浮き世のこと


 心理学を二通りに分けて、フロイド、ユングから来るいわゆる心理学と、ドストエ−フスキ−からのものとあるというんです。でもってわたしはその後者というより、心理学っての独断、偏見でもって、だ−い嫌い、あれはたとえば信仰を一OOとすりゃせいぜいが七O、いや実際とこ四Oも行かない、心の退廃かさぶた−とかいって、そういうこと禅に反するんですけどさ、つまり後代の人はきっと、今の世を心理学的時代と呼ぶに違いないと思います。ドストエ−フスキ−には、日本人には黒沢明の天才をもってしても、計り知れないところがあった、そりゃゴッホもそうなんです、一神教西欧精神の根本に関わるんです、それをいえば精神分析等心理学も一神教の末裔です。

 宮沢賢治に、「ぜんたいが幸せにならない限りは、個人のほんとうの幸せはない。」という語があります、明治以来西向け西で来た、日本文壇の唯一西欧をマスタ−した人です、即ち要約するにこうなったんです。
 これね、日本人のわからないのは、心そのものの構造がこうだっていうこと。

 個と全体といえばそれまでなんですが、ポリス社会−人間社会という、その向こうは砂漠だったという、そこへ行ったらだれ一人生きて帰れんのです。
 砂漠という信じられぬほど美しい、あるいは奇跡というその幻想を持ち帰るだけだ。
 釈尊のように菩提樹下に坐す−自然そのものと身心の一体化です、それがないんです。
 囲いを廻らせて、スフィンクスを置き、「それは人間だ」という謎を解かぬように、人間の人間による人間のための、合議制です。
 自然は制服されるべきもの、コンパスと三角定規で計るっきりのものです。
 そうして膨大な歴史を生んだ、絶えざる進化−すなわちどうにも納得しないんです。
 地球壊滅の日まで。
 でもその西欧精神の、バッハやモ−ツアルトに見るような、ほとんど東洋精神とまったく平行線を保つといったらいいか、無心と実に同じに見える、一切傷つかぬ心です。

 めんどうだから端折ります、そうねえ、ゲ−テはお金かかって大騒ぎ、良寛は無一文で成り立つって違いですか。でもって西欧精神は滅びるんです、ドストエフスキ−がその現場証人です。
 滅び行くものを追ってもしょうがないんです。
「一個が幸せが万人に及ぶ。」
 これ仏教方式です、一個風穴を開ける、この方法滅びないんです。
 いえ、わたし宮沢賢治大好き人間です。
 どうも、かってな御託並べました、失礼。


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