寝てれば治る?






腰痛などは寝ていれば良くなる、なんて思っている方はいませんか?
これは大きな間違いだと私は思っています。




腰痛に限らず、運動器系の疾患に対しては安静が第一だと考えられていて、
まず、患部を「休ませる事」が優先されます。
これに付いては、基本的には同意できます。
しかし、休ませる事が大事だからといって、それと「寝ていれば治る」ということは、
全くの別問題です。
(もちろん、放って置けば良くなる、というのもです)


当院にも時々来られますが、「寝ていると腰が痛くなる」と訴える方は
意外と多いのです。
これは腰痛に限ったことでは無く、他の関節頭痛などでも、「夜中に痛む」とか、
「寝過ぎると翌朝調子が悪い」などと言う方が少なくありません。
このような方々は皆、「動いているうちに、徐々に良くなってくる」と言います。


私自身も、頚部の痛みで一度同様の経験をしています。
ひどい頚部痛で、起きている時も殆んど首を動かせなかったのですが、
夜間が特に辛く、寝返りするたびに激痛で目が醒めるし、
起き上がるのがとにかく一苦労で、「夜が怖い」という程の思いをした事があります。
そんな時に「寝ていれば治るよ」なんて言われようものなら、
「冗談じゃない!寝られなくて困ってるんだ」などと言い返していたかもしれません。




身体にとっては、横になっている事が一番負担がかからない状態のはずなのに、
なぜこの状態で症状が現れたり、状態が悪化したりするのでしょう。
一般的な解釈では、夜間は副交感神経が優位になる為、痛みに対して過敏になる、
または、夜間は痛みに意識が集中する為、などの、神経生理学的な捉え方や、
姿勢による圧迫や関節肢位の影響から来る血行不良や神経障害、
あるいは内臓(腰痛では特に腎臓)等の位置的な問題により生じる筋膜、腰椎などに対する
前方からの圧迫などの、物理的刺激による痛み、等が疑われます。
(ここで我々(施術者)が決して忘れてはいけないのは、内臓の病理的な
 問題に関連した夜間痛ですが、ここではそれは除外します)。


上記以外の考えられる理由として私が述べたいのは、やはり「仙腸関節」に由来する疼痛です。
特に腰痛に関して言えば、仙腸関節に由来する疼痛が最も多い、と私は考えています。


寝ているときに腰に痛みが出る人が多いと上でも述べましたが、
これは就寝中に限らず、ひどい人になると治療台の上で仰向けになっているだけで
痛みが出る方もいるのです。
そういった方は、仰向けになりしばらくすると、「腰が痛いので、膝を曲げても良いですか?」
と言い、膝を立てる事で少し楽になる事が多いようです。
このようなときにまず疑われるのが、「仙腸関節の問題」なのです。





仙腸関節の構造的な特徴の一つに、「荷重による安定」が挙げられます。
ここでも何度か触れていますが、仙腸関節は関節面が垂直面に位置しているので、
この関節を安定させるためには、腸骨側と仙骨側双方の関節面同士を圧着させる力が
不可欠です。
これは立位では、下肢へと向かう荷重という作用(力)と、その作用に対する下肢からの
反作用(力)が、この関節を安定させる力としての役割を担います(座位では坐骨からの反作用)。
縦に近い仙腸関節は、面同士が双方の力に対応し拮抗させる事で、お互いの力がぶつかり合い、
作用と反作用の均衡が取れ安定する仕組みになっています。
なので、関節面の不整合があると、立つ事も出来なくなってしまう可能性があるのです。


この力は体を起こしているときにしか作用しないので、横になった姿勢では、
仙腸関節を安定させる力そのものが存在しないことになります。
仙腸関節が正常な状態にあれば、関節を保護している靭帯がこの関節をしっかりと
結び付けているので、症状が現れる事はありません。
しかし、何らかに理由により、仙腸関節を取り巻く靭帯に緩みや伸張が生じ不安定化していると、
横になることで関節面が離開し周囲の組織が引き伸ばされます。
仙腸関節周囲には広範囲から神経が入り込んでいるので、その神経が刺激される事で
広範な痛みが誘発されるものと推察します。
実際に、手技によってその離開を正常化することで、そのような症状は消失します。


つまり、このような状態に仙腸関節がある時には、「寝ていると悪化する可能性」があるのです。
不思議な事に、この問題に起因する症状は腰部に限らず、多方面に及ぶようです。
その原因と考えられるのは、「脳脊髄液の循環不全」ではないかと思うのですが、
ここではそれに対する論述は避けます。


問題なのは、仙腸関節にこのような問題を抱えている方が非常に多いということです。
これを仙腸関節の「可動性亢進」というのですが、私のところへ来られる方はかなりの割合で
仙腸関節が可動性亢進状態になっています。
こういった場合には、仙腸関節の可動性を高めるような矯正は不適応となります。
つまり、仙腸関節をバキバキと矯正する事をしてはいけない、ということです。
きちんとした知識があるカイロプラクターなら、この時何をすべきかは分かるはずです。


無闇な矯正をした挙句に、「後は寝てれば治る」なんていうような治療院には
行かないようにしましょう。


あっ、でも「休まないから治らない」という方も確かにいますから、
それとこれとを混同しないようにお願します!