§3 イスラムの聖廟 | (シラーズ) |
夕方5時ごろ、再びダリさんと合流して観光の続きです。ここシラーズはバラの都、あるいは詩人の都という異名を持つだけあって、非常にきれいなスポットが多いんだそうです。確かに街中は他のアジア諸国を思い出させるような雰囲気ですが、一部スポットでは庭一面が花で埋め尽くされていたり、たくさんの植物が植樹されていたりといった光景が見れるそうです。かつてシラーズは、多王朝乱立時代に成立したザンド朝の首都になったことがあり、このときの大王の命により、美を意識した街づくりが行われたようです。 夕方からの観光では、そういった花に囲まれたきれいなスポットを巡ることになりました。訪れたのは、エラム庭園、サーディー廟、ハーフェズ廟など、観光名所として有名な場所です。イランでは、カラオケやクラブなどの遊び場が存在しないため、こういった場所が若い人たちの憩いの場、あるいはデートスポットとなっているようです。特に今は夏休みなので、都市部から帰省している若い男女でいっぱいでした。…ですから、40歳近くの中年ガイドと、精神年齢がオッサン並である私、この男2人がこんな華やかな場所を散策しているというのはなんだかちょっと変な感じでしたよ。明らかに浮いてました。
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エラム庭園
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ハーフェズ廟の地下にはチャイハネ(チャイが飲める喫茶店)があり、そこではなんと水タバコが吸えるらしいので、トライしてみることにします。水タバコというのはトルコで発祥した伝統的な嗜好品であり、現在は中東・北アフリカ全土に普及しています。普通のタバコと違うのは、タバコの葉にバナナ味、りんご味といったように香り付けがされているところです。普段タバコが吸えない人でも、これだと楽しむことができるそうです(もちろん吸い過ぎると咳込みますけど)。葉っぱの上に炭を置いて、その炭に点いている火で葉を燃やし、その煙を長いホース状の吸い口から吸います。下の瓶に溜められた水というのはフィルターの役目をしているらしいです。炭が消えない間は何十分も楽しむことができるそうですが、逆に吸い方がヘタだと、すぐに火が消えてしまうみたいです。
| 水タバコ
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ここで私が選んだのはりんご味の水タバコでした。ダリさんが「火が消えちゃうから早く吸って」と急かすので、早いペースで吸ってたら、吸いすぎて酸素が頭にまわらなくなり、普通のタバコのように頭がクラクラしてしまいました。「あ〜、頭イテェ」。…でもこの水タバコ、私はけっこうハマりそうです。本当にりんごの味がしておいしかったですし。ペースさえ守れば楽しめるでしょう。また明日も別のチャイハネで吸ってみようっと。 ところで、水タバコというのは、男性のみが使用を許されている嗜好品であり、本来は女性は吸っちゃいけないのですが、なぜかこのハーフェズ廟のチャイハネは女性も堂々と吸ってました。そしてなんと子供まで吸ってましたよ(またその吸い方が私よりもずっと上手です)。でもダリさんいわく、禁じられているというのはあくまで女性としてのマナーの範疇であり、別にそれを気にしないのであれば吸ってもお咎めがないんだそうです。なるほどねぇ…、でもそれは言いかえれば無礼者ってことじゃないか? そういえば、私はまだイランに来てから庶民の市場というのをまだ見ていませんでした。そこで今度は、市の中心にある市場、バーザーレ・ヴァキールを散策することします。我々が訪れた時はちょうど日没だったので、買い物客でいっぱいでした。毎回ながら、やっぱり市場っていいですねぇ。この活気がたまらないです。
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昼間は閑散としてるが… |
日没が近づくと、人が集まりだし… |
バーザール内は活気に満ち溢れる (ほとんどまっすぐ歩けない)
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このバーザール、規模は小さいですが、いろんな種類の店を見ることができ、見応えはありましたね。やはり店舗数が多かったのは、イランだけに絨毯の店でした。また、スカーフ専門の店が多かったというのもイラン独特でしたね。イスラム教を国教と定めているイラン政府の命により、女性は外出する時には必ずスカーフで髪を隠すことが義務付けられています。それが転じてか、スカーフもファッションの対象として受け入れられており、単に黒いスカーフだけでなく、花柄を主としたいろいろな柄のものが売られているのです。この店の前には若い女性客がいっぱいでした。きれいな女性もいっぱい発見できましたよ。 しばらく散策してると、バーザールの外れにハンコ屋さんを見つけました。聞くところによると、この店にはよく外国人観光客が訪れるらしく、イランに来た記念にペルシャ語で自分の名前が入ったハンコを作ってもらうらしいです。よーし、だったら私も記念に作ってもらおうっと。「イノウエ」という私の名前を店の人に伝えると、さっそく店の人がハンコを作ってくれます。イノウエをペルシャ文字で、しかもハンコだから表裏反対の文字を猛スピードで彫っていきます。さすが慣れてるだけあって速い! 彫った後はヤスリにかけるなどの諸作業をして、だいたい3分くらいで完成しました(20000リアル)。しかし、本当にこれって「イノウエ」と書いてあるんだろうか? あのぅ、ペルシャ語が読めないから確認が全然できないんですけど…。
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私のハンコを作ってくれている職人さん
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日も暮れて夜になり、いよいよ次はシャー・チェラーグ廟という、イスラムの聖廟に向かうことになります。ここはシラーズ観光の中で、私が一番行ってみたかったところです。実はイスラム教に触れるのはこれが初めてですからね。一体どんな光景がそこにはあるのか、興味津々です。 現場に到着したときには、聖廟はライトアップされていてとてもきれいでした。中に入ってみるとそこには中庭があり、たくさんの礼拝客がいました。通常のモスクとは違い、聖廟というのは言わば巡礼地みたいなものにあたります。ですから金曜日以外の日でも、このように教徒(ムスリム)が多数訪れるようです。
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ライトアップされたシャー・チェラーグ廟
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中庭をくるりと一周した後で、今度は実際に聖廟の内部に入ってみることにします。本来ここから先は異教徒は入れないはずなのですが、服装や言動などで無礼なことをしないのであれば、別に入っても構わないのだそうです。靴を脱ぎ、カメラを片付け、服装を整え、緊張しながら恐る恐る入ってみます。するとそこでは、いつぞやインドのヒンズー教寺院で見た光景と同じ光景が目に飛び込んできました。廟の中央には、預言者ムハンマドの後継者エマーム・レザーの弟といわれる棺が安置されているのですが、その棺に向かって涙を流しながら叫んでいる人、そして棺を取り囲む壁にキスをしている人がいました。別の部屋では、立ったり、しゃがんだり、手を合わせてうつ伏せになったりと、体をはって祈る人がいました。そしてまた別の部屋では、コーランの書かれた大きなプレートが壁にかけてあるのですが、そのプレートをずっと見つめながらその場を全く動こうとしない人がいました。さらに部屋と部屋をつなぐ通路では、ポケットサイズのコーランを自分のおでこに当てながら何やらボソボソとつぶやいてる子供までいました。
……はっきりいってすごい光景です。圧倒されます。なぜ人はここまで真剣に祈れるのでしょうか? いろんな国のいろんな宗教をこれまで見てきましたが、いまだにこの答えが分からずじまいなのが、私の情けないところですな。でも少なくとも、庶民の人たちにイスラムというものがかなり密接に関わっているのだということは十分に伝わりました。 ところで、イスラム教は大きく2つの宗派に分かれます。スンニー派とシーア派です。このうちイランではシーア派のムスリムが大多数を占めます。世界のムスリム人口全体から見ると、一方のスンニー派が大多数を占めるのですが、なぜかイランでは、その少数派のシーア派が盛んなのです。預言者ムハンマドの死後、後継者を誰にするかによってこの2つの宗派が分かれました。スンニー派は、ムスリムの総意に基づいて後継者を決めようという考え方であり、一方のシーア派は、ムハンマドと血縁関係のある者こそが後継者にふさわしいという考え方なんだそうです(でもどうやら今現在では後継者は存在しないということになっているらしいですけどね)。まぁしかし、いくら宗派が違うとか言われても、外国人の私から見ると全然区別がつきません。ダリさんいわく、「スンニー派とシーア派のいちばん簡単な見分け方はお祈りの仕方ですよ。立ってお祈りをする時、手を前に組むのがスンニー派、手を体の横に添えるのがシーア派です」だそうですが、ずっと立ってお祈りをしてる人なんていないので、結局は分からずじまいなんですけどネ。 宗教に疎い私ですから、非現実な光景を見たなぁという気持ちでその聖廟を後にすることになります。今日の観光はこれで終了です。濃い1日でしたなぁ。この後はダリさんと共にレストランで名物ケバブを食べて、ホテルに帰還です。
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