§4  ゆらゆらインド列車旅 (トリヴァンドラム)

目が覚めた時には、車両内の乗客の人数はすでにまばらになってました。どうやら早朝4時くらいに列車が大きな都市の駅に到着したらしく、そのときにたくさんの乗客が降りて行ったそうです。…えっ、早朝4時なんかに駅に着くの? それじゃあおちおち寝てられないでしょうが。インドの列車ダイヤってムチャクチャだなぁ…。

さて、昨夜バンガロールを出発して、今日の目的地であるケララ州の都市トリヴァンドラムまでは約700kmの距離。到着するのは午後3時ごろの予定です。…つまり今日の日程は、1日の半分以上を列車内で過ごすということになります。インドはホント広いですね。

日本でこんな長時間列車に揺られてたらそりゃ発狂するでしょうけど、今回はインドの列車。見るもの全てが新鮮なものであるので常に興味津々の状態です。いい機会なので、ここでインドの列車について少しばかりご紹介しましょう。

インドの列車はほとんどが長距離の特急列車です。そのため乗降客数も多く、1つの列車が20両以上の編成というのは当たり前、時には30両を超える巨大な編成列車もあります。座席のクラスの種類も豊富で、1等、2等の他に、エアコンつきかそうでないか、ベッドに変形できる座席かそれとも通常の座席か、またベッドであるとすれば2段ベッドか3段ベッドか…などなど、大別して7種類あります。ちなみに私たちが今乗っているのは、エアコン付きで3段ベッドのクラスです。できれば1等クラスに乗ってみたかったんですが、運賃がこのクラスの3倍もかかっちゃうみたいです(高っ!)。

一番クラスが最低なのは2等列車。エアコンなしで、座席の予約が唯一不要なクラスです(それ以外のクラスは全て指定席)。ここが一番混み合っていて常に賑わいを見せています。現地の人たちとの交流を望む旅行者はみんなこっちのクラスに乗るみたいですよ。…ただ、物理的に窮屈な空間の中で、10数時間も乗車してるのはやっぱりハードらしいですけどね。でもまあ、2等列車じゃないと交流ができないかといえばそうではなく、エアコンつきの中級クラスであっても現地の人たちで混み合っていることは多々あります。私もたくさんのインド人たちと言葉を交わす機会に恵まれました。

車内を探索していてなかなか興味深かったのがトイレです。日本のトイレは水洗ですが、こちらはいわゆるぼっとん便所です。どこにぼっとんするかというと…屋外なんです。実は便器の真下を覗いてみると、走っている線路が見えます。つまり、ここで出した汚物はそのまま線路の上に垂れ流されるということになるのです。あはは、こりゃ面白い。

ホントに線路の上に垂れ流しちゃって平気なのかと思ってしまいますが、インド列車の線路というのは、小さな村のそばであったり、市街地からずっと離れた高原のド真ん中であったりなど、人があまり多く住んでない所に敷設されているので、汚物を垂れ流すことに対してはそれほど咎められることではないようです。むしろ、自然の多い所に垂れ流すわけですから、自然に還るという意味では理にかなっているのかもしれません。…でももちろんながら、トイレを使用していいのは、列車が走っているときだけです。トイレのドアにも「停車中には用を足さないで」と貼り紙がしてあります。理由はお分かりですね? だってそうしないと、最悪、駅のプラットホーム近くに汚物が放置されることになっちゃいますから…。

列車の乗降口のドアは、常に開放状態になってます。ですから、走行している時でも身を外に乗り出して、前方から吹いてくる心地よい風を浴びることができます。これがまた清々しいんだよなー。また前述したように、インド列車の線路は自然が多い所に敷設されているので、きれいな自然の景色を頻繁に望むことができるのです。村の中を走るときには、現地の人たちの質素な生活風景も垣間見ることができます。村の人たちも列車を見つけると走って近づいてきて、にこやかに乗客に向かって手を振ってくれます。こちらが勝手ながらもカメラを構えると、みんながノッてくれてポーズをとり始めます。うわぁ、なんかすごくいい雰囲気だな〜っ! インドの車窓は見る者を飽きさせてくれませんネ。

  

  
世界の車窓から (インド・ケララ州編)

インドの列車にも日本と同様に車内販売があります。…と言っても、その多くは駅に停車している時だけに行われるもので、各駅のホームに待機していた売り子が列車内に乗り込んできて販売を始めるのです。窓越しで売ろうとする者もいます。売り物は食べ物が中心で、チャイやミルクコーヒーから始まり、チャパティやプーリのカレーとのセット、またビリヤニ(香辛料を加えた炊き込み御飯)、ワディ(豆と玉ねぎを混ぜたスパイシーなドーナツ)などもたくさんあります。個人的にはビリヤニとワディはすごく気に入りました。

さて、列車の紹介はこのへんにしておいて、現在の時刻は午後2時半くらいです。あと30分で到着だなぁと思ってまた外を眺めていると、どこかの駅に到着しました。まだ手前の駅だと思って油断してたら、看板にはトリヴァンドラムの文字が…。「えっ、もう着いたの!?」 3人とも慌てて荷物をまとめて下車です。なんだよー、時刻表には午後3時着って書いてたじゃねぇか。何で30分も早く着くんだオイ! ……インド列車はまだまだ信用のおけない乗り物のようですな。


トリヴァンドラムの街並み

駅を出た後は適当にホテルを選びチェックイン。荷物を置いてさっそく街中をぶらつきます。このトリヴァンドラムという街、ケララ州の州都であり、82万人もの人口を持つ西海岸の主要都市の一つです。18世紀以降はトラヴァンコール藩王国の都として栄えていました。しかし、これまでの主要都市とは何だかちょっと違うようです。確かに駅前や大通りなどでは、これまでの街同様、リキシャーやバスがけたたましく走っていますが、一旦通りから外れるとひっそりと静まり返っています。南部の土地ならではのヤシの木がざわざわと揺れている、そんな音がするだけです。州都とは思えない、何か穏やかなものを感じさせる街ですね。

街の中心部はマハトマ・ガンジー・ロードと呼ばれる大通りであり、その通りに沿って旧市街新市街に分かれてます。旧市街は当時の王国の中心部であり、この街の象徴と言われている寺院があるそうなので、そこへ観光に行ってみることにします。地図を頼りに、賑やかな大通りを通って1kmくらい歩きます。しばらくすると賑やかな雰囲気から一変、静かで厳かな雰囲気が漂ってくるようになりました。ヒンズー教の寺院であるパドマナーバスワーミ寺院に到着です。でかいですねー、この寺院。彫刻もきれいで細やかです。思わず見とれてしまいますよ。

  
パドマナーバスワーミ寺院

この寺院、実は外国人でも中に入れるらしいのですが、いろいろ規制があるみたいです。寺院の前でここの警備役みたいな連中が、寺院への入場料を執拗に求めてきます。また入場料を払ったとしても、正装に着替えなければいけないらしく、金を払って衣裳を借りなければなりません。………。何だかうっとうしいので入場はやむなく断念です(←何で寺院なのに金にこだわるんだろうね? それさえなけりゃいい所なのになぁ…)。まあでも中に入らなくても、寺院までの参道沿いにある沐浴池や、このあざやかな外部の彫刻を見ているだけでも十分満足できましたけどね。例のごとく、3人とも写真取りまくり。

さて、腹が空いてきたので夕食です。4日目にして、酒好きの3人はそろそろアルコールを摂取したくなってきたようです。というわけで飲みに行くことになりました。新市街にビアガーデンがあるらしいのでそこへ向かいます。

ビアガーデンは予想通り外国人の客だらけでした。インドは禁酒国ではないのですが、「酒はあまり飲まない方がいい」という風潮がまだ根強く残っています。でも少したしなむ程度ならいいだろうということで、私たちはインドの国産ビールで乾杯です。おお、なかなかおいしいじゃないか。それで、しばらくするとみんなほろ酔いに状態になってきて、気をよくしたA君は、料理を持ってくる店員さんたちに次々と声をかけ始めます。…すると偶然にも、日本人の知り合いをもつという店員さんと出会うことになりました。その方との会話はさらに弾んで弾んで、しまいにはその店のチーフらしき人までが私たちの談合に介入してくる始末……なんとも楽しいひとときでした。

午後10時ごろ、ビアガーデンを後にします。外に出てみると大通りでは全く車は走っておらず、静けさに満ちていました。涼しい風を浴びながら夜道を歩いてホテルに帰還です。…ところで、歩いていて気付いたんですが、この街(特に新市街)では大きくてきれいな一戸建て住宅が多いんですよ。どうやら裕福な人たちがたくさん住んでいるようですね。しかしながらそのすぐそばの汚い道の上では、ザコ寝して夜を過ごそうとする人たちの姿もたくさん見受けられるのです。…何だか、この国の貧富の差の現状をまざまざと見せつけられているようでした。


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