秋を詠む


 陽 鳥   秋を詠む


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  木犀の夜は明るくて子の遠し
   朝霧を集めて一葉うつむけり
    赤とんぼひとりの暮らし覗きけり
     空爆の日のよみがへり吾亦紅
      露の玉会うて太りて零れけり
  紅葉の懐深く柩入る
   朝顔を描き園児に認めらる
    前山に猿降りてくる盂蘭盆会
     連れ添うて顔も似て来し鶏頭花        
      跡もなきベルリンの壁秋高し
  栃の実の落ちて駆け出す石畳
   稲の黄を消してゆきたるコンバイン
    萱刈つて戻る道のり遠くなる
     色を見ているだけが好き唐辛子
      こほろぎの告白まはりくどきかな
  新涼や漁火揺れて寄り合へり
   招き猫視線たどれば秋の宵
    がちやがちやのやうな告白うけにけり
     新涼や言葉にふしのつきにけり
      宿り木のひとりよがりに紅葉す
  秋の蝶犬のモモコに吠えらるゝ
   婚姻をしたらおしまひいぼむしり
    小鳥来る天文台のドーム開き
     不揃ひが真骨頂の零余子かな
      虫すだく中を遠距離通勤す
  盆の月瀬戸の小島を買ふ話
   虫の音の耳いつぱいになりにけり
    沈黙といふ思ひやり男郎花
     前線のいよいよ南下山粧ふ
      火の揺れにならひて尾花ゆれにけり
  古里の見慣れた景色山粧ふ
   伝言にサフランそへて妻の留守
    へつらふてさまざまな色唐辛子
     恋は盲目がちやがちやのラブコール
      母が娘を散歩に誘ふ薄の穂
  新涼のアルプシャンパン日和かな
   登高に見るアイガーの男振り
    石塔に沿ふて高きに登りけり
     しんがりにつきて高きに登りけり
      ゐないゐないば曼珠沙華現るゝ
   立ち上がる私の前に木の実落つ
   嬉しくて木の実何度も跳ねにけり
    矢印に逆らふてみる秋高し
     けれんなく割れて完熟通草かな
      見覚えがやんまの方にあるらしき
  小鳥来る離合電車を待つホーム
   投函すポストの上の星月夜
    父の声母の合の手夜なべかな
     前山の覆ひ被さるつくづくし
      旅先で見る台風の進路かな
  鈴虫に防犯装置共鳴す
   山里の雨上がりけり昼の虫
    筆立に割り込むルーペ秋の夜
     煙突の星座に触れし鉦叩
      泣きやまぬ隣家の子犬星月夜
  石段の踊り場二つ昼の虫
   かなかなの代る代るに告白す
    吊り下げて色を楽しむ唐辛子
     銃眼の四角に釣瓶落としかな
      抑揚を風にたよりて鉦叩
  秋日傘老いては妻に従へり
   流燈のご先祖さまを見失ふ
    おほかたは母へ語らむ墓参り
     番犬の心得守る盂蘭盆会
      隣り合ふ湖二つ露の玉
  べつぴんの案山子を立てし三代目
   秋の日の五時間戻る時差のづれ
    小鳥来る赤の広場の石畳
     古里の大地に零余子こぼれけり
      赤のまま仏の里に泊まりけり
  観音と私の前に木の実降る
   威銃仏の里に響きけり
    がちやがちやのやうに思ひは告ぐるべし
     露天湯の月をたびたび崩しけり
      権現に参じ高きに登りけり
  立て掛くる絵皿に秋の入日かな
   鳥おどし雀にまあひ読まれけり
    神木を廻りて秋を惜しみけり            
     矢印に順うてゆく紅葉狩                
      街頭の明かりのほとり冬隣
  紅葉且散る風の神まどろむや
      朝顔を描き園児に認めらる
    晩年は嬶天下や月見豆
     鳳仙花里におませな女の子
      あかんべの通草とどかぬ高さかな
  虫の声宇宙ますます膨らめる
   鳥おどし加わる野外コンサート
    見をさめと思ひ高きに登りけり
     かなかなや縁に持ち出す煙草盆
      知らんぷりする横顔の蝗かな
  おとなしくしてはをれない貝割菜
   無花果や昔はみんな子沢山
    門灯を消して出て観る十三夜
     酔芙蓉ついつい長居してしまふ
      町おこし一役になふ曼珠沙華
  拝まれし仏の里の案山子かな
   三方へ分かる矢印男郎花
    ほころびしジーパン闊歩文化の日
     がんばれと言はぬばかりの唐辛子
      秋惜しむ遠回りして戻りけり
  郁子熟るや無口を通す思ひやり
   新調の物干竿に小鳥来る
    やや寒の枕に届くEメール
     紅葉且つ散るコーヒーはブラックに
           朝顔の百花だらけてしまひけり
  一湾の開ける棚田落し水
   ボルテージだんだん上がる法師蝉
    威銃間合に仕掛けありにけり      
     心変わりをかくせない鳳仙花
      草の花硫黄の匂ふ古戦場
  九十の母の筆まめ良夜かな
   沈黙は男の美学吾亦紅
    鳳仙花どうぞ過去にはふれないで
     湯けむりにさらはれそうな白芙蓉
      戯れるからくり時計風は秋
  彫像の街がふるさと秋の暮
   とんぼうに空明け渡す岬かな
    からすうり系譜に切れ目なかりけり
     きちきちに振り向く余裕与へけり
      論文は旧姓で書く星月夜
  桐一葉卆寿の母の好奇心
      長旅を手ぶらで鳥の渡りけり 
    名水の里の極楽とんぼ哉 
      新涼の湯殿に並ぶ手桶かな 
      杜の句碑訪ね高きに登りけり 
  元禄に建てし酒蔵小鳥来る 
   古里に立つイチローの案山子かな 
    馬貞の忌夢吊橋に投句箱 
     体裁を確とつくろふ鵙の贄 
           百八の煩悩断たず鵙の贄 
  草の名に呼び名の二つ金風忌一 
      木彫の神馬いななく豊の秋
       星月夜階下の妻へEメール        
        小鳥来るスフインクスの足下に
          がちやがちやの告白圧しの一手かな
    石叩き調子崩してしまひけり
     忘るゝは是処世術鵙の贄
     山粧ふ話したびたび折られけり
         束の間のエンターナー法師蝉
        十五夜の耳を傾げる兎かな
  新涼の一樹を囲ふ丸き陰 
   扁額の傾き癖や秋の声 
    昼の海点す灯台小鳥来る 
     高原の起伏の波形花芒
          見境もなきがちやがちやのラブコール 
  高原の風受け流す男郎花  
   公園のおしやれなトイレ小鳥来る 
    敬老日すこし楽しき無駄遣ひ 
     きちきちの跳んで振向く余裕かな 
      台風の目の中にゐる睡魔かな
  秋の蝶あやとり橋を揺らしけり 
   天高し置いてきぼりをくふ人形 
       蔦紅葉沈思黙考磨崖仏 
        いぼむしり嬶天下に甘んずる 
      瀬戸の風ピントの合はぬ葛の花 
  人生に句点読点吾亦紅 
   聞く耳を持たぬきちきちばつたかな 
    ふり向いてくれぬ山田の案山子かな 
     秋霖やひたすら回る大水車 
           秋風や赤の広場の石畳 
   筆立にきはだつルーペ夜の長し 
     顔に立つ石鹸の泡涼新た  
       沈黙を一途にとほす群蜻蛉 
         道しるべ四方誘ふ萩あかり 
          露の玉真に迫れり大宇宙             
   農継がぬ三男三女からすうり 
     山彦の紅葉山よりこたへけり              
      ゆく秋や庫裏に手回し脱穀機 
        注目を浴びる案山子に市長賞 
     猫じやらしじやらされてゐるのは私 
   私の心も揺るゝ秋桜 
     待てど暮らせど誰も来ぬ芒かな
       美しき言葉の句切り吾亦紅
        今朝の秋茶柱立ちて秘密めく
          涼新たワインの栓をポント抜く
    小鳥来る社務所の巫女の束ね髪
      勝手気儘のなほらないゐのこづち
    無人駅二つをつなぐ虫時雨 
         肩の荷が下りる案山子の日暮れかな
           秋茄子のねじれてみせる思ひかな 
   幕を閉づ大煙突や十三夜
     巻ひげはダリより立派山葡萄
     蓑虫の世事に疎きを憚らず
          献立のなほ定まらず夕紅葉
      星とんでまたうやむやにしてしまふ
  百歳の母ゐる誇り鳳仙花
   桐箱に椎茸鎮座してゐたり
    手を出すも出さぬも愛の鳳仙花
     着想はどれも平凡秋深し
      おごそかに薬缶をまはす夜食かな    
  容貌のみな福相の零余子かな
   がちやがちやの他人の御株すぐ奪ふ
    伝来の柿の大木法師蝉         
     台風のそれて約束うやむやに          
      千の堰千の棚田の落し水
  篤農の田より湧きけん赤蜻蛉
   犬の耳もどしページを繰る夜長

  掲載した俳句は、俳誌・雑誌・新聞などに掲載された中から選びました。

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