春を詠む


   陽 鳥  春を詠む


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  春泥にもうやけくその心もち                 
   をさな児の紋白蝶にからかはる
    エイプリル・フールにあらず昇進す
     漣のまばゆくなりて鴨帰る
      小綬鶏の告白押しの一手かな
    見をさめと祖母の口癖梅ひらく
   海とほし藁にくひつく目刺かな
    凧あぐる子の置き去りにされにけり
     せせらぎに耳をかたむく蕗の薹
      恋しさの募るしぐさや落雲雀
  泣き面のパンジー蝶に嫌はれる
   薄氷の気泡弾ける予感かな                 
    思つてもみなかつたこと蘖す
     末黒野の岩のをさまりぐあひかな
      釣舟のかたまる瀬戸の朧かな
  青春に戻る四葉のクローバー
   犬ふぐり約束とんと忘れけり                
    花曇り秒針刻む大時計
     緊張のすぐにほどけしチューリップ
      犬小屋も灯る八十八夜かな
   しんがりにつきて周遊青き踏む
    ままごとの靴を揃へて犬ふぐり
     姫眠る前方後円墳の春
      厄除けの御守もらふ梅の宮
       種袋おもむろに振り封を切る
  春一番バケツの水を躍らする
   カルチャーは女優勢山笑ふ                 
    稜線の重なる山の朧かな
     ロボットがタクトを振りぬ春の宵
      反芻す牛の八十八夜かな
  前山の後ろの山の霞かな
   金盞花ほめて素通りする女
    囀りやベンチに一人聞き上手
     腹這ふてパンジーを撮る大男
      超えられぬ一線空に揚雲雀
     エイプリル・フールのそなへ忘れゐし         
   介護士のほぐるゝ言葉牡丹の芽             
    町並みのつつじ四角に丸に咲き
     お喋りの過ぎて落ちたり藪椿
      胸のうち明かしてしまふチューリップ
  森林に浴す八十八夜かな
   大正の母の八十八夜かな
    つばくらめ吾を信じて糞落とす           
     梅一輪浮き足立ちし湯のけむり
      つつしみを忘れてしまふ恋の猫
  ポケットのラジオ小噺水温む
   散らばりておたまじやくしのケ・セラ・セラ
    ふるさとの納屋のうしろに梅の花         
     たんぽぽや戻つてこないブーメラン
      あかんんべをしたる真昼のチューリップ
  立ち上がるたび物忘れ春の風
   木蓮や膝にこたへる男坂
    春の鳥天文台がお気に入り
     鳥雲に入りて掛軸取り替ふる           
      辛夷咲くことにもふれて祝辞かな       
  天平の礎石にさくら散りつもる
   兄さんに父の重圧牡丹の芽                
       パンジーのゑがほふりまく保育園
     心がけしばしば揺らぐ落椿
          大正の母へ四葉のクローバー
   お似合ひのお洒落なフリルつくしんぼ
    モビールを雛の目線に吊るしけり
    啓蟄や回送バスの素通りす
     チューリップすぐに陽気に振舞へる
      狛犬に声かけてみる春社かな
  病院のパジャマに慣れて山笑ふ
   こでまりに妻の退院延びにけり
    藤房の風に素直でありにけり
     裸電球吊るす八十八夜かな
      道筋を皆と違へて青き踏む
  花曇り秒針刻む大時計                      
   病棟の注目の的燕の巣
       早春の湯の花小屋の息づかひ
     紅梅をほめ白梅に歩を移す
          センサーで灯る門灯恋の猫
  葉牡丹のあつけらかんと長けにけり
   亀鳴くと5Bつかふ素描かな
    春昼の辻馬車人を拾ひけり               
     光背に仏身うづむ春うらら
       菜の花の花粉まみれとなりにけり
   母の忌の母直伝のうこぎめし
    自づから心の合うて青き踏む
     退屈な日のあつてよしシャボン玉         
      志まだまだ半ばつくしんぼ 
       植木市土のみ提げて戻りけり
  藤房の揺れてピントの甘くなる
   一頻り声合はせをり恋の猫
    一両車蛙の駅で停まりけり
          春昼やファラオ不在のピラミッド
            海峡を挟む灯台春の潮
  落雲雀余韻にひたる間合かな
   辻馬車の真赤な座席のどけしや
    たんぽぽの絮のカウントダウンかな
     町並みのつつじ四角に丸に咲く
      茉莉花のかをり独りに余りある
  古里に兄弟五人山笑ふ
     行く先をたれも知らない地虫出づ      
     犬ふぐり置いてきぼりにされにけり
           職退きて月日十年鳥雲に
        裏庭は我が別天地蕗の薹
    助手席に乗る啓蟄の男かな
    春の鳥踊り場のある男坂
        玩ぶ貝殻ひとつ春の波
         花筏岸辺離るゝ正午かな
           桜蘂降る上の段下の段
    小綬鶏のつい深入りをしてしまふ
    うぐひすの語尾に注文つけにけり
        蕗の薹傾き正す構へかな
       兄いつも遠慮勝ちなり山笑ふ
   湯けむりのあしらひ上手春二番               
    行く先は勝手気ままや地虫出づ
     プロペラ機しづかに着地春日傘
      囀りや高床式の美術館
       春の空心をひらく島言葉
    山笑ふ道案内は島言葉
    とんとんとうまくゆく日の山桜
    山笑ふ遊び上手の女たち
        湯けむりのをどりを誘ふう春の風
      ほほかむり決めこんでゐる葱坊主
   千丈の空を切り取り懸り藤
      道づれとなり二回り梅探る
       薄氷の気まゝな泡に揺らぎけり
        立ち上がり遅きパソコン冴返る
          格子窓くぐる湯けむり春の雨
     御神籤は小吉バレンタインデー
       蒲公英の鎮座するなり御神域
         厄年はもうなき齢梅の宮
          啓蟄や一の鳥居にさしかかる
           阿蘇を焼く起伏の波形現るゝ
    百歳の折返し点金鳳花
      天上へ声を押し上ぐ揚雲雀
        目を瞠る金剛力士木の芽風
          犬ふぐり千の瞳のみつめゐる
            たんぽぽの絮の絆の断ちがたき
    八方へ蝌蚪散り言葉濁しけり
      たれとなく届けたくなる草の餅
       春日傘古希を迎へてなほ内気
         職退きて曜日不問や風信子
          かいつぶり照れ臭くなり潜りたる
   末黒野の陰の落ち込む起伏かな
       勇み立つ野火の気持を抑へけり
      陽炎の中なる皆の頼りなき
       高層の一戸に暮らし霞みけり
       雪柳垂れ咲く枝の自由律
    安らげる向きに鎮まる落椿
    たんぽぽの絆広げる寺領かな
         車間距離大きく取りて山笑ふ
          境内に色のこぼるる姫椿
            事欠かぬお喋り相手藪椿
     啓蟄や旅の鞄に胃腸薬
       啓蟄の奥の院まで歩を伸ばす
         花ミモダ蕎麦屋に掛る古時計
          親の敷くレールに乗りぬ豆の花
       亀鳴くと金の無心の話かな
   葱坊主皆さらはれてしまひけり
    著莪の花住めば都の花あかり
     好き嫌ひ老いてうすらぐ豆の花
     たんぽぽの絮投げやりに発ちにけり  
      潮騒の聞ゆ蛙の目借時
   踏み入りぬ地獄の躑躅咲きゐたり
     支へあふ社会憲法記念の日   
      冴返る要点しかと復唱す
       空振りは慣れつこのバレンタインデー
        春愁の女飴玉かじりけり
    ただそれだけのこと四葉のクローバー
      踏光陰の覚束なくも桜餅
      春菊の好きで変な子通しけり
       蘆の角水のおもてに影を挿す
           こでまりのいそいそ間合つめにけり

  掲載した俳句は、俳誌・雑誌・新聞などに掲載された中から選びました。


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