カノープス通信 2002年9月号-1 ──今月の詩── 『鳥よ』 一日に たった一本 汽車が来て 誰も降ろさず去ってゆく。 風さえとどまることもない 夏から秋への谷間のような この場所で。 白樺の根もとに。 私の鳥よ おまえを 埋めた。 雲白く流れる その下で。 雲さえとどまることもない 忘れ去られた約束に似た この季節(とき)を。 おまえは ある朝 飛び立って 翼痛め 宛て先のない手紙のように舞い戻り 私の手の中で 静かに冷たくなった。 枯れ葉のような その軽さ。 一年に やはり一回 夏も来て 何も残さず去ってゆくが。 おまえの見果てぬ夢を埋(うず)めた土に 花も咲き 花咲く土の上を 風が吹き過ぎるように 小さな汽車は 一日に一度 誰も乗せずに着き 私を乗せずに発ち すべてが空の上を過ぎてゆくだけの うち捨てられた季節の底に 二度と羽ばたきを聞くことなく 私はとどまり。 土に鋤き込んだ夢の上を 時間が通り過ぎる。 雲白く流れて。 |
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