♪ベートーヴェン(Beethoven 1770〜1827)交響曲愛聴盤コーナー

♪ベートーヴェンは気合の入った、こわい顔をしていますね。
でも、よく見ていると、厳しさの裏側にある優しさ、あたたかさをうかがうことができるような気がします。
実際のところ飛び切りの癇癪持ちだったらしいですが。
癇癪持ちと厳しさ優しさが表裏一体のベートーヴェンの人格。
ところで、僕の好きなベートーヴェンの交響曲のCDをまとめてみました。
結果はかなり片寄ったものになりました。

交響曲第1番
記念すべき第1番。まだベートーヴェンの独自性は確立されておらず、先人ハイドンやモーツァルトの音楽を踏襲した曲作りがされていると言われています。確かに前半の2楽章はモーツァルトの交響曲に似ていますが、大変に美しく、すでにモーツァルトを超えているように思います。後半の2楽章は躍動的で力強く、やがて完成するベートーヴェンのスタイルを感じ取ることができます。
さわやかな光のような明るさが曲全体にただよっています。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
緊張感とあたたかさが同居する「手造り」の音楽。聴くたびに、満足感を味わえる名演です。第4楽章で力強く打ち込まれる太鼓の音が印象的です。このコンビの太鼓は、いつも、いい音がします。


交響曲第2番
青春の息吹を感じさせるような颯爽さに、独特の厳しさが加わってきました。颯爽さと厳しさ。そのコントラストが絶妙です。モーツァルトの影響と、第3番「英雄」への発展を同時に感じさせる場面がところどころに出てきます。また、3楽章は後に登場する8番のようなとぼけた感じ。そして4楽章は4番に通じるものがあるように思います。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
1番に比べ、より一層弦が練り上げられています。
ブロムシュテットはいつもの通り、特別個性的なことをしているわけではありません。ドレスデン・シュターツカペレもいつもの通り、彼らのスタイルの演奏です。そしてまたきれいな「手造り」の音楽が出来上がりました。
昔、レコード芸術で大木正興さんという評論家が、このコンビのベートーヴェンの新譜が出るたびにそれを褒めていました。これが本当の芸術だというように。


交響曲第3番「英雄」
いよいよ第3番「英雄」です。ベートーヴェンの独創性は2番から一騎に飛躍しました。そして見事に独自性を確立し、この曲が誕生しました。従来の音楽にはない旋律の美しさや、雄大な響き。それとともに、人間の内面に向かって訴えかける力が感じられます。これはベートーヴェンの音楽の特徴でもあり、「英雄」はその特徴を端的に表しているようです。
「英雄(エロイカ)」という表題はベートーヴェンではなく誰かが付けたものだとのことです。ナポレオンに由来するらしいですが、こんな大げさな表題に拘らず聴くようにしています。
スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ
この曲の録音も数え切れないほどあります。僕のベストはこれです。表題のせいか、この曲の録音には陶酔し過ぎてオーバーヒート気味のものや、うわべは絢爛豪華な響きでも、何を言いたいのかわからないものも多いです。そういうのは1回聴いて終わりになります。スウィトナー盤は、実直で自然体の「英雄」です。全編に渡り程よい緊張感に包まれていて、ベルリン・シュターツカペレの響きは大変まろやかです。いつまでも聴き続けたい名演です。スウィトナーのベートーヴェンの交響曲では3番「英雄」、6番「田園」、そして第9「合唱」がすばらしく、「英雄」はそのなかでもベストだと思います。


交響曲第4番
ベートーヴェンの交響曲はどれも傑作ですが、この4番は「英雄」と「運命」にはさまれているので位置的には大変に不利で、そのために目立たない損な曲だと言われています。確かにそういう面があると思います。実際、僕がこの曲を聴き始めたのはあのクライバー盤が出てからでした。他にもそういう人、多いと思います。聴き込むと、適度に饒舌で聴きやすい傑作であることがわかってきます。
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
緩急自在。今さらどうこう言うまでもない名盤です。当初、クライバーを熱血即興タイプの指揮者だと思っていましたが、そうではないようです。すべてを極限まで計算し尽くし、その結果を実演で寸分違わず再現することに妥協しなかった人。それも常人が想像できないようなレベルで。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
第1楽章、ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレの演奏としては珍しく熱い感情が前面に出ています。第2楽章では落ち着きを取り戻し、聴く側は曲が進むにつれて引き込まれていきます。
練り上げられたドレスデン・シュターツカペレの響きと、力強く打ち込まれる素朴な太鼓が印象的です。


交響曲第5番「運命」
説明不要の名曲。
「運命」という表題はベートーヴェンが「運命は扉をこう叩いた」と言ったらしい、ということから誰かが付けたものだとのことです。あまりにもぴったりな表題なのですが、この表題を意識しながら対峙しない方がいいです。気楽に聴きましょう。
クライバー/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
第4番と同じく、今さらどうこう言うまでもない名盤です。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
騒々しくなり勝ちなこの曲ですが、これは落着いた上品な演奏です。こういうスタイルで聴かせることができるということは、すごいことだと思います。木造り、そして手造りの温もりを感じます。


交響曲第6番「田園」
この曲の場合は表題を意識しながら聴いても抵抗を感じません。
スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ
発売当時、大木正興さん絶賛の名盤。評論は確か「何もしていないのにこれだけ充実した音楽を聴かせることは驚異的なことである」というような主旨だったと記憶しています。僕にとっては「英雄」とともに愛聴版となっています。あたたかくまろやかな響き。ドレスデンもそうですが、ベルリン・シュターツカペレにはベルリンフィルみたいな馬力、あるいはウィーンフィルみたいな艶やかさはありません。それらとは違った手造りのあたたかさがあります。ドレスデンは木造りの感触、ベルリンは少しこじんまりとした家庭的な雰囲気が魅力です。僕が勝手にそう思っているだけかも知れませんが。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
このコンビならではの、あたたかい演奏です。


交響曲第7番
ベートーヴェンは「英雄」で独自のスタイルが確立し、以降の作品は傑作度が1番、2番に比べて飛躍的にアップしました。この7番と続く8番は表題がないので目立たないかもしれませんが、説明するまでもなく名曲です。
クライバー/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
4番、5番と同じく、今さらどうこう言うまでもない名盤です。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
この曲の明るさ、大らかさをことさら強調することなく、地味に演奏していますが、響きがきれいなため幻想的にすら聴こえます。


交響曲第8番
写真のようなおっかない顔のベートーヴェンが作った曲かと思ってしまうほど、親しみやすい曲です。「小さな傑作」と呼べると思います。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
このコンビのベートーヴェンに対する姿勢は、演出抜きで、曲そのものを「誠実」に具現するという態度で一貫しています。全編に渡り、例によって練り上げられた弦と、力強い太鼓の打ち込みが印象的です。2楽章は真面目ながらも、とぼけたおかしさを感じ取ることができます。


交響曲第9番「合唱付」
いよいよ、最後までたどり付きました。お疲れ様でした。
さて9番は正直なところ、9曲のなかで、聴いた回数は一番少ないと思います。長いせいか、なかなか最後まで緊張を維持しつつ聴くのが難しい曲です。最初からバンバン鳴り響くので、途中で休憩したくなります。3楽章では、眠ってしまいそうになります。まだまだ修業不足なのだろうか。
スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ
このCDで聴かれるベルリン・シュタツカーペレの音は、当時のこのオーケストラの実際の音よりかなり分厚く、豪快であるように思います。デンオンの録音が優秀過ぎて、少し誇張されているのではないかと思います。一度、このコンビのコンサートで「田園」などを聴きましたが、もっとこじんまりとした家庭的な雰囲気だったです。ただ、会場はあまりいいところではなかったので、本当のコンサートホールで聴けば、このように高らかに鳴り響くのかも知れません。
僕の少ない9番を聴いてきた遍歴のなかで、一番いいと思うのがこれです。全編に渡りバランスの取れた熱演です。
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ
これは「Delta」というレーベルのライブ録音です。品のない表現ですが、感情「まる出し」の熱演です。本当にこのコンビなのかと疑ってしまいそうな程です。

3人の指揮者しか登場しませんでした。
老化現象が進み、頭が硬くなって新しい演奏を受入れることができなくなってきたのではないか。
他にもいろいろな演奏を聴いてきました。初めて聴いたときには、これは!と思う演奏もありますが、結局この3人に落着きます。

<特別付録> 

ベートーヴェン交響曲以外の、今まで聴いてきたCDで“捨てがたい愛聴盤”をまとめてみました。(順番関係なし。思いついたまま、書き足して行く予定)

曲   目 演奏者 理     由
1 ブルックナー 4番 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ 昔、実演を聴いたのと同じイメージ
2 ブルックナー 7番 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ ドレスデンの音がいい
3 バッハ マタイ受難曲 ヘレベッヘ/2回目の録音のもの 例えようのない美しさ…
4 チャイコフスキー 4番 ゲルギエフ/ウィーン・フィル この曲がこんなに人間的な曲だとは思っていなかった
5 モーツァルト レクイエム シュライヤー/ドレスデン・シュターツカペレ あたたかいドレスデンの響き
6 バッハ 無伴奏チェロ組曲 ヨー・ヨー・マ 伸びやかで気持ちがいい
7 モーツアルト 40番 41番 アバド/ロンドン交響楽団 アバドにしては珍しく大胆な表現 それが青年モーツァルトにマッチ
8 チャイコフスキー 弦楽セレナード シモノフ/ロイヤル・フィル 重厚さと繊細さが同居
9 バッハ ミサ曲ロ短調 アーノンクール/ 清潔で荘厳
10 ドヴォルザーク 8番 スウィトナー/ベルリン・シュタツーカペレ 爽やかな快演であり、ドヴォ8はこれ以外はあまり考えられない
11 チャイコフスキー 6番「悲愴」 カラヤン/ウィーン・フィル カラヤンの演奏で唯一捨てがたい
12 フォーレ ピアノ5重奏曲 1番 2番 ジャン・ユボー(P)/ヴィア・ノヴァ四重奏団 本当の音楽に間違いない
13 マーラー 5番 テンシュテット/ロンドン・フィル(一番初めの録音) 昔、大阪で実演を聴いた(実況録音版も同僚からMDでもらった)
14 バッハ マタイ受難曲 アーノンクール/コンツェントゥス 一番最初に聴いたマタイ受難曲
15 マーラー 4番 アバド/ウィーン・フィル(デジタル録音でない) アバドらしく、サラッとしていて曲想とマッチしている
16 サン・サーンス 交響曲「オルガン」 オーマンディ/フィラデルフィア(テラーク) 懐かしいオーマンディ
17 バッハ 無伴奏ヴァイオリン クレーメル(旧と新) 他の無伴奏をあまり聴いたことがない
18 リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ この響きは、他のオケではムリ…ただならぬ響きを放つ
19 モーツァルト 後期の交響曲 クーベリック/バイエルン放送 忘れていても周期的に聴きたくなる
20 ベルリオーズ 幻想 バレンボイム/ベルリン・フィル 落着いてる(チョン・ミュンフンのCDが欲しい)
21 ストラヴィンスキー 春の祭典 シモノフ/ロイヤル・フィル 豪快で男らしく元気が出る!!
22 カンプラ レクイエム ガーディナー 昔、LPで持っていたが今はない…残念
23 シューベルト 交響曲全集 ブロムシュテット/ドレスデン・シュタツーカペレ 手造りの響き
24 モーツァルト ピアノ・ソナタ集 ピリス(1974年録音デンオン) はつらつとした、爽やかなモーツァルト
25 ブラームス 弦楽六重奏曲 コチアン四重奏団/スメタナ四重奏団 ブラームス髭を思い出さずにはいられない
26 プロコフィエフ 1番「古典」 5番 デュトワ/モントリオール 1番は聴いていたいが5番は騒々しいので…
27 モーツアルト 25番 28番 29番 マッケラス/プラハ室内管弦楽団 練り上げられた弦の響きと、作為性のないストレートな表現
28 フォーレ レクイエム ジャン・フルネ/ロッテルダム(S)アーメリンク フォーレのレクイエムは、この演奏が僕の原点
29 モーツァルト レクイエム ホグウッド/エンシェント響 カークビー(S) 青年モーツァルトのレクイエム
30 ストラヴィンスキー 春の祭典 デュトワ/モントリオール シモノフと対極の演奏だが、これはこれで好き
31 リヒャルト・シュトラウス「四つの最後の歌」 マズア/ゲバントハウス ノーマン(S) ノーマンとゲンバントハウスの重厚さがマッチし豊饒の世界が展開
32 ブラームス 4番 クライバー/ウィーンフィル 忘れてはならない名演
33 シューベルト5番と未完成 クライバー/ウィーンフィル 同じく忘れてはならない名演
34 バルトーク 管弦楽のための協奏曲 ドラティ/コンセルトヘボウ 整理整頓されわかり易く、古雅でふくらみのあるオケの響きがここちよい
35 モーツァルト後期の交響曲 スウィトナー/ドレスデン・シュターツカペレ(シャルプラッテン) 指揮者とオケの率直な姿勢 クーベリック盤とともに、このCDなしにこれらの曲は語れない
36 ヴィヴァルディ 四季 カーネイ/ロイヤル・フィル これは捨てがたいとは言いがたい でもまあ…
37 バッハ 平均律 (P)グールド…2枚目の録音 引き込まれて行く
38 ブラームス 1番 スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ 数ある演奏のなかで、飾り気がなく、そして熱演
39 リヒャルト・シュトラウス「ティル」他 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ やっぱり、この響きはこのオケの音
40 モーツァルト ハイドンセット1&2 クインケン四重奏団 古楽器演奏。違和感はあるが、慣れれば、透明感があって気にならない。3は残念ですが、売っていませんでした。
41 ハイドン 弦楽4重奏曲集(1.5.6番) アルバンベルク四重奏団 静かに聴ける
42 ヴィヴァルディ 協奏曲集(和声と創意への試み)作品8全曲 イタリア合奏団 真面目な四季…オーソドックスで持っていてもよい
43 シベリウス交響曲全集 ベルグルンド/ヨーロッパ室内響 小編成なので、曲の輪郭がよくわかる シャープできちっとした演奏 そうかと言って機械的でなく、シベリウス独特の熱気、雰囲気を感じさせる名演
44 ベートーヴェン5番と7番 岩城宏之/アンサンブル金沢 金沢へ行ったおみやげに買ってきた。演奏は普通だが、小編成なので、すっきりとして聴きやすい。
45 シューベルト未完成とブラームス4番 岩城宏之/アンサンブル金沢 同上
46 モーツァルト Sym40 41 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ 念願の入手…期待通りの手堅い演奏
47 バッハ マタイ受難曲 シュライヤー/ドレスデン・シュターツカペレ シュライヤー入魂の福音詩家とコンダクト
48 ブラームス交響曲全集 バルビローリ/ウィーンフィル ブラームスの全集ベストワン!!それぞれの曲も良い。
49 ドヴォルザーク8番 ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ 若き日のブロムシュテットの快演
50 ドヴォルザーク7番 ノイマン/チェコ・フィル 心地良い歌についつい聞き惚れる 2回目の録音のもの

続く

                                                       (06.09.23)
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