風のフィールド Katze☆様

 「これを観ずに動物映画を語ることなかれ」。
迷った末に『グース』に決定したのは、カナダで実際にあった話を映画化していることが決め手になりました。

事故で母親を亡くしたエイミーは、10年間一度も会っていなかった父親のトーマスに 引き取られます。13歳という複雑な年頃。芸術家で変わり者の父親になじめず、学校もパッとせず、「死んだ方がマシ」という言葉が飛び出すほど鬱々としていた彼女はある日、森の中でグースの卵を見つけます。開発のために木が切り倒され、親から離された卵です。
 エイミーはその卵を納屋にあった古タンスの引き出しへ入れ、古着を巣材の代わりにし、電球で下から暖めます。 すると卵は見事に孵化するのです。コツ、コツと内側から卵をたたき殻を割り、濡れた ヒナが姿を現します。
この映像が素晴らしいのなんの。エイミーのことを母親と思い込み転げながら後を追うヒナの姿は痛々しいやら可愛いやら可笑しいやら。 「刷り込み」というやつですが、登場人物に説明させているのが巧いです。
最初はエイミーも、グースを”飼っている”という感じでした。ある事件をきっかけに 母親へと変わるのですが、それが印象的な映像で象徴的に描かれています。

 「野生のグースはペットとは違う。羽を切って飛べなくしたり、飼うのはもってのほか」というわけで、エイミーと父親が協力してグースに飛び方を教え、渡りの道案内をしなければならなくなります。それには、エイミーも父から飛行機の操縦を学ばねばなりません。グースが初めてエイミーの乗る飛行機を追って飛んだシーンは感動的です。しかし、どこにでも落ちこぼれはいるもの。足が悪いイゴーだけは地上で寂しく見上げているのでした。その哀しそうな目に心が痛みます。見ている私も母親の気分だったのかもしれません。

南への900キロの旅はスタートからして順調にはいかず、途中で何度もアクシデントに見舞われます。しかも終着地は、もめ事で大変なことになっています。はたして彼らは全員無事に終着地へ着けるのでしょうか。
協力してグースを南に連れて行くことで、親子の絆は強まります。エイミーが最初から グースの母親ではなかったように、トーマスとエイミーもまた親子とは名ばかりでした。親子の”絆”は、努力しなければ育たないのです。

これだけでも十分魅力的な映画なのですが、あるドキュメンタリー番組を見たことが、 この映画を身近なものにしてくれました。北海道の釧路湿原に暮らすタンチョウと彼らを見守る人たちの生活。大雨に流された卵を孵し、食事を与え、成長すると今度は飛び方を教える。タンチョウの被り物を被り、繰り返し助走してみせます。
その様子は、映画の中のトーマスやエイミーの姿と重なりました。
私にとって遠い外国の映画の中の話ではなくなったのです。

愛らしいグースの姿を楽しみ、素晴らしいカナダ・オンタリオの自然や空からの風景を 満喫出来る。理科の勉強にもなる。
親子の絆とは、自然保護とは、開発とは?という少々難しい問題について考えるきっかけをも与えてくれる素敵な映画だと思います。    

『グース』(1996年・米)
監督:キャロル・バラード
原作:ビル・リッシュマン
出演:ジェフ・ダニエルズ。アンナ・パキン。
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