§6  美の骨頂 (イスファハン)

今日は9時ごろからダリさんと共に、イスファハンの市内観光に向かいます。再びエマーム広場へ。昨日は広場内やバーザールを散策しただけに留まったのですが、今回は入場チケットを購入して、実際にモスクや宮殿の中に入ってみることにします。

まずは広場の西側にある、政治の象徴アーリ・ガープ宮殿から入場です。これは7階建ての宮殿で、主に大王が広場で行われるイベントを観覧するために造られたものだそうです。この宮殿内のタイル装飾もなかなかきれいですが、この宮殿の造りで興味を惹かれたのは、タイルよりも木で作られた壁の方でした。この宮殿の6階には、かつて大王が音楽を楽しむために造られたといわれる音楽室があるのですが、ここの天井や壁が楽器の形にくりぬかれているのです。これは、天井や壁が音を吸収しやすくし、外に漏れないようにするための処置なのだそうです。…これってすごいと思わないですか? どのように設計したら音が吸収されやすいかの計算がすでに当時なされていたという技術的センス、そしてそれを楽器の形にくりぬくことで実現しようという芸術的センス、これは両方ともかなり評価が高いのではないでしょうか。


アーリ・ガープ宮殿の音楽室
(壁が楽器の形にくりぬかれている)

さて次はメインです。広場の南側にある宗教の象徴マスジェデ・エマーム(王のモスク)に入場してみます。ここははっきり言ってすごいです。何なんでしょうか、この美しさは!? まず入場する前の、エイヴァーンと呼ばれる入口の門の装飾に圧倒されます。特に天井部分は長時間見とれてしまいますな。


マスジェデ・エマームのエイヴァーンの天井部分
(これはすごい…)

実際に中に入ってみます。するとまた新たなエイヴァーンが建てられているのが発見できます。2つ目のエイヴァーンは1つ目のそれとは違う角度で建てられていました。聞くところによると、私がきれいな装飾だと言った1つ目のエイヴァーンは、エマーム広場の景観を良くするための芸術的理由のみで建てられたらしく、どうやらこの2つ目のエイヴァーンこそが、宗教的理由で建てられたものなんだそうです。これは聖地メッカの方向に向くように建てられているらしく、これが1つ目と違う角度で建っている理由のようです。


左が1つ目のエイヴァーン
右が角度の違う2つ目のエイヴァーン

2つ目のエイヴァーンを抜けて、奥の礼拝堂に入ってみます。すると、1つ目のエイヴァーンとはまた違った色でのタイル装飾が確認できます。こちらの壁・天井は計7色のタイルで造られているそうです。さっきから同じことばっかり言ってますが、やはりここもきれいでしたよ。

マスジェデ・エマームには、他のモスクと同様に玉ねぎ型のドームがあるのですが、こちらは現在タイルの貼り替え中でした。礼拝堂の付近で新しいタイル作りの作業現場があったので、しばらく見学させてもらうことにします。やはり、伝統というものを守っているからなのか、タイル作りは全て手作業で行ってました。50センチ四方のタイルのピースをあらかじめ作っておき、それらをロープなど使って上まで運んで貼り替えるという作業工程になってます。やはり手作業ですから、50センチ四方のピースを造るだけでも膨大な時間がかかるようです。どうやら全てのタイル貼り替えを完了するまでに数年かかるとか(そういえば、私が見たテレビ番組でもタイルの貼り替えをやってたな…)。でもやはり神様に関わる仕事だからこそ、手作りの方が意味があるのかもしれませんね。

ここで、ダリさんが私を礼拝堂の中央に呼び出しました。近づいてみると、ダリさんはおもむろに紙幣を取り出します。そして、紙幣を両サイドから手で引っ張って「パンッ」と音を鳴らします。するとどうでしょうか、その直後、数回にわたって「パンッ、パンッ、パンッ…」と、その紙幣の音が礼拝堂内にこだましたのです。ほ〜っ、これはまたすごい音響技術ですな。音響スピーカーが存在しなかった当時、礼拝の声が遠くにも聞こえるようにするために、音が反響しやすいように造られたのだとか。また当時の建築技術に脱帽させられました。


マスジェデ・エマームの中央礼拝堂
(7色のタイルが見事)


エマーム広場の東側にある
マスジェデ・シェイフ・ロトフ・オッラーの天井部分

しばらくダリさんと別れ、広いマスジェデ・エマームの中を一人でぶらついてみることにします。ここは現地の小学校の遠足の行き先になっているようで、10歳前後と思われる子供達が大勢いました。そして予想通り、私のような外国人を見つけると「ジャポニ、ジャポニ」と言いながら大勢でワァワァと寄って来て、あっという間に囲まれてしまいました。

収拾がつかずに困っていると、その子供達の先生と思われる男性がやって来たので、その人と話をすることにします。するとその先生は「私は彼らに英語を教えているんです。ここで会ったのもいい機会ですから、私とあなたが英会話をしている所を彼らに見せてあげたいのですがよろしいですか?」と言ってきます。…なぬっ? また昨日と同じパターンか? と思いましたが、だからといって断ることもできないので、また承諾することになります。

私と先生との英会話が、礼拝堂のド真ん中でスタートです。彼の質問に対して私が受け答えするという形式で会話は続いていきます。子供達の中には、まだ英語がそれほど分からない子もいるようで、私が答えた英語を、その先生がペルシャ語に翻訳して彼らに教えていきます。…なんだかアレだな、私ったら、日本の学校にやって来た外国人の英語の先生と同じ役割になっちゃってるなー。

英会話は当初の予想を越えて長々と10分くらい続きます。私も英語は得意ではないので、彼の発言を必死に聞き取りながらの応対となります。それで途中、彼がこんなことを聞いてきました。「おしんは見たことありますか?」。…おっと、全世界で放送されてるだけあって、やっぱり来ましたねこの質問が。どうやらイランでは4〜5年に1回のペースで再放送されるほどの人気なんだそうです(←イランの親日感情が強いのも、おそらくこのドラマの効果かもしれません)。日本人にとってはかなり古い作品なので私もあまり見たことはないのですが、とりあえず「あれは泣いちゃうよねぇ」と話を合わせておきました。

結局、モスクの見学は全然できずに、子供達との英会話講座だけで時間が経ってしまいました。…ま、終わってみれば、結構会話も長かったのでこれはこれでいい経験かなぁと思えましたけどね。彼らとお別れをして、ダリさんと再び合流、エマーム広場を後にします。そしてこのあとも、イスファハン市内および郊外のいろいろな観光スポットを見学しました。だいたい3ヶ所くらいまわったでしょうか。でも正直、あのエマーム広場の美しさを見せつけられた後だけに、ちょっと見応えが薄いなぁと感じちゃいましたけどね。

時間は経って夕方ごろ。今日の全ての観光が終わって、車でホテルに帰る途中、変わった路上のお店を見つけたので停車して車を降りてみることにします。周りが畑だらけで誰もいないという環境にもかかわらず、ポツンとこの店が1店だけ営業していました。じっくり見てみるとそこはなんと焼きトウモロコシ屋さんでした。おお、イランにもあるのか。近くの畑で収穫されたトウモロコシを炭焼きにし、車で通りかかる人向けに売っているようです。私も試しに1本買ってみることにしました。

日本だと、醤油を付けて味付けすることが多いですが、この店の場合は、十分に焼き上がった直後、いったん塩水に浸すことで味付けをするそうです。なるほど、塩がよくきいていて美味しいですね。


殺風景な場所で営業をしている焼きトウモロコシ屋さん

さて夕食をとる時間になったのですが、ここでダリさんがある提案を出します。「女性を呼んでみませんか」。……なるほど、いくらガイドとは言っても、さすがに毎度の男同士の食事には彼も抵抗を持ち始めたようです。もちろん私もです。「いいですよ、ぜひ呼びましょう」と快諾であります。

ダリさんが呼んだのは、かつて同じツアーオフィスで働いていたという20代くらいの女性で、とてもおきれいな方でした(しまった、名前忘れた)。彼女を含めて3人で、若い人に人気のあるというイスファハン郊外のファーストフードみたいな店で食事をとります。外国人が来るような場所ではないらしく、入店したとたんに店内の人からの注目を浴びます。席についてメニューを見ます。予想通り英語表記はなくて、ペルシャ語だらけでなんのこっちゃ分かりません。「これなんかおいしいですよ」とダリさんがメニューを指差します。「なんて書いてあるんですかコレ?」「ピザです」。……オイオイ、イランまで来てピザを食えってか。でもまぁ、最近はケバブやポロウが多い食事だったので、結局注文してみることしました。で、出されたものを食べると、「あっ、普通に美味い」。

そして食事中は、この女性との会話を楽しみました。女性が入るだけでこんなにも男性陣のテンションが上がるのかというくらいの盛り上がりでした。

食事を楽しんだ後は彼女やダリさんと別れ、私は一人でまたエマーム広場へ向かい、先日同様、展望チャイハネで最後のイランの夜を楽しんだのでした。ちなみに、今回の水タバコはオレンジ味だったのですが、いまいちオレンジの味がよく分かんなかった…。


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