カノープス通信 
2001年9月号−2

目次

季節の便り
今月の面白探し
夫は見た! 怪奇・ワラ人形の虫干し……?
♪マ〜ッチョ、マ〜ッチョ♪
読書録
(今月は谷甲州&水樹和佳子作『果てなき蒼氓』『山尾悠子作品集成』です)



季節の便り

  夕方、犬の散歩で山道(本当は『山』というほどの場所でもない のですが、うちではそのあたりを、他に言い表しようもなくて『山 のほう』と通称しているのです。片側が畑、片側が雑木林になって いる未舗装の小道です)を歩いていたら、道の真ん中を、セミの幼 虫が、のこのこ歩いていました。
 身体が少し薄緑になってて、きっと、明日の朝に羽化するやつな のです。普通は夜中に穴から出てきて明け方に羽化するものだと思 うのですが、ちょっと気が早くて、前の日の夕方から出てきちゃっ たんですね。
 これを連れて帰れば、明日の朝、きっと、羽化が見られるでしょ う。子供たちに見せてやりたい。
 でも、何も入れ物がないし、犬の散歩の途中だから、散歩の間中 、手で持って歩いて、何かの拍子に握りつぶしてもかわいそうだし…… 。
 で、あきらめました。
 次の日、同じ場所を通ると、道の脇の草の葉に、セミの抜け殻が 乗っていました。
 明るいうちから道の真ん中にのこのこ出てくるよ うな慌て者だから、ちょっと心配でしたが、無事に羽化していった んですね。


今月の面白探し

今月の勘違い・その1

 うちのまわりは畑が多いので、春から夏にかけて、風向き次第で牛糞がすごく臭うことがあります。
 で、最近、そのことが夫婦の間でよく話題になっていいました。
 そんなある日のこと。ふと新聞を見ると、「牛糞配合のリポビ○ンD 新発売」と書いてあるではありませんか。
 私は、一瞬、
(えっ、牛糞って身体にいいの?)とびっくりしましたが、よく見ると、実は『牛黄(ごおう)配合』の見間違いでした。ああ、びっくりした。 

今月の勘違い・その2

 冬木は、クレ−プ屋さんでパ−トしています。
 クレ−プにはいろんな種類がありますが、『アイスバナナチョコ』とか『フランクツナレタス』とか、入っている具材をずらずら並べた長いカタカナ名前がついていて、お年寄りには覚えにくいと思います。
 先日も、おばあさんが、ショ−ケ−スの前でしばらく悩んだ挙げ句、私に訊くのです。
「あのう……、娘に頼まれて買いに来たんだけど、うちの娘がいつも食べるのは、どれだったでしょうかねえ」
 ……悪いけど、さすがにそこまでは、私にはわかりかねます。
 で、あれでもない、これでもないと、しばらく二人で悩んだ挙げ句、娘さんに言われた中で何か一言でも覚えている単語がないかと、念のため、おばあさんにもう一度訊ねてみました。
「お嬢さんは、何ておっしゃいましたか?」
 すると、おばあさんは、迷わず答えてくれました。  
「はい、『えみこ』って言います」 
 ああ、おばあちゃん、なんて素直なの……。

毎度お馴染み・夫と私のとんちんかん会話集

私「あした、保育所に、三角巾、持たせなきゃ」
夫「えっ? 洗濯機持たせる?」
私「違うよ、誰もケンタッキ−なんて言ってないよ」

夫「今日のご飯、歯ごたえがあるね」
私「えっ、半導体がある?」

夫(謝るまでもないささいなことを謝った私に)「なんで謝るの?」
私「えっ? 『あんた山ネズミ』? どうして?」

私「『デリカメゾン(某社のワインの商標)』、買ったよ」
夫「えっ? つるかめ算?」


夫は見た! 怪奇・ワラ人形の虫干し……?

 …そうなんです。見たんですって。
 この話をするに当たって、まずは、1,2年前にオフラインのサ−クル会 誌に書いた文章を引用します。   
 先日、夫の個展を見に銀座に行ったんですが、画廊の近くに、『 五寸釘バ−・シジルの罠』という不気味な看板を見つけたんです。
 その時は母と一緒だったのですが、ふたりで、
「あれは何だろう、まさか、ストレス解消のために五寸釘を打たせ てくれるバ−? じゃあ、五寸釘と藁人形を店内で売ってて、白装 束とかろうそくとかもレンタルしてたりして……。まさかねえ」と 、あれこれ想像して笑いながら帰ってきて、後で夫に、
「かくかくしかじかの看板があってね……」と話すと、
「あ、それ、知ってる」と夫。
 実は夫も、その看板に注目して、画廊のご主人に、
「あの店、何?」と聞いてみたのだそうです。そうしたら、本当に 店内で五寸釘を打たせてくれるバ−なんだと言われたそうです。世 の中にはいろんなお店があるものですねえ。

 ……というわけなんですが、先日、夫が、また、天気の良い日の昼間にその店の前を通ったら、店の前にいろんなものを出して日に当てており、その中に、ワラ人形があったのだそうです。呪いのワラ人形を明るい太陽の下でからっと天日干しって……、なんかヘン?
 そして、今、また、その店について、新しい情報が……!
 何と、先日、この店が、テレビで取り上げられていたんだそうです(これも私は見てなくて、夫が見たんですが…)。
 それによると、この店は『ワン・ドリンク・ワン・藁人形』制で、OLに人気とのことです。店の前に干してあった大きいのは店のインテリア用で、お客さんには、ドリンクと一緒に小さいのを一体づつ出してくれて、釘が打てるんだそうです……(^_^;)


♪マ〜ッチョ、マ〜ッチョ♪

  夫とテレビを見ていたら、『露天風呂のお湯の中から、突然、マッチョな男性が大勢出てくる』というヘンなCMをやっていました。
 すると、夫が、
「俺、あの、こっちから○番目の人、『富○急ハイランド』の『♪マ〜ッチョ、マ〜ッチョ』のCMでジェットコ−タ−の前から二番めの向かって右側に乗ってた人じゃないかと思うんだけど」と言い出すのです。

 えっ!? なんでそんなことわかるの? びっくりです。
 私なんか、あんなに大勢いるマッチョさんたち一人一人の顔なんか、全く見分けられていません(そもそも見分けたいとも思わなかったけど……)。だって、CMなんて、あっという間じゃないですか。一人ずつ顔見る暇なんて、ないですよね。
 しかも、富○急のなんて、ジェットコ−スタ−に乗ってあっという間に通り過ぎていくだけなのに! 私なんて、あの人たち、前のほうの一、二組だけが本物で、あとはCG合成で同じ人たちをリピ−トしてるんだとばかり思ってました(うんと後ろの方は、実際、そうなんでしょうけど)。

 私は人の顔を覚えるのがすごく苦手なのですが、夫は、さすが画家だけあって人の顔かたちの特徴を捕らえるのは得意で、友人知人、芸能人、有名人は言うに及ばず、このあいだなど、エステのチラシの素人モデルさんを見て、
「この人は○年前から、ずっと、このチラシに出てる」と言い出すほど、分野にかかわらず、ありとあらゆる有名無名の人の顔を見覚えているのです。

 で、さらに驚いたことには、夫はまた、この『前から二番目のマッチョさん』について、
「某消費者金融のCMでモンゴル風の衣装の『イッシュウ・カ−ン』に扮しているのも、その人ではないか」と言うのです。
「その時は付けヒゲを付けてるから、顔がよく見えなくて、絶対とは言えないんだけど。右胸にホクロがあれば間違いなくあの人なんだけど、ちょうどその位置に首飾りをしていて見えないんだよね」と。

 付けヒゲして頓狂な衣装で変装してても、その人だとわかるなんて、よっぽどのことですよね。しかも、『右胸のホクロ』だなんて、よくそんな細かいところまで観察してるものです。
 だって、あんな、同じような半裸のマッチョさんが、あんなに大勢、ジェットコ−スタ−に乗ってあっという間に過ぎていくんですよ。別に、ビデオにとって何度も繰り返し見たわけじゃないでしょうに……って、はッ、まさか……!?
 もし、夫があのCMをビデオに撮って夜中になんども繰り返し見て、ホクロの位置などチェックしてたりしたら、ちょっと怖いかも……。
(そんなことしてないよ〜!という夫の抗議が聞こえそう)

 それにしても、もし、本当にその三つのCMのマッチョさんが同一人物なら、同じ時期に三つもCMに出てるなんて、彼、名は知られぬまでも、実は隠れた売れっ子ですよね。ひそかにファンクラブとか、あったりして?


読書録

 私が最近、行き当たりばったりにたまたま読んだ本の感想を、自分の備忘録を兼ねてだらだら綴る、いいかげんな『行き当たりばったり読書録』(?)、第二弾です。

谷甲州&水樹和佳子作『果てなき蒼氓』(早川書房)
 水樹先生の華麗なイラストに飾られた、なんとも美しいSF絵物語。
 故郷を失って果てなき蒼氓(そうぼう)を彷徨う孤独なさすらい人たちの、幾世代にもわたる長く苦しい旅−−。ばりばりのハ−ドSF(なのかな? よくわからないのですが…)でありながら切なく美しく幻想的で、神々しいイラストとあいまって、何やら宗教的な荘厳ささえ漂わせています。
 世代を越えて繰り返し巡り合い続ける戦士と巫女、光の柱に支えられた平面世界、星明かりで植物が育つ昼のない星、高速の巨鳥に乗って星の海を渡る少女、翼のある少年、歌う草、宇宙に飛び立つ種子、虚空を渡る翼龍の群れなど、不思議で美しいイメ−ジに満ちた物語なのですが、おもしろいのは、巻末に各話ごとの科学的背景の解説がついていることです。
 これを読むと、本文だけ読んだ時は、梵語っぽい固有名詞のせいもあって、ひたすら神秘的で、何やら意味ありげな暗喩のような印象だったさまざまの現象が、「ああ、なるほど、そういうことだったのか!」と、納得できるのです。この、『なるほど!』が、また、快感なのです。
 こういう解説は、一歩間違えば無粋で蛇足なだけでしょうが、この本の場合、それで本編の暗示的な美しさや幻想性、不思議さ、神秘性などが損なわれることはなく、同時に知的な感興も味わえて、解説を読む前と読んだ後、一粒で二度おいしいのです。おもしろい試みだと思いました。

『山尾悠子作品集成』(国書刊行会)、やっぱり良かったです〜(はぁと)。ため息ものの一冊です。
 でも、あえて他人には薦めませんけど(^_^;)
 かなり趣味性が強いというか、マニアックな、オタクチックな本です。好きな人はすごく好きだけど、好きでない人には「なんじゃこりゃ?」っていう……(^_^;) 
 私、シンガーソングライターの谷山浩子さん、好きなんですけど、ふと、部分的に谷山浩子と一脈通じる感覚があるかなーと思いました。マニア受けするオタッキーなところが……というのもありますが(^_^;)、「ファンタジア領」や「蝕」などに顕著な、あの、破滅的な狂躁感、妙に賑々しく浮かれた終末風景には、谷山浩子の一部の曲(『てんぷら☆さんらいず』・『楽園のリンゴ売り』系統の……なんて言っても、わかる人、少ないでしょうね^_^;)に通じるものがあるな、と。(でも、私は、谷山浩子のも、山尾悠子のも、そういう賑やかタイプより、しっとりしたタイプのほうが好みですけど。)
 そして、シュールさ、ブラックさと透明感の共存。
 『世界は言葉で出来ている』という『言葉』へのコダワリも、『♪ステキなモノよりステキなコトバよ コトバが好きよ♪』と歌った谷山浩子と相通じるんじゃないでしょうか。
 まあ、それはともかく、精緻にして絢爛豪華な言葉の綴れ織、たっぷり堪能しました。
 「童話・支那風小夜曲集」とか、「掌編集・綴れ織」、「破壊王」が特に好きでした。
 でも、ああいう、掌編向きのきらきらしい文章は、やっぱり一度にたくさん読むものじゃないですね。
 収録された作品は、ほぼ十年にわたって書かれたものだそうですが、だったら読むほうも、時々出る新刊を首を長くして待ち焦がれながら十年かけて読むのがふさわしいのでしょう。
 私は、ちょっと出遅れて、彼女の作品をリアルタイムで待ち望んで読む幸運は逃したから、せめて、あの本を、図書館で借りないで自分で買って、時間をかけて少しづつ読みたかったです。ああ、貧乏のバカ野郎(T-T) 誰か私に金をくれ〜! 


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