★長編連載ファンタジー★
 イルファーラン物語・あらすじ(1-2)
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 <第一章 エレオドラの虹・後半あらすじ> 

<その2 第八場から第十四場まで>

 里菜がイルファーランに来て一月ほどたった、ある日。里菜とアルファードが羊を放牧していた牧場に、ドラゴンが飛来した。アルファードは、里菜に羊の群れを任せ、剣を取ってドラゴンに立ち向かった。
 ところが、彼が苦戦していると見た里菜は、隠れていろというアルファードの言いつけを破って、無謀にも加勢に飛び出してしまう。

 里菜をかばおうとして窮地に陥ったアルファードを助けたのは牧羊犬ミュシカだった。アルファードは、背中に軽い火傷を負ったものの、ミュシカの加勢でドラゴンを斃した。その後、アルファードは、言いつけを守らず飛び出してきたことで里菜をきつく叱ってしまい、そのことを深く後悔する。

 その夕方、ローイの采配により、アルファードの家で、おくればせながらの里菜の歓迎会を兼ねて、ドラゴン退治の祝賀会が開かれた。
 その日、里菜は、はじめて、これまで親しく接する機会が少なかった自警団の若者たちや村の同年代の娘たちと仲良くなり、楽しい時をすごした。牧場で叱られてからアルファードとの間にあった微妙なわだかまりも、ローイの仲立ちもあって解消された。
 また、その席で、里菜は、ローイとヴィーレが元許婚どうしであったことを知った。親同士の決めた許婚とはいえ幼い頃から仲がよかった二人だが、思春期になって、親の決めた縁組への反発などから、婚約を解消してしまったらしい。

 その夜、里菜は、奇妙な夢を見た。自らを『魔王』と名乗る顔の見えない黒衣の男が、里菜を『エレオドリーナ』と呼んで、自分の花嫁であると主張し、自分の城のある北の荒野に来いと招く夢である。
 夢の中で、里菜は、『魔王』の振るう大鎌の輝きにわけもわからず魅了され、夢の中を流れる川の向こうに馬で連れ去られかけるが、すんでのところで正気を取り戻し、此岸に立ち帰る。

 翌朝、アルファードは、里菜の手首に、それまで無かったはずの黒い痣を見つける。それは、この世界で<魔王の刻印>と呼ばれているものに酷似していた。

 <魔王の刻印>とは、この世界に出没する『魔物』に触れられた痕である。
 灰色の影のような姿の『魔物』たちは、以前からこの世界に潜んでいたが、これまでは、あまり人前に姿を現すことは無かった。それが、ここ数年、突如、北部を中心にひそやかに跳梁跋扈しはじめ、都にまで出没するようになって、人々を恐慌に陥れている。
 魔物たちは、人間に直接身体的危害を加えることは無い。ただ、夜の闇にまぎれて、人の手首や肩などを軽く掴んでいくだけである。が、魔物に掴まれた箇所には黒い痣が出来、その痣を得たものは、必ず絶望に取り憑かれて、その多くは、自ら命を絶ったり、廃人となったりするという――。

 里菜の手首に突然現れた痣は、ちょうど、夢の中で黒衣の魔王に掴まれた箇所だった。
 けれど、里菜は、夢の中で魔王と向き合ったときに自分が感じた不思議な陶酔に後ろめたさを覚えていたために、その朝の奇妙な夢を、アルファードに話すことが出来なかった。里菜は、その痣を、元からあった古い傷跡であると主張してごまかす。

 里菜は、この日、初めて、これまで楽しいばかりだと信じていたこの世界の影の部分をアルファードからいろいろと聞かされる。
 ドラゴンの飛来が増えていること。近在に山賊が出没すること。
 そして『魔王』と魔物のこと。
 『魔王』は、現在この世界を脅かしている魔物たちの主人と目される、伝説の存在である。黒衣を纏っているという以外は謎に包まれた存在で、北の荒野に住んでいるといわれており、北の荒野は、昔から、人間の立ち入ることの出来ない『結界』になっている。
 現在、この国の北部は、魔物の侵攻によってすっかり荒廃し、北部から大量の避難民が流入した都も混乱に陥っているらしいという。

 それらの事情のほかに、里菜は、アルファードが里菜の本名を『エレオドリーナ』だと思い込んでいたことを知る。エレオドリーナというのは、同名の女神にちなんだ、ごくありふれた女性名であり、リーナというのは、その名前の一般的な愛称だという。

 毎年晩秋には終わる羊の放牧は、この年、ドラゴンの襲来をきっかけに早めに打ち切りになり、里菜とアルファードは、毎日、村で過ごすようになった。
 アルファードは、毎日、村の共同作業や自警団の訓練に出かけるが、里菜の特殊な力が村人の仕事の邪魔になることを懸念して、それらの仕事に里菜を連れて行ってくれなかった。
 一人で留守番をする里菜のもとには、ローイが村の小さい子供たちを連れて遊びに来るようになり、里菜は、自然と、アルファードの家で託児所のような仕事をするようになった。

 そんなある日、それまでアルファードの言いつけを守って家の周りを離れずにいた里菜は、ローイに強引に誘われて、村の広場にパンを買いに出かけた。
 その広場で、里菜は、居合わせた老人たちから、思いがけない排斥を受ける。変わった髪や目の色を持つよそ者であり、魔法を消すという特殊な力を持つ里菜を、一部の老人たちは、彼女は女神の幼子であるとする司祭の言葉も聞かず、不吉な存在として恐れていたのだ。
 ローイは里菜を庇おうとして老人たちと口論するが、里菜はローイを制して、そのまま帰ろうとする。

 が、今度は、帰ろうとする里菜を、それまで黙っていた別の男が突然呼び止めた。病人らしい男は、里菜にナイフを差し出して、自分を殺してくれと懇願する。その場は、その男、ガイルの兄のとりなしで何事も無く納まるが、家に帰った里菜は、無断で出かけたことをアルファードに責められる。実は、アルファードは、里菜が一人で外出してこの種のトラブルにあうことを密かに危惧していたのだ。

 それからしばらくたったある日、近在の村にドラゴンが現れ、アルファードは、ローイを含む自警団を率いて救援に向かった。
 一人で留守番していた里菜は、薪を取りに庭に出たところを、突然、黒衣の女暗殺者に襲われるが、間一髪のところで帰宅したアルファードに助けられる。
 捕らえられて自刃した女は、近くのヴェズワルの森に巣くって山賊行為を働いている謎の宗教団体『タナティエル教団』のものだった。が、アルファードは、里菜の暗殺は教団の指示に拠るものではなく、麻薬に精神を侵されて狂信に取り憑かれた女の独断行動だろうと推測する。

 その夜、アルファードの家に、二人の従者を従えた黒衣の老人が訪れ、タナティエル教団の導師ゼルクィールと名乗る。彼らの話によると、ヴェズワルで山賊行為を働いている一派は、教団中枢から離反した新興勢力で、昼間の女もその一味であるという。また、彼ら自身はヴェズワルからではなく、古くからの教団本拠地であるシルドーリンから来たのだという。

 彼らは、隣室に隠れた里菜の存在をなぜか知っており、里菜のことを、彼らが『王』と呼んで崇めるタナート神――死者の王にして黄泉の支配者である、死を司る男神――の花嫁となるべく異世界から降臨した『女王』であると主張して、扉の向こうの里菜に、シルドーリンへの同行を呼びかける。彼らの主張によると、里菜こそが、神代の終焉以来眠り続けている彼らの『王』を目覚めさせ、彼と共に新しい世を治めるのだという。

 黙っていられなくなって隣室から出てきた里菜は、彼らに、自分が『魔王』の夢を見たこと明かし、『魔王』の花嫁になる気は一切無いと告げる。アルファードは、里菜の発言を受けて老人たちを追い返す。

 老人たちはおとなしく帰っていくが、既に『王』とめぐり合っているからには里菜はやがて自ら『王』の元に赴くだろうと言い残す。

 老人たちが去った後、アルファードは、これまで魔王の夢を見たことを隠していた里菜を問い詰める。里菜はアルファードに夢の内容を打ち明け、助言を請うが、さすがのアルファードも、夢の中の出来事では、どうすることもできない。ただ、夢の中の魔王の誘惑を退け続けろと助言するのみである。

 アルファードは里菜に、タナティエル教団について今まで知っていたことと、今回の老人たちとの会話で知りえたことを語る。彼らは、生命の女神エレオドリーナと並び立つ死の男神タナートを崇拝する古い教団であるが、どうやら、今では、死を司る死神ではあっても公正で正当な黄泉の支配者として古くから崇められているタナート神と、世界に絶望をもたらす邪悪な『魔王』を、何らかの形で同一視するに至っているらしい。

 これらを里菜に語った後、アルファードは、突然、里菜の手を取って、思いがけない提案をする。
 それは、一緒に軍隊に入らないかという、なんとも唐突な提案だった――。

――(第二章あらすじへ)――


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掲載サイト:カノープス通信
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