寄 稿 集


  

     鉄輪俳句筒湯けむり散歩 句集終刊によせて
  
                        渕 野 陽 鳥

「鉄輪俳句筒・湯けむり散歩」のホームページは私のお気に入りである。
鉄輪を訪れた旅の楽しさを詠んだ俳句は、季節の移りゆく湯の街・鉄輪の雰囲
気を彷彿とさせる。寄稿文では古き良き時代から今日にいたる思い出や知らざ
る出来事が興味深い。そして、最近は別府鉄輪まんが散歩」が登場し、鉄輪
観光 PRに花を添えている。特筆すべきは「鉄輪ごよみ」である。江藤一弘画
伯の平成5年から26年までの264点の挿絵は、まさに鉄輪の風物詩でもある。

寄稿文からは次のような興味深いことが窺い知れる。
春の4月か5月の頃になると、山口県や愛媛県の海岸の村では、一艘の船に米、
味噌、醤油を積み込んで数人の人が一団となって、帆をかけて別府に入ったそ
うである。波止場に船を繋いで 2〜3週間ばかり滞在する。港に泊めた船で寝
泊まりしながら温泉に通う「湯治船」もあったという。高浜虚子が、当時の別
府の風物詩「湯治船」を春の季語として取り上げ、昭和 9年の虚子編「新歳時
記」に採録されたという。

明治4年(1871) 現在の流川通り近くに別府港湾が建設され、以来瀬戸内海の
交通が活発になってくる。 各地から入湯客が訪れるようになり、不老泉、濱
脇温泉、紙屋温泉、竹瓦温泉などの共同温泉が新築されて別府は温泉街とし
て発展した等等。

鉄輪温泉は、いまだ湯治の雰囲気を残す温泉街。随所から湯けむりが立ち上
がる鉄輪温泉の景観は、別府の湯けむり温泉地景観として国の重要文化的景
観として認定されている。湯治客は温泉の蒸気を利用した 「地獄釜」で 自
炊しながら長逗留する。周辺には多様な地獄が存在することから、蒸し湯、
岩風呂、砂湯、滝湯、露天風呂などさまざまな温泉が楽しめる。別府地獄め
ぐりの中心に位置し、周辺には海地獄、鬼石坊主地獄、山地獄、かまど地獄、
白池地獄などがある。開設伝説によれば、鎌倉時代に広大な地獄地帯であっ
たこの地を一遍上人が最初に整備されたとされ、毎年9月には鉄輪ゆあみ祭
が開催される。

お気に入りのホームページの発行はご存知の「鉄輪愛酎会」である。鉄輪焼
酎の販売により生じた利益を鉄輪の街づくりのために利用し、 鉄輪の浮揚を
図ることを目的として昭和59年に発足した。その一環として平4年「鉄輪俳
句筒・湯けむり散歩」がスタート。以来20余年、四季ごとに発行する句集は
88回に及ぶ。そして、年間最優秀句の句碑が町角に建てられ、旅人に湯けむ
りとともに安らぎを与えてくれる。俳句の選者は大分の地に根を張り、全国
に名をしれた俳人倉田紘文さん。紘文先生の選をうけたというそのものが、
俳句同好者にとっては何よりの喜びであった。

去る6月、全国有数の俳誌「蕗」を主宰し、大分県の俳壇にも大きな功績を
残した先生が逝去された。「紘文先生あっての鉄輪俳句でした。残念ながら
句集を終刊いたすことになりました。」と編集者の河野忠之さんから悲しい
お知らせをいただいた。
鉄輪の浮揚に人一倍思いの強 い河野さんも寄る年波には勝てないと嘆かれて
いた。そして、これからも鉄輪温泉を愛し続けていきたいと結ばれた。
  平成26年7月13日 俳人協会会員・大分市

                    

 鉄輪俳句筒湯けむり散歩  第三集によせて
 
                        渕 野 陽 鳥

鉄輪温泉は、いまだ湯治の雰囲気を残す温泉街。随所から湯けむりが立ち上が
る鉄輪温泉の景観は、別府の湯けむり温泉地景観として国の重要文化的景観と
して認定されている。
旅人は温泉の蒸気を利用した「地獄窯」の料理を堪能で
きる。周辺には多様な地獄が存在することから、蒸し湯、岩風呂、砂湯、滝湯、
露天風呂などさまざまな温泉が楽しめる。別府地獄めぐりの中心に位置し、周
辺には海地獄、鬼石坊主地獄、山地獄、白池地獄などが鉄輪温泉エリアの徒歩
圏に集まる。

世界のどこにも見当たらない豊かな温泉資源の象徴、別府温泉、とりわけ鉄輪
温泉の街づくりを担って、昭和59年(1984)に発足したのが「鉄輪愛酎会」。
鉄輪焼酎「天領焼酎・鉄輪」の販売による益金が街づくりの活動を支えてきた。

「鉄輪俳句筒・湯けむり散歩」は鉄輪温泉の町おこしのPRとして平成4年
(1982)8月から始まった。旅人からの投句は四季ごとに句集として発行され、
年間優秀句の句碑が街角に建てられた。選者は全国有数の俳誌「蕗」主宰倉田
紘文氏。紘文先生の選を受けられるのが俳句同好者にとっては何よりの喜びで
もあった。

平成26年(2014)12月には、別府市制90周年記念事業の一つとして「鉄輪
俳句筒・湯けむり散歩」第二集が発刊された。しかしながら、平成27年(2015)
月に紘文氏が他界され鉄輪湯けむり散歩・俳句集は終刊となった。終刊にあ
たり、私も一文を寄せていただいたのである。
その後、嬉しいことに俳句同好
者や市民の声に応えて編集者の熱意により鉄輪俳句筒は継続されることとなっ
た。

このたび、鉄輪愛焼会の河野忠之さんから、お知らせをいただいた。

「鉄輪俳句筒・湯けむり散歩」は、第120回・令和4年夏句集をもって、や
むなく終刊とすることになった。
「鉄輪愛酎会」は新たな目標を求めて継続さ
れるが、鉄輪俳句筒・湯けむり散歩の30年にわたる事業の積み重ねを活かす
ために、第三集が編纂されることとなった。
難しい時代ですが、これからは若
い世代の発想での活動に繋がれば幸いです。と、鉄輪の街づくりに人一倍思い
の強い鉄輪愛焼会の河野忠之さんは結ばれた。

30年間という長きにわたる鉄輪愛焼酎会のご支援、鉄輪を愛する編集者の皆
さまに心から敬意を表します。
        令和4年文月 俳人協会会員・「花鶏」同人
 クリックすると「鉄輪愛酎会」の<寄稿文の書庫>がご覧になれます。

 

     季刊誌 ときがめ書房 通信第三号
   



         2018年7月1日発行

随 想 Essay