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『マイ・ドッグ・スキップ』の時代背景が語る

せっかくスペシャルルームを設けながら、2年も放っておいてやっとスペシャル企画第2弾。
しかも「8月15日によせて・・・映画で考える”戦争”と”平和”」なんてタイトルつけときながら企画者本人は『マイ・ドッグ・スキップ』ってまた動物映画かよ?と言われそうですが・・・(笑)。
いや、最初は『帰郷』とか『西部戦線異常なし』とかでどうかな?とちゃんとレンタルしてもう一度見直したんですよ。でもね、私の中ではどうしてもありきたりになっちゃってまとまらなかったんです。だって誰だって「平和」な時を過ごしたいし、「戦争」なんてない方がいいに決まってる。それに今回寄稿していただいた方々の文章力には到底及ばない私が正攻法でいったってチンケなものにしかならないのは目にみえてますもん(笑)。え?真面目にやれよって・・・いやいや、これでも当人はまじめ〜にこの作品を選んだんですよ。大人だけではなく子供たちにもわかってもらえる反戦映画としてね。

物語は作家ウィリー・モリスが幼い頃一緒に過ごした愛犬スキップとの思い出、9歳の誕生日にウィリーの元にやってきたスキップ。運動が苦手で友達もなく、いじめられていた彼がスキップによって幼子から少年へそして青年へと成長していく心あたたまるお話ですが、物語の舞台は1942年のアメリカミシシッピー。ラジオではルーズベルトが「誰もが犠牲を払わなくてはならない」と演説し、国を愛し真面目に暮らす人々はその言葉に疑いをむけることもなく過ごしていた時代。
そんな時代背景に映し出される物語の中にさりげなくこの映画は反戦という思いを込めている。戦争の意味も何もわからない少年たち。映画で『戦争の犬たち』という戦争に駆り出される犬たちのニュースフィルムを見て、スキップを志願させようと必死になる彼ら。その姿に心が痛むと同時にある種の恐ろしさを感じる。彼らにとって戦争は勧善懲悪の物語でしかないのだ。それを徴集テストでわざとウィリーの命令を聞かないスキップに「行かなくて済むのなら行きたくない。行くべきじゃない」と言わせているように私には見えた。この映画にははっきりとした「戦争反対」だとか「戦争っていけないんだ」などというセリフも描写もない。主人公のウィリーが聞くもの感じるものの中に「反戦」への思いが横たわっているように思う。父親とウィリーが森へブラック・ベリーを摘みに出かけるシーンが秀逸です。スペイン内乱で片足を失くした父親に「勲章をもらったんでしょ?」と聞くウィリー。「勲章より足の方がいい」と答える父親。そして森に響く猟師たちの銃声。流れ弾に当たらないようにその場に座り猟師たちが現れるのを待つ二人。緊張した時間。ウィリーは聞く「戦争ってこんな感じ?」何も答えない父親。その時猟師たちに追われた鹿が彼らの目の前で倒れる。血を流し倒れた鹿に触れ「まだ生きてるよ獣医を呼ぼうよ・・・」と泣きながら父親に言うウィリー。父親に促されその場を後にするウィリーの背中で響く銃声。この時彼ははじめて死の恐怖、殺すということの非情さを知る。森の中での数分、数十分の時間が何も知らずに、何も考えずにいたウィリーの心の中に「なにか」を芽生えさせる。
ウィリーの中で勧善懲悪、悪いやつだからやっつけに行くんだと思っていた戦争への思いがここで少し変わったのではないだろうか?そして戦争から逃げ帰ってきたと蔑まれている街の英雄だった隣家のディンクは「いっそ死にたかったよ」「怖かったのは”死”じゃない。”殺す”ことだ」とウィリーに語る。
何よりも重要視されるべきは命の重さ。そしてこの映画はそのことを戦争という暗い影を日常に落としながらも目の前では何も起こっていない小さな田舎町のごく普通の少年と犬との物語の中にしっかりと描いている。

戦争って桃太郎が鬼退治に行くような勧善懲悪で語られるべきものではない。それなのにいい年をした大人が、しかも国を動かすという仕事をしている人たちが桃太郎気取りで「あいつは悪いことをしたのだから、やっつけなければならない」なんてやっている。戦争って命のやり取りで、やり取りされる命は悪魔や怪獣のものなんかじゃない。同じ赤い血を流す人間同士で、しかも死んでいくのは銃を持った戦士たちだけではない。当たり前のことなんだけど、この当たり前のことがどこか軽んじられているような気がする。この当たり前のことを深く心に思っていれば「桃太郎の鬼退治」のような簡単な答えは出ないはずだ。戦争に善悪はない。そこにあるのは政治。私には政治のむずかしいことはわかりません。でも、「桃太郎の鬼退治」のまやかしにのせられることはごめんだ。もう2度と「桃太郎の鬼退治」のまやかしにのせられてはいけないと思う。
自分の死への恐怖、他人の死への恐怖、命の重み・・・ウィリーとスキップの心あたたまる物語とともにその思いも心に留めておいて欲しい。決して自分たちは桃太郎にはなりえないことも・・・。


『マイ・ドッグ・スキップ』 (1999年・米)
監督: ジェイ・ラッセル
出演: フランキー・ミューニース。ケビン・ベーコン。ダイアン・レイン。
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