カノープス通信
2002年8月号−2

目次
・季節の便り『ノウゼンカズラの咲く町』
・今月の面白探し
・読書録
(今月は『橋の下のこどもたち』『黄金の羅針盤』他です)
・オンライン小説感想録

(今月は『汎神族2・約束の刻にあらがう者たち』――ついでに、
冬木の萌えキャラの系譜(^^ゞについても語ってます)



季節の便り・ノウゼンカズラの咲く町

 先月に引き続き、あいかわらずタケノコの季節です。
 斜めにスパッと切り落とした竹が、横に倒れずに、だるま落としのように、そのままストっと下に滑って、しかも、切り口が尖っているので地面にぷすっと突き立ったりすると、非常に楽しいです♪
 思わず悦に入りながら、心のどこかで、『いいトシして何やってんだかなあ、この女は』と思う私です(^_^;)

 私の好きなノウゼンカズラの花が咲いています。
 あの、ちょっとパステルがかった、明るく華やかな中にも微妙に柔らかいオレンジ色が良いのです。
 
 私は、どちらかというと、小さな愛らしい花、地味目の清楚な花などを好む傾向があるのですが、この、ノウゼンカズラは別です。
 ノウゼンカズラに限らず、夏には、派手な花が似合いますよね。

 私は、この花を、千葉に引っ越してきて、はじめて見ました。
 今では通販などで苗が手に入るためか、東京でもこの花を見かけることがあるようになりましたが、昔は、私が住んでいたあたりでは、見たことなかったんです。日照を好む花だし、うっかりすると生え広がりやすいので都市部には向かなかったのかもしれません。あるいは、田舎っぽいイメージがあって好まれなかったのか、あるいは、ただ単に、あまり知られていなかったのか。

 それが、こちらにきたら、あっちにもこっちにも咲いていて、それが、なんともエキゾチックで風情のある光景に見えて、『うわあ、何なんだ、このすごい花! こんなの、見たことない!』という感じで、びっくりしました。

 そのうえ、ノウゼンカズラの咲く家は、わりと、古くからある地元のお屋敷に多いのです。そのために、この花は、私の中で『海辺の田舎町の花』というイメージを獲得し、ますます、なんだか懐かしい気分を誘う花になりました。
 はじめて見たのに『懐かしい』というのもヘンですが、それは、私にとって、ちょうど、『田舎のおばあちゃんち』というものが懐かしいという気持ちと同じです。
 私の父は東京育ちで、実家は東京(しかも、歩いて行ける隣町)だし、母方の実家は、地方ではありましたが、繁華街近くのマンションの一室だったので、私には、いわゆる『田舎』というものがなかったのですが、『大黒柱や縁側やトウモロコシ畑のある田舎のおばあちゃんち』という紋切り型のイメージはしっかり心の中にあって、実際には体験していないものなのに、ノスタルジーという感覚と、しっかりセットになっているのです。

 そんなわけで、千葉に越してきて最初の夏いらい、ノウゼンカズラは、私の憧れの花でした。
 でも、とても大きくなる蔓草なので、アパート住まいでは栽培できません。
 だから、庭付きの家に引っ越したときには、喜び勇んで庭に植えました。
 それが、植え場所の設定を誤って、手入れを怠ったら、今では家の屋根まで這い登ってしまい、花が咲いてるときはそれなりにきれいだけど、咲いてないときは、家が廃屋に見えます(^_^;)
 家が傷むので(すでに、網戸に気根が食い込んでて無理にむしりとると網戸が破れるので網戸を動かせなくなってたり、それどころか、窓が開かなくなったり閉まらなくなったりと、被害甚大!)、何とかしないといけないのですが、もう、手のつけようがありません……(-_-;)

 まあいいや、花がきれいだから。気を取り直して、昔、作ってみた俳句(もどき)を。

*

 凌霄(のうぜん) の花より高く海光る

 凌霄の花の屋敷は誰が故郷

 凌霄や 海辺の町に居を定む

*

 雷(らい)近し 昼暗がりの 凌霄花 (のうぜんか)

 凌霄花 昼日中(ひるひなか) 来る鬼(モノ) もあり

 盂蘭盆会(うらぼんえ)  冥府は近し 凌霄花

(おや、最後の一句は、季語がダブってますね(^^ゞ しかもぶつ切りだし)



 ところで、うちのノウゼンカズラは、私の好きな、あの独特の、ちょっとぼやけたパステルオレンジではなく、赤に近い鮮やかな朱色で、花の形も、ちょっと違い、よその家のより、さらにトロピカルな雰囲気です。
 本当は、そこらでよく見かけるオレンジのやつがほしかったのに、通販で苗を買ったら、ちょっと違う品種だったらしいのです。オレンジのが欲しければ、近所の家からシュートをわけてもらわないといけなかったようです。

 でも、この、赤いノウゼンカズラの花には、なぜか、よく、黒いアゲハチョウが来るのです。
 赤い花に黒い蝶が来て、飛びながら蜜を吸っている光景は、何やら、やけにトロピカルで、それはそれで心惹かれる風情があります。なんか、『亜熱帯だなあ』という感じで、エキゾチックで楽しいです。



今月の面白探し

今月も、我が家の勘違い会話集です。
★夫:「ちょっと、フライパン取って」
 私:「えっ、白井さんって誰?」

★夫:「テレビで『サラリーマン早調べクイズ』を見てたらさあ……」
  息子:「えっ? 『空耳マン』?」<……それって、お前のことでは……?(^_^;)

★夫:「梅干って体にいいんだよね !」
  私:「えっ、カレーに梅干、入れるの!?」<『梅干ってカレーに入れるんだよね 』と聞こえた(^_^;)

★夫(洗濯物が多すぎて一度に干せなかった日に):「洗濯物、第一弾 、干してくるね」
  私:「えっ、バイチマン?(←学生時代に教えを受けた外国人教員の名前です)」
  夫:「えっ、大地まお?」

★夫がテレビのニュースを音だけ聞いていると、『大忙しで 松の伐採が行われました』と聞こえました。
  (何でそんなに忙しく松を切らないといけないんだろう。台風でも近づいてて、その前に伐りたかったのか?)と思いつつ、画面を見ると、『 大磯町で松の伐採』というテロップが……(^_^;)



読書録

『橋の下のこどもたち』 ナタリー・サベッジ・カールソン作(フェリシモ出版)
 古い児童書の名著の復刊です。1959年のニューベリーオナー賞作品だそうです。フェリシモ出版って、意外と、復刊中心にいろいろ良いものを出してるんですよね。出版が本業じゃなく、他分野で収益をあげている会社の文化事業的な出版活動だからこそ、採算度外視で、じっくりと良いものが出せるということなのでしょうか。

 で、この作品、ホームレスのおじいさんと家を失った子供たちのふれあいの物語なんですが、この、古き良き時代のパリのホームレスさん、なんだか、やけに楽しそうなんですよね。

 だって、『やどなしのアルマンじいさんは、もちものを、ぜんぶ、ほろのはずれた、うば車につみこんで、手で押して歩きました。家賃や、どろぼうのしんぱいは、いりません。……(略)……スーツケースもいらないし、クリーニング屋にも用はありません。ひとつのねぐらから、べつのねぐらに、ひっこしをするのも、かんたんです。』なんていわれたら、(あれ、その暮らしって、何か、良くない? 私もちょっと試してみたいかも?)なんて錯覚に陥りません?

 もちろん、いくら古き良きパリだからといって、現実はそんなに甘いわけないんだけど、『アルマンじいさんは、ふんふんと鼻歌をうたいながら、うば車をおして、ノートルダム大聖堂のそばの花市場までやってきました。……花市場の屋台には、どの店の前にも、かわいらしいヒヤシンスやチューリップのはちがならんでいました。』なんて書かれると、なんだか、ちょっとおしゃれで、心豊かな感じがして。

 ものごいだって、プランタンデパートの前で子供たちに歌を歌わせて帽子にお金を入れてもらい、そのお金で買うのは、屋台のクレープですよ。で、クレープを、飼い犬にもわけてやる。
 寒くたって、おなかがすいてたって、悠然たるものです。

 友達になるジプシーたちも、差別されているのなんかものともせずに、誇り高く楽しそう。
 植物園の木を伐ってクリスマスツリーにしちゃう話とか、警官が落とした財布を届けに来たのに、植物園の木のことで逮捕されると思い込んで逃げちゃう話とか、くすっと笑えます。

 現実は厳しいものだろうけど、時にはこんな、ほんわかと心温まるメルヘンもいいんじゃないかなと思います。

『八つの物語――思い出の子供たち』 フィリッパ・ピアス作(あすなろ書房)
 『トムは真夜中の庭で』などで有名な児童文学作家の短編集です。
 古い作品から新しいのまで、いろいろ。
 ここに描かれる子供の風景って、たぶん、英米の人にはすごく懐かしいものなんでしょうね。『ロープ』という作品に描かれる世界なんて、日本人にとっての、『田舎のおばあちゃんちでスイカやトウモロコシを食べて、土地の子供と川で泳ぐ夏休み』みたいな感じなんじゃないかな。
 離婚家庭の子供が離れて暮らす父親に会いに行く『まつぼっくり』という作品には泣きました(T-T)

『レディガンナーの大追跡(上・下)』茅田砂胡作(角川スニーカー文庫)
  多彩な半獣人たち目当てに読んでいるこのシリーズ、前回は哺乳類が少なくて残念だったのですが、今回は動物の種類が増えて、ライオンや狐も登場して楽しかったです(^^)
 蛇や鳥もいいけど、やっぱ哺乳類よね〜(*^_^*)

『黄金の羅針盤(ライラの冒険シリーズ1)』 P・プルマン作 (新潮社)
 そして、哺乳類といえば、この作品! なんたって、白くま!
 前々から、そのうち読もうと思っていた本なのですが、3部作が出そろったのと、以前の読書録で『動物キャラが好きだ』と騒いだときに相互リンク先 夢の湊 のゆめのみなとさんから白くまのイオレク・バーニソンを、きっと好みだろうと薦めていただいたのがきっかけで読み始めました。
 で、やっぱり、ゆめのさんお薦めのイオレクは、実に魅力的でした。

 表紙に白くまの絵がついていなければ、『鎧をつけた熊(アーマード・ベア)』って、実際に登場するまで、そう名乗ったり呼ばれたりしている人間の一種族、あるいはグループのことだと思うところですが(たとえば秘密結社の名前とか、特殊部隊の通称とか、スポーツチームの愛称とかみたいじゃありません?)、ちゃんと、本物の白くまなんですよ。

 といっても、ファンタジーの世界なので、熊は熊でも、名前どおり、みんな鎧を着ているし、口をきいたりお酒を飲んだり、そりの発着所で働いていたり、金属細工をしたり、岩で宮殿を建てて集団生活を営んでいたりする、人間みたいな熊たちなのですが、でも、決して着ぐるみ・ぬいぐるみのクマさんじゃないのです。
 言葉はしゃべるけど、ちゃんとしたケモノである熊――異質で荒々しく、人間のそれとは違う知恵と尊厳を持った、野生の獣なのです。ちゃんと、熊の臭いがするのです。
 プーさんみたいに蜂蜜とパンケーキやなんかで生きてるクマじゃなく、自分で狩ったアザラシの肉を食べます。決闘で倒した相手の熊の心臓も食べます(・・;)
 その、野獣の存在感。圧倒的な力強さ、重量感。

 いいです〜、イオレク。ただのクマじゃなくて『白くま』ってとこがまた、なんか神秘的で気高い感じ!

 ところで、この作品の魅力のひとつは、すべての人が一匹づつ持っている動物の姿の持ち霊(?)、『ダイモン』という設定です。
 一生を通じて一人の人間と固い絆で結ばれ、常に傍らにあって、いつも話し相手になってくれる、物言う動物。なんて素敵な設定でしょう!
 (ちなみに、『常に傍らにある』というのは、ただそばにいたいからいるだけじゃなく、性質上、離れることが不可能なのです。数メートル以上離れると、精神的にすごく負荷がかかって、気分が悪くなったり、パニックになったり、精神に変調をきたしてしまうのです。それほどまで一心同体なので、通常は、どちらか片方が死ぬと、もう片方も死んでしまうのです!)

 私だったら、ライオンか豹か虎の姿のダイモンが欲しい! いつも傍らにいて話相手になってくれ、夜も一緒に寝る、自分だけのライオン! うわあ、いいなあ!
 それがだめなら、大型犬か山猫、イオレクみたいな白くまもいいな、あ、馬もいいな、しかも、真っ白とか真っ黒のやつ。それもだめなら、普通の犬や猫、あるいは、小鳥、ハツカネズミ、リス、フェレットとなど、何か、肩に乗せて歩けるような小動物でもいいけど。

 でも、この、ダイモンというものは、持ち主が子供の時にはいろんな動物に自由に姿を変えられるけど、大人になると何かひとつの動物の姿に固定され、そしてその動物は、持ち主本人の性質・器に応じた
ものになるんだそうです。
 たとえば、主人公ライラの住む『学寮』の使用人たちのダイモンは、みんな犬です。しかも、執事など上級の使用人のは高級そうな犬種の犬で、下っ端のは雑種犬だったりします。
 (実は私、ちょっと疑問に思ったんですが、その人たちは、転職したり、独立して事業を起こしたりしても、ダイモンは『使用人階層』を象徴する犬のままなんですよね。この世界では、大人になると同時に、「この人は一生『使用人』という階層を生きる」と、定まってしまうのでしょうか。イギリスっぽい発想のような気がします)
 
 そういうわけで、ダイモンは、何でも自分の好みの動物を選べるわけではないのです。
 もともと定まった姿のないダイモンが、何の姿に定まるかは、その人の性質や職業しだい。船乗りさんのダイモンは、イルカやかもめに。ライオンを望んだのに犬を得てしまうこともある。そして、人はそれを本当の自分として受け入れなければならないのです。

 だったら、私のダイモンは、きっと、ハムスターあたりになってしまうと思います。
 私、自分にもっとも習性の近い動物って、ハムスターだと思うんです。
 どこが自分に似てるって、あの、トロいところ、鈍いところ、平和そうなところ、そのくせ慌てやすいところ、何でも溜め込むところ、目の前のひまわりの種しか目に入らない内向きで視野の狭いところ、狭いところで落ち着きたがるところ、周りのことなど我関せずとばかりにぼんやりもぞもぞマイペースなわりに、ちょっとつつかれるとすぐびっくりして飛び上がったりするところ、同じ遊びを飽きずに延々と繰り返すところ、等々……(^_^;)

 ウサギも、同じような理由で、ちょっと似てる気がしますが、でも、ウサギの場合、弱い分だけ用心深く、注意深く、口はもごもご動かしながらも耳だけはしっかり周囲を警戒してたりするはずなので、やっぱり私はハムスターです。
 ハムスターって、びくびくしてるわりに、ぜんぜん周りに目配りしてませんからね。
 目配り・警戒が出来てないからこそ、急に触られると、すごくびっくりして飛び上がるわけで。
 私もよく、背後から急に声をかけられたり、肩をたたかれたりすると、ものすごい勢いで飛び上がったり、反射的に悲鳴を上げたりするのです。それほど、いつも、ぼんやりしているので。

 そんなわけで、どうせ私には、ハムスターが分相応。
 いえ、ハムスター好きだから、いいですけどね。
 でも、自分がハムスターだからこそライオンに憧れるのです。

 ところで、この、ダイモンは、通常、その持ち主と異性の動物です。それって、何かすごく納得できる気がします。そのほうがバランスが取れそうというか……。
 自分と一つであると同時に自分と対になるものなのですね。いわば、自分の影のようなものでしょう。


 他に、アンソロジー『少女の空間』(徳間デュアル文庫)『百鬼夜翔シリーズ・闇に濡れる獣』 小川楽喜作(角川スニーカー文庫) などを読みました。



お気に入りオンライン小説感想録

 今回は、以前取り上げさせていただいた『汎神族・神々は記憶の海に沈む』の続編『汎神族・約束の刻にあらがう者たち』です! ……が、今回は、作品の感想というより、ただのキャラ萌え話です(^^ゞ

 前作に比べ、設定や物語の輪郭がくっきりして、とってもわかりやすく親しみやすくなったこの続編ですが、それにもかかわらず、圧倒的な独創性や目を見張る奇想天外パワーはまったく落ちてないのがすごい!

 そしてまた、テンションの高い独特の文体、隅々まで独創的な世界観、奇想天外な道具立てや不思議な魅力を振りまくキャラたちと、どこをとってもとにかく奇妙奇天烈・摩訶不思議(<ドラえもん?)でありながら、その中から非常に明快に浮かび上がってくるテーマは、実に普遍的。
 『愛とは』とか『命の重さとは』とか、『人は何のために生きるのか』『何のために戦うか』とか、普通の環境の中で言ったらあほくさくなってしまうようなことも、あの特殊な状況設定の中で語られると、すっと心にしみこんで、『人間の命は短いけれど、それでも一生懸命生きるって、やっぱりすごいことだよね』とか、『そうそう、愛って究極のえこひいきだよね』とか、思わず共感。

 特に魅力なのは、人によっては『個性豊か』などという範疇を超えて個性的な(しかも、人によっては『人』ですらない)キャラたち。
 たとえば、ビバリンガム(^^) なんなんだ、こいつは! という感じの、そりゃもうぶっ飛んだ、素っ頓狂なキャラで、面白いの面白くないのって、もう……(^O^)
 酒場での飲み比べのシーンは最高です!
 ぶっ飛んだといえば、マッドサイエンティストのローズベイブ女史も実に強烈。
 ヒロイン・カーベルの苛烈なまでの輝きはもちろん、脳天気なアリウス君に一生懸命なミロードちゃん、いかつい容貌の中に愛嬌を秘めたイシマ将軍、麗しくも不可解な神様たち、それぞれが実に魅力的。

 そして何より、今回、冬木、いきなりキャラ萌え!
 前にもちょっと書いたと思いますが、私、ほんとに、なかなかキャラ萌えしないのです。
 その冬木が、いきなり心を奪われた素敵なキャラは、ヒロイン・カーベルの『従属生物』である、灰色の怪人・インスフェロウ様!

 人並みはずれた巨体を灰色のローブに包み、下半分をマスクで覆った顔の上半分はフードの陰になって定かには見えず、闇の中に金色の目だけが炯炯と輝いていて、戦闘時には、ばっとマントを払いのけると、肩から数千本の腕(印肢)が展開して複雑な印を結び、強力呪法を繰り出す最強無敵の超戦士!
 うわあ、かっこいい! 特に、腕がいっぱいあるところが怪獣みたいでカッコいい!!

 しかも、普段は知的で穏和、人格高潔にしてお茶目、まじめにお勤めもしていて、料理上手でキレイ好きで、ジョークがオヤジでラズベリーパイが好物!
 笑うと、フードの陰の闇の中で、やさしく光る金色の目が三日月型に!
 番外編『秘薬のごときカレー』の中では、家の中でも相変わらずの怪しい灰色マント姿で、ダシをとった骨の山を傍らにカレーの鍋をかき回すという、なんとも奇怪かつ愛すべき姿も披露してくれるのです。

 そんな彼が、愛しいカーベルを守るためなら、唐突に容赦ない大暴力も振るっちゃう!
 そんなときには、フードの下で金色に輝く目が、下弦の月の形に吊り上って殺気を放射します!
 で、『ガーッ!!』とか吼えちゃいます!
 この、落差がいい!
 ふわあ、なんて素敵……。うっとり……。

 インスフェロウ本人の弁によると、彼は、人口二千人の島に住んでいながら、一千万人の人妻に恋い焦がれられているのだそうで、私は作者の志麻さんに、『インス様親衛隊員・人妻一千万一号』を名乗る許可を頂きました!(なんて迷惑な読者なんでしょ……(^^ゞ)
 誰か、『才能豊かで力強く、背が高くてハンサムで、ジョークと料理が最高で、しかも稼ぎがよくて姑がいない(本人談)』、人妻のアイドル、インス様の親衛隊に入って、一緒におっかけやりませんか? もちろん、人妻じゃなくても可(^^)


 さてここで、ついでに、ちょっと脱線して、『冬木の萌えキャラの系譜』をば、語らせてくださいませ。
 誰も聞かなくても語りたい!

 さっきも言ったように、冬木は、キャラ萌えしにくい性質です。
 それは、ひとつには、もともと、現実生活においても極端に惚れっぽさが少ない性格だからだと思います。今も昔も、めったに恋をしない――両思いになれないのではなく、そもそも恋愛感情自体をめったに抱かない――非・恋愛体質であり、その性質は、現実世界の男性に対してだけじゃなく、物語のキャラに対しても発揮されてしまうらしいのです。
 (これって、損な性質だと思います。だって、自分がつまらないじゃないですか。命短し、恋せよ乙女。現実の異性に対しても二次元のキャラに対しても、惚れっぽい人がうらやましい!)

 そして、もう一つの理由は、冬木の趣味が余りにも特殊なので、自分の好みのキャラに、なかなかめぐり合えないということです。

 だって、私がインスフェロウのどこにまず惹かれたかというと、『顔が見えない』ところで、実は、それが私の萌えポイントなのです。
 普通の人(?)にとっての『黒髪』とか『碧眼』とか『眼鏡』とか『長身』とかの、フェティッシュな『萌え』要素……それが、私の場合、『顔が無い・あるいは見えない、あるいは人間の顔じゃない』『肉体が無い・あるいは見えない・あるいは人間の体じゃない』、あるいは、それがもっと極端になって『とにかく人間じゃない』ことなのです!
 人間でさえなければ、もう、動物・半獣人・ロボット・サイボーグ・悪魔・妖怪・神様・宇宙人など、守備範囲は広いです。その中でも、特に、動物とロボット類に弱い(^^ゞ

 もちろん、そういう『記号』だけで萌えられるわけじゃなく、さらにそのキャラに類型を超えた独自の魅力が備わってなければ萌えられませんが、とにかく、まず第一印象でぱっと心引かれる要素がそれです。

 たとえば、私がこれまでの人生でもっとも胸をときめかせた、『歴代萌えキャラ』を並べてみましょう。
 初恋は小学校高学年のとき、『ナルニア国物語』 のアスラン。
 中学時代には『ドカベン』の殿馬君。
 それと平行して中学時代から高校生にかけて『銀河鉄道999』 の車掌さん。
 最近では、『グインサーガ』のグイン。
 そのほかにも、ちょっといいと思ったキャラはいろいろいますが(たとえば 『宇宙空母ギャラクティカ』の金色のロボット、ルシファーとか……)、本気で恋い焦がれたキャラは、だいたいこんなところです。

 このうち、殿馬君は、ちょっと系統が違うのでよけておいて、残りの三人(『人』じゃないのもいますが)。
 視点によっては、一見、ぜんぜん傾向のバラバラなキャラに見えるかもしれません。
 特に、アスランとグインは誰でも似てると思うだろうけど、車掌さんは違うように見えるんじゃ……。
 が、冬木の萌え視点から言うと、この三人は、みんな、はっきりと、同じ系統のキャラです。
 なぜかというと、彼らは、誰も、普通の人間の顔をしていないのです!
 それだけでなく、そのうち二人は、身体も普通の人間の身体ではありません。

 まず、アスランは、ライオンです。物言うライオン。顔も体も全部、動物です。

 それから、車掌さん。歴代萌えキャラたちの中でも、私がもっとも熱愛し、今でも恋焦がれ続けている方です。
 この人は、顔が見えません。制帽のつばの下、黒く影になった中で金色のつぶらな目だけが光ってます。ルックス的には、非常にインスフェロウに近いです。
 で、常に制服制帽姿なのですが、制服を脱ぐと、なんと、身体がありません!
 身体が無いといっても、少なくとも服の上からは普通に触れてるらしくて、鉄郎の腕を掴んでデッキに引っぱり上げたりしてるし、テレビ版では彼の入浴シーン(!)がありましたが、ちゃんと石鹸で身体を洗っていて(鼻歌を歌いながら^_^;)、身体に沿った位置に泡だけが描かれていたので、本当に実体がないわけではなく、いわば『透明人間』なのかもしれません。
 でも、たしか、映画の中で、本人が、ばっと制服の前を広げて、中の空っぽを見せながら、身体は捨てちゃったとか無くしちゃったとか、ニコニコと語ってた覚えが。
 だからやっぱり、普通の身体が透き通って見えなくなってるだけじゃなく、何かしら手で触れる形はあるけれど、普通の、生身の人間の肉体は備えていないのだと思います。
 制服制帽の下には肉体が無い。まさに究極の制服キャラです!

 で、グインは、頭が豹です。豹とライオンの違いはあれど、初恋のアスランに、ちょっと似てます。身体は、ただの逞しい人間だけど、頭が豹だからOK。言動の印象も、アスランに近いものがあります。

 また、この三人は、みんな、父性を感じさせるタイプです。
 父性と、非人間的な異質さを兼ね備え、かつ、『顔がない・または人間の顔じゃない』。さらに、身体も無かったり、人間の身体じゃなかったりすれば、なおステキ!
 (顔さえ無ければなんでもいいかというとそういうわけではないので、例えば『千と千尋』の『カオナシ』は駄目です!)
 そういえば、上の『読書録』で言及した白くまのイオレクも、あきらかに、この系統ですね。

  こうしてみると、やっぱり、私にとって、インスフェロウは、まさに自分の萌えの系列にしっかり連なる、どまんなかストレートに好みのタイプなのです!
 もう、『顔がない』だけで、初登場時から、『まあ、タイプだわ……(はぁと)』状態だったのが、話が進むにつれて、ますますどんどんハマっていく……。

 で、こういう、私の好みのタイプのキャラは、結構いろんな作品に出ることは出ますが、たいてい、悪役か端役です(自分の作品でも、このタイプを敵役で出してます)。
 まあ、悪役も好きですが、たまには、自分の好みのタイプのキャラが良い役をやるところも見てみたい。
 その点、この、『約束の刻にあらがう者たち』は、私にとって、ただ面白いだけじゃなく、そういう面で実に美味しい作品だったのです!
 だって、この作品は、自分たちの故郷を、生活を、人間としての生を、神に、定めにあらがって守ろうする人間たちの戦いの物語だけど、一方で、ヒロインのカーベルとインスフェロウの愛の物語でもあるのです。
 こんなに特殊な私の好みのタイプのキャラが、バリバリのヒーローとして大活躍するだけでなくヒロインと感動的なラブシーンを演じるだなんて、そんな美味しい小説には、めったに出会えません! なんてラッキー!

作品データ
タイトル   『汎神族2・約束の刻にあらがう者たち』
作者     志麻ケイイチ様
掲載サイト  時無草紙


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