自選句集


          陽 鳥 ときを詠む/自選句



                     

        初夢の中に忘れし備忘録

        松過ぎて巫女に不断の会釈かな

        コンビニで耳掻きを買ふ二日かな

        初夢の中で初夢見てゐたり

        上の道下の道ある恵方かな

        砂噴き上ぐる若水の力かな



                    

        薄氷の気泡弾ける予感かな

     亀鳴くと金の無心の話かな

    犬ふぐり約束とんとわすれけり

        春泥にもうやけくその心もち

    湯けむりのあしらひ上手春二番

    カルチャーは女優勢山笑ふ

    エイプリルフールのそなへ忘れゐし

        春昼の辻馬車人を拾ひけり

    介護士のほぐるゝ言葉牡丹の芽

    つばくらめ吾を信じて糞落す

    兄いつも遠慮勝ちなり山笑ふ

    退屈な日もあつてよしシャボン玉

    ほほかむり決めこんでゐる葱坊主

    たんぽぽの絮なげやりに発ちにけり



                   

        静けさの蛍袋に詰まりけり

        蟻の列確としんがりつとめけり

        孑孒の振付け変へてみたくなる

    梅雨晴間烏に話かけてみる

        雷の威してばかり雨くれず

        臥せし妻おいて祭の中にゐる

        金魚にもある考えるポーズかな

        まひまひのすぐに癇癪起こしけり

    ご一行様と呼ばれる浴衣かな

    熊蝉の恋のエンジン吹かしけり

    傍役へ百本の薔薇届きけり

    噴水の思ひの丈に届かざる

    天国は三日で飽きぬ明易し

    出目金に私生活みなさらけ出す

    せりあうて紫陽花の毬をさまりぬ

    満願の喜びの日の百日紅

    青きまゝ落ちたる柿の向う傷

    洗ひ髪して糸口をつかみけり

    ソーダー水私一人が蚊帳の外



                 

        こほろぎの告白まはりくどきかな

        前山に猿降りて来る盂蘭盆会

        虫すだく中を遠距離通勤す

     公園のおしやれなトイレ小鳥来る

        威銃間合に仕掛けありにけり

        けれんなく割れて完熟通草かな

     盆の月瀬戸の小島を買ふ話

     敬老日すこし楽しき無駄遣ひ

     虫の音の耳いつぱいになりにけり

     登高にみるアイガーの男振り

    台風の目の中にゐる睡魔かな

    つらなりて絆の深きからすうり


     をとなしくしてはをれない貝割菜

        神木を廻りて秋を惜しみけり

    星月夜階下の妻へEメール

    がちやがちやの他人の御株すぐ奪ふ



  
                 

    水仙の岬の空の広さかな

    水遁の術水鳥を見失なふ

    凩の耳の奥まで立ち入りぬ

    おとうとの継ぎし山里枇杷の花

    寒鴉頻りに話し掛けてくる

         裸木も吾も身軽くなりにけり

    思い出に独逸の落葉広ひけり

    他人めく十一月の風の声

    年惜しむオルガンの音のセピア色

    女湯の下に男湯寒の月

    朝風呂につかる勤労感謝の日

    三度目は存在感のある嚔

    寒禽の声一頻りみんな留守

    旧交をあたためてゐる落葉かな

    筋書きの序章銀杏落葉かな

    筋書きの終章雪の降る夜かな

          


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