夏を詠む


     陽 鳥    夏 を 詠 む


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  熊蝉のやうにおもひを謡ひたし
   蟻運ぶ米粒白く揺れにけり               
    臥せし妻おいて祭りの中にゐる
     どしやぶりや沈黙守る雨蛙 
      大雨になりて候青蛙
  大塔に二〇〇〇年をよむ巴里の夏
   回転ドア廻ればパリの新樹光
    向日葵の黄やわれゴッホとなるミラノ
     雷雲や雀寡黙になりにけり
      兄弟のいつしか老いし夏座敷
  雷の威してばかり雨くれず                 
   名水のボトルを選ぶ夏の朝
    熊蝉のたれ憚らぬラブコール
     出目金のすねてゐる日もありにけり
      万緑の揺れて大魚を釣り落とす
  緑陰にをれば仏の顔となり
   百段の石段上がる茂りかな
    退屈なときもありたる金魚かな
     カタツムリ好きナメクジは大嫌ひ
      雨蛙天文台にきてをりぬ
  孑孒の振付け変へてみたくなる             
   改札の提灯くぐる祭髪
    夏燕銀天街を往復す
     熊蝉の合掌をして枯れにけり
      鷺草の空に舞ひたる夢ごこち
  鷹揚に構えるしぐさ青芒
   くず鉄の如く蚯蚓の枯れてをり 
    雨蛙天文台へきて唄ふ
     そら豆はみんなしあはせ福の耳
      大夕焼浴びたるときは楽天家
  帰省子の父と馴染むに間のありし
   麦秋や離合車もまた一輌車
    リハビリの兄饒舌や若葉風
     さりげなく掛くサングラス妻の旅
      古里に美声の血すじ雨蛙
  あぢさゐを嫌ふ上司の話かな
   梅雨晴間鴉に話かけてみる
    水鉄砲撃ち合ひ愛を確かむる
     旋律がそろはぬ午の雨蛙
      子育ての苦労話や夏燕
  夏まつり女が仕切る腕相撲
   鉢植えのトマト鴉に突かるゝ
    隣の児吾になつけし蝉時雨
     サングラスおでこに掛けてらつぱ飲み
      鯉幟ときをり拗ねてみたくなる
  万緑の迫り出す枝のをさまりぬ
   時効とは男の都合心太
    里の子は挨拶上手草いちご
     絶妙な白糸草の間合ひかな
      雨蛙申し合はせて押し黙る
  落し文うしろめたさを楽しまむ
   ともかくも天文台は梅雨に入る
    万緑に押され地獄を脱け出せり
     でで虫の視線の先に地獄かな
      出目金の尾をふる気持ち汲んでやる
  洞門の暗さに慣れて道涼し
   梅雨晴間仕切りなほしてみたくなる
    よしきりや他人に口をはさませぬ
     梅雨長し波長合はなくなつてゐる
      浜木綿はをとこ言葉の海女が好き
  出目金に私生活みなさらけだす
   道をしへ要らぬお節介とも言えず
    香水があなたの個性消してゐる
     金魚にもある考へるポーズかな        
      恍惚として夕立に濡れてゐる
  先端のなほ素直なるねぢれ花
   浜木綿や砲台跡のある孤島
    舟虫を分けてモーゼの如く行く
     雑念を洗ひ落とせる夕立かな
      夕虹の瀬戸の小島を跨ぎけり
  とどかない恋をしてゐる花火かな
   風鈴の舌かへてみる夕べかな
    天平の礎石を越ゆる蟻の道
     窮屈に紫陽花の毬隣り合ふ
      一匹の金魚の住まふ書斎かな
  繕ふてから仕舞ひけり鯉幟
   夏帽子余命知らせぬ兄とあり
    水かへて夢のふくらむ金魚玉            
     大夕焼外航船のすれちがふ
      病棟の窓の高さに枇杷熟るゝ
  ダイエット遂げし金魚の身のこなし
   定紋をとどむ城壁夏木立
    天守にも届く歌声雨蛙
     みんな合はせてあぢさゐの花であり
      自家用の胡瓜気儘にぶら下がる
  モナリザと別れし後のサングラス
   石二つ重ねて祀る泉かな
    ソーダ水いつも貴方はうはのそら
     金魚死ぬ鉢の乾きし水の跡
      古里は鍵など掛けぬ桐の花          
  水馬見てゐてあきぬ日曜日
   古里に母ひとり住む桐の花
    夏帽の似合はぬ顔でありし哉
     青蘆のしなふ雀の重さかな
      竹の皮あつけらかんと脱ぎにけり
  目もくれぬ折込チラシ夏つばめ
   湯のけむり藍の浴衣の旅の宿
    ごきぶりの淋しき後姿かな
     奥の院にて落し文拾ひけり
      幕切れのどんでん返し氷水
  流されて見せるはからひ水馬
   拝殿のうしろに高し今年竹
    甚平で過ごす男の無策かな
     祖母山を遠見の峠草いちご
      たれかれと頼りのうぜんかづら哉
  向日葵にそつぽむかれてしまひけり
   石窟の如来の目線夏落葉
    連れ立ちて外湯に通ふ白日傘
     母と娘の外湯に通ふ白日傘
      甚平を着て煩悩を断ちにけり
  日時計にある七月の時差のづれ
   風鈴や話し相手になつてゐる
    姉二人妹一人桐の花
     鉄線花隣家の犬をてなづける
      三方に窓ある書斎夏蛙
  薔薇の雨頸を痛めてしまひけり
   アマリリス背中合せに女どち
    傍役の男に届く薔薇の花
     薫風の天守に上る入場券
      散髪を済ませ茅の輪をくぐりけり
  美形より美声がもてる雨蛙
   まくなぎの数を尽くして押し通す
    梅雨晴間天文台へ行つてみる
         ゴールデンウイーク埃つぽい日本
      愛の告白噴水の笑ひ出す
  かたつむり時間たつぷりありにけり
   蟻の列確としんがりつとめけり           
    せりあうて紫陽花の毬をさまりぬ        
     半夏生羅漢揃ひのよだれかけ
      金亀子賽銭箱に落ちにけり
  孑孒のうつぷん直ぐに晴れにけり
   空蝉の掌にある重さかな
    駄々を云う児とのかけひき炎天下
     空蝉の眼にやどる安堵かな
      のうぜんの散りてたちたる艶話
  徐に粽の紐をほどきけり
   三世代揃ふ民家の鯉幟
    蟇父子相伝の心意気
     百段を手摺りに頼り夏落葉
      百段の踊り場五つ夏落葉
  まくなぎの何かと噂立にけり
   三方に窓ある書斎風薫る
    海の風薫る句会の窓辺かな
     一湾の前に広がる植田かな
      香水の手懸りとなる記憶かな
  一湾を囲む山々雲の峰
   時計草螺子の緩んでしまひけり
    海風を吸うて浜昼顔の咲く
     蟻走る老後の備へ怠らず             
      湯けむりの白きはだてる夕立かな
  斯うと決めたるでで虫のふりむかぬ
   まくなぎの加はる野外コンサート         
    萍のきまま水面の広さかな
     萱草の蕾目覚むる波の音
      花萱草あしたにひらく蕾かな
  掌に寂しさ点す恋蛍
   好奇心うごく園児の夏帽子
    立葵岬の風の静かな日                 
     ほととぎす返す言葉に迷ひけり
      山門に仏の訓へ凌霄花
  空蝉のつかむ一葉のたわみかな             
   青芒揺れて瀬音の抜けにけり
    甚平の師のめつきりと老けにけり
     雲の峰夢吊橋に投句箱
      熊蝉の恋のエンジン吹かしけり
  軒先を借りる二人の夏帽子
   山門を抜けて涼風いただきぬ
    めまとひの話の中に割込みぬ
     まひまひのすぐに癇癪起こしけり     
      旅半ばエジプトの蚊に刺されけり
  まくなぎのいつもすぎたるお節介
   湖に山せまりくる青嵐
    めまとひに囃されている主人公
     行き止まり多き道筋鴨足草
      神苑に瀬音をつなぐ夏の川
  蜘蛛の囲の雨粒止めて所在なき 
   傍役へ百本の薔薇届きけり                
    真白なる蛍袋のほくろかな 
     どくだみの無垢なる白き十字かな 
      戒名も墓標もいらぬ夕立かな 
  木下闇少女の長き睫毛かな 
   緑陰の設へられし女坂 
    かき氷つつく心のうはのそら 
     なき母はふるさと小町合歓の花 
      コンビニに手配の写真熱帯夜        
  団扇ぱたぱた本筋をそらしけり 
   しあはせの黄色南瓜の花二つ 
    サルビアに鴉たじろぐ素振りかな 
     噴水の思ひの丈に届かざる           
      大滝に平伏す心すなほなり 
  菖蒲湯立てて老境に入りにけり 
   花うばら人寄せ付けぬ向う岸 
    えごの花散りて退く間合かな 
     蜘蛛の囲の所在なき日の続きけり 
      夕焼けを浴びて生るゝ里心 
  めまとひの踊りの輪から抜け出せず 
   芥子の花ゆるゝひそひそ話かな 
     天国は三日で飽きぬ明易し           
      虹消ゆるまで幸運を確かむる 
       静けさの蛍袋に詰まりけり        
  雨の粒飾る仕立の蜘蛛の糸 
   三猿碑後ろに深き木下闇 
    さりげなくよそほふ蜘蛛の目線かな 
     合性のよき妻のゐて心太 
      孑孒の直ぐ投げやりにしてしまふ   
  恋心あやなす烏瓜の花 
   風鈴の笑うてその場やはらげる 
    蜘蛛の囲の計算づくの破れかな 
     ブランドで買ふ飲料水原爆忌 
      やどり木の雨の恋しき酷暑かな 
  ご一行様と呼ばれる浴衣かな              
   取返しつかぬ火遊び灸花 
    アーケードいつも素通り夏つばめ 
     たれかれと来て草を引く母の庭      
      連日の株価暴落小判草 
  まひまひの話を水に流しけり 
   どこまでも堤のつづく姫女苑 
    もはやならない捩花の巻き戻し 
     めまとひの誘ひ上手にはまりけり 
      薫風の窓辺ロミオの来る予感 
  水替へてためらうてゐる金魚かな
   めまとひに知らんぷりなど通じない 
       卯の花や里に洞窟住居跡 
         羅になじみ心の自在かな 
          姫眠る塚や泰山木の花
  手に手に団扇節電の合言葉 
   孑孒の呑気に構へ沈みけり 
    出目金の目くばせ席を外しけり 
     カラフルな傘の素通り木下闇 
      香水をかへて気立ての変はりけり 
  出目金に隠し事など通じない 
   熊蝉に巷の声の届かない 
       満願の喜びの日の百日紅 
     湯けむりの気立て奔放花は葉に 
      はまりこむパズル卯の花腐しかな
  説法に頷く男竹落葉 
   寺二つ宗派いとはぬ夏つばめ 
     三世代揃ふ表札枇杷実る 
     木漏れ日のマロニエ並木巴里祭
      年の差はさほど気にせぬ落し文 
  出目金の心を奪ふ付け睫毛 
   遠雷や手許に父の回顧録水 
    老鶯のゐすわる坊主地獄かな 
     明易のこの日のブログ更新す 
       波紋広げてあめんぼの知らんぷり 
  ふり向きて水鉄砲の的となる 
   心頭滅却節電の日の盛り 
        雲の峰麓に眠る父と母 
     入道雲父の背中を見て育つ
      香梵鐘の余韻にゆらぐ赤とんぼ 
  八方へ鉄砲百合の気を配る 
   風鈴の笑うて人を迎へけり 
     三方の書斎の窓はみな若葉
      卯の花や雨に朱を帯ぶ磨崖仏
           飽きもせぬパズル卯の花腐しかな
   ソーダー水私一人が蚊帳の外
   夕焼の起承転結ととのふる
    糸繰草遊んでくれとせがまるゝ
     廃校の近き母校や花樗
           十薬や空家に掛かる告知板
   椅子にかければ挨拶に蟻のくる
    山法師咲きて大前祓ひけり
     合歓の花目もと涼しきつけまつ毛
          切株の中は空洞桜桃忌
       昼食のメニューはカレー濃紫陽花
   恙なき一戸の暮らし植田澄む
     どの道も下れば海へ雲の峰
      蜘蛛の巣の主は居留守つかひけり
        白鷺に見張られてゐる水奉行
          禅寺に詣づおはぐろとんぼかな
  洗ひ髪して糸口をつかみけり
   蝉の木になり切つてゐる桜の木
    熊蝉のこゑ聴いてゐる油蝉 
     鯊釣の棒竿貸して並ばせる          
      消去するカメラの画像夏終る
  青きまま落ちたる柿の向う傷
   湯の客に百日紅を散らす風
     天窓の舞台守宮の無言劇 
     麦の穂の日を裏返し熟れにけり 
      夏薊虫が擬態を試みて 
  木漏れ日の大地に踊る若葉かな 
   カンツォーネ歌うてシャワー全開す       
    短夜や字典にあまた犬の耳 
     ショッピングモールの映る青田かな 
      蛍の甘き水より湧きにけり 
  うやむやにさせぬ金魚の目玉かな 


   掲載した俳句は、俳誌・雑誌・新聞などに掲載された中から選びました。


 陽鳥Top   秋を詠む