これは糸魚川市民図書館にある「松本清張全集」を読んだ記録です。

サスペンス、ミステリー、人情など御大松本清澄さんの小説にはいろいろな要素が含まれています。
いろいろな要素のなかで、感じられないのは「人情」ですが、その冷たさが松本清張さんの魅力でもあります。
昭和30年代ころからの作品が多いので、場面はIT(例えば携帯電話とかインターネットや電子メールなど)が発達した現代社会とは隔世の感があります。
それでも映画やテレビドラマで焼きなおしされている作品も多く(多くないかも知れないが)、そういうことからするとまだまだ頑張っていると言って良いでしょう。

文学的な重厚さが感じられるのが重鎮松本清張さんのすごいところで、僕は読む本に詰まったときはこの全集へ逃避する習性がついております。

せっかく読んだので記録を残すことにしました。
僕なりの面白さを★で示してあります。
黒星が多いほうが面白かったものです。
鉄人松本清張さんでも面白くない本もあります。

達人松本清澄をこれから読まれる人ってあまりいないとは思いますが、筋書きも書いてあるので注意してください。
結末がわかっては読む意味がなくなりますからね。

作品の結末を書いておくとは、悪趣味だと思われるかも知れませんが、そういう人は見ないでね。




全集1

(1)点と線 ★★★★☆
北九州の香椎という町の海岸で男女の情死があった。
普通は情死で片付けられる出来事だったが、地元の老刑事鳥飼重太郎は「食堂車の伝票が男の分、1枚しかない」ということが気になり、捜査を始める。警視庁の若手警部補三原紀一が、役人の汚職の調査のため鳥飼のもとを訪れる。そして容疑者安田が浮かび上がる。しかし、安田は事件当日北海道にいた。そのアリバイを崩しにかかる三原は何度も壁に突き当たる。そして三原の執念は九州と北海道、距離と時間、国鉄と飛行機など、様々なアイテムを利用した安田のトリックを暴く。最後は安田の妻の情念により事件は謎を残したまま、幕引きとなる。
昭和32年に書かれた小説である。
関係ないが、僕の生まれる前の年。

(2)時間の習欲★★★☆☆
三原警部、鳥飼刑事の東京九州コンビが再び難事件に挑む。今度は東京で他殺事件発生。容疑者峰岡は事件発生のとき北九州門司和布(わかめ)で神事を撮影。「点と線」の第二段といっても良いだろう。容疑者峰岡は「点と線」の安田と同じく、冷静沈着である。この完全的なアリバイの壁に苦悩する三原と鳥飼。こじれた糸は解くことができるのだろうか。問題解決したかに思えて、また問題が発生…。しかし、峰岡には思ってもみないような共犯者がいた。女であって女でない…。僕は途中で共犯者は「女でなかったのでは」と思っていたら当たっていました。「点と線」に比べ、事実関係が曖昧なうちに、三原の予測が的中しつつ事件が解決して行くので、巧く生きすぎでは思うところもある。といろいろな仕掛けを考えるものですね。
これは昭和36年書かれた小説である。

(3)影の車(短編小説集らしい)

@潜在光景★★☆☆☆
サラリーマン浜島は中学校時代の同級生小磯と二十年ぶりに再会。浜時と小磯は不倫関係に。小磯は夫と死に別れていて、子供が一人。
浜島には幼少の頃、誰も知らない過去があり、それが原因となり、事件が発生してしまう。
自分では心を閉ざしているつもりでも、人間である以上、生きている間は閉ざし切ることはできない。

A典雅な姉弟★★☆☆☆
傍から見ると優雅に見える老姉弟の生活も、その裏側は。巧妙な弟のトリックは見破られるのか。

B万葉翡翠★★★★★★★★…
これには驚きました。物語の場所が、僕の居る糸魚川なんです。
翡翠を探しに糸魚川市の小滝地区へ入った大学生今村が遭難したのか、帰ってこなくなった。
再三の捜索にも、手がかりはない。
みんなは諦めていたが、今村と結婚を約束していた芝垣多美子の愛情と執念が、事件解決を解決へと導く。
細かなトリックなし。
特定地域に咲く植物の種が多美子を応援する。
揺れ動く偶然が、必然に変わっていく。
多美子の心と、糸魚川の奥地に咲いた藤アザミの美しさを思うと泣けてくる。
これは何度も読みたい、傑作です!!

C鉢植えを買う女★★☆☆☆
オールドミス上浜は会社で高利貸しをしていた。同僚で債務者の一人杉浦は会社のお金をかっぱらい、少し前から肉体関係のあった上浜のアパートへなぜかお金を持って訪れる。上浜のとった行動は…。
ブラックユーモアかこれは。

D薄化粧の男★★☆☆☆
殺されたのは若い時は少し男前だったが今は中年で、ケチで、女たっらしで嫌われ者のサラリーマン課長草村。
妻と愛人風松ユリはどちらも殺人の容疑をかけられるが、両者ともアリバイなどがあり、事件は未解決のまま2年を迎える。愛人ユリは、その後、別の愛人に捨てられて、世に絶望し自殺した。ユリの遺書を探し求める草村の妻。刑事はここに目をつけて事件を解決する。殺した男はろくでもないやつだったので、罪の意識はないが、罰は怖い…
途中で、共犯だというのがわかりました。

E確証★☆☆☆☆
サラリーマン大庭は変人だ。妻の不貞を疑い、とんでもない行動に出る。
何をしたかはここで書くことができないほど、馬鹿らしい。そして、それがとんでもない事件を勃発させる。もっと男らしく生きてもらいたい。読んでいて気持ちが悪くなってしまうではないですか…

F田舎医者★★★☆☆
杉山の父は貧乏だったため一度も故郷へ帰ったことがなかった。
望郷の念を抱きながら死んでいった父の思いを引きずった杉山は、出張のついでに意を決して広島県の山奥の故郷を訪ねる。ところが帰郷当日、唯一の親戚関係の医者が思わぬ事故に遭遇。杉山は後で、これは事故ではなく医者に妬みを持つ、ある親戚の犯罪ではないかと考える。ひなびた田舎、貧乏な暮らしが描かれている。

*第一巻の巻末に平野 謙という人の解説があり、面白いのでポイントを。
@「点と線」「時間の習欲」は秀作。
Aともにアリバイ崩しがテーマになっている。アリバイ崩しのときは、途中で読者にも犯人がわかる。
B真実味からすると「点と線」が大いに勝る。「点と線」は食堂券など、安田が犯人として疑われる証拠が設定されているが、「時間の習欲」は三原警部の勘だけが頼りで、峰岡を犯人と決め付けている。
C松本清張のこれらの作品は、娯楽的勧善懲悪小説の限界を超えた社会的プロテスト(???)となっている。

*短編小説では「万葉翡翠」が絶対に面白い。僕の住んでいるところが舞台になっているからね。


全集2

(1)眼の壁★★★☆☆
電気部品メーカーの経理課長が手形搾取事件にあってしまい、責任を感じて自殺してしまった。課長を恩師と仰ぐ、萩崎は課長の無念を晴らそうと、犯人を追及する。金策をしていた課長に右翼の舟坂を紹介したのは、高利貸しの山杉であり、山杉の美人秘書 上崎恵津子 は重要な鍵を握っているようだ。萩崎は恵津子に一目ぼれした。恵津子は萩崎の存在自体を知らない。
事件を追っかけているのは萩崎だけではなく、会社弁護士もそうだった。しかし、会社弁護士の従業員は殺害され、弁護士も何者かに拉致される。
そして、弁護士はなぜか木曾の山中で遭難死体で発見。拉致された弁護士がなぜ、遭難死体になったのか。
さらに、長野県の青木湖の付近で、容疑者と思われていた右翼の手下の黒池が白骨化した自殺遺体で発見される。
萩崎は友人の新聞社記者とともに舟坂を追いまわすが、弁護士と黒池の死に方と舟坂の行動の関連性が謎であった。しかし、ついに…。右翼の舟坂はうさんくさい。多分、犯人だろうと思っていたら…。
実はその付き人というか、手下の山崎が事件の全てを操っていた。
弁護士と黒池の殺し方が残酷である。特に黒池は硫酸で溶かされていた。
黒池は美人秘書、恵津子の弟だった。恵津子は萩崎と山崎がぶつかる直前に、警察へ事件の真相を記した手紙を出していた。
山崎を追い詰めた萩崎は、山崎の逆襲により窮地に陥ってしまうが、そこへ恵津子の報告により出動してきた警察に助けられる。追い詰められた山崎は、やけくそになって自ら硫酸風呂へ飛込み果てる。
硫酸風呂は想像できなかったが、精神病院は容易に事件との関連性を感じ取れるでしょう。
硫酸風呂の受け皿は解けないのだろうか…
硫酸風呂なんて、残酷小説ではあるまいし、いくらなんでも変ですね。これは。
結局、恵津子は最後まで萩崎の存在を知らないのではないかと思われるが、萩崎は逮捕された恵津子が刑務所から出てきたら一緒に暮らそうと、心に誓い、物語は終わる。

(2)絢爛たる流離★★★☆☆
3カラットのダイヤモンドが人の手を渡り歩く。ダイヤモンドは残るが、手にした人たちの周りには、次々と殺人起こる。
読むには忍耐力を要しました。
殺人リレー。バトンを渡された人はたまったもんではありません。

@土俗玩具
昭和初期頃の話し。
八尾妙子は金持ちの娘で、美人。八方破れな正確で、男好き。あっちこっちで、遊びまくった挙句、ぱっとしない忠夫と一緒になる。その時の記念に妙子の父はダイヤモンドの指輪を妙子に買い与えた。そのうち八尾家は没落。妙子は昔の蓄財により贅沢な生活を続けるが、忠夫を疎ましく思っていたようだ。さらにぱっとしなくなった忠夫はある日変死。胃の中から砒素が検出された。妙子は食事に砒素を混ぜた容疑で裁判にかけられるが、弁護士北山が忠夫が生前大事にしていた土俗玩具の塗料も砒素と関係していたことが、忠夫の変死の原因であると弁護士、妙子は無罪放免となった。しかし、実は…

A小町鼓
釈放された妙子は家に帰ってきた。回りにはひどい目にあったとか言いふらし、周りも同情の視線を送る。そんななか、妙子の贅沢な生活が再会。一人身の男好き美人中年女に釣られて男が集まる。弁護士北山や以前からの趣味の男友達が妙子に近づき、妙子はそれぞれと関係を持つ。特に北山は、妙子が忠夫を毒殺したことをネタに妙子にしつこく関係の強化を迫る。
ある日、北山が妙子の家で刺されて死んでいた。
犯人は…
妙子か、あるいは妙子と北山の関係を妬む、妙子の趣味の男友達か…
結局、妙子が長い竹の鼻先に合口をつけて、酒に酔って寝ていた北山を刺し殺したのだった。
なぜ、こんなにごちゃごちゃに筋書きになるのか。
男を食い物にしながら生きた魔女のような妙子でした。

B百済の草
ダイヤモンドは八尾家から宝石商を通じて、鈴井物産の重役の娘寿子の手に。
伊原は寿子と結婚し、寿子の父が経営する鈴井物産の南朝鮮工場に勤務。娘の婿なので優遇されていて、二人は幸せな生活を送っていた。しかし、伊原は徴兵され、美人でおとなしい寿子は一人で社宅で生活する。伊原は衛生兵となって、遠方から社宅の近くの兵舎へ戻るが兵舎から出ることはできず寿子に合えない。寿子の社宅にはスケベな高級参謀が下宿し、寿子に関係を迫っているようである。心配した伊原は、手を尽くし、その高級参謀を手にかけたらしい。
伊原の寿子への愛情はまともだっと思うし、寿子も可愛らしい。

C走路
伊原が高級参謀を殺害したらしい、ということを軍は知っていたらしい。それで伊原は沖縄へ飛ばされ、敗戦が色濃くなってきた朝鮮での寿子達の日本人の生活はひっぱくする。寿子の周りには、篠原大尉など数名の男がうろつき、寿子に目をつける。そして篠原は軍費を横領し、寿子とその他の男2名と船で逃亡する。篠原は悪どい男だった。篠原はその他の男を利用するだけして、金員を剥ぎ取り殺して海へ捨てる。寿子もかわいそうに、ダイヤモンドを取られて殺されたのであろう。

D雨の二階
篠原は日本に帰るが、ダイヤモンドを売り、それを軍需省の雇員であった畑野が手にする。畑野は精力的な男で、運転手から物資のバイヤーに成り上り、金持ちになる。はじめは仕事一本やりだった畑野も女遊びが好きになり、自分のヒステリー妻が邪魔になって、ある方法で殺した。何と、妻を縛って、さるぐつわをはめ、物資の長靴を頭にかぶせて、じわじわと自然死させてしまったのである。畑野は巧妙なアリバイ工作により警察の目をごまかした。結局犯人不明のままとなるが、ある日畑野は人の恨みを買って銃殺される。畑野の妻殺害事件を忘れることができなかった刑事は、なぜか突然、畑野のトリックを解き明かす。しかし、その時は畑野は死んでいた。
刑事は妻殺しで刑務所へ入っていれば、銃殺されずに済んだのにと、どちらが畑野にとって得だったかを考えていた。

E夕日の城
ダイヤモンドは群馬の農家へ。
俗物親父山辺の娘澄子は、父と仕事上の付き合いがある粟島の口利きで群馬の農家へ嫁ぐ。夫、夫の父母と幸せに暮らしていたが、夫が狂人であることが発覚し、澄子は出戻りになり、息子が狂人であることを隠していた父母からお詫びの標としてダイヤモンドをもらってくる。
澄子は粟島の事務所で留守番として働くが、粟島には自分を狂人の所へ嫁がせたことや、日頃からの粟島が持つ詐欺的な行動に対して、澄子は粟島に冷ややかな憎しみを抱く。そして、ある日澄子は変態プレー中の粟島を睡眠薬を使い、殺害する。
ダイヤモンド殺害リレーは続く。

F灯
粟島を殺害した澄子は警察に捕まる事もなく、父の古物店の店員として過ごしている。
父はうさんくさい仕事に手を染め、しごとに関係して金井と村田というインチキブローカーが澄子に関係を求める。
澄子は両者とも相手にしなかったが、ある日、澄子は自宅二階のアパートで惨殺死体で発見される。犯人は金井か村田か。悩む刑事は金井が地震にという自然現象を大変に恐れていることを知る。東京生まれの金井は、関東大震災を経験していたからである。澄子が殺害された時間、中型の地震があった。それはまさに金井が澄子を殺害後、犯しているときに起こった。地震が怖く慌てた金井は、電気をつけたまま外へ逃走。そのような刑事の推理はズバリ的中し、金井は逮捕された。ダイヤモンドはどこへいったのかな。

G切符
小心な足立は終戦後の物資が不足していたとき、細々とブローカーを営んでいた。そこへ自称大学の機械科卒業坂井がうまい話しを持ちかけた。資金のない足立は知り合いの元芸者米山スガに出資を持ちかけた。スガは食わせてもらっている男から例のダイヤモンドを送られて、指にいつもはめていた。坂井の持ちかけた話しは失敗に終わり、足立はスガから厳しい取立てを受ける。当然坂井にも取立てが行き、坂井は今度はスガを殺害し、ダイヤモンドやお金を取ってしまう作戦を足立に持ちかける。男二人はスガに別の投資話しを持ちかけ、投資先の山林でスガは坂井に殺される。坂井は策士であり、今度は足立を殺そうと思っていたが、手違いがあり逆に足立が偶然にも坂井を殺してしまう。小心な足立が坂井とスガの死体が燃える前で、呆然と立ち尽くしているところで話しは終わる。

H代筆
さらに殺人リレーは進む。昭和22年頃の話しになってきた。
売春婦新保なつ子が殺された。死因は不明。アパートの自分の部屋で汗をかいて死んでいた。なつ子は米兵ビックの専属売春婦だった。しかしビックが朝鮮戦争へ行っている間、なつ子は他の男を物色していた。容疑者は戸倉という売春婦が書いた手紙を英語で代筆することを商売にしている非力な男であった。戸倉はなつ子の死体第一発見者でもあったが、戸倉は警察へ通報するまでの間の2分くらいで、自分が仕掛けた電気の変圧器を外したのだった。つまりなつ子は感電死。そのトリックがわからず、事件は迷宮入りかと思われたが、刑事が自分の引越しのときに電気屋が来ず、自分で電灯を修理していてしびれたことから、この殺し方を思いつき、見事、戸倉逮捕にこぎつける。絶縁手袋をはめて、電線をなつ子の腕に、無理やり当てたのだった。しかも、焦げ跡がつかないように、ビックにタバコをあて付けられた焼け跡に電線をあてていたとは、何と言う細心の注意。
なお、なつ子はビックから買ってもらった3カラットのダイヤモンドを持っていた。
リレーが長いので、そろそろ終わりにしてもらいたい。
筋書きを書き残すの、大変だよ。

I安全率
大企業会長加久(かぐり)の愛人津神佐保子はバーのおかみさんである。佐保子はバーの従業員の若造と関係し、佐保子は別れたいが若造は多額の手切れ金を要求する。佐保子は加久に相談するが、妙案はない。ある日、学生活動家が加久のもとへ活動資金の寄付をお願いに来る。加久は大規模なデモがあることを聞き、そこへ若造を呼び出し、学生達に若造の服に「右翼」と認識させるマークを書く。雑踏のなかであり、若造は書かれたことを知らない。そして、3カラットのダイヤモンドで店の窓ガラスを剣のように切った佐保子は、それで若造を殺害する。(このあたりの経過は良くわからない)
刑事は若造は右翼のゴロツキの一人で、何かのいさかいに巻き込まれたと考え犯人は捕まらない。加久は犯人は佐保子だと知っている。

J陰影
佐久子は殺人を犯した罪の意識にさいなまれ、加久に別れ話しを持ちかける。優しい加久はあえて拒まなかった。加久は優しい男なのである。佐久子は加久からもらった3カラットのダイヤモンドを加久に返す。加久はダイヤモンドに傷がついていることを発見するが、気にせず、商人に売払う。刑事が別の事件でその商人と接触し、3カラットのダイヤモンドに傷があることと、それでガラスを切り凶器にしたことを結びつける。刑事はダイヤモンドを売った加久のもとを訪ねるが、加久は不在であり、加j久の妻は「それは愛人が持っていたものでしょう」と刑事の問いの答えてしまし、佐久子は捕まってしまう。

K消滅
やっと最後になりました…
これは昭和32年頃の湘南地方のあたりが舞台。つまり、3カラットダイヤモンドは戦前からこれまで、殺人リレーの関係者に次々と所有されていたのです。
宮原は経済的な事情だと思うが高校へ進学ができずマンション建設現場で働いていた。別荘へ遊びに来てた宇津井登代子が宮原の前に現れ、宮原は登代子に憧れる。しかし間もなく登代子は結婚することとなり、婚約者崎川を宮原に紹介する。宮原はいたたまれず、崎川を誰も見ていないところで殴り殺し、がけから海へ投げ落とす。3カラットのダイヤモンドを崎川は登代子へプレゼントしていたが、サイズが合わず直してもらうために、登代子は崎川はダイヤモンドを返したところであり、ちょうどそれが殺された崎川のポケットに入っていた。宮原はそれを取るが、後で処分に困る。宮原と登代子はそれっ切りだが、宮原はダイヤモンドを別の工事現場で、溶接機を使って溶かしてしまう。ダイヤモンドと指輪のプラチナは鉄骨にかすとなって付着。そのかすが原因だと思われるが、ある日、鉄骨が落下して事故が起こる。刑事がそのかすに目を付け、溶接した宮原の犯罪に気付く。

*「絢爛たる流離」はダイヤモンドの所有者(関係者)の殺人リレー物語だ。いろいろな殺人パターンがあり、面白いことには面白いが、かなり長い。


全集3

(1)ゼロの焦点★★★☆☆
貞子は鵜原憲一と結婚した。結婚したとたんに、憲一は出張先の金沢で行方不明になった。貞子は慌てて金沢へ捜索に行く。その後、憲一の兄も応援に駆けつけるが、兄は貞子が知らないことを何か知っていそうだ。そして、兄は何者かに青酸カリ入りのウィスキーを飲まされて殺されてしまう。商売上、憲一をひいきにしてくれていた会社社長室田とその夫人が登場し、室田は昔、立川で米兵相手に売春をしていた田沼久子を社員として雇っていた。実は憲一は会社へ勤める以前は立川で巡査だった。室田夫人も久子と同じ商売をしており、何と憲一とは顔を合わしたことがあった。
室田夫人は自分の過去が夫にばれるのを恐れ、自分の過去を知っている者や調べようとするものを次々と殺害する。兄も憲一も、久子も、貞子を慕っていた憲一の後輩本多も…
貞子はいろいろ調べ、考え夫人が犯人だという結論に達する。
正月休で和倉温泉へ遊びに行った室田夫妻を追いかける貞子。
そして、室田を見つけたのは憲一が転落した岸壁だった。
室田は冬の海を沖へ向って進んでいく小さな漁船を見つめていた。漁船は夫人が運転していて、海に消えていった。
トリック小説でもあるが、答えはほとんどが貞子の考えで解かれる。
いろいろな絡みがあるのだが、偶然が重なるとこうなるのか。
最後までよく引っ張るものである。当時の娯楽小説のパターンなのだろうか。

(2)Dの複合★★☆☆☆
あまり売れていない作家伊勢と、伊勢に紀行連載を持ちかけた若い出版者社員浜中が取材に訪れた先で殺人事件が起きる。浜中の本当は、昔、自分の父を殺人者に仕立て上げた出版社社長(山羊ヒゲ)への復讐を企てている。最後はそれを成し遂げる。登場人物が多く、筋書きを追うのに大変だった。それに紀行取材先の歴史や情景など、かなり詳細に書かれていて、旅日記のようだ。知っていれば興味もわくが、全然知らない場所なのでそういうところは読んでいても退屈なので、飛ばした。
タイトルの意味はよくわからないが、伊勢と浜中が取材行ったり、殺人事件が起こったり、浜中の父が山羊ヒゲのおかげで船舶事故にまきこまれた場所などが、東経○度、緯度○度とかで結ばれていて、そういう企画を浜中がして、伊勢に事件を暗示するというようなことからきているらしい…。最終的にはマトリックス状態で各地点が結ばれて、Dの形になる、ということらしいがあまり面白くない。

全集4「黒い画集」
中編小説集でまとめて「黒い画集」という本になっている。

(1)遭難★★★★☆
銀行員の江田、岩瀬、浦橋の3人は信濃大町から登山をした。準備万端で挑んだが道に迷い、岩瀬は遭難死する。浦端は遭難の記録を雑誌に投稿した。それを見た岩瀬の姉と従兄弟が江田に遭難した場所へ案内をしてくれ、と頼み、江田と従兄弟はそこへ向う。従兄弟は遭難に疑問を持っていた。江田が仕組んだのではないかと。登山の途中、従兄弟は江田にいろいろ質問しながらプレッシャーをかけて行く。江田はやはり疚しいところがあったのだ。江田はピンチになるが、最後は江田が逆転する。岩瀬が江田の妻と不倫をした復習に江田が遭難を仕組んだのであった。
緊迫感があって面白い。

(2)坂道の家★★★★☆
地道に化粧品屋を営んできた寺島が来店した水商売のりえ子に一目ぼれする。りえ子に蓄財を湯水のごとく注ぎ込み、最後は破産状態となる。りえ子に別の男がいることを知るとやけくそになった寺島はりえ子に殺意を抱く。一方、りえ子はお金を恵んでくれた寺島ではあっても胡散臭く思っていて、寺島から開放されたいと願っている。そしてりえ子は男と結託して寺島を風呂で殺す。寺島がりえ子を殺すと思っていたら逆だった。

(3)紐★★★☆☆
岡山から一攫千金の夢をみて事業を起こそうと東京にやって来た神主が殺された。犯人は妻。妻は神主が保険に入っていたことを知っていた。妻には男がいた。神主は事業の失敗から妻に「俺を殺して保険金から借金を返し、あとはお前の生活費にしろ」といって妻に自分の殺害を命じた。妻は躊躇しつつも殺した。保険金は下りるか。保険屋さんが調べに回り、警察も調査し、真相が明らかになった。
単純な自殺なら保険金はおりる。
神主はそのことを知らず、妻に殺害を命じ殺された。
妻は男がいたので、神主を殺す動機がある。そうすると保険金はおりない。神主は妻に男がいたことを知っていて、そもそ妻に保険金を残す気持ちなどなかったのかも知れない…というようなところで物語は幕となる。

(4)天城越え★★★☆☆
印刷屋は少年の頃家出をしたことがあった。家出の道中で娼婦と道連れになった。娼婦はお金を持っていないので土工の男と寝た。娼婦が男からお金をふんだくって去った後、印刷屋は嫉妬心からかその男を殺す。娼婦は犯人に疑われていたが無罪。事件の過程を記録した調査書の印刷を30年以上たったある日、印刷屋は警察から依頼されて記録を目にした。刑事は印刷屋が犯人であることを突き止めていた。事件は時効になっているが、印刷屋の心の闇は一生晴れることはない。

(5)証言★★☆☆☆
石野は浮気をしていて、愛人と一緒のところで近所の杉山と会う。近所の杉山は強盗殺人の容疑者になった。犯行時間は近所の杉山が石野と会った時刻であり、杉山は会った事を主張するが、石野は浮気がばれるのを恐れ偽証する。石野の愛人には別の男がいて、愛人はその男に近所の杉山と会ったことを話す。その話が男を通じて弁護士の耳に入り石野は偽証罪で裁かれる。愛人は男がいたので石野を騙したことになる。嘘は嘘で復讐される。

(6)寒流★★★★☆
銀行員支店長の沖野は取引先の割烹女主人、美人で頭の良い未亡人奈美が好きになる。奈美も始めは沖野が好きだった。沖野は家庭を捨てても奈美と一緒になりたいと思っていた。ところが同じ銀行の重役桑山常務がそこに割込んできた。沖野はとても桑山に刃向かえる立場ではない。銀行内での自分の将来は桑山が握っているし、自分には銀行を辞めてしまえば何もない。奈美は桑山の計らいで融資を受けたり何だりして、桑山の女になった。そして沖野は桑山に左遷させられた。
桑山は復讐を考えた。割烹への不正融資と桑山と奈美の関係をネタに桑山を陥れるよう小物総会屋に依頼する。その時の情報は怪しげな興信所の伊牟田という職員に依頼して収集したものだった。
復讐の期待に胸を膨らませていた桑山ではあったが、小物総会屋は桑山に逆に丸め込まれたらしい。そして沖野を脅し始める。沖野は自分の無力さに絶望するが、伊牟田と手を組んで最後の大芝居を仕組む。
桑山が奈美との情事を済ませて愛車のキャデラックに乗り込んだが、それは沖野と伊牟田が仕組んだワナだった。そのキャデラックは桑山の愛車ではなく、盗難届の出ている他人の車。警察が桑山と奈美を取り囲んだ。
桑山と奈美との関係、融資などが表ざたになる可能性が出てきた。
沖野の渾身を込めた復讐が成功したようだ。
「寒流」というのは沖野、いや組織に刃向かえないサラリーマンの寒々とした人生を象徴しているようなことば。

(7)凶器★★★☆☆
卸業者六右衛門が殺された。かますを織って六右衛門から買ってもらっていた若い未亡人島子に嫌疑がかかる。刑事は島子の家を捜索して凶器である棒のような硬いものを探すが見つからない。
正月で島子は世話になっている村人を家に呼び、汁粉などを振舞っていた。刑事もそこへちょうど顔を出し、汁粉を食べた。
事件は解決せず何年か経過した。刑事はあるとき硬い餅に身体のどこかをぶつけて「痛い」と思った。そして、凶器は餅に違いないと確信する。 島子は凶器を隠滅するために汁粉を作り、刑事もそれを食べていたのであった。
ぶん殴って人を殺せる餅はものすごい硬いに違いない。

(8)濁った陽★☆☆☆☆
○○公団の汚職事件で公団の課長が自殺した。そして汚職事件は闇に葬られ、トップは助かった。この事件をテレビ番組にしようとした脚本作家関は自殺ではなく、事件を隠蔽するために殺されたのではないかと推理して、弟子の森沢真佐子とともに真相を究明する。公団に巣食うハイエナのような西原が浮かび上がる。西原は課長の上司であった多賀を利用して課長を殺したのであるが、今度はその多賀を巧妙なアリバイ工作により自殺に見せかけて殺す。関は西原を追い詰めるがアリバイは容易に崩せない。しかし、最後は西原のアリバイを崩し、警察に通報する。
アリバイネタは複雑で分かり難く、必然性に乏しいのであまり面白くない。
そうでないと小説は終結しないですからね。

(9)草★★☆☆☆
肝臓を壊して入院している出版業者の沼田がいる。入院している病院の院長と婦長が駆け落ちしてしまった。婦長は山中で遺体で発見。無理心中で処理される。そんななか病院経営に苦慮している事務長が自殺する。入院患者の金子が沼田に近づいてくる。沼田は少し図々しい金子を胡散臭く思っている。
事務長は麻薬を使っていたらしく、金子は麻薬のバイヤーらしい。
病院は昔から麻薬集団と付き合いがあった。院長は麻薬集団に手を切りたいと離したらしい。駄目だということで、麻薬集団に殺された。心中は擬装であり、院長の遺体はその後海岸で発見される。
沼田は実は刑事で、金子に目をつけて入院していたのだった。金子はそれを察知して、沼田から逃げる機会を伺っていて、沼田に睡眠薬入りウィスキーを飲ませるが、沼田はひっからず金子は捕まる。
沼田が刑事だったというところが面白いが、筋書きは何とでもなる、という感じだった。


全集5

砂の器★★★☆☆

全集4は「砂の器」の一話だけ。
結構長いのでじっくりと読める。
蒲田で殺人事件発生。国電で始発発車前の電車の下から死体が発見された。その死体は誰か…。謎解きが始まる、死体だと思われる人は少し前に飲みやで東北弁で「カメダ」という地名を話していたという情報を刑事の今西はキャッチ。東北を訪ねるが、解決に到らず謎解きは続く。島根県に東北弁を使う地域があることを発見し、そこから謎が解かれ始める。若手の芸術家などが新しい何とか集団を作っていた。音楽家の和賀は大企業の令嬢と婚約している。評論家の関川は恵美子と付き合っている。和賀と関川は同じグループだが、お互いを嫉妬し合っている。令嬢との結婚を控えている和賀の過去は暗い。殺されたのは和賀の過去を知っている人だった。電車の下の死体事件の犯人は和賀。和賀は殺人の隠匿をはかるため更に別の人も殺す。関川は妊娠した恵美子の堕胎を企て、和賀にそれを頼み、和賀が作曲に使っている超音波の機械を恵美子にかける。和賀はなぜかそれを引き受けるが、超音波が強烈過ぎたのか、誤って恵美子を殺してしまう。和賀は義父から援助を受けてアメリカへ旅立とうとしている空港で、今西たちに逮捕される。関川はどうなったかわからない。
誰が犯人なのか最後までわからない。今西が事件の手ががりを求めて線路を歩き回る描写など、少し感動的である。今まで読んだ松本清張のなかでは、わかりやすく面白い方であった。
超音波の機械で堕胎させるなんて、残酷なことを思いつくものだな。


全集15 けものみち★★★★☆

民子は怪しげな旅館の住み込み従業員として働いていた。それは頭のおかしい中風の夫を養わなければならないためでもあった。
民子の前に小滝という男が現れて、民子は小滝が好きになる。小滝はある目的のために民子が独り者になるようそれとなく勧める。民子は小滝の言うなりに中風の夫を失火に見せかけた火事で殺害する。
民子の鬼頭邸での生活が始まる。
鬼頭は日本の政界や財界を牛耳る黒幕だ。殺害した夫と同じように中風にかかっている。老齢だが女好きは衰えていない。
民子も女ざかりで、自分の将来を補償してくれるという口約束を信じて鬼頭に尽くす。
一方、民子は小滝のことも忘れることができず、鬼頭も自分の助平心を満たしたいために民子へ浮気を勧めたりする。
刑事久垣は民子が夫を殺害した証拠をつかむ。正義感というより民子の体を欲するために民子を追い詰める。
そんなとき小滝が支配人をしているホテルで道路公団の総裁の妾が殺害される。
総裁の妾殺害は鬼頭が総裁を挿げ替えるために画策したものだった。
犯人は泰野という鬼頭の旧知の手下である。
もともと鬼頭と泰野は九州で炭鉱を経営していたが、そのときに労働者の代表者を泰野は鬼頭の命令で殺害している。
久垣はそういう事実までつかんだ。
そして民子をつかまえて飲み屋の一室で関係をせまるがもう少しのところで失敗する。
久垣の存在を知った鬼頭は激怒し、警察に圧力を加えて久垣をくびにさせる。
そんなおり民子の前任の米子が全裸死体で発見される。
米子は鬼頭の反対派のスパイのようなもので、鬼頭を暗殺しようとしたらしい。
それを知った鬼頭は先手を打って米子を殺すが、米子は効果が後で出てくる毒薬を鬼頭に飲ませてあった。鬼頭はそのせいで入院しなければならなくなる。
くびになった久垣は自分で調べ上げた鬼頭の過去や、米子の殺害、民子の夫殺害などを文書にまとめて新聞社へ持ち込み買取を要求する。しかし新聞社も鬼頭とは関わりたくないので謝絶した。そして新聞社はそのことを警察へ通報。久垣は万事休すとなるが、何とか復習をしようと更に事件を調べ上げようとするが、最後は鬼頭に殺される。
鬼頭の許しを得て民子は小滝と一夜を過ごす。その夜鬼頭は死んでしまった。民子が帰ってくるのを待っていらいらしていたことが心臓発作に結び付いたらしい。
鬼頭が死んだらとたんに警察などの動きが慌しくなった。鬼頭邸はがさ入れにあいそうになるし、鬼頭の子分は仲間割れのような混乱状態になる。
民子は小滝の元へ逃げる。小滝も自分の危機を感じ取り民子と逃走する。以前から民子にちょっかいを出していた鬼頭の子分である黒谷は権力闘争のためか証拠隠滅のためか、泰野を鬼頭邸で惨殺する。
最後、民子は小滝と共謀した黒谷に風呂場で入浴中にガソリンをまかれて焼殺される。民子が燃え上がる描写はむごい。入浴中に風呂へガソリンを入れられて、それに火を放たれ燃えてしまうんですからね…
黒谷もその風呂から出られなくなり焼死。すべては小滝の筋書きによる。
結局、生き残ったのは野心家小滝だけで、彼の哄笑が庭に響き渡った。


全集6 球形の荒野・死の枝

球形の荒野★★★☆☆
芦村節子は奈良のお寺めぐりをしていて、ずっと昔、満州で亡くなった外交官の叔父、野上顕一郎の筆跡とそっくりな記帳を見つける。
そのことを叔母(野上顕一郎の妻)、野上孝子と娘、野上久美子へ報告する。孝子は顕一郎の死を信じていてそんな話しはやめてもらいたいと言う。久美子は漠然とした思いであった。久美子のフィアンセであり新聞記者である添田はその報告に興味を持ち、顕一郎は生きているのではないかという疑問を抱き、顕一郎の同僚であった官僚村尾や当時満州で取材活動をしていた新聞社の先輩である滝などを訊ねる。
村尾や滝は知らないふりをする。
顕一郎はやはり生存していた。顕一郎は敗戦確実であるにも関わらず尊い犠牲出しながら戦争を続ける日本を救うという信念を持って連合国側へ情報通報者として渡り、自分は死んだこととなったのであった。村尾や滝はこのことを知っていた。一方、戦争信奉者派のグループは顕一郎は国家の裏切り者であり、その抹殺をたくらんでいる。
密かに帰国していた顕一郎は久美子に会いたいといろいろな作戦を実行する。それが原因で関係者が殺害されたりする。村尾や滝は顕一郎が帰国していることを知っているが、顕一郎の生存は国家がからんだ機密事項であり、それを隠そうとしている。
最後は浜辺で顕一郎と久美子は再会するのだが、当然ながら久美子は実父とは知らないでいる。しかし、久美子は不思議な懐かしさを持って顕一郎とのひと時を過ごす。
最後の場面は静かで感動的だ。登場人物やストーリは良く整理されていて判りやすい。

死の枝(短編小説集)全体的に★★★★☆
軽快なテンポとすっきりとした筋書きで面白い。
@交通死亡事故1名
タクシー運転手小山田は営業中に人をはねる死亡事故を起こした。事故はやくざに取り付かれた女と恋仲になった男が、やくざを殺害するために男女が起こるような仕掛けをしたものだった。タクシー会社の自己担当亀山は難問を解決し男に自白をさせる。
A偽狂人の犯罪
高利貸しに追い詰められた猿渡は高利貸し殺しを策略する。完全犯罪は無理だろうから、猿渡は狂人を装い心神喪失状態で無罪となるよう狂人の勉強をする。殺しは実行されるが、猿渡の計画通り偽狂人であることはなかなか見抜かれない。疑いを持った事務官河田はある方法で見抜く。それは猿渡にエッチな本を読んで聞かせることだった。完全に狂人を装っていた猿渡も、演技を忘れてしまった。物語をそれで終わらない。河田は警察で押収したエッチな本などのとりこになってしまい警察をくびになるという落ちが付いている。
B家紋
北陸の田舎村で善良な夫婦が殺害された。本家の家紋の入ったちょうちんを持った男が犯人だった。しかしちょうちんが本家から持ち出されたことはない。結局事件は迷宮入りとなった。夫婦の子供、雪代は事件があった頃は5歳であったが、成人後九州で結婚する。夫の実家へ墓参りに行ったとき、お墓で家紋の入ったちょうちんを見た。お墓には家ごとにちょうちんを飾る儀礼があり、雪代は偶然そういうことを知った。父母を殺害したのは父母の法要で一度見かけたことがあった当の時寺の若住職ではなかったかと想像する。
C史疑
北陸の田舎村に有名な学者Aの著作を所蔵しているがんこな年寄りがいた。若い歴史学者比良はその著作を見せてほしいと年寄りを訊ねるが拒否される。比良は年寄りの家に忍び込んだところを年寄りに見つかり年寄りを殺してしまう。結局本はなかった。比良は山越えの逃亡を図り、途中あった村の若い女と関係を持つ。数年たち比良は有名な学者になった。別の学者がAの著作を発見したと言う論文を出したことに、比良は反論する。それがあまりにも現実味を帯びていた。田舎村で妻が夫に殺害された。理由は妻の産んだのは夫の子供ではないという理由であった。比良の反論を目にしたある刑事は両方の事件が同じ地方で起こったこと、妻が妊娠した時期が一致することなどからそれを結び付ける。子供は比良とそっくりだった。
D年下の男
年増の女性電話交換手加津子はようやく年下の男と結婚することを決意した。しかし男は浮気をしていた。今更結婚を撤回することを恥ずかしがった加津子は男を殺害する。男を高尾山の山登りに誘い、写真を撮ると言って男を崖っぷちに立たせて突き落とした。カメラの後始末に困った加津子は東京駅の待合室のそっと置いて逃げた。拾ったのは置引犯であり、警察は置引犯を捕らえカメラを押収する。カメラの持ち主が加津子であることを知った刑事はカメラに付着していた昆虫のカスが高尾山にしかいないものであり、カメラのことを警察に話さなかったことから加津子に疑念を持つ。
E古本
流行おくれの作家長府は久しぶりの執筆依頼に応じようと盗作をする。盗作元の作家はすでに死んでいた。しかしその親戚林田が長府を盗作を理由に恐喝する。散々お金を取られた長府は林田にうその列車通過時間を教えて陸橋を渡らせ、列車事故に合わせる。長府はある出版社へ盗作元の著書を持ち込んでいた。長府の倒錯を告発する記事が新聞に載り長府の筆は途絶えた。その記事を小説好きの刑事が見た。長府の筆が途絶えたことと列車事故との関係に考える。
Fペルシアの側天儀
会社課長の沢田の家に泥棒が入る。泥棒は捕まるが警察が押収した被害物のなかに沢田がペルシアから買ってきたペンダントがあった。ペンダントは沢田へ返された。その後沢田は浮気相手を殺してしまう。浮気相手にはそのペンダントをくれてあった。殺した後、沢田は足が付くのを警戒してペンダントを女の部屋から持ち出して安心する。ところが女の部屋へ以前の泥棒が入ったことがあり、泥棒はペンダントを女が持っていたことを刑事へ話す。沢田へ刑事の影が忍び寄る。
G不法建築
建築会社経営者は変質者で女性のバラバラ殺人を犯す。その場所は作為的な不法建築物の中だった。バラバラ殺人を犯した場所を警察は特定しかねていた。経営者は行政指導で強制的に解体されることを計算に入れてその場所を選んでいたのだった。
H入江の記憶
男は自分の妻の妹明子と浮気をする。男は子供の頃父が母の妹と関係を持ち、その妹が別れたいと言い出したことに立腹し妹を殴り殺してしまい、母は父をかばうために妹は病気で死んだことにしたことを知っている。明子は激情家で男は邪魔になってきた。男は父がやったことと同じことをしようとしている自分を考える。
I不在宴会
公務員魚住は接待を辞退して浮気相手の泊まっている旅館へ足を運ぶ。ところが女は風呂で死んでいた。浮気が発覚し、しかも相手が風呂で死んでいたとなると自分が犯人だと思われる。すぐに逃げて黙っていたが、接待をした会社の部長が会社のお金を使い込みそのことを調べに魚住のところへ刑事が訪れる。慌てた魚住はてっき女が死んだことを調べられるのだと勘違いして自分から女のことを話してしまう。
J土偶
勇造は昔若い男女を殺したことがある。それは土偶を発掘に来ていた男と女であった。男の持っていた土偶の奇異な作りは勇造の脳裏に焼き付いていた。勇造は金持ちになった。古物商から例の土偶と同じものの購入を勧められ、勇造は断り切れずにたくさん買ってしまう。昔の殺人の記憶を抹殺したいためか勇造は土偶を破壊し捨てる。それを拾った人が警察へ届け警察は持ち主の勇造へどうして捨てたのかと聞く。勇造は盗まれたと嘘をつく。警察はなぜ被害届を出さなかったのか不審に思う。警察は若い男女がころされたとき男の持ち物に付着した指紋を保管していた。勇造の指紋はそれと一致した。


全集14 わるいやつら★★★★☆

医師戸谷はめちゃくちゃなやつだ。横武たつ子や藤島チセを騙して彼女らから金を吸い上げている。戸谷の経営する病院には以前情痴関係にあった看護婦の寺島トヨがいる。戸谷は弁護士下見沢から横武や藤島を紹介してもらった。下見沢は戸谷へ美人デザイナーの槇村隆子も紹介した。主な登場人物は以上であり、少ない。後は戸谷の犯した犯罪を問い詰めていく警察関係の人々が登場する。
最後、戸谷は無期懲役になり網走刑務所へ送られるのであるが、護送車のなかからかつての自分の跡地に「槇村洋裁学院建設用地 院長槇村隆子 理事長下見沢」という看板が立てられているのを見る。そう、下見沢と槇村隆子は共謀して戸谷の財産を略奪したのだ。下見沢は戸谷の犯した犯罪が警察にばれるよう、合法的な仕掛けを施していた。
この小説は大変おもしろかった。登場人物が少ないのでわかりやすい。
今まで読んだ松本清澄のなかでは一番おもしろかった。
前半は何でも自分の有利なように考える戸谷のいい加減さが面白い。後半は戸谷が警察にかなりスムーズに追い詰められていく惨めな姿が印象に残る。生き残った戸谷、藤島、寺島は法の裁きを受けることになるが、下見沢と槇村はのうのうと生きて行く。みんなが「わるいやつら」なのだが戸谷はまだ甘いのだった。
下見沢のやったことが罪に問えないのはおかしいような感じがした。


全集16 地の骨★★★☆☆
私立大学の助教授稲木と教授川西の女性をめぐる泥仕合。お互い自分勝手に都合の良いことばかりを考えて、痛い目に合う。最後は殺人事件に巻き込まれ両者とも死にはしないが社会的には沈没する。

いつも読み終わった後、登場人物を確認しながらこれを書くというか打ち込んでいるが、この本、今日が図書館への返却日だったので持って行った。だから手元にないので二人の他の登場人物の名前など忘れ気味。

とにかくこの二人、犬猿の仲。
水商売の啓子(名前、覚えていました)を両者とも好きになる。金のない稲木は振られてしまい、あきらめる。こちらも金があるとはいえない西川は裏口入学の斡旋でくすねた資金で啓子と京都へ不倫旅行などに出かける。外見的にも格好良いとはいい難い西川だが何とか啓子を物にしたいという一心で啓子へ高価な着物など買ってやったりする。しかし人間、背伸びはいけない。西川は調子に乗りすぎて旅館で泥棒にあってせっかくの資金を消失。逃げるように東京へ帰ってくる。情けない。
稲木は大学の派閥では一応主流派。西川は野党。小説の始まりで稲木は啓子とのデート中に(啓子は稲木と西川を天秤にかけて、少しお金のありそうな西川を選択)大事な入学試験の草稿をタクシーに置き忘れる。そんなドジが西川に感づかれる。なんとか主流派の鼻をあかしたい西川はタクシーの忘れ物の一件や、稲木の女好きなどをネタに揺さぶりをかける。
そんなときホテルを経営する美人女社長の○○が登場。タクシーで忘れた草案がホテルを経由して戻ってきたことが稲木と○○の出会いのきっかけだった。○○は経営に神経を注ぎすぎたのか精神的に不安定で、お金のない稲木であっても頼りにする。稲木は稲木で強引に○○に迫る。
○○はお金持ち。○○にはかつて誘惑した銀行員の若い男がいた。その男、病的なまでに○○を追い回す。そして○○の新しい男、稲木を恨む。西川は稲木を追い詰めるために若い男と接触。若い男から稲木についての情報を入手し、それを利用して自分の地位をアップさせようと画策するが、そこはドジな西川、うまくいくはずはない。
結局○○の若い男は錯乱したのか○○を殺し、○○と一緒にいた稲木の服を切り刻む。警察に捕らわれたというか、保護されたというか、ワカメを身にまとったようなみっともない姿で稲木は現場に駆けつけた西川と目が合った。稲木は西川と目をあわすと、ニタッと笑う。
それは西川に対して「俺もお前も一緒だよ」と言っているような笑いだった。
「地の骨」なんていう怖い題名でなく「ドジな二人」くらいで良いのでは…
他に登場する大学の教授たちもなんだか面白そうな人たちでした。
今まで読んだ松本清澄さんの作品のなかではコミカル的な感じがする。
異性との関係や出世欲はほどほどに。
松本清張は人のいやな面をデフォルトするのが大変上手いと思います。


全集43 告訴せず・十万分の一の偶然

久しぶりに松本清張全集を借りてきた。

「告訴せず」★★★☆☆
田舎暮らしの木谷は義兄の元で選挙運動をしていた。ある日、首領の大臣から選挙資金の裏金を受け取る用事を命じられ東京へ向かい、3千万円を受け取り帰省せず逃亡する。温泉で逃避生活を送っていて、一度は警察からなぜ大金を所持しているか、調査を受ける。木谷は正直にありのままを話す。警察は政治家へ聞き取りを行うが、薄汚いお金のため政治家からは「告訴」されない。
木谷は小豆相場で3千円を2億円に増やす。神社の運勢予想を利用して相場の推移を見事に当てる。
2億円を投じ温泉旅館で知り合ったお篠とモーテルの経営に乗り出す。しかし、自分が裏切った義兄や政治家の影が木谷に近づく。
ある日モーテルから失火する。煙にまかれ気を失い病院に入院している間、お篠と穀物相場扱い会社の社員、それから不気味な大場老人などが結託して木谷の財産を奪い去る。義兄や政治化の影、失火などはお篠達一味が企てた計画的な行動だったのだ。
木谷は偽名で福山と名乗っていたが、これは架空の人物であり自分が架空の存在である以上は警察へ被害届など出せず、一文無しで泣き寝入り。木谷は「告訴」できない。
最後木谷は水死体となって発見される。他殺の可能性もあったが、身元不詳「福山某」として仮埋葬されて終わる。
全体的に少しくだけた感じがした。まあまあ、面白い。

「十万分の一の偶然」★★★☆☆
新聞の写真コンクールで交通事故の起こったすぐ後を撮影した山鹿の作品が最優秀賞に選出され、世間から脚光を浴びた。アマチュアがこんな悲惨な報道写真を撮影し、コンクールに応募すること、新聞社がそれを最優秀賞に選出することについて賛否両論があった。
交通事故がそもそも山鹿が仕掛けたものである、ということは少し読めばわかってくる。交通事故で亡くなった女性の婚約者沼井が山鹿に復讐をする。一体どんなトリックで交通事故を発生させたのか。
沼井の復讐は山鹿が師と仰ぐ古家にも及ぶ。古家は事故に直接手を掛けたわけではなく、単なる鼻の高い俗物写真家だ。沼井にしてみれば、古家が山鹿を煽ったと見たのだろう。山鹿も古家も沼井の復讐により高いところから転落して死んでしまう。警察は二人の死は事件であると察知する。沼井は婚約者山内明子が山鹿の仕掛けた交通事故の犠牲になった一年後の同時刻、岸壁から飛び込んで自殺するような雰囲気で小説は終わる。
明子を思う沼井の気持ちが切ない。

「落差」全然おもしろくない
時は昭和30年頃。大学助教授(後に教授)Sの一時期の暮らしを描いたもの。Sは世渡りが上手で女好き。次から次へと人妻や未亡人に手を出す。最後は恨みに駆られた女にナイフで刺されるが致命傷というわけではなく、懲りないというか、平気というか、Sはこれからも生き方を変えないであろうことを予感させながら終わる。
読んでいて気持ちが悪くなる。
読まないほうが賢明。


全集41 ガラスの城・天才画の女

久しぶりに松本清張の本を読んだ。一時、平坦な展開の小説が続いて読みたいという意欲がなくなっていた。かといって、代わりに読みたい作家を発見することができない。結局、再び読みだすことになった。
今回は全集41。
この作家はいったい生涯でどれだけの量の原稿を書いたものだろうか。
さて、今回は中編小説3編。
平坦な展開ならいやだな、と思いながら読み始めたところ、おもしろい小説だった。
立体的で流動性を感じさせる展開だ。
3編ともサスペンス感があふれていて、久しぶりに松本清張の小説を楽しんだ。

「ガラスの城」★★★
鉄鋼会社の課長が殺される。
最初、犯人を捜す役の三上田鶴子(たずこ)の手記を中心に物語が進む。だが、三上は途中で殺されてしまう。読む人は犯人が三上の捜査を煙たがり抹殺したのだろうと思うだろう。
その後は三上のライバル的場郁子の手記が物語を進める。三上も的場も容姿がいまいちで、特に的場は貯蓄が唯一の楽しみで友達付き合いもない中年女性であり、職場のスタッフから軽蔑の眼で見られている存在だ。だが二人とも課長と一夜を過ごした関係があり、それがきっかけで犯人を追跡している。
的場は根性で犯人を追いつめるのだが、二転三転する展開は読む者をけっこう引き付ける。
最後は三上の手記が的場を窮地に陥れようとする犯人のトリックでことがわかる。
そして的場は職場の同僚に協力を求めて犯人を追いつめる。
三上と的場は課長の遊び相手でしかなかったが、男性経験のない二人は真剣だったのだ。その思いが犯人を追いつめる。

「天才画の女」★★★
天才画家として降田良子が登場した。
画商の従業員小池はこ降田の絵に何か引っかかるものがあり、それを追求する。
読んでいて、小池は初めのころうさん臭い存在に思えたが、読み進むうちにやさしい常識人であることがわかる。
自分を雇ってくれている画商への忠誠心も強く、ライバル画商への商売上のマナーも心得ている。メタボリックな体型であることも親しみを感じさせる要因だ。
小池は執念と知性で遂に秘密を解き明かす。ところが、信頼していた雇い主の裏切りにあって殺されかける。
自分が危ないことを察知して、殺される寸前にはったりを効かせて危機を脱出する。
そして自分を殺そうとした雇い主を訴えようと弁護士のもとへ。
しかし弁護士からなんら証拠がなく、「だろう」では雇い主を訴えることはできないと言われがっかりする。
その後、降田の才能はしぼみ人気はなくなり、小池の雇い主も病死する。
小池の心中を察しながら読んだら面白かった。

「馬を売る女」★★★
社長秘書星野花江は馬主の社長の競馬に関する電話を盗聴して、それを売る副業をしていた。
星野の行動に疑惑を抱いた社長は、出入りの業者の八田へ調査を依頼し、事実確認をする。
不器量なオールドミス星野はお金を貯めて男に貸していた。八田は星野の心の隙間に入り込んで大金を借りる。
八田は返済を迫る星野を最後は殺す。
高速道路の非難スペースでカーセックスを装い殺すのだが、同じくデートを目的としたカップルが八田の車を不審に思い警察へ届け出る。八田は逮捕の危機を何度か免れるが、警察は少しずつ手がかりをつかんで最後は追いつめる。


全集12 連環・彩霧

「連環」★★★
ワルで大卒サラリーマンの笹井は九州の印刷工場の経理係をしていた。社長はケチで変わり者の下島。笹井は低賃金でこき使われていた。笹井はこのままでは我慢できないと、下島の妻、滋子をまるめ込んで下島を殺し財産を乗っ取る計画を立てる。だが実行に移すのが難しく、結局、笹井は別の方法で下島を殺す。下島の二号である藤子をまるめ込んで、藤子の家でガス漏れ事故を装い、下島と藤子を殺してしまうのだ。財産は滋子が受取、そのうちのいくらかを笹井は分けてもらい、東京へ出てアダルト小説の出版社を始める。
出版社では従業員として24歳の早苗を雇う。
商売が少し順調に進んだ頃、笹井と一緒に暮らしたいと滋子が息子の一郎を連れて東京へ強引に出てきた。笹井はさらに資金が必要なので、拒むこともできず受け入れるが、一文無しになったという滋子の話をきいて、滋子と一郎を殺すことにした。一郎を殺すことは失敗した。
さらに九州の印刷工場の同僚、笠山が笹井のところへお金を借りたいとやってくる。笠山もかなりのワルである。笹井が下島と滋子を殺したことを知っているようなことをちらつかせながら笠山は笹井を揺さぶる。
そんななか、出版直前の小説が警察に押収される。誰かがタレこんだのである。動揺する笹井を従業員の早苗は「慰めてやるは」と旅館へ誘う。
旅館にはなんと一郎がいた。笹井は一郎に「お前は山からどうやってきたのだ」とか「お母さんは死んだのか」とか問いただす。それがテープレコーダーに録音されてしまい、逮捕される。
早苗は藤子の妹であり、笠山らの組んで笹井を追い込んだらしい。


全集62 数の風景・黒い空

「数の風景」★★★
この小説は筋書きが複雑で、読み返さないとよくわからない。破産して逃げ回っている元会社経営者谷原はかつての部下である夏井の助言により電力会社の電線の下の森林を買い取る。電線の撤去を要求して、見返りにお金を巻き上げる魂胆だ。それが見事に成功して、電力会社から1億2千万円をせしめる。梅井きく女という大学教員で数字中毒の女性が登場する。数字中毒というのはどんなものでも数えないと気が済まないという一種の病気のようなものである。谷原はある会社経営者が昔自分の妻を殺害し、会社の敷地に埋めたことを突き止めて、それをネタに会社経営者を脅す。しかし、逆に会社経営者に殺害されてしまい、石塔の下に埋められる。石塔は何10本もあり、地元の人でも数えたことがなく、谷原が埋められた上には新しい石塔が置かれていた。梅井きく女はその石塔を昔数えたことがあり、一本増えたことを夏井に話す。ピンときた夏井は石塔の下に谷原が埋められていることを警察に通報する。一方昔妻を殺害した経営者は、会社にヨーロッパからクラシック調のレンガを輸入し、道に敷き詰めようとするがレンガはクラシック音楽マニアに次々と盗まれてしまう。レンガの保存している場所に妻の遺体が埋めれている。部下に命じ妻の白骨化した死体を運び出そうとしたときレンガ泥棒を見張っていた警備員に部下は捕まってしまう。
粘り強く読むと結構おもしろいかも。バッハなどの作曲家の話も出てくる。

「黒い空」★★★
市山定子は結婚式場の辣腕経営者である。その婿、善朗は優男で経営の役には立たない。定子は善朗を馬鹿にしている。経理担当者の規子は善朗と組んで、会社のお金を搾取して地下室に貯めていた。それがある日定子に見つかってしまい、善朗は貞子を殺す。そして地下室にそのまま保管する。そのときに入り口のカギをなくしまう。善朗と規子は何かの拍子にそれが出てきたときに、地下室のカギであることがわかると殺人が表面化してしまうことを恐れるがいくら探しても出てこないので諦めていた。
規子は結婚式場専属の神主と内縁状態でもあった。神主は安く雇われていたので定子を恨んでもいた。神主は規子と善朗ができていることにやきもちを焼き規子を殺す。
神主は警察に捕まってしまうのだが、警察は規子と善朗の関係から、定子が殺されたのかも知れないと思い始め調査を始める。そしてカギが見つかって、それを証拠として善朗を追いつめる。カギはカラスが巣に運んでいたのであった。カラスは光るものがすきである。小説の題名、「黒い空」の黒はカラスのことである。

全集23 喪失の儀礼 強き蟻 聞かなかった場所
全体的にこの23集はおもしろかった。筋書きがちょっと複雑で、現代風。読んでいて意表を突かれたり、ハラハラしたりする。推理小説、サスペンスドラマ本来の楽しさを含有した力作。

喪失の儀礼★★★☆
最悪の中の嫁と姑。しかしそれは犯罪を隠すための苦心の方策だった。嫁が結婚する前に付き合っていたのは結婚した夫の弟。夫は病弱で働くこともできない。その男は事故にあって救急車で運ばれたが、病院の受け入れ拒否に合って死んでしまう。愛していた男の死。姑にしてみれば子供の死。嫁と姑は受け入れ拒否した医者に猟奇的手段で復讐する。

強き蟻★★★☆
年老いた会社役員と再婚した男好きな中年女。会社役員の遺産を独り占めしようと画策する。会社役員の持病である心筋梗塞を利用して、栄養失調にしてみたり、色仕掛けを利用して心筋梗塞を起こさせようとしてみたりする。最後は中年女が弁護士とセックスしている音声テープを会社役員に聞かせてあの世へ送る。生前、中年女は遺産のほとんどを自分に遺贈するよう会社役員に遺言を書かせていた。しかし、会社役員も馬鹿ではない。自分を利用するだけして遺産を独り占めしようとする中年女に対して、遺産の書き直しで対抗。遺産を目当てに旅館経営に先行投資していた女は…

聞かなかった場所★★★★
これは一番面白い小説だった。中堅公務員の妻が心筋梗塞で急死する。妻の死に方に疑念を抱いた中堅公務員は妻が浮気をしていたことを突き止めて、男を詰問する。男は開き直る。中堅公務員はとっさに男を殺害してしまう。殺人を犯し、しだいに追いつめられていく心理を描いた後半が面白い。


また読んだら書き足すかも知れません。。。


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