──今月の詩──
『カンナの炎で燃やしてしまおう』
手をつないだふたりが 楽しそうに歩いてくる
花壇のこっち 背の高いカンナの陰で
わたしはふたりをやり過ごす
センパイが あの娘とつきあってるって
ホントだったんだ……
センパイが あの娘の髪に触れる
リボンを揺らして あの娘が笑う
わたしは 目をそらしも 伏せもせず
真っ赤なカンナの花越しに ふたりを見つめて立ちつくす
わたしの手の中
想いを込めた 白い封筒が
ただのくしゃくしゃの紙くずに変わる
(なんて他愛のない初恋の なんてありふれた結末)
ふたりとも わたしに気づかず 通り過ぎて行く
幸せそうな笑い声が遠ざかる
わたしの目の前
カンナの花が
真紅の炎になって燃え上がる
渡せなかった手紙も 胸の中の想いも
カンナの炎で 燃やしてしまおう
白い封筒は ひとつまみの灰になって 跡形もなく風に散り
わたしはいつか おとなになって
強くてきれいな女になって
『あのころは恋に恋していたのね』なんて
きっと笑って言うだろう
でも わたし 本気だったよ
だって 今 私を焼く
カンナの炎は
こんなに 赤い
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