§4  沙漠都市へ (パサルガダエ、ヤズド)

4日目は7時くらいに起床です。朝食をとろうとしてホテル内のレストランに入ると、そこには支配人らしき人がいました。こちらが「グッドモーニング」と挨拶をすると、むこうはペルシャ語での挨拶で返してきます。「ペルシャ語で挨拶をしたほうがいいよ」と言われ、急きょその場でペルシャ語の挨拶を教わることになります。

いろいろな挨拶を教わっていて気付いたのですが、ペルシャ語の発音って、なんだかフランス語に似ている気がしますね。フランス語を習ったことのある人なら分かると思いますが、例えばアルファベットの R を発音する時、単に「アール」と読むのではなく、「ル」の部分が巻き舌の発音になりますよね。あの巻き舌の発音が実はペルシャ語にも存在しているのです。ペルシャ語で「おはよう」は、「ソブ ベヘイル」と言いますが、この「へ」の部分が巻き舌の発音になってます。日本人にとってはやや難しい発音なので話すのに苦戦しますな。

朝食後はすぐにホテルをチェックアウト。さて今日は、シラーズを後にして次の街ヤズドに向かいます。ヤズドは、イラン国土の大半を占めるキャヴィール沙漠の一角にあります。沙漠の中のオアシス都市と呼ばれる場所です。シラーズからヤズドまでは約400kmの距離なのですが、車で移動するので、7時間もかかるらしいです。けっこうハードな移動ですが、まぁ、沙漠という珍しい車窓風景が見れるので、たぶん飽きないでしょうけどね。

でも長時間の移動はやはりしんどいだろうということで、ダリさんが、「ヤズドに向かう途中にあるスポットにも立ち寄ってみませんか」と提案をしてくれました。「そうですねぇ、行ってみたいですねぇ」ということで、シラーズから北へ1時間半ほど走ったところにあるパサルガダエに急きょ立ち寄ることになりました。ここは先日のペルセポリス遺跡と関係が深い所で、アケメネス朝を成立させたあのキュロス2世の墓や宮殿が残されています。王朝最初の首都として定められた場所でもあるそうです。

しばらくこのあたりを見学することにしますが、どうやらキュロス2世の墓はこのとき修復中でした。そして、王墓以外の遺跡は残念ながら風化・破損が進んでおり、ただの瓦礫の山という感じで、わざわざ遠くから足を運んで見にくるほどのものではないように思えてしまいました(もちろん残されていた部分に描かれていたレリーフはすばらしかったですが…)。

  
パサルガダエの遺跡群 (風化・破損が酷くてなんだかよく分からない)

「本当はもっと真剣に遺跡調査をすれば貴重な発掘物が現れるのかもしれません」と、ダリさんは、この殺風景なパサルガダエ遺跡の現状について話し始めます。「なのに、今のイラン政府ときたら、反政府的思想が生まれるかもしれないという理由で、昔の王朝を詳しく調べることを禁じているんです。そのためにずっとこの殺風景な状態が続いているんですよ。ひょっとしたら世界遺産的規模のものかもしれないのに……だからイラン政府はダメなんです」と、いつの間にか話はそれて、イラン政府の批判になってました。かつては、1979年のイラン革命に参加し、新しい政府(イスラム共和国)の成立を喜んでいたダリさんですが、今ではその政府も汚職にまみれた悪しき状態なんだそうで、何のためにあれだけ頑張っていたのかと嘆いていました。……うーむ……重い

さて、パサルガダエを後にした我々は、いよいよヤズドへ向かいます。車窓は一気に沙漠地帯に突入しました。あたり一面は、黄土色の土と石ころと、乾燥に強い植物が点々と生えているだけです。途中、峠みたい所も越えたのですが、ここで通った山の表面も、植物が一切生えておらず、地表がむき出しの状態になってます。なんだかすごい所にやってきたなぁという感じになりました。

7時間もの移動なので、途中で休憩を繰り返すことになります。休憩時間には木陰を見つけては、そこにゴザを敷いて座り、店で買ったフルーツをチャイと一緒に楽しみました。イランのフルーツってのは日本と同じくらいにおいしいですね。日本より安く手に入るので、価値としてはイランのほうが上かもしれません。細長い黄色い外皮のメロンをはじめ、姫りんご、ぶどう、桃、洋梨などを堪能しました。…でも、ドライバーを含めた大の男3人が、まるでピクニックのような行為をしているというのは、外から見ればかなり異様な光景だったかもしれませんな。


イランでは豆を売っている店も多い

昼食は砂漠の真ん中のドライブインでとることになります。…さて、これまでイランの食については述べていませんでしたが、イランの主食はナンが多いです。そしてメインディッシュとしては、ケバブポロウ(混ぜごはん)が挙げられます。またケバブの場合は、チェロウケバブと言って、バターライスの中にケバブが埋もれた形で出されることもあります。通常、中級以上のレストランでセットを頼めば、スープ、ナン、サラダ、ヨーグルト(無糖)、メインの順で出され、最後にチャイがついてきます。ナンに限っては、セットで頼まない場合でも勝手に出されます。

で、肝心の味なんですが、私が思うに、イランの食べ物(あくまで外食メニューの場合)というのは、日本人にとっては好き嫌いがはっきり分かれると思います。ケバブは単に肉を焼いたものですから、どの日本人にも合うのでしょうけど、ポロウの場合は、香草などが入る一部の種類だと受け入れられないかもしれません。またここで付いてくるヨーグルトは、日本のようなデザート感覚ではなく、ナンやケバブに付けるための調味料として扱われます。ヨーグルト付きのナンというのも、ひょっとしたら最初は抵抗を持つかもしれません(慣れるとおいしいですけどね)。ちなみに、私が最後まで受け入れられなかった料理はと言えば、スープですね。特にレモン汁入りスープ。これはさすがにダメでした。酸っぱい味しか残らないんだもん。

午後3時ごろ、ようやくヤズドに到着です。オアシス都市とは言ってますけど、かなりデカイ街のように感じます。でもテヘランほどの近代化はなく、昔の名残が今でもあるようでした。例えば、沙漠の街だけあって、水を供給するために作られた地下水路(ガナート)が今でも街中の各箇所に残されているみたいですね。

さっそく街中の観光にでかけることにします。まずはやっぱりモスクだろうということで、マスジェデ・ジャーメに向かいます。ヤズドのモスクはイラン国内では有名です。イランの中で一番高いメナーレ(礼拝を呼びかけるために使う塔)があるのです。おお〜っ、確かにこれは今まで見たモスクの中で一番大きな入口門ですね。おまけにきれいです。呼びかけの時にあんなところまで上るなんて結構大変そうですね。


イラン一の高さを誇る
マスジェデ・ジャーメのメナーレ

今日は礼拝の日ではないので、モスク内はすごく静かでした。そしてどうやら、このモスク下にもガナートが張り巡らされているみたいです。せっかくだから実際にその地下に潜入を試みてみます。普段は地下への階段は扉で閉ざされているみたいですが、このモスクの管理者と思しき青年にお願いして、扉を開けてもらいました。

扉を抜けて階段を下りていきます。さすがに地下に下りていくと涼しくなってきますね。というかちょっと肌寒いくらいです。今ではもう使われていないのですが、最深部にはなんとまだ水が残っていました。この地域の人たちは、こうやって水を蓄えて、厳しい沙漠の環境を永年乗り越えてきたんですね。なんだか感慨深いですなぁ。


地下へ続く階段 (下から撮影)


今は使われていない地下水路

さてモスクの後は次の見所へ行ってみることにします。

沈黙の塔。そもそもイランにイスラム教が普及したのは、1400年前にアラブ人がこの地を侵攻したのが原因であり、その侵攻を受ける前までは、ゾロアスター教という火・水・土を神聖視する宗教が主体でした。そしてこのヤズドという街は、ゾロアスター教の聖地としても名高いところでもあります。今でもこの街では、その宗教を信仰する人達が住んでいるらしいです。そしてヤズド郊外にある、沈黙の塔と呼ばれるこの石造りの塔は、ゾロアスター教徒の遺体を葬るために使われた場です。信仰の対象である火・水・土を汚すような火葬や土葬はせず、この塔の上で鳥葬によって故人を弔ったのだそうです。

…鳥葬ってすごいですよね。死体をハゲタカやカラスに食べさせて自然に還すということを、つい50年前までは実際に行っていたらしいですよ。現在では、ゾロアスター教徒も土葬をすることが義務化されたそうで、この塔はただの遺跡扱いになってしまったみたいですけどね。

どうやら塔の上まで登れるらしいので、せっかくだから行ってみることにします。塔には男性用と女性用があるのですが、私は女性用の方に登ってみました(暑いので比較的登るのが楽な方を選んだ)。頂上に辿り着くと、中央には穴がありました。ここに死体を置き、鳥が食べるのを家族はその近くで眺めるということをしていたようです。そしてどうやら教徒の間では、鳥葬の過程においても縁起担ぎをしていたらしく、もし鳥が左眼を先に食べたのならその人は悪い人間だったというレッテルを貼られ、逆に右眼を先に食べたのならその人は良い人間だったという扱いを受けたのだそうです。そして見事に鳥が右眼を先に食べてくれ、良い人間の扱いを受けたとき、家族は喜びながらこの塔の麓でお祭を挙げたそうです……葬式なのに。

  
沈黙の塔 (左が男性用鳥葬場、右が女性用鳥葬場)

女性用鳥葬場の頂上


頂上から見たヤズドの街並み

それにしてもこの沈黙の塔、雰囲気が抜群にいいですね。周りに何もないというこの殺風景さが、葬場という気味の悪さを助長させています。おまけに、私が立っているこの地面の下には、鳥葬が終了した後の骨が多数埋められているというんだから、さらにうす気味悪さが高まりますね。ここは来てみた価値がありました。

さて夕方になったので、ヤスドの観光はこれくらいにして、市内に戻ってホテルにチェックインします。ダリさんとドライバーさんと共に夕食をとった後は、ホテル前のチャイハネでまた水タバコに挑戦しました。今回はフルーツ味。昨日の失敗を教訓にしてゆっくり吸っていたので、今回は楽しめましたよ。


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