『国際秘密警察・火薬の樽』(1964年/東宝)

監督:坪島孝。
出演:三橋達也。佐藤允。星由里子。水野久美。田崎潤。

ゼーター線遠隔操縦装置の研究をしている竜野博士が何者かによって、ゼーター線遠隔操縦装置の設計図とともに誘拐される。捜査にあたる国際秘密警察の北見と警視庁の柳生警部は、誘拐犯は狂信的思想で世界制覇を企む世界統一同盟であることを突き止める。そして竜野博士の研究するゼーター線とは地球上どこにあろうと、それを発信することにより、あらゆる装置のスイッチを入れられるというものであった。つまり、その装置を使えば各国が保有する原水爆のスイッチすら思うままに操れるというものである。しかし彼らが奪った設計図には肝心なゼーター線発信部分が欠けていたため、彼らは博士の娘まで誘拐してしまう。
もっとハードボイルドなイメージを持っていたんですが、まさかこんなにもコメディっぽいものだったとは・・・(笑)。うまいこと007をモチーフにしていて楽しめました。三橋さんと佐藤さんのとぼけたコンビぶりがいい。この作品はこのシリーズの中間的作品で、その後このコメディっぽさがだんだん完全なコメディになってしまったというとんでもないシリーズのようなのですが、もしかしたらこの作品がこのシリーズで一番面白いのかもしれませんね。真面目な中に飄々とコメディっぽくはずしていく、はずし方が面白いです。北見が捕らえられたときに持っていたアタッシュケースの中身に大笑い。しかもしばらく滞在するなら洗面道具とパジャマを出してくれという北見に、あっさりと渡してしまう世界統一同盟もどうかとは思いますが、そのあとそのアタッシュケースを調べていて出てきたタコのおもちゃにこれまた爆笑。この作品以外のこのシリーズは一本も観ていないのですが、このノリをうまく使えればなかなか面白いシリーズになったんじゃないでしょうかねぇ。

BACK

『原子力戦争 Lost Love』(1978年/ATG)

監督:黒木和雄。
出演:原田芳雄。山口小夜子。風吹ジュン。佐藤慶。

東北のある港町。海岸に男女の心中死体があがる。男は原子力発電所の技師、女は漁業組合の組合長の妹だった。新聞記者の野上はこの心中事件を追うが、彼の記事はもみ消されてしまう。そんなとき東京から一人の女を捜しに坂田という男が現れる。彼は女の実家を探し当て訪ねるが彼女はもう東京に帰ったと追い返されてしまう。納得のいかない坂田に野上が近づく、そして彼女が心中事件で死んだことを伝える。彼女が心中などする訳がないと本当の理由を探そうとするうちに表には公表されていない原子力発電所内での事故にたどり着くが・・・
原子力戦争という大掛かりなタイトルに、なんなんだこの横のLost Loveって・・・とすごく不思議だった。で、映画を観て納得。あ、こういう映画だったのね。もっと硬派なガチガチの映画だと思っていたのですが、原子力発電所が絡んでいなければ、2時間のサスペンスドラマとあまり代わり映えしないですね。ただ、原子力発電所を原田芳雄さん扮する坂田が訪れるシーンには、思わず苦笑い。いきなりドキュメンタリーになってるんですもん。ゲリラ撮影なんでしょうね。この時代に原子力発電所内の事故を扱ってるだけでもある意味硬派なんでしょうが、Lost Love抜きでどうにかならかなったのでしょうか?と思ってしまう私は贅沢者かな?

BACK

『東京原発』(2002年/日活)

監督:山川元。
出演:役所広司。段田安則。平田満。岸部一徳。

ある日、都庁の局長クラスの幹部職員が緊急会議ということで東京都知事から召集される。そしてその会議室で都知事の天馬は「東京に原発を誘致する」と切り出した。突然飛び出した都知事の爆弾宣言に呆然とする局長たち。都の財政難を救う手立てとして原発の誘致は有効であると原発誘致に伴なうプラス面を説明する知事。そんな中慎重論を唱える副知事の津田は密かに物理学の権威である東大の教授を呼び原発の危険性についての説明を求める。その頃お台場では政府が極秘裏にフランスから運ばれてきたプルトニウム燃料を一般道路で福井県の原発まで運ぼうとしていたが、東京の地理に不慣れな運転手が道に迷ったことで爆弾マニアの少年にカージャックされてしまう。
2002年に製作されているのになんで公開が今年なんだ?日本映画久々のブラックユーモア満載の超娯楽エンターテイメントじゃないですか!しかも公開は単館上映・・・なぜだぁ!?こんなにも楽しくお勉強になる作品って最近じゃお目にかかれないよ。バカバカしくてコミカルなんだけど、まぁこんなに毒含んだ笑いって日本映画じゃ珍しいんじゃないかな?原発は安全だと宣言する原子力安全委員会の松岡の説明が極端だけど、今の日本政府の説明を代弁しているかのようです。「分子を1としますと分母は天文学的な数字になるくらい安全です。」そんなの信じてのほほんとしている日本国民って・・・もちろん私も含めてですがね・・・情けないですよね。日本人ならこの映画を観ろよ!と声を大にして言いたいくらいに面白く、本当にためになる映画でした。

2004年6月27日(動物園前シネフェスタ)

BACK

『座頭市物語』(1962年/大映)

監督:三隅研次。
出演:勝新太郎。万里昌代。天知茂。島田竜三。

盲目だが居合い抜きの達人でもある座頭市は、飯岡の助五郎の元に草鞋を脱ぐ。ちょうど新興勢力である笹川一家を叩き潰そうと機会を狙っていた助五郎は、笹川一家には腕のたつ食客平手造酒がいるために手出しできずにいたため、市を助っ人とするため彼を客分扱いで厚遇する。ある日釣りに出かけた市は、そこで平手造酒と知り合う。盲目の市と肺を病む平手造酒、互いに興味を持った二人は親交をあたため、二人の間に友情が芽生えるが、平手造酒が血を吐いて倒れてしまう。それを知った助五郎は、早速出入りの支度にかかる。はなっから助成などする気のなかった市は、助五郎の元を辞し、病に伏した平手造酒の元へ向かうが・・・
このあと何作も製作される『座頭市』の第一作目。この座頭市は派手にばったばったと人を斬ることもなく、スーパーヒーローとなる前の座頭市で、めくらとバカにされるのが嫌で居合い抜きを覚えたが、無益な殺生は避けるというこれ以降の作品よりも人間臭い。バカにされまいと必死に生きる座頭市と、病に冒され世をなげた平手造酒が、多くを語らずとも認め合い、思いあう友情の描写がすごくいい。二人で酒を酌み交わし、別れ際に平手が市に笠を渡すシーンに心打たれます。男同士なんだけど、ヘタなラブシーンよりもグッときますよ。そしてこのシーンが最後まで生きているから、ラストが余計に悲しい。噂には聞いてましたが、この天知さん扮する平手造酒は確かにいいですねぇ。新東宝が潰れて大映に移籍した天知さんの大映第一作目だそうですが、これ観ると新東宝潰れてよかったんじゃないか?とまで思ってしまうほどこの平手造酒はいいですよ。

BACK

『地獄』(1960年/新東宝)

監督:中川信夫。
出演:天知茂。沼田曜一。三ツ矢歌子。

仏教大学の学生清水は、恩師矢島教授の娘幸子と婚約をしたところだった。ところがその婚約の日、矢島宅からの帰り道清水の乗った学友田村の車が酔っ払いをひき殺してしまう。車を止めて引き返そうと訴える清水に田村は、酔っ払って飛び出したのはあいつだし、目撃者は誰もいないと平然と車を走らせる。良心の呵責に苛まれる清水だが、君は僕を売る気なのかと田村に脅され、苦悩する。やがて罪の意識に耐えかね幸子とともに自首して出ようとしたが、彼女と共に乗り込んだタクシーが事故を起こし、幸子は死亡してしまう。ますます苦悩する清水・・・。その後次々と彼のまわりで事件、事故が起こり、やがて清水は賽の河原に佇む・・・。
とにかく理由つけて、まとめて地獄に送り込まなきゃ話が始まんない・・・というすごい物語の流れです。地獄がテーマでこんな脚本よく書けたなぁと登場人物全部地獄に送っちゃうという発想に呆然としてしまったのですが、ネットで検索してて知った話によると、なんでも当初は『ファウスト』をモチーフに撮りたいと言ったら、新東宝を「エロ・グロ・ナンセンス」の代名詞にしちゃった製作の大蔵さんが「それはダメ、地獄極楽ならいいよ」ということで出来上がったのがこの作品とか・・・(^^;)。確かに『ファウスト』残ってますね。そう考えるとこの作品大きく納得できちゃうからすごい(笑)。天知さん扮する清水は沼田さん演じる田村にどうやら金の援助を受けてるらしい・・・つまりメフィスト田村に魂を売り渡している・・・と・・・。こういうとこから清水の苦悩は始まってるんですね。で、苦悩して苦悩して・・・あげく地獄に落ちて、また苦悩して・・・でも、地獄で救われるっちゅうのもこれまた、なんとも言えませんが・・・(笑)。いやぁ、何度も観たい映画ではないですが、一度は観ておいてもいい映画ですね。

BACK

『女奴隷船』(1960年/新東宝)

監督:小野田嘉幹。
出演:菅原文太。丹波哲郎。三ツ矢歌子。三原葉子。

第二次世界大戦末期。ドイツ軍から高性能レーダーの設計図が南方の前線に届く。この戦況を打破するためには一刻も早くこの設計図を大本営に届けなければならない。早速この秘密命令を受けて須川中尉が飛び立つが、敵機の攻撃に会い南シナ海で墜落してしまう。一命を取り留めた須川が目を覚ました場所は、上海へ向かう貨物船。それは日本の女たちを上海に売り飛ばす「お唐さん船」と呼ばれている人身売買一味の船だった。なんとしても日本へ帰らなければならないと焦る須川だが、なす術もない。そんなときその「お唐さん船」は海賊船に襲われ、女たちと共に須川も捕らえられ、海賊たちの本拠である小島に監禁されてしまう。
第二次世界大戦の最中、奴隷船が海上を行き来して、海賊まで出て、アメリカのスパイである中国人が出てきて、おまけにその海賊の中には脱走兵までいる。っていうんだからすごいですよ(笑)。つっこみ出したらキリのない展開なんですが、お色気満開で二転三転と裏切りまくりの三原葉子さん扮するクィーンに免じてつっこむのはよしましょう(笑)。それにしても自ら「私はクィーンよ」って名乗るか?普通?ま、こちらも丹波さん扮する海賊がかっこよかったので許しましょう。大きく胸元をはだけて羽織るシルクのシャツに猿。海賊ルックがよくお似合いで。主役は文太さんのはずなんですが、いいとこ全部丹波さんと三原さんに持ってかれちゃってる感じがしないでもないですね。この映画を観る限り文太さんの魅力は東映で開花したと言い切っちゃってもいいかもしれない。しかし、この映画のラストの銃撃戦はなんだか西部劇ぽくって、なかなか面白い。それとこの映画のテーマ曲がいいんですよ。私はこのテーマ曲好きだなぁ。

BACK

『少女妻 恐るべき十六才』(1960年/新東宝)

監督:渡辺祐介。
出演:星輝美。小畑絹子。鳴門洋二。宇津井健。天知茂。

ヤクザの監視のもと、売春をする少女たち。彼女たちの稼いだ金のほとんどは組織のボスのもとへ行き、彼女たちは組織を抜けることさえも出来なかった。そんな中こっそりとお金を抜いたり、自らが相手をした男の会社へ強請りにいったりして密かにお金を貯めていたユキは、強請りに行った先で偶然、組織にいながら誰のひもにもなっていない五郎と出会う。実は五郎もユキと同じようにボスに内緒で強請りなどでお金を抜いていたのだった。意気投合した二人はやがて愛しあうようになるが、組織はそれを許さなかった。彼らの姿に過去の自分を重ね合わせた街の娼婦銀子は、今では堅気となったかつて愛したやくざ黒木の元に二人を逃がしてやるが・・・。
それにしてもすごいタイトルだなぁ・・・。タイトルから凄まじい映画かと思っていたのですが、青春ラブストーリーとでも言いますか・・・タイトルと全然違うじゃない。という作品です(笑)。まず、「少女妻」じゃない。そして「十六才」じゃない・・・おっと、こちらは作品の中では十六才という設定ですか・・・(笑)。しかし、この十六才たち実際はいくつだったんでしょうねぇ。気になるところです。映画全盛期の頃の映画ってなんだかなんでもありで、ふと妙なつっこみを入れたくなるんですが、それでも娯楽作品としてあっさり「ああ、面白かった」と言えるのがいいですよね。これもそんな作品の一つで、これと言っていいとも悪いとも言えないんだけど、まぁまぁ、それなりに楽しめるというものです。しかし宇津井さんって昔から雰囲気も演技も変わんない人なんですねぇ。これだけ一定している人も珍しいんじゃないでしょうか?

BACK

『子連れ狼 三途の川の乳母車』(1972年/東宝)

監督:三隅研次。
出演:若山富三郎。松尾嘉代。大木実。岸田森。

柳生一族から命を狙われながら、刺客として一子大五郎と共に流浪の旅を続ける元公儀介錯人拝一刀。拝一刀殺害を企てる柳生の黒鍬小角は明石柳生の女指南役柳生鞘香に一刀殺害を依頼する。鞘香を首領とする別式女八人が一刀を襲うが、彼女らもまた一刀の敵ではなかった。しかしこの戦いで傷を負った一刀の隙に黒鍬小角率いる黒鍬衆は大五郎を人質にとるがそんな手は一刀に通じる訳もなく黒鍬衆もまた一刀の手により全滅させれてしまう。阿波藩から幕府に捕らえられた阿波藍の秘法を知る幕屋忠左衛門と彼の護送役弁・天・来の三兄弟を斬ることを依頼された一刀は大五郎と共に阿波へ渡る船に乗り込む。そしてその船には弁・天・来の三兄弟と一人残った柳生鞘香もまた一刀を討つためその船に乗り込んでいた。
この映画もまた『キル・ビル』を観て気になっていた映画だったのですが、こっちを観てから『キル・ビル』を観たほうが断然面白かったでしょうね。噂には聞いていましたが、ここまで荒唐無稽だとは思いませんでしたよ。物語は全然荒唐無稽じゃなくってしっかりしてて面白いんですよ。でもその中で武器と化す乳母車や、刀仕込んだ大根だとか、一刀に敗れて後ろ向きに去っていく柳生鞘香の姿に大笑いしてしまいました。この妙なアンバランスさが面白いですよね。でも一番すごいと思ったシーンはラストシーンなんですよね。スッとだした刀で柳生鞘香の行動を止め、何事もなかったように刀を鞘におさめ乳母車を押し去っていく一刀。その後姿をみつめる柳生鞘香。すごく失礼なのですが私松尾嘉代さんって全然きれいじゃないって思ってたんですよ。役柄のせいかもしれませんがなんが雰囲気ががっしりしすぎてて好きじゃない女優さんの一人で、この柳生鞘香も私が好きじゃないなと感じたこの人のいつものイメージの役だったのですが、ラストの一刀の背中を見送る姿が艶っぽくってきれいなんですよ。これには驚きました。このラストシーンは名シーンじゃないでしょうかねぇ。

BACK

『怪談』(1964年/東宝)

監督:小林正樹。
出演:三國連太郎。新珠三千代。岸恵子。仲代達矢。中村賀津雄。志村喬。

小泉八雲の『怪談』の中から黒髪、雪女、耳なし芳一、茶碗の中の4編をオムニバスで映画化した作品。
物語として知っているのは有名な『雪女』と小学生の頃図書室で借りて怖い作品だとは知らずに読んで数日夜トイレに行くのは怖いは、寝つきは悪くなるは、と超怖がりだった私をえらいめにあわせてくれた『耳なし芳一』の2編だけなのですが、この映画の中でもやはり自分が知っているこの2編が面白かった。『雪女』の映画というよりはすごく凝った舞台というようなセットが視覚的に面白かったし、岸恵子さんはやっぱりきれい。雪女にぴったりですね。でもこの作品の中で一番すごいなと思ったのは『耳なし芳一』。壇ノ浦の合戦のシーンの美術がすごい。リアルではない映像のリアルさってあるんだなぁと新たな感動を覚えましたよ。さすがにこの3本目の『耳なし芳一』あたりでちょっとだるくなってしまう長さなんですが・・・(^^;)。で、まだあるんだなと少々だれながら観ていた『茶碗の中』。なんか訳わかんないよなぁ、これ・・・と完全にだれきっていたラスト。この4本の中で一番怖かった。怖かったけどやっぱり未だに訳わかんない(笑)。それにしてもこの4本の組み合わせもうまいですよねぇ。

BACK

『女吸血鬼』(1959年/新東宝)

監督:中川信夫。
出演:三原葉子。天知茂。池内淳子。和田桂之助。

松井伊都子の母、美和子は20年前に失踪していた。その母が伊都子の誕生日のパーティー中突然戻ってきた。しかも20年前の容貌そのままに・・・。同じ夜都内のホテルの女性従業員が殺害される事件が起こる。犯人はそのホテルに宿泊していた竹中と名乗る不思議な男。そして翌日松村家に何者かから美術館から盗難にあった絵が送られてくる。その絵のモデルは美和子にそっくりで、作者は不明だが美術展の特選候補になってた絵だった。意識を取り戻した美和子は、この絵のモデルはまさしく美和子で、彼女は20年前今回のホテルの事件の犯人竹中に誘拐されたのだった。竹中は天草四郎の遺児勝姫に使える家臣だったが、城陥落の際、勝姫に焦がれる余り死した勝姫の血を吸ったために不老不死となってしまったのだった。そしてその末裔である美和子を我が物にしようと誘拐したが、竹中が恐れる月夜の晩やっとの思いで逃げ出してきたと語る。
いやぁ、なんともすごい設定ですねぇ(笑)。今じゃ絶対にこんな映画ありえないでしょうね。だって勝姫の末裔を・・・しかも女性を狙ってずっとさらってたんだとしたらいい加減血筋絶えてるはずだし、いきなり昭和になって思い立ってさらったとしたら突拍子もないし、ずっと男家系でやっと生まれた女だったのか?ま、そんなことはどうでもいいですけどね。面白かったから。それにしても天知さんってば吸血鬼がよくお似合いで・・・。冷たく鋭い目に少し頬がこけた細面。日本の吸血鬼俳優は岸田森さんだと思っていましたが、天知さんも負けちゃいませんね(笑)。しかしこの新東宝っていうのはすごい会社ですよねぇ。自分とこの俳優は文句なしにどんな役でもさしちゃってたって感じがしますよ。この映画では影の薄い池内淳子さんですが、この方のとんでも映画もあるそうで・・・(笑)。

BACK

『東海道四谷怪談』(1959年/新東宝)

監督:中川信夫。
出演:天知茂。若杉嘉津子。江見俊太郎。北沢典子。池内淳子。

備前岡山。四谷左門から彼の娘お岩との縁組を一方的に破談にされたことを抗議する浪人民谷伊右衛門だが、左門のあまりの罵倒に耐えかね左門と一緒にいた左門の友人佐藤彦兵衛を手にかけてしまう。そこに居合わせた仲間の直助は二人を殺したのは別の者ということにするかわりに思いを寄せるお岩の妹お袖を我が物にするためお袖の婚約者で彦兵衛の息子与茂七殺しへの協力を伊右衛門に詰め寄る。そして仇討ちの旅の途中で与茂七を滝つぼに突き落とす。江戸に落ち着いたお岩と伊右衛門は所帯を持ち子供も出来たが、体の弱ったお岩から仇討ちの話を出される度にいたたまれない日々を送る伊右衛門。そんなある日無頼の徒から伊藤喜兵衛親娘を救ったことでその娘お梅は伊右衛門に心を寄せる。それを知った直助はお梅と一緒になれば仕官も叶うと伊右衛門をそそのかし、邪魔になるお岩殺害を承知させる。
物語としては有名すぎるほど有名な『四谷怪談』何度も映画化されたりドラマ化されたりしていますが、私はどの作品も観た事がなかった・・・というより観なかった・・・いや、観れなかった。だって怖いんだもん(爆)。ここ1,2年ですっかり昔の邦画にはまり、ネットでいろんな情報を見てて、この『東海道四谷怪談』はすごい名作だと知り、どうしても見たくなってしまった。でも、観たい。けど怖い・・・という逡巡を繰り返していたのですが、まぁ時期も夏だし・・・ということで勇気を振り絞って視聴。怖くない。お岩が薬のせいで顔が崩れていくシーンは確かに怖いシーンなんだけど、ドラマがしっかりしているから「どうだぁ、怖いだろう!」というおどかしのいい加減さがなく、物語の流れとして普通に見れてしまった。そしてこの映画を観て感じたことはこの映画ってラブストーリーなんですよね。それもとても悲しい。お岩はどれだけ伊右衛門からつらくあたられても愛していたから耐えられた。だから彼の裏切りが心底許せなかったのだろう。しかし伊右衛門もまたお岩を愛していた。けれど彼女の父を殺した罪の意識が彼の心を曇らせお岩への愛を濁らせていたのではないだろうか?ラストの与茂七とお袖から父の仇と切りつけられるシーンで、お袖の突き出しだ刀を手で止めた伊右衛門は「お岩許せ・・・」と自らその止めた刀を腹に刺す。ただただ幽霊が助太刀して仇討ちをした形で伊右衛門を死なせていないのがこの映画の巧さ面白さじゃないでしょうか。

BACK

『悪魔の手毬唄』(1961年/東映)

監督:渡辺邦男。
出演:高倉健。永田靖。志村妙子。石黒達也。神田隆。

流行歌手の和泉須麿子が鬼首町鬼塚村への帰郷の途中何者かに惨殺される。遺体に置かれたラジオからは彼女が歌う「鬼首村手毬唄」が流れていた。和泉須磨子、本名は仁礼須磨子。彼女は鬼塚村一番の富豪仁礼家の長女だった。半年前、仁礼家には妙な脅迫状が届いていた。次は自分の番かもしれないと怯える長男の源一郎と次女の里子は警察に届けるべきだと父剛造を説伏せるがなぜか彼は耳を貸そうともしない。そればかりかなぜか「鬼首村手毬唄」に怯える。須麿子からその脅迫状のことで依頼を受けていた金田一は須磨子殺害を聞き事件解明に乗り出すが・・・。
えっと・・・あらすじ読んでいただくとわかるとおりこれは『悪魔の手毬唄』というタイトルで原作横溝正史とされていますが、全くの別物です(爆)。こんなのホントにアリなんですかねぇ。以前ルシアンさんちでこのレビュー読ませていただいてから、すごく気になっていた作品だったのですが、冒頭からびっくりすることの連続です。まず、いきなり鬼首村が鬼首町とでかくなってるし、鬼塚村って一体どこやねん?おまけに本来村に伝わる手毬唄が恐るべき殺人の「見立て」に使われているのに、歌詞かえられてすっかり歌謡曲にされちゃってるし・・・「一羽の雀の言うことにゃあの娘器量よし、手毬が上手で・・・」ってそれがどうしたんだよ!「見立て」に使われるから「悪魔の手毬唄」になるのにこれじゃただの手毬唄だよ。健さん扮する金田一はスポーツカーで鬼首町に乗り付けて、なんだか妙な女秘書までついてるし・・・。よくもまぁ、元の原作をここまでズタボロにしたもんですよねぇ。あまりにもズタボロなもんだから磯川警部役が悪役でしかみたことなかった神田隆さんが演じてるもんだから、磯川警部が犯人なのかと思っちゃいましたよ(笑)。

BACK

『誰も知らない』(2004年/シネカノン)

監督:是枝裕和。
出演:柳楽優弥。YOU。北浦愛。

母と4人の子供たちが新しいアパートへと引っ越してきた。ところが母子家庭で4人も子供がいると前の家を追い出された母けい子は大家に長男明と二人だけだと嘘をついていた。そこでこの家のルールは買い物で外に出るのは明だけ、他の子たちは「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」洗濯係りの長女京子だけが人目を確認してからベランダに出てもいい。というものだった。そう彼らは学校にも通ったことがなかった。それでも彼らなりに幸せな日々を過ごしていた。そんなある日しばらく留守にするからと現金を置いて母が家を出て行った。母が帰ってくることを信じて子供たち4人だけの生活が始まる。
1988年に実際に起きた「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフに作られているが、実際の事件ほど悲惨ではない。でも観ていてなんとも言えない痛さを感じた。なんだかこの映画に責められている・・・そんな気がした。自分の行動を他人に非難されたとき「何も知らないくせに・・・何もわかってないくせに・・・」そう罵る自分がいるのに、他人の行動には自分の中の良識だけで「なんてひどい奴だ」と非難している自分がいる。この映画のタイトル「誰も知らない」は誰に知られることもなく子供たちだけで過ごす彼らの日常のことだけではなく、母親がとった行動の意味も心も、そして必死に兄弟たちだけで過ごす彼らの気持ちも、彼らと行動を共にする同級生にいじめられている少女の気持ちも彼女がいじめられていることさえ「誰も知らない」んですよね。誰にも知られなくても人は生きていける。でもそれはあまりにも過酷すぎる・・・。何も知らないくせに何もしないくせに責めることしかしない今の世間にこの映画は警鐘を鳴らしているのかもしれない。

2004年8月23日(動物園前シネフェスタ)

BACK

『私は貝になりたい』(1959年/東宝)

監督:橋本忍。
出演:フランキー堺。新珠三千代。水野久美。藤木悠。

第2次世界大戦が激化し、高知で理髪店を営む清水豊松の元にも赤紙が届く。愚直な豊松はいつも上官に叱責されつらい軍隊生活を送ることになる。そんなある日B29の搭乗員が撃墜されパラシュートで大北山山中に降下した。「搭乗員を逮捕し、適当に処分せよ」との命令が豊松の属する部隊に下され、虫の息の状態で発見された米兵二人は立木に括られ処刑されることとなる。そして銃剣で彼らを処刑するように任命されたのは、いつも精神がなっとらんと叱責されていた豊松と滝田だった。やがて戦争は終わり家族と共に平和な生活に戻った豊松だったが、それもつかの間大北山事件の戦犯として逮捕されてしまう。彼に下った判決は絞首刑だった。
何年か前テレビのドキュメンタリーか何かでこの映画のことが放映されていて、その時に観た死刑台に向かうフランキー堺さんの映像のバックに流れる「どうしても生れ変らねばならないのなら……私は貝になりたい」というナレーションに感動。それ以来一度は観てみたい作品のひとつとなっていたのですが・・・。あれ?ラストシーンが違う・・・私が観たのは暗い廊下をとぼとぼと歩いていくシーンだったような・・・。とネットで検索をかけてみると・・・。ドラマの方が断然よくって、映画はイマイチ・・・という評判が・・・なるほど。私が観たのはドラマの方だったのかな?どうりでなんか思ってたほど感動しないよなぁって思ったんですよ。刑務所の中でのシーンが長い。同室の中丸忠雄さんが出て行くまではよかったんですけどねぇ。

BACK

『千の風になって』(2004年/シネカノン)

監督:金秀吉。
出演:西山繭子。伊藤高史。南果歩。吉村実子。綿引勝彦。

雑誌記者の紀子は演劇に情熱を燃やす夫と互いの仕事を尊重した生活を送っていた。しかし紀子が企画した仕事はことごとくボツにされ、妊娠がわかっても夫は子供はいらないと言い切る。そんなとき新潟のラジオ局で好評になっている企画「天国への手紙」の取材を上司から命令され、気乗りのしないまま手紙の差出人を訪ねる取材をはじめる・・・。小児ガンで長男を失った葉子。高校生時代にいじめがきっかけで登校拒否となり母親への暴力にはしった和美。そして長年連れ添い、病に倒れた夫を最後までそばで看取った徳江。気乗りのしなかった取材により紀子の心の中が変わっていく・・・。
実際に新潟のラジオ局で放送されている「天国への手紙」モチーフにして作られた作品。殺伐とした日々の暮らしの中で、ささくれだっている心を潤わそうと「さぁ、泣くぞ!」と出かけた作品なんですが・・・(^^;)。取材記者の女邪魔だよ。取材をしていくという構成はよかったとしても、彼女の物語なんていらないんじゃないかなぁ・・・。一番最初の小児ガンで長男を亡くした女性の物語には完全にやられました。最後まで夫を看取った女性の物語では亡くなった夫への手紙は「来世でもまたかあちゃんにしてくださいね」と結ばれていて、それまでは父ちゃんの分までこちらでがんばりますとある。この物語はすごくうらやましかったな・・・。
この映画のタイトルになっているのはIRAのテロ攻撃で他界した青年が両親にあてた手紙に綴られていたものだそうで、マリリン・モンローの追悼式で朗読され、ジョン・ウェインがハワード・ホークス監督の葬儀で朗読し、最近では9.11で父親を亡くした11歳の少女が朗読したもののタイトルで、この映画のチラシを手にして初めて知ったものなのですが、とても素敵な詩です。日本語訳は何人かの人がしているようですが著作権の問題とかあると思いますのでこちらでは原文を紹介しておきますね。

A THOUSAND WINDS

Do not stand at my grave and weep, I am not there, I do not sleep.
I am a thousand winds that blow, I am the diamond glints on snow,
I am the sunlight on ripened grain, I am the gentle autumn's rain.
When you awake in the morning hush,
I am the swift uplifting rush of quiet in circled flight.
I am the soft star that shines at night.
Do not stand at my grave and cry. I am not there, I did not die.

2004年9月20日(動物園前シネフェスタ)

BACK

『スウィングガールズ』(2004年/東宝)

監督:矢口史靖。
出演:上野樹里。平岡祐太。貴地谷しほり。本仮屋ユイカ。

野球部の応援に欠かせない吹奏楽部がお弁当にあたって一人を除き全員入院という緊急事態発生。一人残った拓雄は急遽メンバーを募集するが、やってきたのはロッカーなギターとベースにリコーダー。さすがに4人ではどうにもならないと教室の外を見ると、吹奏楽部があたったお弁当を運んだ張本人である補習組。拓雄に詰め寄られ、弁当運んだ責任と補修がさぼれるという口実のもと参加する補習組13人。計16人の少女たちと一人の少年のビッグバンドの猛特訓がはじまる。ところが演奏の楽しさがわかってきた矢先、吹奏楽部が復活。音楽室から放り出された彼女たちだが、一度知った「スウィング」の楽しさに今度は自分たちの楽器を手にする。
もうとにかくノリノリで楽しい!全編にわたって流れる曲はジャズ好きにはうれしいナンバーばかり。音楽映画にはずれなし。これ私の持論です。物語がどうであれ、映画に楽器が登場して音楽が流れるだけで私はすごく楽しいんですよね。でも、この映画はそれだけじゃなく物語もしっかり青春してて、コメディしてて、見所がいっぱい。しかもこの映画の主役4人は全くの楽器初心者。映画と実際の上達がリンクしているからこそラストの演奏会のシーンは映画を超えた感動がありました。ラストシーンはそれこそ言うことなしなんですが、私が一番好きなシーンは横断歩道での『故郷の空』。「これってジャズ?」と裏拍子でスウィングし始める彼女たちと一緒に観ている私までのっちゃいそうでした。ただただ残念なのはせっかく谷啓さんがご出演なさっているのに谷啓さんの演奏がなかったこと・・・ですね。

2004年9月20日(動物園前シネフェスタ)

BACK

『迷走地図』(1983年/松竹)

監督:野村芳太郎。
出演:勝新太郎。岩下志麻。松坂慶子。津川雅彦。渡瀬恒彦。寺尾聰。

政権を握る改憲党の第二派閥である寺西は現首相桂の後を受けて、秋には首相の座に就くであろうと目論まれていた。前首相の入江が急死し、現首相の桂は引き続き政権を担当する意思を見せ、秋の総裁選へ向けて俄かに動きが活発化する。第三派閥である板倉派抱き込みのための工作資金の調達、裏工作、激化する政権争いに寺西の第一秘書外浦、寺西を支援する財界の世話役和久、和久の愛人里子、寺西の妻、それぞれの思い、かけ引きが交錯し、迷走する。
こういう政治モノって結構好きだったりするし、作品名もなかなか有名だったんで、もっと期待していたのですが、思っていたよりもイマイチでしたね。政治の裏のドロドロっとしたところを見せているようで、なんだか差込みきれていない。そんな印象を受けました。あっちこっちに主点を置きすぎなんでしょうかね。この映画の登場人物の中で一番インパクトがあってしたたかで思わずニヤリとさせられた人物が和久の愛人である里子だけですからねぇ。それにしても里子役の松坂慶子さんと和久役の内田朝雄さんのベッドシーン、リアルだったなぁ(笑)。描写がリアルなんじゃなくって組み合わせが、組み合わせなもんだからやたらリアルに感じてしまった(笑)。政治モノとして観るとちょっと肩透かしをくらったような気分になってしまう作品ですね。主体がラブレターじゃねぇ・・・。でも、このラブレター事件って本当にあったことらしいんですが、政治家の嫁さんのラブレターが政権を左右するっていうのはどうなんですかねぇ・・・(苦笑)。

BACK

『女がいちばん似合う職業』(1990年/アルゴプロジェクト)

監督:黒沢直輔。
出演:桃井かおり。岡本健一。橋爪功。伊原剛志。

いつも強引な捜査で、今までに書かされた始末書の数も数え切れないという女刑事きぬ。同僚の木戸と束田とともにいくつもの事件を担当させられ、休む間もなく働かされていた。そんな中ビルのエレベーターで妊婦の惨殺死体が発見される。被害者はこれで二人目となっていた。目撃者の証言から吾郎という一人の若者が容疑者として浮かぶ。高級なマンションに住み、誰とも関わりを持たずただ漠然と日々を過ごす吾郎。吾郎を張り込み続けるうちに殺風景な部屋でただ座り続ける彼に興味を示したきぬはいつしか彼に近づき過ぎていた・・・。
面白いのか?・・・と思わず自分に問いかけをしたくなってしまう映画でした(笑)。充分に楽しめた映画だったのですが、だからと言って面白いのか?というとなんというか・・・その・・・まったりとした映画とでも申しましょうか(笑)。不思議な映画でしたね。意味がわかったようなわからなかったような・・・(^^;)。ま、私はこの映画橋爪さん目当てで観ただけですから、その目的としては充分過ぎるくらいの映画でしたけどね。「ぴあシネマクラブ日本映画編」に載っているこの映画のカットの写真の橋爪さんが今までの役のイメージと全然違うもんだから、すごくこの映画が気になってたんですよ。で、たまたま行ったレンタルでこの作品をみつけ速攻レンタル。こんな役もやるんだぁ・・・とこの人の演技の幅にまたまたびっくりしてしまいました。それだけでもこの映画観た甲斐はあったのですが、主演の桃井かおりさんのいつものごとくのうまいんだかなんだかわかんないけだるさと、ちょっととぼけたかわいさと、ハードボイルドも似合うんだというこの人独特の不思議さをも再確認させていただけたし・・・とやっぱこの作品面白かったのかな(笑)。

BACK

『オーバードライヴ』(2004年/東京テアトル)

監督:筒井武文。
出演:柏原収史。鈴木蘭々。杏さゆり。ミッキー・カーチス。

人気ユニット“ゼロデシベル”のギタリストの弦は、実はヴォーカルの美潮と付き合っていた。ところが二人の仲がうまくいかなくなったことで、いきなり新曲構想の記者会見の席上、「もうギターの音は使いません!」と美潮に宣言されてしまう。あまりの仕打ちに自棄酒を飲み酔っ払った弦が偶然に乗り込んだタクシーの運転手は、なんと津軽三味線の後継者候補を探し出してはタクシーで拉致するというとんでもないジイさんだった。弦が連れてこられたのは青森の人里離れた妙な屋敷。いきなり強いられる地獄の特訓。もうやめだ!と帰ろうとしたところに現れたのはジイさんの孫娘晶。彼女のかわいさに一目惚れしてしまった弦は前言撤回。津軽三味線の修行に勤しむようになるが・・・。
ガハハ!!バッカだぁ〜!!なんておバカなノリの軽い映画なんだろ。結構私こういうの好きかも。「弦が6本ならなぁ〜・・・」という弦の言葉にそれならあるよと晶が持ってきたのはなんとダブルネックの三味線(笑)。「ジミーおじちゃんが作ったんだ」ってなんとジミー・ヘンドリックスまで過去に拉致されていたとか、ヨー・ヨー・マを拉致して大騒ぎになったとか・・・とにかく笑わせてくれます。弦の前に現れる強敵宗之助の話には私思いっきり噴出しそうになりましたよ。なんたって十字路で悪魔に魂売り渡したっていうんですから。私がギター習い出してなかったら知らなかったネタなんですが、伝説的なギタリスト、ロバート・ジョンソンが並外れたテクニックを持っていることからあいつは十字路で悪魔に魂を捧げたという逸話があるんですよね。それそのまんまなんだからウケるなというほうが無理でして・・・(^^;)。ラストの三味線バトルは気持ちが高揚するくらいに聞かせてくれるし、ご本人さんとして登場の吉田兄弟、木下伸市さんの演奏まで聴けるんだから、音楽映画としては面白い作品じゃないですかね。

2004年11月1日(テアトル梅田)

BACK

『ジョゼと虎と魚たち』(2004年/シネカノン)

監督:犬童一心。
出演:妻夫木聡。池脇千鶴。上野樹里。新井浩文。

大学生の恒夫がアルバイトをする麻雀屋で、明け方乳母車を押す不思議な老婆が麻薬の運び人ではないかとかの噂になっていた。そんなある日、恒夫の目の前の坂を猛スピードで下ってくる乳母車。坂の上ではその噂の老婆が「その子が大丈夫か見たって」と叫んでいた。恐る恐る乳母車を覗き込む恒夫に振りかざされた包丁。なんとその乳母車には脚の不自由な老婆の孫娘くみ子が乗っていたのだった。話を聞くとどうやら麻雀屋の客の一人が乳母車に金があると思い込み老婆とくみ子を襲ったらしい。助けてくれたお礼にと朝食をご馳走になった恒夫は、フランソワーズ・サガンの小説の主人公の名前“ジョゼ”を名乗るくみ子の食事のおいしさに惹かれ、何度となくジョゼの家を訪れるようになる恒夫は次第にジョゼ自身に惹かれていく。
公開時のあまりの評判のよさにぜひとも観てみたい作品だったのですが、評判がよかった理由がすごく納得の出来る作品でした。脚の不自由な女性と大学生のラブストーリー、シチュエーションは確かにそうなんだけど、物語としては決してそうじゃないんですよね。ごくごく普通のラブストーリー。ありのままを愛してくれと願うジョゼと彼女の不思議さと奔放さに惹かれていた恒夫はやがて彼女のありのままの姿を重荷に感じ始める。恒夫の元彼女がジョゼに向かって言うセリフがすべてを物語ってるような気がする「あなたの側にいてあげないとなんて言ってたけど、彼はそんな人間じゃないわ!」。この人には自分が必要だ・・・恋愛初期の一種の思いあがり、優越感。そして自己満足。等身大のラブストーリー。素敵な物語でした。恋の終わりはすべて相手が嫌いになったんじゃなくってみんな逃げ出しているんじゃないのかな・・・。

BACK


ホームに戻ります。