§3  混じり合う二つの宗教 (パナウティ、パタン、カトマンズ)

3日目は6時起床です。標高が高いせいか、朝はやっぱり冷えますね。上着3枚くらい着こんでてもまだ寒い。日本の冬の朝と一緒くらいです。でも朝食前にしばらく外を散歩してみることにします。ヒマラヤの朝焼けが見えるかなと思ったんですが……残念、また霧がかかっちゃってるゾ。私ったらホントに運が悪いようだ…。


霧に包まれたドゥリケルの朝

しかしながらすごく清々しい気分になれるよね、この朝の雰囲気。こういう気分ってのは、本来わざわざネパールに来なくても日本で味わえるものなのでしょうけど、異国に来ているという意識のせいでなぜか斬新なものに感じちゃいますな。…まあ、気持ちいいという感情に理屈なんかどうでもいいんですけどね。

さて、ホテルで朝食をとった後は観光の再開です。車に乗り込み、ドゥリケルからさらに南へ向かいます。さすがにここまで田舎に来ると舗装された道なんてのが少なくなってきますね。あたりを見回しても田んぼだらけです。10kmくらい進んでパナウティという町に到着です。ここはロシ河とプンガマティ河という2つの川が合流する所に作られた小さな町。ここもバクタプルと同様に世界遺産に指定された町で、美術的に優れたヒンズー教の寺院が建てられているのです。


パナウティの寺院群

しばらく見学していて気になったのが、世界遺産の寺院だというのに地元の子供達がその境内の上に堂々と座り込んでカードゲームをしてるんですよね。また寺院の近くに作られている神像も、お祈りの際に頻繁にさすられるため、かなり擦り減ってる状態なのです。思わず松木さんが「世界遺産の割には管理がズサンだなぁ」って言っちゃうほどでした。…でも私からすればこれが正解なのだろうと思いますね。世界遺産だからといって、現地の人々の生活に溶け込んでいない遺産なんかは全く無意味なんじゃないかなと思います。ひょっとしたらこういうことも含めて遺産に登録されたのかもしれないですな。

いろいろ寺院を巡った後は、パナウティの街並みを散策してみます。河に架かる吊り橋を渡ってバザールの方へ。ここも昨日の街みたいに、静かでのんびりとしていていい感じでした。

再び車に乗り込み次の町へ向かいます。これまではカトマンズからずーっと南東の方へ走ってきましたが、いよいよカトマンズ盆地の中心に戻ることになります。と言ってもまだカトマンズ市内へは行かずに、それよりもちょっとばかり南に位置するパタンという町に到着です。バクタプルに続くカトマンズ盆地三大古都のひとつです。


ダルバール広場というのは
パタンにもあった

ここも寺院が多い町ですが、どちらかというとヒンズー教よりは仏教の寺院の方が多いそうなんです。いろいろな寺院を見学してみましたが、素人の私から見てもこれはすごいっていう建築物がありました。それはマハボーダ寺院という仏教の寺院なのですが、その寺院の外壁が全て仏像の彫刻で埋め尽くされているのです。その数は一万体近くもあるらしいです。またこれが繊細できれいに彫られてるんですわ。「いい仕事してるなぁ」ってセリフはこういうときに使うんでしょうな。(場所が狭い上に、高さが30メートルもある塔みたいな寺院だったので、写真はちょっと無理でした)


いつ何時も礼拝が絶えない
(ここはヒンズー教の寺院)

しばらくこの町でショッピングを楽しむことにします。実はこのパタンという町はガイドさんの生まれ故郷だそうで、どの店が安くていい品物を置いているかを知り尽くしているとのこと。というわけでガイドさんのおすすめの店を教えてもらい、そこでおみやげを購入することにしました。松木さん夫婦はタンカ(曼陀羅が描かれたもの)などの高価なものを購入。私はお茶屋さんでネパール茶の葉っぱを購入です。やっぱり私には消耗品のおみやげが一番いいですな。100グラム120ルピーの小さなポーチに入ったお茶っ葉を2つゲット。 (旅行当時の為替:1ネパールルピー=1.6円)

さてまだまだ観光は続きます。続いてはカトマンズ盆地三大古都の最後の街、カトマンズ市。……ですがその前に昼食です。夕べと同じく、ガイドさんを含めて4人で市内のレストランへ。ネパールの食文化はインドだけでなくチベットからの影響も受けているようで、チベット料理もここでは日常の料理として扱われているようです。それでこのレストランはチベット料理の専門店。羊の肉や野菜が入ったチベット鍋、モモと呼ばれる蒸したギョーザ(シューマイ?)っぽいもの、チベット風そばなどを堪能です。日本人にもあった味付けですごいおいしかったですよ。

食後はカトマンズ市内の観光です。まずは市内の中心部からちょっと離れた、スワヤンブナートへ向かいます。小高い丘の上にポツンと佇む仏教の寺院です。これまでの仏教寺院と違うのはブッダの目が描かれたストゥーパ(仏塔)が存在するということ。明らかに日本の仏教寺院とは違うので新鮮でした。しかしここはメッチャ野性のサルが多いです。別名モンキーテンプルと呼ばれるだけのことはあるね。

なかなか興味深かったのが、この仏教の寺院のすぐ近くにヒンズー教の神像があるということ、そして明らかにヒンズー教であろうと思われる人が、このストゥーパにやって来ていたということです(おそらく公園の広場と同じ感覚で、時間つぶしに来ていたのでしょうけどね)。どうやらこの国は他の宗教に関して、それほど厳しい見解ってのは持ってないみたいですね。それ以上にもう2つの宗教がごちゃ混ぜになってる状態です。ほら、どっかの国では宗教間の対立とかいう醜い争いをしているじゃないですか。そういうのを聞くと、一方のこの国の人たちは、みんなゆとりのある信仰心を持っててすばらしいなーと思いますね。


スワヤンブナートのストゥーパ

次は市内の中心部へ。ここにもダルバール広場と呼ばれる所があるのでその周辺の寺院を見学しました。結局ダルバール広場と呼ばれるヒンズー教寺院の広場は、バクタプル、パタン、カトマンズにそれぞれ1つずつ存在するらしいです。でもカトマンズのダルバール広場は他とは違って派手な感じがしました。広場内のハヌマン・ドカと呼ばれる場所では、神像も結構派手な色で作られているのです。ちなみにヒンズー教ではシヴァと呼ばれる神が崇められているのですが、このシヴァ神、いくつもの姿に変身するらしく、時には破壊神と呼ばれる恐ろしい神にもなるらしいのです。その破壊神の像もあったのですが、やはり派手な色を使ってるため、どうもかわいらしい感じに見えちゃうんですよね。(だから恐怖の神でも崇められるのでしょうか?)


破壊神、カーラ・バイラブの像

続いてその破壊神像の近くにあるクマリの館へ入ります。ここは私が行ってみたかった場所のひとつでして、生き神である少女クマリが拝見できる所です。そうです、生きている女神様が見れるわけですよ。もちろん生きている神と言っても、元は生身の人間です。クマリは数年に1回の割合で、ネワール仏教の僧侶の家族の中から選ばれます。選出されて以降はこの館に住み、女神クマリの化身として崇拝される身となるわけです。そして初潮を迎えるとその任務を終え、新たに選出されたクマリと交代をするのです。それで、やはり神様に選ぶくらいですから、その選考基準も厳しいんですよ。頭がいい、血の汚れがない(今まで一度も出血をしたことがない)、身体的障害がない、活発な性格である、聖性がある、そしてもちろん美人である、といろいろあります。そういった厚い選考の壁を乗り越えたくらいだから、さぞかしクマリというのはすごいお方なんでしょうな。…ですから私も見てみたいなという気になったのですよ。

それでガイドさんが、クマリの家族に拝観料を支払って、我々観光客の前に姿を現してくれるよう仕向けてくれました。そしたら女神様が出てきてくれましたよ。おおーっ、確かにすげぇ美人!! 今彼女は13歳らしいですが、そんな年齢には見えないくらい大人びた感じですな。観光客の間から拍手が沸き起こってましたよ。でも当のクマリは、そんな拍手をもらおうがなんだろうが、ずーっと無愛想な表情をしてました。……ま、そりゃそうだ。観光客がやって来るたびに姿を見せないといけないんですからね。神様もラクじゃないよな…。

カトマンズの市内観光はとりあえずここで中断。しばらく自由時間をもらったのでまだ行ってない所をぶらついてみることにしました。ガイドさんは「ネパールの銀座」と呼ばれるらしいニューロードという所を勧めてくれたんですが、私としては庶民的なオールドバザールの方に興味があったのでそっちも行ってみることにしました。ちなみにガイドさんは「そこは人がいっぱいいすぎてイヤだ」と言ってましたけどね。…で、実際行ってみると、確かにすごい所です。車が通らない狭い道に店がズラーッと並んでおり、現地の人の数もいっぱいです。特にアサンと呼ばれる広場はもうビックリするくらいの活気に満ち溢れています。うわぁ、なんだかワクワクしてきたよ。やっぱり私には整然とした銀座よりも、ごちゃごちゃとしてる大衆の市場の方が向いてる気がするなぁ。

  
アサン・チョーク

2時間くらい歩いて自由行動の時間はここでストップ。このバザール、迷路みたいでとても短時間では回れませんな。続きは明日ということで、これから今日泊まるホテルへ向かいます。で、荷物を置いたあとはすぐ夕食です。

昼食はチベット料理でしたが、次は本場のネワール料理を頂けるということで、ガイドさんと近くのレストランへ行きます。ここでコースを注文したところ、しばらくすると定食みたいなのがでてきました。これがネパールの日常食と呼ばれるダルバートだそうです。普通のご飯(バート)に豆のスープ(ダル)がつき、さらに野菜のおかず(タルカリ)と漬物(アチャール)がセットにされているものです。で、ガイドさんが言うには、そのまま別々で食べてもよいが、豆のスープをご飯の上にかけて食べてみてもおいしいんだそうです。なるほど、食べ方はお隣のインドみたいにカレー感覚なんですな。でも私としては、豆のスープは辛さが薄いため、タルカリやアチャールをご飯の上にぶっかけて食べた方がおいしかったですね。もちろんネワール料理はダルバートだけでなく、豆とミンチ肉を混ぜて焼いたハンバーグみたいなものやら、水牛の肉を使った燻製やら、いろいろな食べ物がありました。…それにしても、ネパールはヒンズー教徒の多い国ですから牛肉はダメらしいですけど、水牛の肉だとOKのようですね。その区別がよく分からないぞ?

実はこのレストラン、毎晩民族舞踊のショーが行われるみたいで、私たちが来たときもやってました。あんまり興味なかったので、最初はちょっと敬遠してたんですが、なかにはダンスだけでなくコントみたいなショーもあって、そっちは意外と面白かったですね。結局全てのダンスが終了するまで鑑賞してしまい、ホテルに戻ったのはちょっと遅い時間になっちまいました。

以上で1泊2日にわたるツアーは終了したわけですが、まあなんとも濃厚なツアーでしたね。ネパール人の信仰の深さ、文化特性の違い、料理はおいしい、街中は排気ガスくさい、美人はちょっと少ないなぁ……などなど、いろいろネパールについて学ぶことができましたよ。


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