陽 鳥 自選句30句
初夢の中に忘れし備忘録
福引を夫に引かせて平和かな
小綬鶏の告白押しの一手かな
春泥にもうやけくその心もち
約束をとんとわすれて犬ふぐり
湯けむりのあしらひ上手春二番
つくしんぼ真つ直ぐ伸びて摘み取らる
風紋のしがみつきたる薄氷
ふきのたう母に倣ひて差し上ぐる
買ひ置きてくるる肌着や春の月
静けさの蛍袋に詰まりけり
孑孒の振付け変へてみたくなる
雷の威してばかり雨もなし
青柿の心がけても落ちにけり
妻見舞ふ金魚の餌を忘れずに
ご一行様と呼ばるる浴衣かな
蕗を剝くことは任せてもらひけり
湯の町を敵機素通り終戦日
百歳の母がねぎらふ茄子の馬
行くあてのある敬老の日なりけり
籾殻の一家ささふる嵩なりし
牛蒡引く地球の裏も誰か引く
棉吹くや母の良い子になつてをり
前山に猿降りて来る盂蘭盆会
朝顔の蔓の及ばぬ取つ掛り
終戦記念日解凍を待つ魚
終りなき白山茶花の一つ咲き
ストーブの炎が語りつづけたる
寒風や根つこゆるがぬ湯の煙
山眠る薬缶がずつと泣きじやくる
熱燗の辞書の解説そつけなし
十二月八日胎児の我は母を蹴り