犀の山 たぬ様

 ………………うおぉぉぉぉぉぉぉぉお、ラブリイィィィィィッッッ!

ハイ、感想終わり。

と、言ってしまっても充分なくらいに画面の隅々までラブリーあふれた映画です。
タイトルでズバリお判りのようにねこ映画なのですが、出てくる数もただならぬものがあれぱ、その賢さ、あいらしさもただものではない。

 主役猫・チグラーシャは言うまでもなく、肝っ玉のワーシャ、敷物大好きイザウラ、芸達者のジンジン、舌出っばなしのシャフ、ちゃっかり者のプショーク、靴下履いてるブドゥライ、ちっちゃいトラ縞ルイジック、そして名前もないけど2匹の真っ黒ちび猫、ああ、もう、何故君達はそんなにもかわいいんだあああああっ! ←魂の叫び
猫好きは勿論、猫嫌いでも「こんな猫なら飼ってもいいかも!」と思わせる魅力に満ちた佳篇です。

 ストーリーは至極簡単で、モスクワのある普通の家庭に飼われ始めたちっちゃな子猫チグラーシャ、ところがある日この子が行方不明になってしまいます。 心配して捜しまわる両親、帰りを待ち続ける子供達、知らない街でチグラーシャが出逢う冒険、猫好きの気のいい男、そして猫仲間。
クリスマスが過ぎ、新年を迎えた夜、猫と人との明日はどっちだ?

 子役二人が可愛い上にそっくり、と思っていたら、ほんとの姉弟、しかも監督の実子でありました。
更に監督、自分の親にまでスタッフやらせて、まさに家庭内手工業映画。相当苦しい予算で仕上げたようですが、そこまでしてまで撮りたかったのが「猫映画」というのが実に何とも(笑)。

 そこまで入れ込むだけあって、まさに「猫のいいとこ取り」になっているこの映画。
子猫のあいらしさ、やんちゃぶりは勿論のこと、ちょっとずる賢かったり、ちゃっかりしてたり、わざと人の邪魔してみたり、「そうそう、猫好きにはこれがたまらないのよ〜」てな部分を逃さずキープ。猫好きなら一度はやりたい「ちび猫片手乗せ」「ちび猫コートの胸元入れ」「ちび猫肩乗せ」「ちび猫体よじよじ登り」なども世の猫バカ共のハートを直撃。
 そして一般の猫嫌いな人が思う、「芸しないし」「3日たてば恩忘れるし」「飼い主のことなんか気にしやしないし」てな辺りもしっかりクリア。街角で小金稼げるくらいの芸は軽々こなし、御主人の為ならワルい奴だってやっつけちゃうぞ。
ことに、日銭にも困った猫好き男、フェージンがどうしようもなくなって飼い猫の一匹、ペルシャのシャフを売りに出すシーンは絶品です。わたしここ、笑いながら泣き入りました。何て猫情の篤い奴なんだ、シャフ!

 とはいえこの映画、決して「猫だけ映画」では無いのですよ、念の為。
この映画の中には、「モスクワの普通の暮らし」の魅力がいっぱい詰まっている。
TVゲームに興じる姉弟、自宅で仕事をする母親、まわりに猫をいっぱいはべらせF1の中継に見入るフェージン。
 そして、夜も消えない街灯。隙間なく道路を行き交うテールランプの光たち。
子供達を寝かしつけながら、父親は短い話をする。
──十時になると月の王が空から降りてくる。王は子供を安らかな眠りに誘い、夜がふけると共に、我々の地球は王の恵みに包まれる…………。
 ゆっくりと、ひそやかに、壁を横切る月の王の影。

 ラストには、何とも言えないほろ苦い、けれど胸にほのかに甘く暖かい、実に微妙な味わいがあります。
誰の元にも等しく新年は訪れる。辛いことも悲しいことも切ないことも呑み込んで、傍に寄り添う暖かくて柔らかい息づかい。
 こんな風に深い、しみじみとした味のあるラストを持つ映画というのは、実はそんなに多くはない気がします。胸の片隅に、すとんと落ちる映画です。

『こねこ』(1996年・露)
監督・脚本:イワン・ポポフ
出演:アンドレイ・クズネツォフ。リュドミラ・アリニナ。マーシャ・ポポフ。サーシャ・ポポフ。
BACK