塚作品を小道具に使ったオリジナルという感じだったりとバラエティに富んでいて、それぞれにその作家らしい作風で、楽しめました。

 ただ、『魔人ガロン』と『ビッグX』が似たような設定の話になっちゃったのが、ほんのちょっと残念。
 きっと、それぞれ別々に書いて持ち寄ったら、偶然、そうなっちゃってたんでしょうね。
 両方、手塚漫画のキャラが今では年をとってボケ老人になって入院していて、病院から抜け出して、もとの世界を幻視する――みたいな、神経症系の暗〜い話でした。


『流血女神伝 砂の覇王 7・8・9』 須賀しのぶ (集英社コバルト文庫)
 ネタバレです。未読の方はご注意を。それ以前に、未読の人には意味不明だと思いますが……(はっきりいって、ただの独り言です^_^;)
 
 小説の感想じゃないんですが、7巻の表紙の『オロキ鳥』、あれはどう見ても『トリさん』だ! 『トリさん』と言う種類の鳥類だ!
 やっぱり、海賊船には『トリさん』が付きものなのね。
(ちなみに、ご存じない方のために説明しますと、『トリさん』というのは、『キャプテンハーロック』をはじめ、多くの松本零士作品に登場する、凶暴な性格のでっかい黒い鳥です。首の長い、海鳥っぽい鳥で、見た目的に一番近いのは『鵜』かな? ……と書いていると、オロキ鳥のモデルはトリさんのような気がしてきました)

 7巻では、ドミトリアスがカリエに説教したりして、『お兄ちゃん』の本領発揮!
 彼が『お兄ちゃん』なのは、四皇子の長男だからとか、カリエの心の兄上だからというだけでなく、もし弟妹がいなくても、キャラ属性そのものが『お兄ちゃん』なんですよね。

 8巻では、カリエとサルベーンが、あんなことに……( ̄□ ̄;
 しかも、あんなに憧れてたのに、どうでもよくなったとたんに。
 ちょっと前だったら、よかったね、だったのにね。

 そして、ドーン兄上は、やっぱり、あんなことに……。
 とうとう、国を救うために、あえて、後世の歴史家から『時代に逆行する暴君』と呼ばれる覚悟を固めてしまいましたね。
 彼はこれから、どんな苦労をするんでしょうか。どんなふうに破滅していくのでしょうか(破滅するとは限らないけど、破滅する方が萌え!)
 とにかく、ああいう人は、苦悩することになるに決まってるんですよ。『お兄ちゃん』属性の人には、苦労がついてまわるんですよ。

 そして、8巻ラストでの、カリエの決断。
 カリエ、いつのまにそんなにバルアンが好きになってたんだ〜(・。・;
 カリエの男の趣味って、よくわからないなあ……。
 サルベーンはまあ、美形だし、人当たりいいし、山出しの小娘がぽーっとなるのも無理ないけど、一転してバルアンだなんて、また、一貫性の無い……。
 まあ、とりあえず年上好みらしいけど、でも、考えてみれば、同年代またはそれ以下の男の子ってミュカしか出てこなくて、あとはみんなかなり年上ばかりだから、そういう点での選択の余地は無いのか。
 それにしたって、ドミトリアスだってミュカだってエドだって、それぞれみんないい男なのに。……なのに、なんで、よりによってバルアン?

 いや、別に、私、バルアンが嫌いなわけじゃないんですけどね。
 でも、オトメのロマンスのお相手としては、ちょっと対象外のような気が……。

 よく考えてみれば、このシリーズ、恋愛方面に対して、少女小説にあるまじき淡白さかも(^_^;)
 普通、少女小説だったら、もっとトキメキを重視すると思うんですが、あまりにもそういう方面があっさりしてる。
 たとえエッチまでしたって、ぜんぜん愛とか恋とかいう話にならないのがすごいですよね。
 カリエがバルアンを選んだのも、恋愛感情と言うより、覇者としてのバルアンに魅せられてバルアン陣営に付く決心を固め、運命共同体となることを選んだという感じが強いし、そういえば、全体に、恋愛至上主義的な甘さがないような気がしました。

 そして、9巻。表紙のシャイハンは怪しすぎ(^_^;) いい人なのにね……(^_^;)
 シャイハンとバルアンとカリエの三角関係って、シャイハンがもうちょっとかっこよければ、すごくロマンチックだったかもしれないのに。
 いくら満月のせいだとは言え、あんなみょうちきりんなオヤジにカリエが一瞬でもよろめきかけるなんて、信じらんない!
 私、あの挿絵、嫌いなわけじゃないんですが。すごくいいと思うんですが。でも、あのシャイハンは、怪しすぎ(^_^;)

 シャイハンは、最初は噂話でけなされるだけのキャラだったのに、あとであんなに重要になるキャラだったんですね。イラストでは顔が思いっきり怪しいけど、なかなか奥行きのある、いいキャラだったと思います。
 ただイイヒトなだけじゃない、かといって悪人というわけでもない。理想もあれば苦悩もする。多面性があるけど、底流となる部分は一貫してる。
 普通、人間って、そうじゃないですか。
 でも、そういう立体的な人間像をお話の中で描くのって、きっと難しいと思うんです。

 私、この作者の、人間とか歴史とか世の中に対する眼差しには、すごく共感できる気がします。
 シャイハンといい、ドミトリアスと言い、歴史の中の人間というものへの視点が一貫していて、それが架空の世界にリアリティと立体感を与えて、物語の土台を支えている。
 統治に失敗した王様だって必ずしも悪い王様だったわけじゃない、良い人がかならずしも良いことだけをするわけじゃない、能力もあり理想もある人でも時代の波に乗れずに歴史の波間に消えてゆくこともある――、そういった、歴史の流れ、人の世の動きというものに対する認識が、とても納得できるんです。
「そうそう、世の中って、歴史って、そういうもんだよね」と、頷ける。

 架空歴史ファンタジーを読むときには、そういう、歴史とか人間とか世の中に対する見識みたいなものが土台としてしっかりあるかどうか、それが自分に共感できるものかどうかって、私にとってはけっこう重要なことかもしれません。
 いくら美男美女が出てきたり、波乱万丈のストーリーでも、社会や歴史に対する認識の浅さが透けて見えてると、基盤が弱そうで危なっかしく、薄っぺらに見えますから。
 まあ、人によっては、美男美女がスポットライトを浴びてドラマを繰り広げてさえいれば、ライトの当たる範囲外の世界の広がりなんてどうでもいい、社会背景なんて書き割りでいいという人も居ると思うし、それはそれで一つの方法だとも思いますが……。

 ところで、エドは何考えてるんでしょうねえ。普通に真面目に頑張って仕事してるだけですねえ。彼には、野望とか、個人的な欲望とか、ないんでしょうか?
 そういえば、カリエが名実ともにバルアンの妻になったら、ナイヤはどうするかな。

 そして、私にとって一番気になるのは、あの後のドーン兄上の状況なんですが……。
 本編の次は、ザカール編だとか。ドミトリアスのその後は、いつ、どのへんで語られるの?
 今度こそ、彼の活躍を、風の便りとかじゃなしに、しっかり見届けたいんですけど。須賀先生、どうか、どうか、お願いします!


グインサーガ90『恐怖の霧』(栗本薫 ハヤカワ文庫)
 ネタバレです。でも、どうせ『七人の魔道師』でとっくにばらされてるこですが。

 グインとシルヴィア、とうとう決定的に関係が壊れてしまいましたね。
 あの二人が将来不仲になると言うのは最初から分かっていたので、出会いのときから、何か二人の関係をまずくするようなことが起こるたびに、「そうか、一旦はラブラブになったけど、今回のこれで、あの状態になってしまうのか」と、何度も思いながら、毎回修復され続けてきましたが、今度こそ、決定的でしょう……(T-T)

 しかし、シルヴィアの件では、こればかりはアモンの言うとおり、グインも悪いですね。ものすごく対応がまずいですよね。
 『あなたの被害妄想では?』は、思っても絶対に言っちゃいけない最悪の禁句ですね。こういう相手には、とにかくまずは共感を示してあげないと、自分はあなたの味方だよと言うことを示してあげないと、心を閉ざしてしまいますね。理屈の通じない精神状態の相手に正論を言っても無駄でしょう。

 しかも、二人の会話を読んでると、グイン、好きだとか愛しているとか、一度も、一言も、言いやしないし。言葉で言わなくても態度で示せばいいけど、それも示してないにきまってるし。
 シルヴィアが本当に必要としているのは、ただ一つ、自分は愛されている・求められているという確信なのに。そんなシンプルな欲求に応えられないグインの、暖簾に腕押し的な唐変木ぶりが歯がゆいですね。
 しっかりしろ、グイン! 寂しがって、不安がってるんだから、抱きしめてあげればいいじゃないのよ、減るもんじゃなし。そんなところでケチケチしない!
 そりゃあ、だんなさん、あんたが悪いよ。(←みのもんた風に)

 ……ちなみに、私、さんざんけちょんけちょんに言ってるけど、これでもグインのファンなんですよ。そりゃもう、大ファンなんですってば。こんなふうじゃ信じてもらえないかもしれないけど(^_^;)


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