カノープス通信
2002年9月号−2

目次
・季節の便り『カブトムシの臭い(^_^;)
・今月の面白探し
・近況報告
・読書録
(今月は『イリヤの空・UFOの夏』、『神秘の短剣』他です)
・オンライン小説感想録
(今月はDeco様の『平原』です)



季節の便り

 そろそろ季節外れになりかけた話題かもしれませんが、いつも犬の散歩に行く裏山の道は、片側が畑で片側が雑木林になっており、その雑木林は、カブトムシの宝庫です。
 カブトムシって、独特の臭いがあるんですよね。で、家の水槽で飼っているのも臭いけど、山を歩いていて、時々、『あ、ここ、カブトムシ臭い』と思う場所があるんです。
 そういう場所は、たいてい、どんぐりの木の下です。そして、地面にカブトムシの頭(なぜか頭だけのことが多い(・・;))がごろごろ落ちていることが多いです。
 カブトムシの溜まり場が臭いでわかるなんて知りませんでした。歩いているだけで臭うほどたくさんカブトムシがいるって、すごいです。



今月の面白探し

今月も、我が家の勘違い会話集です。
★夫とスーパーに行くと、『サンタローザ』と言う品種のプラムが売っていました。
 私:「あのプラム、サンタローザだって」
 夫:「え? 『万太郎歌』?」
 ……私の頭の中で『筋肉マン二世』のテーマがなり始めました。

★息子が前々から釣りに行きたがっており、夫が、そのうち連れて行ってやると約束したまま忘れていました。
 息子:「お父さん、いつ、釣り行くの?」」
 私:「えっ!? お父さんがエステになんか行くわけないでしょ!」
 ……『お父さん、エステに行くの?』と聞こえたのです。

★私:「ゴーダチーズってさあ……」
  夫:「え? オオダチゆず?」
  ……『大舘ゆず』とか何とかの、ブランド産地のゆずかと思ったそうです。

★息子がテレビでアニメを見ていた時、しきりと、『ラッコのジョー』というキャラクターの名前が聞こえてきました。なんだそのかわいい名前は、と思って、テレビを見てみたら、出ているのは、ラッコとはぜんぜん関係なさそうなキャラで、どうやら、『ナックル・ジョー』の聞き違いだったのでした。

★これも息子がテレビを見ていたときのこと。
 「劇場版『仮面ライダー龍騎』、空前の大ヒット!!」というCMに向かって、彼は、小ばかにしたような口調で、ぼそっと突っ込みを入れていました。
 「偶然かよ……」
 ……映画のヒットが実力ではなく偶然だったのだと勘違いしたのだそうです(^_^;)

★夫と、ガソリンスタンドに入ったときのことです。
 独特の歌うような節回しで『○○オーケー、××オーケー』などとチェック項目を読み上げていた従業員のお姉さんが、窓から雑巾を差し入れて、不思議な抑揚のある、慣れた口調で言いました。
おまじないに中を拭いていただくタオルでぇ〜す」
 ……え? おまじない?
 夫と私は、反射的に雑巾を受け取りながら、思わず顔を見合わせました。
「今、『おまじない』って言ったよねえ」
「うん……。何のおまじないだろ? 交通安全のおまじない?」
 私たちの知らないうちに、『車の中を雑巾で拭く』という交通安全のおまじないが世間一般に浸透していたのでしょうか?
 確かに、窓の内側などはちゃんと拭いておいたほうが視界がよくて、安全の役に立ちそうなので、合理的なおまじないかもしれませんが……。
 首をひねりながらもダッシュボードを拭いているうちに気がつきました。
 たぶん、『お待ちの間に』の聞き間違いだったのです。
 でも、二人とも『おまじない』って聞こえたんですけど……。



近況報告

<その1 野菜スタンド提供の花火?>
 季節外れの話題ですみませんが、このあいだ、家の近くの某テーマーパーク(歩いて行けるほどの近所なのです)で、『市民夏祭り』がありました。その日は、テーマパークが入場無料になり、東京ドーム何個分だかという広い敷地で、歌や楽器やダンスの発表会にフリーマーケット、踊りのコンクールなどが催されたのです。
 うちの下の息子も、学童クラブの行事として踊りのコンクールに参加して、手作りの衣装でマラカスを持って踊りました。
 学童クラブや幼稚園、市職員会や婦人会、市内在住の外国人の皆さん、エアロビクスやフラダンス、民舞のサークルなどが、それぞれ思い思いの振り付けで練り歩く中、ひときわ異彩を放っていたのは、市内に工場がある某大企業の若手男性職員有志のバカ踊り。

 結構寒い夜だったのに、みんな水泳パンツ一丁で、水泳帽の上からネクタイの鉢巻を締めて、アイ〜ン、コマネチ!などのギャグをつなぎ合わせたおバカな振り付けを『ただいま合コン募集中!』などの掛け声つきで踊り、呆れ笑いを取っていました……。
 しかも、あれ、あんなにくだらない踊りなのに、実はかなり気合を入れて練習した成果と見ましたよ。既成のギャグを並べただけとはいえ、しっかり全体でタイミングが合っていて、最後は何人かづつ組になって器械体操のポーズをなかなかびしっと決めてたし。あの人たち、会社の宴会のとき、毎回ああいうノリで騒いでいるんだろうなあ……(^_^;)

 さて、バカ踊りはともかくとして、行事の中でも一番の花形は、夜の部の花火大。この不況下に、市内の企業から、なんと予想の倍近い協賛金が集まったという噂で、かなり豪勢な花火があがりました。
 で、パンフレットに、協賛企業のリストが載っており、『○○ストア』、『××工務店』、『スナック・ナントカ』、『誰それ商店』などのローカルなお店の名前にまじって、不思議な名前がひとつ。
 それは、『野菜スタンド』。……何、それ?
 野菜スタンドって、あの、市内の随所にある、農家直営の無人野菜スタンドのことでしょうか。
 そんな、花火を一発提供出来るほど儲かっている野菜スタンドって、いったい、どこのスタンドなのでしょうか?
 それとも、『野菜スタンド組合』みたいな生産者団体があって、そこの提供だったのでしょうか?

<その2 税に関する作品?>
 子供の夏休みの宿題の自由課題一覧に、『税に関する標語・作文・習字などの作品』というのを見つけた夫が、
「この、習字って、税に関係ある言葉なら何でもいいって書いてあるけど、じゃあ、『脱税』とか『税金泥棒』とか『○○税理士事務所』とか書いてもいいわけ?」と言い出したので、大笑い。
 だって、もし、その『○○税理士事務所』の文字が、あきらかに、どう見ても、他のものより格段にうまかった場合、その作品は、やっぱり、学校代表として市の作品展に出品されるのでしょうか? そして、そこでも明らかに一番うまかったりしたら、県の作品展まで行ったりするのでしょうか?
 そういう作品を、先生方は、どう扱うでしょうか?
 字が下手なら別にいいんだけど、もし、本当に、どう見ても一番うまかった場合には、すごく困って、悩むだろうなあ……。
 想像すると、何か、すごくおかしかったです(^o^)



読書録

『少年の時間』(徳間デュアル文庫)
 『少年』をテーマにしたSFアンソロジーです。対になるもう一冊の『少女の空間』のほうが、いまいち印象が薄かったのにくらべて、こっちのほうが面白いのが多かったような気がします。
 特に、菅浩江『夜を駆けるドギー』平山夢明『テロルの創生』が、すごく面白かったです。
 あとは、上遠野浩平『鉄仮面をめぐる論議』が、『僕らは虚空に夜を視る』『冥王と獣のダンス』をつなぐエピソードで、それなりに興味深かったかも。相変わらず私は、この作家が好きなのか好きでないのか、よくわからないのですが、『僕らは虚空に〜』には、なんとなくほのかに心惹かれるものがあったのです。今の自分が、ではなく、私の中にいる『昔の私』が共振する感じ。『冥王と獣の〜』のほうは、ぜんぜん面白くなかったけど。
 この、『僕らは虚空に〜』の世界は、どうやら、この人の、各作品共通(『ブギーポップ・シリーズ』除く)の背景である『持ち世界』なんですね。松本零士とか秋山完さんみたいに、別々の作品の世界が実は繋がってるっていうタイプ。
 山田正紀『ゼリービーンズの日々』も、ちょっと変わってて面白かったかも。

『ふたりのアーサー1 予言の石』 ケビン・クロスリー=ホランド作(あすなろ書房)
 なんか、ちょっと不思議な作品でした。
 多感な少年の目を通して、彼の目に入る範囲の世界と日常生活を、彼の理解の及んでいる範囲で淡々と描くという、現代もの・リアリズムものの児童文学に良くある手法で描かれているのに、描かれる対象は、中世イングランドの荘園生活。
 そして、それだけならまだ、ちょっと珍しい舞台装置のリアリズム成長もので済むかもしれないけど、そこに、なぜか、実は魔法を使うらしい謎の老人マーリンなんかが出てきて、アーサー王伝説が絡んでくる。
 いったいこれは何だろう、と言う感じの、風変わりな本です。でも、面白いです。
 その面白さは、今のところ、ファンタジーというより『大草原の小さな家』的な面白さなんですが、この先、どういう方向に行くのでしょうか。

『イリヤの空・UFOの夏(1・2)』秋山瑞人作(メディアファクトリー)
 前作『猫の地球儀』で冬木を感動させた作家さん。
 これはお薦め! 特に青少年諸君に是非お薦めしたい! 冬木の、夏休みのお薦め図書! (もう夏休み、終わっちゃったけど)。
 私が中学か高校の司書教諭だったら、夏休みの読書用には、この本を薦めますね。特に、普段あまり本を読まない男の子に。
 夏休みの課題図書の中学生の部には、こういうのも一冊入れればいいのに。本をよく読む子向けには、他にもいくらでも面白い本があるけど、これは、普段それほど読書家じゃない子でも、けっこう楽しめると思うから。最初からすごく読書家じゃないと楽しめない本ばかり押し付けるより、軽めの物だって捨てたもんじゃないんだから、そういうのも認めてあげれば、最終的には本好きが増えると思いますけどね。
 ほのぼのと甘酸っぱくて、おかしくて切なくてほろ苦い『ボーイ・ミーツ・ガール』もの、ちょっとSF風味。

 見た目、ちょっと綾波タイプ(わたし的定義:イラストで描くなら青や薄紫や白の髪が似合う(^_^;)タイプ。無口で無愛想で無表情で、周囲から浮いていて、何考えてるかわからない。透明感があり、無機的、植物的で、生命感・生活感が希薄。生身の人間らしくないので、実はクローン人間だったりアンドロイドだったり宇宙人だったりするのに似合う)のヒロインは、いまどきの青少年の好みに合うと思われますが、中身は、今風なようでもあり古風なようでもあり……。
 一般人には見えないところで密かに『北』との戦争が進行中のパラレル・ワールドな現代が舞台らしいですが、非常に正統的なライト・ジュブナイルです。

 描かれるのは、懐かしい中学校生活。
 ほのかに古き良き時代の香りがするけれど、かといって、たぶん、過去の何時かに本当にあったものというわけではない、いつの時代にも本当には存在せずに青春小説の中にだけ昔から今まで営々と存在し続けてきた、ほろ苦さまでが心地よい夢の学園生活です。
 で、ちょっとオクテで気の弱い普通の男子中学生の前に、謎の美少女転校生が現れて、ほのかな初恋が芽生えかけて……。おお、これぞ、まさに王道!
 味のあるお父さんとかわいいお母さんのほのぼの夫婦、ちょっとブラコンの妹・夕子ちゃん(超かわいい! 『ほ姉ちゃん(←誤字ではありません^_^;)』と呼ばれてみたい!)、美人でぶっ飛んだ保健室の先生など、脇キャラも個性豊かに丁寧に描かれて魅力的。
 中でも一番強烈なキャラ、『水前寺先輩』は、その、あまりの奇天烈・奇才ぶりに、私の頭の中では、京極夏彦の生んだ天下の奇人『榎木津』とダブってしまってます……。

 そして、なんといってもヒロインの可奈ちゃん(本当は普通の黒髪のはずだけど、指し絵では髪は薄紫!)の魅力は、このセリフに端的に現れています。

「なめてみる? 電気の味がするよ」

 この綾波型『謎の美少女』は、なぜか手首に金属の球体が埋まっていて、それを見てぎょっとする主人公の男の子に、たどたどしく(帰国子女なので日本語がちょっとぎこちないという設定がまた泣かせる!)、こういうのです。
 手首に継ぎ目がある(そしてそれをリストバンドで隠している)無垢な美少女……。うわあ、これは最強のオタクキラーでしょう……(^_^;)
 『身体が弱いのか、いつも正体不明の薬を山ほど持ち歩いていて、すぐ倒れたり、鼻血を出す』というのも、人によっては『萌え』なのでは?

 でも、このオタク泣かせの美少女ヒロイン、ただ萌え記号を寄せ集めただけのお人形さんではないのです。一見無表情なんだけど、非常に生き生きした心の動きを感じさせます。
 特殊な生い立ちのために、今まで学校に通ったことがなく、同年代の子供と普通に接した経験の乏しい少女が、たまたま最初に出会って心を触れ合わせた主人公に雛鳥の刷り込み現象よろしくひたむきに思いを寄せる様は、その不器用さゆえにいじらしく、いたいけで、臆病な野生の小動物を思わせて胸を打ちます。
 なんたって、好きな男の子の下駄箱に、生きた猫やカエル、サラ金のティッシュやジュースの空き缶など、登校途中に拾ったものをこっそり入れておくのがラブレター代わりらしいという理解不能の摩訶不思議ぶりが、言葉の通じない小動物っぽいです(^_^;)
 その、意味不明の贈り物を、他言すべきではない『私信』と見抜いて黙って受け止め続ける主人公・浅羽君も、情けないようでいて、なかなかに包容力のある、いいヤツなのです。

 雑誌連載された作品で、まだ続きがあるらしいんですが、文庫化されるのかどうか、よくわからないのが残念なところ。(追記:9月10日に3巻目が出る予定らしいです!)

『神秘の短剣(ライラの冒険シリーズ・2)』 P・プルマン作 (新潮社)
 う〜ん、面白かった!
 最初からぐいぐい引き込まれるものがありました。
 前巻は、ダイモンと言う設定の魅力と白くまのイオレクの存在に惹かれて引き込まれたけれど、ストーリーそのものは、そういえば、奇想天外すぎてちょっと親しみにくく、世界に入り込みにくかったような気がするので、今回のほうがすんなり物語に入り込むことが出来た気がします。。
 ライラという女の子は、魅力的だけど、私には、ちょっと感情移入しにくかったのかもしれません。あの異世界も、中途半端にこの世界と近い分、かえって親しみにくかったようです。

 で、前回はこの世界とよく似た異世界が舞台だったけど、今度は、『この世界』が舞台。普段だったら、私は、異世界のパートに没頭するのですが、この作品に限っては、『この世界』での冒険の部分が、なにやら猛烈に面白かったのです。
 それと、なんとなくシュールレアリスムの絵画を思わせる南欧風(?)のたたずまいの無人の街という舞台も、奇妙な夢の中に出てくる場所のようで、心惹かれるものがありました。どこかけだるく、幻想的で、郷愁を誘う、不思議な絵の中の、不安を潜めた静かな世界。

 それから、嬉しかったのは、ライラのダイモン、パンタライモンが、今回、主に豹や山猫になってくれてること。表紙のイラストからして、豹なんです! 
 そういえば、名前からして、彼は将来、豹に固定するのかも。わくわく。
 いいなあ、私も欲しいなあ、豹のダイモン!

『リヴァイアサン 終末を過ぎた獣』 大塚英志作(講談社)
 あえて言えば、『怪奇幻想モノ』なんでしょうか。どれもどこかで聞いたことのあるような怪奇話のモチーフが次々と繰り広げられる、なんだかよくわからない不条理な作品で、すご〜く面白かったかというと別にそうでもなく、特に良いと思うとか他人に勧めたいとか思うこともなく、好きなんだか好きでないんだかもよくわからなくて、まあそれなりに面白かったという程度なんだけど、この作品の、虚無的で薄暗い世界は、なんとなく、とても居心地が良かったです。怪奇さもグロテスクさも混沌も、みな、よく見知った、慣れ親しんだそれなので、親しみやすく、妙に落ち着いちゃうんです。

 それもそのはず、ここで描かれる怪奇な幻想の数々は、手塚治虫の『ブラックジャック』をメインに、さまざまな漫画やアニメ、都市伝説などの既存のサブカルチャーの類型的なモチーフの寄せ集めなのです。もちろん、パクリとか、オリジナリティの欠如とかではなく、わざと、きわめて自覚的に、意図的に、昭和のサブカルチャーが凝り固まったような世界を生み出しているのです。
 『小説の形を借りたサブカルチャー論』みたいな面があるんだと思います。

 だから、知らず知らずのうちにそうしたサブカルチャーに半身を浸し続け、昭和の東京の空気を呼吸してきた元祖オタク世代の私にとって、この小説の中の『昭和74年の東京』が、妙に懐かしく居心地良いのは当たり前なのです。きっと、まさに作者の狙い通りなのでしょう。
 ラストの一話のあやふやな切なさと虚無的なほの明るさにも、何か、とても自分の感性にフィットするものがありました。

 でも、この本、イラストが変!
 いえ、イラスト自体は別に変じゃないんだけど、キャラが、ことごとくイメージ違う!
 特に、元特殊部隊の教官で隻眼をサングラスで隠した車椅子の老女・菜々山先生は、おばあさんのはずなのに、どう見ても、『車椅子のミニ碇ゲンドウ』にしか見えません!
 これも、多分、意図的に、サブカルチャーの代表選手エヴァンゲリオンを連想させるイラストにしてみたのだとは思うのですが、やっぱり、キャラ、違う……。



お気に入りオンライン小説感想録

 Deco様作・『平原』

 はっきりいって、名作です! これを読まずして何を読む! ぜひ、読んで欲しい!
 もう、何も言わずに、とにかく読んでください。読んで、泣いてください……って、これじゃぜんぜん、何がなんだかわからないですね(^_^;)
 紹介にも何にもなってない。まあ、すごく有名な作品なので、私がいまさら内容を紹介する必要もないと思いますが。
 私、本当によかったものほど、ただ、『良かった!』『面白かった!』『感動した!』『名作だと思う!』など、感想にならないような感想しか出てこないことが多いんです。それって、私に限ったことではないと思いますが。
 かえって、いまいちだったものほど、どこがどうしていまいちだったのか、どこが良かったけどどこが悪かったのかなどと、いろいろ考察することがあるけど、ただ純粋に本気で感動したときは、かえって言葉が出てこない場合もあるのです(出る場合もあるけど)。

 一応、少しは紹介しますと、SFファンタジーです。
 『平原』と呼ばれる大地に、人間に良く似た『猫』たちが、独自の文化と生活を築いて、大地に根付いた暮らしを営んでいる。『猫』といっても、四足だったり尻尾があるわけじゃありません。『猫』族が人間と違うのは、瞳が細く、耳が尖っていること。
 平原の果ての城塞の中には、人間たちが、『猫』たちの存在を知らずに暮らしている。
 そういうお話です。うっかりヘンなことを説明してネタばれになるといけないので、これだけにしておきます。

 展開に無駄がなく、文章は簡潔。にもかかわらず、情感豊か。
 詳細に描かれる猫たちの文化や生活様式には純ファンタジー的な魅力がありますが、基本設定はSFです。
 SFとしてすごく斬新とか、独創的というわけではないけれど、物語としての普遍的な魅力にあふれています。
 猫たちの、人間たちの、愛や友情、戦い、夢、憧れ。
 ラスト近くなると、私、ほぼ各章のラストごとに(時には真ん中のこともあるけど)、うるうるとなって、涙でディスプレイが見えなくなってました……(って書きながら思い出したら、またうるうるしてきた……)。
 
 現在、Decoさんはご多忙ということで、小説サイトは休眠状態ですが、発表済みの作品はそのまま置いてくれてあります。連載が終わっても、サイトが休止になっても、オンライン小説界の不朽の財産として読み継がれていって欲しい――大げさな言い方ですが、それだけの価値のある作品です。
 また、Decoさんはこの作品を紙の同人誌にして、同人誌即売会に参加しているご様子です。
 こんな名作が、ネットをやってる人にしか読めないんじゃもったいないから、嬉しいです。
 私が嬉しがるのも変ですけど、ほんと、大勢の人に読んで欲しいんですもん。

 オンライン小説って、現状では、人気のあった作品でも、連載が終わって時間が経つと読まれにくくなりがちなんじゃないかと思うんですよね(ただの想像ですが)。
 特に今、なんだかんだ言っても大手である楽園さんの『殿堂』がまともに機能していないし、作品のデータベースも年ごとにわかれて、登録年別に検索するシステムになっているので、わざわざ古い作品を検索する人は少ないのでは?
 だから、検索サイト経由ではめぐり合いにくくなってて、最近、ネットを始めた人の中には、この作品と、運悪く出会えない人も増えてくるんじゃないかと思うんです。
 そんな今こそ、今までこの作品を読んで感動した人が、口コミで、この作品のことを語り伝えられたらなあと思うのです。検索サイト経由じゃなくても、あちこちのサイトを巡っていればいつかはリンク集からたどり着けるように。(……なんて、Decoさんのサイトは、更新休止中だろうと何だろうと、たぶんうちよりよっぽどアクセス数は多いでしょうから、私なんかが傍から心配することはないんでしょうけどね)。

 そういうわけで、私も、リンクさせてもらおうっと。サイトは、更新は休止中だけど、リンクフリーですから。
 実は、一年以上憧れ続けながら、まだ、リンクしてなかったのでした……(^^ゞ

 作品データ
 タイトル:『平原』
 作者:Deco(古宮由貴)様
 掲載サイト:kanan


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