■先住民の街へ

もともと確固たる目的はなかった。たまたまメキシコ行きのエアチケットが空いていたので購入した。…そんな行き当たりばったりなところから私の旅は始まる。まあこれはいつものことなんだけどね。

私にとっては、初めての中米である。というか初めてのアメリカ大陸である。いつもアジアや中東ばかりだったのでたまにはいいかもしれない。でも周囲には、「メキシコに行く」と報告したら珍しがられた。やはり私はアジア旅行者のイメージが強いのだろうか。

メキシコは日本の5倍もの広い国土を持つ。短い旅程で観光をするなら、どこか1つにエリアを絞る必要がある。エアチケットがメキシコシティ行きということで、当初はシティに滞在しようかと思っていたのだが、メキシコのガイドブックを読んでみると、シティ滞在の怖さを思う存分に植えつけられた。

流しのタクシーに乗ったら強盗に遭うだとか、路線バスに乗ったら複数人の男にムリヤリ押さえつけられて財布をすられるだとか、またシティ全体が大気汚染がひどくて、長時間外出していると喉がやられてしまうだとか…こういう記事を頻繁に読まされていたので、だんだんとシティへの興味が薄まってしまった。なので、別の街(州)に移動して滞在することにしたのだ。

そこで選んだのが今回のオアハカである。オアハカ州の州都オアハカは、メキシコシティよりおよそ400km南東に位置し、先住民が多く住む街として有名だそうだ。オアハカには紀元前からサポテコ人やミステコ人と呼ばれる先住民が住み着いており、街の近くにはそのサポテコ人が築いたという世界遺産の遺跡もあるらしい。

治安もそれほど悪くはないらしく、また「先住民の街」という響きにも惹かれたので、オアハカに滞在することに決めたのである。


マーカーが付いている所がオアハカ
■ソカロ

メキシコシティからオアハカへは国内線の飛行機で1時間弱で行ける。そして空港からはコレクティーボと呼ばれる乗り合いタクシーを使うことで、街の中心部への移動が可能だ。

「先住民の街」と言えど大きな街だから、高層ビルなどがバンバン建っているのかと思いきや、走れども走れどもコレクティーボの車窓から見えてくるのは、2〜3階建ての古いコンクリートの建物ばかりだった。言ってみれば、「いなかだけどちょっと規模が大きいバージョン」という感じだろうか。でもこれが逆に、素朴な街という雰囲気が伝わってきていいものである。実はここにやって来るまで知らなかったのだが、このオアハカも街全体が世界遺産なのだそうだ。…なるほど、だから景観を損なわないように高い建物がないのだろう。

私は、ソカロと呼ばれる広場で降車した。このソカロが街の中心部であり、また私が滞在するにあたって基点となった場所である。地元の人の憩いの場所となっている。広場の周りにはオープンカフェが並び、地元の人や観光客が昼間から酒を飲んでいる。広場内も午睡を貪る人でいっぱいだった。メキシコはかつてスペイン領だったことから来る影響だろうか、そのスペイン文化のひとつであるシエスタは、このオアハカにもしっかりと根付いているようだ。なんとものんびりとした光景である。

オアハカに滞在するのなら、このソカロ近くのホテルに宿泊するのがおススメだ。夜遅くまでこのソカロにいた場合、その帰りに暗い夜道を歩く心配が要らないからだ。

カテドラル
■オアハカ歴史地区

ソカロの隣には、なるほど歴史地区だと思わせる、歴史のありそうなカテドラル(大聖堂)があった。これだけでなく、オアハカには歴史のありそうな古い建物が多く見かけられる。オアハカにスペイン人がやってきたのは16世紀ごろ。そこから18世紀末まで、スペインによる植民地時代が始まった。オアハカにはその時代に建てられた建造物が数多く残っているのだ。

ガイドブックでのオアハカの街の地図を見てみるとよく分かる。碁盤の目のように街路が形成されていて、中央にソカロ、そしてその近辺にカテドラルと市場が存在する。これはスペイン人による典型的な都市計画の手法だと言われており、オアハカに限らず、他の国のスペイン領だった街も同様の街並みが見れるらしい。



■サントドミンゴ教会

オアハカ歴史地区の象徴的な建物といわれているのが、このサントドミンゴ教会である。1575年からおよそ1世紀もの歳月をかけて建造されたそうだ。

中に入ると、その精巧な装飾に圧倒される。金箔が貼られた聖人の彫刻、その間には無数の宝石がちりばめられており、建築や芸術に興味のない人間でも、これを見ると溜息が出るだろう。

滞在中、この教会には複数回足を運んだ。オアハカは昼間は暑いため、私は観光の合間に休憩がてら教会で涼むようにしていたのだ。あるとき、この教会で結婚式をしていたところを訪問したことがある。他人の結婚式ではあるが、こういうお祝い事は、見ているとこちらまで気分が晴れ晴れしてくるものだ。こんな煌びやかな教会で式を挙げるだなんて、きっと感慨深いものがあるだろう。
■音楽

オアハカでは実にたくさんの音楽に触れることができた。音楽のおかげで街全体が陽気な雰囲気になっていて、旅人を心地よい気分にさせてくれる。いかにも「ラテンアメリカに来た!」という感じである。

滞在したソカロでは、トロンボーン、サックス、ビブラフォン、マンドリンなどを使った路上パフォーマンスの奏者が終日パフォーマンスをしている。なかにはアカペラで歌っている人もいた。またある日は、ソカロの真ん中にあるフリースペースで、どこぞの管弦楽団が合奏をしていた。そのまたある日は、カフェの近くでステージが急きょ組み立てられ、プロのボーカリストと思われる女性がライブコンサートをしていた。

とにかくジャンルを問わず、ここにいると身近に音楽を感じることができる。オープンカフェで酒を飲みながら、ライブをタダで見れるなんてなんとも得した気分だった。

ただし、中には喜捨を目的としてパフォーマンスしている者も多い。演奏後にその奏者は、必ずカフェの各テーブルを回ってお金をもらおうとする。私も同じパフォーマーから何度も喜捨を求められてちょっと困ってしまったが…。

■メルカド(市場)

オアハカには3つの大きな市場がある。廃線になった鉄道の線路沿いにあるアバストス中央市場、そしてソカロから南に下がったところにあるファレス市場とベインテ・デ・ノビエンブレ市場である。後者2つの市場は隣接している。

規模でいうと、アバストスの方が大きいが、個人的には後者のファレスの方が好きだ。食物、民芸品、日用品、簡易食堂などのいろいろな店がギュウギュウに詰まって並んでおり、雑多な感じがいかにも「庶民の」市場っぽさを感じさせてくれたからだ。

ここでお土産として、緑色のビーズで作られたリングを購入した。なんと2ペソ(20円)という安さだった。しかし一方で、よく似たようなビーズのリングが50ペソで売られていた。…何でこんなに値段が異なるのだろう? 市場での商品の相場はかなり適当のようだ。

この3つの市場以外にも、観光客向けの民芸品市場がある。とは言え、私が出向いたときには2〜3人くらいしか客がいなかった。あまり人気がないのだろうか。同様にそこでもお土産として、カラフルなポーチを購入した。ひょっとしたらオアハカに限らず、どこでも売ってそうな代物なのかもしれないけど…。

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