カノープス通信
2003年1月号−2

目次
・季節の便り
・今月の面白探し
・近況報告『男と女はどこが違う?〜九歳児の大発見〜』
・読書録
(今月は『西の善き魔女外伝・真昼の星迷走』『帝国の娘』他です)
(オンライン小説感想録はお休みです)



季節の便り

 あけましておめでとうございます。(十二月三十一日に読んでる方、ごめんなさい^_^;)
 なんとなく忙しくて、サイト半休止に近い状態で迎えた新年でございます。お正月過ぎたら冬眠から覚めて動き出す予定。
 さて、去年、この地方のお正月用品に『めがね』というものがあるらしいと書きましたが、先日、その『ねがね』の実物を、近所のスーパーで発見!
 手のひらに載るほどの長方形の板に、薄く削った木の板を丸く輪にした浅い円筒を二つ並べてくっつけたもので、たしかに、眼鏡に似た形をしています。
 勤め先で、地元出身の同僚に尋ねてみると、たしか神棚に上げるお供え物の入れ物じゃないかなと言うことでした。なるほど〜!



今月の面白探し

★パソコンが壊れて、買い替えを検討していたときの話です。
 パソコン雑誌の広告にULRが載ってた某会社のサイトにアクセスしてみました。パソコンのカタログが載ってるはずだったので。ところが、いろんな型のパソコンのカタログを見ようと、リンク先をクリックしてみたら、どこをクリックしても、ほとんどがリンク切れ!!
 雑誌広告にでかでかとURLを入れて、詳しい情報はこちら、と宣伝してるのに、この状態では逆効果ですよね(^_^;)
 まあ、それはともかく、全部リンク切れだったわけです。
 で、夫にその話をした時の会話です。
私「○○コンピュータのサイトにアクセスしたら、全部リンク切れで……」
夫「えっ? 全部肉球!?」
 ……以前、猫の肉球の写真ばかりを集めた写真集を見たことがあるのですが、そういうマニアックな写真専門のサイトがあったら、猫好きにはたまらないかも。

★夫と、『今までずっと何分か遅れていた時計を急に直すと遅刻しやすいよね』と言う話をしていました。
 で、私の車の時計は、ずっと前から20分以上遅れていて、夫には前々から直しておけといわれているのですが、急に直すとかえって遅刻しそうなので(合わせるのが面倒だからというのもありますが……(^^ゞ)、未だに直していません。そんなわけで、ここぞとばかり、
「だから私は車の(時計)を直さないの!」と力いっぱい言い訳したら、夫が言った言葉は、
「えっ!? 『だから私は車でオナラするの』?」でした。私は車の中でオナラなんかしません!

★息子がテレビで、空き巣の手口を紹介するドキュメンタリー番組を見ていたときのことです。
『空き巣がカナテコでドアをこじ開け……』というナレーションを聞いた息子が、
「え? 腹ペコ?」と一言。
 腹ペコでドアをこじ開けた空き巣さん、ちょっとかわいそうですね(^_^;)
 空腹に耐えかねて家の中のものを盗み食いしようと思ったのでしょうか(^_^;)

★これも息子がテレビを見ていたときのこと。『おはスタ』という子供番組の中で、突然、『湘南の市長』という言葉が聞こえた気がして、そんな人が『おはスタ』に登場するとは、いったい何事……と、驚いて見てみると、映っていたのは、普通の男子小学生たちでした。実は、『少年の主張』の聞き間違いだったらしいです。

★夫が、オタク仲間とメールでキャラ萌えについて語り合っていたときのこと。
 メールを打っていた夫が、たまたま背後を通りかかった私に、突然尋ねました。
「ねえ、猫耳の元祖って、『わたなべひろし』なの?」
 ……『わたなべひろし』って、誰? 日本で一番最初に猫耳美少女を描いた漫画家の名前でしょうか?
 私は知らない名前だけど、オタクの間では猫耳キャラの元祖として知られるカルトな漫画家だったりするのでしょうか。そう思って、
「えっ、私、知らない。『わたなべひろし』って、誰?」と聞き返すと、夫は大爆笑。
 夫の質問は、本当は、
「猫耳の元祖って『綿の国星』なの?」だったのでした。
 言われてみれば、確かに、『綿の国星』は猫耳の元祖かも?



近況報告『男と女はどこが違う?〜九歳児の大発見〜』

 ある日、息子が、突然、
「ねえ、男の人より女の人のほうが鼻の穴が大きいんだよね!」と言い出しました。
 とっさに自分の知っている男女の顔をずらっと思い浮かべながら、
「え、なんで? そんなことないんじゃない?」と答えると、息子はさらに大真面目に、
「うそじゃないよ、ほんとだよ! だって、学校の保険の時間にやったもん!」と主張します。

 でも、学校の保険の時間に、『男と女ではどっちが鼻の穴が大きいか』なんてことを教えてるわけがないじゃないですか(^_^;)
 それに、男の人のほうが平均的に体全体が大きく、顔も大きいんだから、もし鼻の穴の大きさに男女差があるとしたら、やっぱり、男性の方が大きいのでは?

 ところが息子は、さらに言い張ります。
「ほんとだよ、教科書にのってたもん! あのね、赤ちゃんのときは女の子のほうが大きくて、○才くらいの時もそうで、○才くらいの時には男の子のほうが大きいんだけど、大人になると、また、女の人のほうが大きくなるんだよ」と、言うことが妙に詳細です。
 小学四年生の保険の教科書には、そんな、『男女別・年齢別の鼻の穴の大きさ』などという瑣末な統計が、本当に載っているのでしょうか(@_@) そんな統計に、何の意味があるのでしょうか???

 不思議に思って、さらによくよく話を聞いてみると、真相が判明しました。
 その授業は、赤ちゃん時代から大人までの各年代の男の人と女の人のイラストを見せて、子供たちに男性と女性の外見の違いを指摘させると言う授業……つまり、性差というものに気づかせるという、性教育の初めの一歩だったらしいのです。
 で、息子が発見した男女の違いは、『鼻の穴の大きさ』だったのでした。
 他にも、もっと一目でわかる違いがいろいろあったはずですが、それはもう、別の子が先に言ってしまったので、息子は、まだ誰も指摘していない差異を、一生懸命観察して探し出したのでしょう。
 息子の発表に、教室中が大笑いになったらしいですが、先生は、その答えに、二重丸をくれたそうです。いい先生ですね。

 しかし、そのイラスト、どんなイラストだったんでしょうかね。
 そんなに鼻の穴が大きい女性のイラストだったんでしょうか(^_^;)



近況報告『カスピ海、ブルガリア化事件』

 近頃流行のカスピ海ヨーグルトの種を、実家の母がくれました。
 私は、なんだか、あの、粘りのある見かけが気味が悪くて食べる気にならないのですが(もともと、見慣れないものは食べたがらない習性があるのです)、健康食品が大好きな夫が自分で作って食べていました。
 で、最初は牛乳の空きパックに入れていたのですが、たまたま冷蔵庫にあった『明○ブルガリア・ヨーグルト』の容器が空いたので、こっちのほうが使いやすそうだと、空き容器を使ってみました。
 すると、なんと、それまで粘り気があったカスピ海ヨーグルトが、まるで『ブルガリア・ヨーグルト』のような感触・見かけになってしまいました!
 味の方も、それまでは酸味が少なかったのに、酸味の強い『ブルガリア・ヨーグルト』の味に近づいていたそうです。
 もちろん、容器は洗ってから使ったのですが、どうやら、中に『ブルガリア・ヨーグルト』の菌(『LBなんとか』というやつ?)が残っていて、それが混ざってしまったようなのです。
 しかも、その後、何回もその容器で作り続けるうちに、一回目はまだカスピ海ヨーグルトと『ブルガリア・ヨーグルト』の中間ぐらいの味・感触だったものが、ますます『ブルガリア・ヨーグルト』に近づいてきてしまったらしいです。
 カスピ海ヨーグルトの菌より、『ブルガリア・ヨーグルト』の菌の方が強いのでしょうか……。



読書録

『西の善き魔女外伝・真昼の星迷走』 荻原規子・作 (中央公論社)
 やっと読めました! やっぱり面白かった! 特に、後半。
 でも、これ、外伝というより、実は、はっきりしっかり、本編の完結編ですね。

 私、一見ファンタジーっぽい異世界なんだけど実はSF的設定がある、というタイプの話は好きなんですが、このシリーズは、本当は、最初の見かけどおり、純ファンタジーの世界であって欲しかった気がしてました。この話のSF的な設定と言うのは、ちょっと不自然な気がして、いまいちなじめなくて。
 だから、このシリーズでは、まだSF的な設定が見えてこない『セラフィールドの少女』の章の、それも冒頭部分が特に好きで、さらに一番好きなのは、ひたすら田舎の生活がのんびりと描かれる地味な外伝『金の糸紡げば』がなんですが、今回、やっと、SF的設定を楽しめた気がします。

 でも、今回、なぜか、ルーンが出てくるとハリー・ポッターの顔が頭に浮かんでくるようになってしまっていて、困りました(^_^;)

『流血女神伝 帝国の娘 上・下』 須賀しのぶ・作 (集英社 コバルト文庫)
 いや〜面白かった! 面白い本には、しょっちゅうめぐり合いますが(というか、私は、ファンタジーでありさえすれば何を読んでもだいたい面白い)、途中で読むのをやめられなくなるほど面白い本には、やはり、なかなかめぐり合いません。これは、いつもお世話になってる夢の湊のゆめのみなとさんのお薦め本だったので読んでみたのですが、そうでなければ、たぶんめぐり合わなかったと思うので(タイトルとか表紙とかにはさほど惹かれるものを感じなかったから)、ゆめのさんに感謝です。

 特に良かったのは導入部。上巻の前半は圧巻です。
 自分たちの小さな世界の中で普通に暮らしていた少年少女の前に突然思いがけない運命が現れ、新しい世界が開けると言うパターンの始まり方が、私、すごく好きなのですが、この作品の冒頭の、カリエとエディアルドの出会いは、まさにそういう場面でした。

 作者によれば『惚れっぽいいのしし』がイメージだというヒロインのカリエちゃんもいいし、エディアルドもいいけど、個人的には、ドーン兄上がお気に入り。
 私は四人兄弟の一番上なので、昔から『お兄様』には憧れてて、ああいう、『いかにも長男』なお兄様キャラに弱いです。どこから見ても立派な弟思いのお兄様である彼が誰も知らない己の心の暗部を見つめて「俺は醜いな」と呟くシーンは、特にグッと来ました。
 でも、昔だったら、エディアルドかシオン兄様あたりがいいと思ったかもしれないけど。サルベーンも、昔ならときめいたかも。
 そうそう、忘れちゃいけない。男装の麗人グラーシカ皇女も見逃せない!
 ……つまり、おいしいキャラがよりどりみどりなのです! いや〜面白いです。

 お話はまだ序盤。『流血女神伝・砂の覇王』としてまだまだ続いてるので、読むのが楽しみです。

『ヴァイキングの誓い』 ローズマリー・サトクリフ作 (ほるぷ出版)
 これも面白かった! 牛飼いの男の子がヴァイキングに攫われて、奴隷市場に売られちゃうんだけど、そこで自分を買ったヴァイキングの若者と友情を結んで義兄弟の契りを交わし、彼と一緒にヴァイキングの兵士として戦いに赴くことになるんです。抑えた筆致で格調高く描かれる、波乱万丈の一代記です。

 こんなに面白いのに、装丁が地味なのがちょっと残念。いえ、格調高い装丁で、素敵なんですけど。
 私、元図書館員で、児童室を担当していたので、自分の好みはともかく、この装丁では、せっかく面白い内容なのに子供たちが手に取らないだろうとか思ってしまうのです。
 表紙が渋いだけでなく、中も、本文は割りと大きな活字なのに一番最初に『ヴァイキングの歴史』という説明があって、そこだけ文字が小さくて、しかも小難しげな内容なので、中高校生がぱっと開けてみたときに、『こんなに字が小さい、難しい本なんだー』と勘違いしてそのまま閉じてしまいそう。
 これで表紙に、もっと何か、血沸き肉踊る冒険の話なんだとわからせるような絵がついてれば、手に取る人が増えるだろうに。もちろん、格調を損なわない範囲で、ですが。

 この本は、読書力の高い中高校生から大人までが十分楽しめる本だと思うのですが、大人が手にとるには、ちょっと児童書っぽいし、子供が手に取るのには、ちょっと渋すぎて、サトクリフの名声を知っているような児童文学通の大人か、これまたかなり読書通のごく限られた層のハイティーンしか手に取らさそうで、他人事ながら心配です(^_^;)
 でも、中身は、とにかく面白いんですよ!

 ところで、ひとつ、言いたいことがあります!
 やい、ジェスティン&トーモッド! お前たち、男同士で怪しいぞ!……(^_^;)

 いや、ほんと、特によこしまな目で見なくても激しく怪しいんですってば! サトクリフ女史、これは日本の腐女子のためのサービスですか……?
 思わず、その筋の同人のお嬢さん方がこれを読んだらどういう切り口で本を作りたくなるだろうとか、想像してしまいましたよ(^_^;) 『この場合、やっぱり、順当に考えればトーモッド×ジェスティンだよなあ』とか、『いや、でも、あえてこの順序をひっくり返すことに倒錯の美を見出す一派もいるんだろうなあ』とか、『いやいや、アーンナスで掛け算という切り口も……』とか。(何のことやら分からない人は、ごめんなさい。意味が分からなかったあなた、あなたは真人間です!)

『ふたりのアーサー2 運命の十字』 ケビン・クロスリー=ホランド作 (ソニー・マガジンズ)
 中世の荘園の少年の生活記・成長記としては相変わらず面白かったけど、あいかわらず、何でアーサー王伝説が劇中劇のように語られるのか、よくわからなかったです。どうやら、あれは、あのまま、二つの物語が二重写しになるだけで終わるのでしょうか? なんか、よくわからないです。

 しかし、あの、アーサー王伝説のパートって、断片的な映像として描写されるだけなので、アーサー王伝説をまったく知らない人には、意味が良く分からないのでは? たぶん、日本人の多くがヤマトタケルや赤穂浪士についてなんとなく知っているように、あちらの人は、普通、アーサー王伝説を、なんとなくだいたい知っているものなのでしょうね。

 アーサー王伝説と言えば、私は長いこと、『アヴァロンの霧』などの特別な切り口でアレンジした作品や、いろんな作品にいろいろとアレンジされて出てくる断片的なエピソードのあれこれしか知らないまま、なんとなく知っているような気になってたのですが、最近(といっても、そういえば一年以上前)、サトクリフ・オリジナルのアーサー王物語を読んで、はじめて体系的に全貌を知ったんです。
(脱線しますが、そのときの感想は、『これって、男どもが一人残らずバカで野蛮で幼稚だという話としか思えない……』でした(^_^;) だって、大の男がそろいもそろって冒険だ名誉だ奇跡だ探索だ貴婦人だと騒いでは命まで賭けている様は、すごく幼稚に見えて……。『あなたも一応王様なのだったら無意味な冒険なんかしてないで、ちゃんと政治をしなさい!』とアーサーを一喝してやりたくなりました)

 で、『ふたりのアーサー』で語られているアーサー王の物語は、その、サトクリフのアーサー王物語とほぼ同じだったので、ほぼ、もとの伝説そのままの形なのでしょうね。あちらの人にとってはおなじみのものだから、映像の断片でも、みんなわかるんでしょうけど……。何か、やっぱり、何のためにあそこでアーサー王の話をしてるのか、いまいち釈然としません。
 いえ、面白いんですけどね。

 それにしても、十四歳のアーサー少年、モテモテですね! 特にすごく顔がいいわけでもなさそうなんですが、あの純粋無垢な作為のない優しさが、彼に関わる女の子を片端からたぶらかすんですねえ。無意識の先天的女タラシのようです。彼には女難の相が出てるような気が……?

『あなたは虚人と星に舞う』 上遠野浩平・作 (徳間デュエル文庫)
 先月感想を書いた『私は月に虚夢を聴く』のシリーズ新作。あいかわらず虚無的な、だけど不思議と暗くない世界観が、不思議と馴染みます。最後の、サンテグジュペリの引用も、いい味だしてます。
 この作者の他の作品は、私は別にもう読まなくていいけど、このシリーズは、また出たら読むと思います。あいかわらず、ちょっとかっこつけなところが気になるけど、青春とはそういうものでしょう(^_^;)

『暗黒童話』 乙一・作 (集英社)
 とても面白かったです。『痛い』系のグロテスクなホラーだけど、記憶喪失になった女子高生が自分のアイデンティティを求めて彷徨う話として、切なく読めます。そっち方面は、『いい話』です。
 私、怖がりなのでホラーはなるべく読まないのですが、最近、大人向けのホラーは怖くないものが多いと言うことに気がつきました。人によって怖いものは違いますが、私が怖いのは、お化け・幽霊(特に胎児系!)等なので、子供向けのものは怖いけど、大人向けのものは、たいてい、怖くないらしいのです。
 これも、ぜんぜん怖くは無かったです。痛そうだけど(^_^;)
 でも、痛そうといっても、いろいろショッキングなスプラッタ描写はあるんですが、その被害者たちが、訳あって、みんな、痛がったりこわがったりしていないので、読むほうも痛さの実感が無いです。時には、とんでもないスプラッタシーンやフリーク描写が、むしろこっけいだったり、グロテスクな中にもユーモラスだったり、時には詩的だったりさえします。でも、こういうの、嫌いな人は嫌いだと思うので、他人には勧めませんが。

 この人の作品は、他に、短編集『石の目』を読んだことがあって、面白かったのですが、その中の一遍『ハジメ』が特に好きで、ホラー短編集に入ってたけど少年小説の名作だと思います。あれ、今度漫画化されるみたいですよ。

 他に、図書館の新刊の棚でたまたま目に付いた児童書の新刊をあれこれ読みました。
 そういう本は、後で新刊の棚から普通の棚に移ってしまってから、わざわざ探したりリクエストしたりしてまで読もうとは思わないことが多いので、目に付いたときに読んでおかないとそれっきりになってしまうので、とりあえず借りてしまうのです。
 あと、夫が借りてきた本も同様で、その中にちょっと読んでみたい本があったとき、後でわざわざもう一度リクエストして借りてくるのも面倒なので、自分もついでに読ませてもらっちゃう。それで、自分が本当にすごく読みたくてリクエスト用紙も書いてあるような本が、今は手元に読むものがたくさんあるからと、後回しになっちゃう。
 そんなわけで、本当にすごく読みたい本はどんどん後回しになり、いつもそれ以外の本ばかり、先に読むことになってしまいます。でも、まあ、本当にすごく読みたかった本以外の中にも、たまに思わぬ掘り出し物があったりするので、いいんですけど。

 というわけで、新館の棚からごっそり借りてきた児童書のうちの一冊、『ケンスケの王国』 (マイケル・モーパーゴ作 評論社) は、いかにも評論社が出しそうな地味な佳作でしたが、個人的な面白度は、『そこそこ』程度。海洋冒険ものとしてはそれなりに面白いけど、元日本兵を出す意味が良く分からなかったです。わざわざ、ただの漂流者じゃなく元日本兵を登場させるのなら、もっと戦争体験を掘り下げればよかったのに。じゃなきゃ、別に日本兵じゃなくてもよかったのでは?
 同じ作者の『シャングリラをあとにして』(徳間書店) は、老人問題や戦争体験を真正面から扱いつつ謎解き的な面白さでぐいぐい読ませる優れた児童書で、個人的には先の本よりは面白かったけど、ファンタジーじゃないので、やっぱり、極個人的面白度は『そこそこ』。
 図書館員として児童書を選ぶときはファンタジーじゃなくてもいい本はいいと思うけど、自分が読んで楽しむのは、ファンタジーに限ります。ストライクゾーン、狭すぎ(^^ゞ
 最後のクライマックス、老人ホームを集団脱走したおじいちゃんたちの大冒険は、とっても面白かったから、もっとたっぷり描いて欲しかったです。航海のシーンとか。

 
幼年童話の『ゆきだるまのひみつ』『グッディさんとしあわせの国』 ルース・エインワース作 (ともに岩波書店)も、それなりに。地味ながら良書で子供に読んでやる本としてはいいんですけど、やっぱり、自分が楽しむには高学年以上向きじゃないと……。
 絵本までいけば、それはそれで今でも楽しめるんですけど、幼年童話って、一番大人が楽しみにくい分野かも。

 これらの児童書の山の中で一番面白かったのは、『アンブラと四人の王子』 アン・ローレンス作 (偕成社)
 私、寓意的なもの、風刺的なものは基本的に嫌いなんですが、これは、もろにそういう作品だけど、なかなか展開が読めなくて面白かったです。それぞれのキャラに、寓意上の役割を超えた独自の個性があったことが、作品をただの寓意にとどまらせずに面白くしてたんじゃないかと思います。


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