§1  言葉の壁 (上海)

約1年5ヶ月ぶりの海外、今回の行き先は中国です。まあ今回も特に明確な目的はありません。とりあえずどこか海外に行きたいなぁという漠然とした理由で、いろいろ航空券をアクセスしてたら、たまたま名古屋〜上海間の航空券が取れたので、そこに決定しただけの話です。ゴールデンウィークというピーク時期なのであまり期待してませんでしたが、ギリギリの時期でゲットできちゃいました。ラッキーでしたね。

上海行きのチケットが取れたということで、旅行前にいろいろ情報収集してみました。上海の有名観光スポット、その近郊の蘇州や杭州など、いろいろ興味を引くものがたくさんあります。そしてその中で私が一番興味を持ったのは、水郷古鎮と呼ばれる、水路で形成された街でした。どうやら歴史的に古い中国の街並みを見ることができるようです。ガイドブックに載ってる水郷の写真を見てるうちに行きたくなってきたので、ここに決定です。

水郷古鎮には、有名なものが6ヶ所ありますが、どこでもいいからとりあえず足を運んでみようと思います。6ヶ所すべてに行くつもりはなく、1ヶ所でも行ければそれでOKです。あえて言うならば、一番観光地化されていないと言われている、浙江省の西塘(シータン)という街には行っておきたいですね。で、残りの日は上海市内の街中を堪能するということにします。今回も前回の旅同様、ツアーではなく単独行動の旅です。ひさびさの海外で不安な面はありますけど、まあどうにかなるでしょ。

旅行当日、名古屋空港から日本航空の朝便に搭乗です。この便、連休だというのに、空席が結構ありました。名古屋発の朝便という利用しづらい路線だからでしょうか、それとも新型肺炎の影響?

約2時間のフライトで上海浦東国際空港に到着です。いやー、やっぱり移動時間が短いってのは楽チンでいいですよね。しかも入国もレバノンのときとは違い、あっさりと審査が通りましたよ。

…さて、まずどうしましょうか。1日目は上海でのんびりしてもいいのですが、どちらかというと古鎮を見たいという気持ちの方が強かったので、もういきなり西塘に向かうことにします。西塘は上海と浙江省の境あたりに位置し、上海の中心区からは約70kmくらいの距離だそうです。西塘へは、鉄道でいったん嘉善という街へ行き、そこからタクシーで向かったほうがよいということなので、とりあえずは鉄道の起点である上海駅に移動です。空港から上海駅行きの空港バスが出ているそうなので、銀行で中国の通貨「元」(旅行当時の為替:1元=約13円)に両替をしてから、それに乗車です。このバス、冷房がない上に、乗客ギュウギュウ詰めだったのですげぇ暑かったです…。

高速をしばらく走って上海駅に到着です。よし、チケットを買うぞ、と思って駅のエントランスのほうに行こうと思ったら…異様な光景が目に飛び込んできました。「なんなんだ、この人の数は!?」 まったくもって尋常ではない長ーい行列ができていました。確かに中国も日本と同様、黄金週と呼ばれる連休があります。そして今日は5月1日で連休の初日にあたる労働節(いわゆるメーデー)です。なので多少は混雑するだろうなぁと覚悟はしてたんですが、これは多少どころじゃないです。駅の入口にすら入れない状況であります。駅の前には広場みたいな場所があるのですが、そこも人、人、人だらけです。そして広場にいる人たちは、今日は切符は取れないとあきらめているのでしょう、荷物をいす代わりにしてグデーッと座っていたり、寝ていたりする人たちもいました。どうやら警察官も動員されているようで、広場内や駅入口近くで取締りを行っていました。


上海駅前の広場
(みんなあきらめてへたりこむ)

…あー、こらぁダメだ。絶対嘉善行きのチケットなんてとれねぇや。取れたとしても、今日は並ぶだけで一日が終わっちゃうなぁ。こちとら時間が限られているので、それは避けたいものです。

「じゃあ上海駅じゃなくて、上海南駅というところに行ってみるか。そっちの駅からも嘉善行きの鉄道が走ってるようだし」。というわけで次は上海南駅に向かうことにします。上海駅と上海南駅の間は地下鉄でつながってるらしいのでそれを利用しようと思い、駅近くの地下鉄出入口から乗り場へ向かったら、ここの切符売り場も激混みでした。窓口販売ではなく自販機のほうは比較的空いていたので、そっちを利用しようかと思ったら、どうやらこの自販機はコインしか使えないとのこと。しかも、隣にコイン両替機があるんですけど、「旧版の5元札、10元札しか使えません」みたいな張り紙が。…なんだよオレ新札しか持ってないから両替もできねぇじゃねぇか。なめてんのかオイ。

そんなわけで、地下鉄の利用もあきらめました。いやあ、来て早々こんな仕打ちを受けるとは思いませんでしたなぁ。仕方がないので、かなり高くつきますが、タクシーで直接、西塘に向かうことにします。上海駅地下のタクシー乗り場へ。さすがにタクシーはそれほど並んでませんでした。…しかし、何だか乗り方がよく分かりません。人の行列が2手に分かれているのです。どっちに並ぶんだろうかとウロウロしてたら、この場所の取締官みたいな人に「どこへ行くんだ」という感じで声をかけられました(←中国語で尋ねられたので実際に何を言ったかは不明)。言葉が通じないので、とりあえずガイドブックの西塘の写真を見せてみます。すると取締官は私が外国人と見抜いたのか、筆談で会話してきました。そしていろいろやり取りした結果、行ってくれるということで交渉成立です。よし、助かった。

その取締官は私を外に連れ出します。「え、ここで乗るんじゃないの?」。なんだかよく分からないですが、とりあえずついて行ってみます。しばらく歩くと、ワゴン車が見えてきて、これに乗れとか言い出します。…はっ? タクシーじゃないの? 言葉が分からず聞き返すこともできないまま、急かされてワゴン車に乗せられます。そして発車。…オイオイなんだよこの展開。何でワゴン車なの? 何だかすごく不安になってきた。いいカモだと思われて、変なところに連れてかれて、またさらに金とかせびられるんじゃねぇだろうなー。このドライバー、誰かと携帯電話で連絡取りながら同じところを行ったり来たりしてるし…。やばい、ちょっと怖い。

不安に駆られること15分後、なぜかワゴン車はまた上海駅に戻ってきました。…何でまた戻るんだ? ますます意味が分からん。すると、駅前では他の取締官と思われる人が他の乗客を連れて待っており、そのお客さん達がワゴン車に乗り込んで来ました。あー、なーんだ、このワゴン車、長距離用乗り合いタクシーの代わりか。考えてみればそうですよねぇ、今日は連休だから、私みたいにタクシーで観光場所に行こうとする中国人は多いはずですよね。きっと一度に乗せて運んじゃおうという魂胆なのでしょう。客が私一人じゃないと知って安堵であります。客を7、8人乗せ、ワゴン車は上海駅を再出発です。

…ところが、しばらく走ると、ある場所で私だけ降ろされました。その場所では、もうひとつ別のセダン型タクシーとそのドライバーが待機しており、私はそれに乗り換えるよう指示されます。なんだよぉ、やっぱり西塘に行くのは私一人だけなの? そうしてまた周りに流されるまま、私はそのタクシーに乗車させられたのでした。

セダンに乗り換えて出発。道路の看板と手持ちの地図を照らし合わせてみると、どうやら正しい方向に進んでるようです。で、しばらく走ると、途中で別の客が乗ってきました。…今度は何だよ? やっぱり、このタクシーって乗り合いなの? 理解不能のままタクシーはさらに西へ進みます。

1時間ほど走ると、車窓に映る光景が変わってきました。やはり上海市とはいっても、郊外までやって来ると農村地帯になるんですね。周りは田んぼばっかりになってきました。

さらに数十分後、浙江省に入ります。そこからしばらく走ると、また変な場所でドライバーは車を止めやがりました。ここで途中で乗ってきた客が私に向かって「西塘?」と尋ねてきました。そして私がうなずくと、そのドライバーと客が突然車を降り、大きな道路のところまで歩いていき、何かを探し始めました。何だ? 一体何やってるんだ? しばらくして、その客が探しているものを見つけたようです。なんとそれはタクシーでした。あー、読めたぞ! こいつら、またオレに新しいタクシーに乗り換えさせる気だ。この乗客、自分の目的地が西塘じゃないもんだからこんなことしてやがんだ。うわっ、私ったら、喋れなくて反抗できないことをいいことに、むこうの都合のいいように扱われてる…。

結局、また私はこれまで乗ってきたタクシーと別れ、新しいタクシーに乗せられてその場を出発です。「大丈夫かなぁ、この新しいドライバー、西塘の場所とか分かってるのかなぁ?」と、当初はまた心配しましたが、どうやらさっきの場所から西塘の街までは近かったようで、5分くらいで到着しました。

さらに街中を走って、ある地点で停車です。「この道を歩いていけば、お前のガイドブックに載っている場所まで行けるぞ」みたいなジェスチャーをされ、ここで車を降ろされます。ホントかよ…と思いながら、車を降りてその狭い道を歩いていくと……おお、ホントだ、私が求めていた水郷古鎮の光景が現れましたよ! よかった、言葉が通じないので一時はどうなることかと思いましたが、何とか無事に着くことができましたよ。

  
西塘水郷古鎮

とまぁこんな感じで中国の旅は、しょっぱなからテンションが上がったり下がったりというおかしな旅となりました。やっぱりアレですね、言葉の壁があるってのはかなりキツイですね。中国って結構英語が通じる場所なのかと思ったら、実際はそうでもないようです。最低限の中国語をちゃんと勉強してから中国に来るべきだったと、今さらながら反省です。今日から5日間、上海とその近郊を旅することになるわけですが、こんな状況が今後も続くだろうかと思うと、ちょっと気が滅入るかも…。


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