『電送人間』(1960年/東宝)

監督:福田純。
出演:鶴田浩二。平田昭彦。白川由美。中丸忠雄。

ある日遊園地のお化け屋敷でブローカーの塚本という男が殺害される。入場客の目の前で犯行が行われたのにも関わらず、犯人の姿を見たものは誰一人としていなかった。東都新聞科学担当記者の桐岡はその事件に興味を覚え、現場に足を運んだ彼はそこで大学時代の友人小林警部と再会する。同じ事件を追うことになった二人の目の前で第二の殺人が起こる。殺害されたのは軍国キャバレーの経営者の隆。彼らが共に所持していた旧陸軍の軍識票から、同じ軍に所属していた滝と大西の元を訪れた二人は彼らから、終戦時彼らは軍の科学者仁木博士とその研究書類の保護を頼まれたが、書類と偽り横領した金塊を隠そうとしてそれを仁木博士と護衛の須藤に気付かれ二人を殺害したことを打ち明けられる。しかもその仁木博士の研究とは電気で人間を他の場所に転送出来るというものであった。もしその研究が成功しているのならば、殺人現場から姿を消してしまう犯人の理由がつく。果たして二人は生存しているのか?そしてこの事件はその二人による復讐劇なのか?
まさかこういう映画の主役を鶴田浩二さんがなさってるとは・・・なんだかそれだけで驚きです。でもこの人知的でクールな顔をなさってるから違和感はないんですよね。東映のやくざ映画のイメージのついてない鶴田浩二さんの方がやっぱ私は好きです。物語はまずまず面白かったですよ。でも「電送人間」という発想を取り除くとなんだか2時間のサスペンスドラマにありそうな復讐劇ですけどね。しかしあの軍国キャバレーって一体なに?軍隊風キャバレー?(笑)。本当にこんなのあったんですかねぇ。あったとしたら日本人ってヘンな人種ですね。あんな悲惨な戦争のあとでわざわざ金払って軍服見たいかなぁ?私だったら軍服や軍人見るのもいやですけどねぇ・・・っと映画と関係ない話になっちゃった(笑)。ま、鶴田浩二さん主演の特撮もの、ということで見てて損はない映画だとは思いますが、すごい・・・ってほどでもなかったです。(^^;)

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『座頭市』(2003年/松竹)

監督:北野武。
出演:ビートたけし。浅野忠信。大楠道代。岸部一徳。石倉三郎。柄本明。

ヤクザの銀蔵一家が仕切る宿場町にやってきた三組の旅人。按摩の座頭市、浪人の服部とその妻、旅芸者のおきぬとおせい。
座頭市は月に一回だったショバ代を毎日払えと脅されていた野菜売りのおうめを助けたことで彼女の家に厄介になることになる。病弱の妻を抱えた服部は銀蔵一家の用心棒となり、金のために人を斬るが、その姿に妻おしのは心を痛めていた。幼い頃一家を強盗に惨殺されたおきぬとおせいは敵を探していた。銀蔵一家の賭場でいかさまを見抜いたことで大暴れした座頭市は彼らから狙われることになるが、おきぬとおせいの敵が銀蔵と彼がつるんでいる商人の扇屋であることがわかり・・・。
実は北野作品って私『菊次郎の夏』しか観ていないんですよね。なんとなく観そびれちゃって・・・。でもこの作品は私の好きな時代劇。しかもエンターテイメントなんて言われたら観にいかない訳にはいかないでしょう。エンターテイメントとしては文句なしの面白い作品でした。この際物語性は無視でしょう。つらつらと語っちゃわないところに案外この映画の面白さがあったのかもしれません。速くて斬新な殺陣。軽快なリズム。要所にいれられたコミックシーン。そしてこの映画の話題のひとつのラストのタップの群舞。本当に見事です。これで歌があったらインド映画だ(笑)。どうしても「座頭市」と言えば勝新。というイメージがあるのですが、あの「座頭市」とは全くの別物です。って当たり前の話なんですけど・・・(^^;)。勝新の「座頭市」のイメージを持ってこの作品を観たとしてもそのイメージは観ている間にどっかいっちゃいますね。勝さんの座頭市は人物で、たけしさんの座頭市は背景。そんな感じがしました。座頭市というキャラクターの魅力は勝さんの方が絶対上だと思いますが、案外そこに勝負を持っていかなかったたけしさんの技勝ちかもしれません。これはまさしく北野武監督の『座頭市』。ぜひともまたこういう娯楽大作を撮って欲しいと思います。

2003年9月13日(ヴァージンシネマズ泉北)

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『戦国野郎』(1963年/東宝)

監督:岡本喜八。
出演:加山雄三。佐藤允。中谷一郎。星由里子。

戦国時代、武田軍の忍者であった越智吉丹は、武田信玄のやり方に愛想をつかし武田の里を後にする。しかし裏切り者の彼を幾人もの追っ手が付狙う。その一人雀の三郎左を死闘の末破った彼の前に新たな追っ手銅子播磨が現れるが、なぜか彼は吉丹が気に入り吉丹と道中を共にする。そんな二人の前に現れた山猿のような田舎武士に薦められ馬借隊に身を隠すことになるが、なんとこの山猿は織田家の家臣木下藤吉郎だった。藤吉郎の依頼で最新式武器“種ケ島”の運搬を引き受けた馬借隊と共に旅立つ二人だが、この荷を武田軍が狙っていた。
いやぁ、実は私この映画を観るまでは加山雄三さんって嫌いだったんですよ。だから『独立愚連隊西へ』も主役がこの人でどうも気に入らなかった。私の中ではこの人『若大将』のイメージしかなかったんですよね。でも、これ観てこの人の見方変わりました。若さ故のとんがったとことか、やんちゃな三枚目なところとかもあってすごく魅力的なキャラクターにすんなり溶け込んでてよかった。でも・・・でも・・・播磨役の中谷さんかっこいい!と、やはり私はこうなってしまう(笑)。時代劇好きの私は風車の弥七も好きなキャラだったんだけど、喜八監督作品を次々と観るようになって喜八作品では結構いい役やってるんで序々に気になりだし、この作品ではじけてしまった(笑)。この播磨は弥七なんかより数段かっこいい(笑)。藤吉郎役の佐藤さんもいいんだ。あの飄々とした策士ぶり。それにこの人表情がいいんですよねぇ。私は喜八監督作品ではこの作品が一番好きかも。物語も面白いし、登場人物すべてのキャラが本当にいいです。でもやはり一番の魅力は播磨だな(笑)。

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『祇園囃子』(1953年/大映)

監督:溝口健二。
出演:木暮実千代。若尾文子。河津清三郎。進藤英太郎。

祇園の芸妓美代春の元へ、零落したメリヤス問屋沢本の二号で芸妓仲間の娘栄子が母が死に、自分が生活していくためには舞妓になるしかないとやってくる。健気な栄子の言葉に舞妓に仕込むことを決心した美代春は、自分の娘のように栄子の面倒をみる。それから一年舞妓として店出しをした栄子は、車輌会社の専務楠田の目にとまり、お茶屋「よし君」の女将から楠田を旦那にするようにという話が出されるが、今風の考え方をする栄子は楠田は好きではないから嫌だという。美代春も栄子が嫌がるのだからと、栄子の思いを尊重しようとするが・・・。
この作品も溝口監督作品として有名なようなのですが・・・。私は断然『噂の女』の方が好き。この作品はねぇ〜・・・こりゃ私がすっかりすれきっちゃってるからかもしれませんが、若尾文子さん扮する栄子がただのバカ女にしか見えなかった(爆)。好きでもない男を旦那になんかしたくないとはっきりものを言うってのはわかるんですよ。でもね、芸妓、舞妓って女を売る商売(カラダって意味じゃないですよ)じゃないですか、それがあんなバカじゃ話が成り立たないですよ。ま、この映画は私が生まれるずっと前の作品ですから、その時代の女はこんなのだったのかもしれませんがね。それにしても女をバカにした作品だなぁ。いや、もしかしたら女をどこか崇拝しすぎておかしくなってるのかな?女って結構したたかな生き物だと思っている私にはなんとも納得のいきかねる物語でした。

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『武器なき斗い』(1960年/)

監督:山本薩夫。
出演:下元勉。渡辺美佐子。東野英治郎。宇野重吉。

大正12年、同志社大学の教壇に立つ生物学者の山本宣治は生物学的な立場から性教育を考える必要性を感じて自らの方法で生徒たちに講義をし、労組の依頼で産児制限の講演もおこなっていた。しかし時代は政府・資本家、一部の特権階級が農民、労働者を支配する時代。いつしか彼は労働党の運動に参加するようになり、昭和3年労働党から立候補した彼は代議士となり、ますます激しくなるプロレタリア弾圧の中、プロレタリア階級の人々のために奔走する。生物学者としての確固たる信念から支配闘争に身を投じた実在の人物「山宣」こと山本宣治の物語。
「山宣」ってきっと有名な人なんでしょうねぇ・・・すみません私全然知りませんでした。しかもこんなとんでもない時代があったんですねぇ。今も本質的なものは変わっていないような気がしないでもないですが・・・。この当時9割7分が貧乏人だったのが、今はそのうちの1割がプチブル、6割が中流階級。残りが貧乏人ってとこでしょうか。この貧乏人っていう定義をどこに持ってくるかで変わるんですけど、意識的なものとしてはこんなもんでしょう。昨今経済の悪化で失業率も増えて貧乏人が増えているのかもしれませんが、基本的に今の時代ある程度の人間は衣食住に足りている。だからこの時代のような階級闘争なんて起こりっこないし、政治への意識も薄れているんですが・・・この映画を観てある意味気持ち悪かったですね。金融恐慌により銀行が倒産。時の政府は銀行救済のために税金を投入する。この映画で山宣は言う「9億円もの税金を投入して守っているのは銀行、資本家で預金者には何もない。預金者にこそお金を返すべきではないのか」思わずその演説にうんうんとうなずいてしまったが、今でもこの演説がそのまんま使えることにぞっとした。確かに現在は預金は1千万までなら戻ってきますけど・・・ね・・・。この先は・・・わからないですよ。過去を知って現在を見る。ってのも必要かもしれませんね。そういう意味ではなかなか面白い映画でした。

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『斬る』(1968年/東宝)

監督:岡本喜八。
出演:仲代達矢。高橋悦史。中村敦夫。

砂塵舞う上州小此木領下。すっかりさびれた宿場に二人の男がやってくる。一人は元武士で今はやくざとなった源太。もう一人は百姓から田畑を売って武士になろうとしている浪人姿の田畑半次郎。そしてその二人の目の前で血気盛んな青年武士7人が城代家老溝口を暗殺する。自らの体験と重なりその7人を放っておけなくなった源太は彼らに味方し、半次郎はかねてからの目的通り浪人を募集しているという次席家老鮎沢の元を訪ねるが、鮎沢は7人が城代家老を斬るのを黙認し、殺害させた上でその7人を自らが雇った浪人たちに私闘とみせかけ殺害させるつもりだった。奇しくも敵、味方と別れた二人だが・・・。
『椿三十郎』と話が少し似てるかな?でも、こちらもすごく面白い。味方の中に敵がいて敵の中に味方がいる。そしてこれはこの監督の持ち味というか面白さの重要ポイントなんですが、この作品でも出てくるキャラがみんなそれぞれにいい味だしてて、絶妙のポイントで活躍する。しかもこの作品猫までしっかり活躍してくれるからびっくりです(笑)。まず、東野さん演じる家老が鮎沢の元へ訪れるときに持ってるかごに入れた魚を屋根から密かに狙う猫。その猫と東野さんのやりとりが絶妙です。そしてその後この猫が・・・。「うまい!」なるほどぉ〜と思わせる描写です。おまけに「おまえは犬か!」と問う鮎沢に源太が「犬はお嫌いですか。それで猫がいるんですね」なんてセリフまであってこんなにもうまく猫を使った作品って他にないんじゃないでしょうか。猫好きにはうれしい一本です。もちろん猫が好きじゃなくったって十分に楽しめる作品ですけどね。

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『肉弾』(1968年/ATG)

監督:岡本喜八。
出演:寺田農。大谷直子。笠智衆。北林谷栄。

昭和二十年、工兵特別甲種幹部候補生のあいつは、魚雷をくくり付けたドラム缶で海に漂流していた。候補生としての訓練はひもじさとの戦いだった。乾パンを盗み、おまえはブタだと裸で訓練をさせられた。そしてあいつは特攻隊員となり、ブタからいきなり神様に格上げされた。一日だけの外出を許されたあいつは、特攻隊員として死ぬことは恐れていなかったが、なんのために死ぬのかわからなかった。その日女郎屋で出会った一人の少女と結ばれたあいつは、彼女のために死のうと決めた。その少女だけでなくその日出会った古本屋の老夫婦、前掛けのおばさん、少年、モンペ姿のおばさんを守るために死ぬのだと決めた。しかしあいつが自分の観音さまだと信じた少女は空襲で死んでしまう。やがてあいつに出動命令が下る。魚雷をくくりつけたドラム缶に乗り込み、敵がやってきたらその魚雷をはずし敵にむかって発射するという。海に出たあいつは敵がやってくるのをじっとドラム缶の中で待つが・・・。
可笑しくも哀しいあいつの青春。ある意味不思議な映画だ。面白いか面白くないかと言えば万人向けする面白い映画ではないだろう。強烈なストレートパンチでノックアウトされるのではなく、じわじわと効いてくるボディブローのような映画だ。冒頭のドラム缶で漂流するあいつの姿に唖然とし、ふと笑いが漏れるが、だんだんあいつを笑えなくなってくる。そして淡々と流れるナレーションは小さな針が仕込まれているようにチクチクと心を刺す。誰もいない広い海原に一人漂流するあいつの姿は、本当の理由も意味もわからずただお国のためと戦争へと導かれ、天皇は現人神だと崇めさせられていたのに、いきなり戦争は終わりました。天皇は神ではありませんみなさんと同じ人間ですと、愛する者を失くしても国のためにと耐えてきたのにあっさりと突き放されてしまった人々の姿なのかもしれない。

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『ゲロッパ!』(2003年/シネカノン)

監督:井筒和幸。
出演:西田敏行。常盤貴子。山本太郎。岸部一徳。

収監を数日後に控えた羽原組組長の羽原はジェームズ・ブラウンの大ファン。ジェームズ・ブラウンの名古屋公演を目前に収監されてしまうことが残念で仕方がない。おまけにもう組を解散すると言い出す。堅気の仕事にはつけないと食い下がる子分たちだが、羽原の意思は固く、彼らの言葉を受け付けない。そんな子分たちに羽原の弟分である金山はそんなに親分を思うのならジェームズ・ブラウン誘拐を命令するが・・・。
いやぁ、大阪弁のネイティブを集めただけあって、なんとも大阪人向きのノリの映画でした。さすがに『探偵ナイトスクープ』の局長をやってらっしゃるだけあってネイティブではない西田さんもなかなか大阪ナイズしててよかった(笑)。余計なこと考えずにノリで行きましょうや、ノリで。っていう作りの映画は大好きな私には十分に楽しめましたよ。しかし一番びっくりしたのが藤山直美さんのダンスのうまさ。なんでもこなしますねぇこの人は。みなさんコメディ向きのうまさを発揮してて本当に楽しかったぁ。きっとこの映画は関西圏の方がヒットしてるんじゃないかな?(笑)。

2003年9月28日(動物園前シネフェスタ)

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『殺人狂時代』(1967年/東宝)

監督:岡本喜八。
出演:仲代達矢。団令子。天本英世。砂塚秀夫。

「大日本人口調節審議会」ヒトラーに心酔する精神病院を経営する溝呂木院長が自らの患者を殺し屋にして人口調節のために無駄な人間を抹殺するという機関。そこに元ナチスのブレッケンマイヤーが契約を結びたいとやってくる。しかしその仕事が確かなものか知るためにと電話帳から無差別に選んだ3人の殺害を要求する。最初の二人は難なく成功するが最後の一人、犯罪心理学の大学講師桔梗信治の殺害には失敗する。執拗に信治の命を狙う「大日本人口調節審議会」だが、実は彼の殺害は電話帳から無差別に選ばれたことではなかった。信治は特ダネを狙う新聞記者の啓子と車泥棒のビルという仲間を得て、「大日本人口調節審議会」に真っ向勝負を挑むが・・・。
溝呂木院長役の天本さん、さすがこういうのはハマリ役ですねぇ。桔梗信治役の仲代さんもいいなぁ〜。『斬る』でもそうだったのですが、こういうすっとぼけた役に私はこの人の魅力を感じます。「大日本人口調節審議会」なんて発想もすごいですが、最初は無差別に電話帳から選び出された3人というなんとも細い線からだんだん太くなってきて最後には爆破シーンなんて大技まであって、本当に見事な娯楽映画ですね。それにこの映画では殺し屋たちや信治の小道具の使い方がすごく面白い。主人公の乗るオンボロ車のあの音まで気に入っちゃいました。案外岡本監督ってリズムにこだわる人なのかもしれません。そそ・・・なんでもこの映画は完成当時オクラ入りになったとか・・・。その後一年してなんとか上映されたそうなんですけど、今私が観て面白い!って思うのに・・・時代的に早すぎたのでしょうか?

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『赤毛』(1969年/東宝)

監督:岡本喜八。
出演:三船敏郎。寺田農。高橋悦史。岩下志麻。

慶応四年、抵抗する幕府勢力を鎮圧し北上する官軍の先駆けとして、相楽総三を隊長とする元は武士階級ではなかったものの集団である赤報隊が、年貢半減令の旗印を与えられ各農村地帯の民衆を鎮撫していた。その赤報隊の隊士の一人である百姓あがりの権三は、次の目的地が郷里の沢渡宿であることから隊長に頼み込み、先陣として出発する。そしてその際、どうしてもと隊長に懇願し、隊長の赤毛を借り、意気揚々と村に乗り込む権三。代官と駒虎一家に支配される村人たちを解放し、年貢米を取り返し、村人たちに敬われ, 有頂天になる権三だが、大人しく権三の言うことを聞く代官と駒虎一家ではなかった。
私は時代背景としてこの幕末っていうのがすごく好きなんですが、今までこの赤報隊が主人公のものって観たことなかったんですよねぇ。おまけに私が好きなマンガ『るろうに剣心』に出てくる相楽総三がこれまたかっこいいんだ(笑)。だからこのビデオみつけたときはうれしかったですねぇ。しかも監督が岡本喜八監督。でも、この映画赤報隊だけど赤報隊が主役じゃなかった(^^;)。三船さんが相楽総三だとばかり思い込んでたんですよねぇ・・・アッハッハ。っと前置きが長くなりましたが、この映画面白いけどなぁ。ネットで調べるとどうもあまり有名じゃないみたい。「赤毛」で検索かけたら「赤毛のアン」ばかりヒットしちゃった(笑)。三船さん演じる権三は『七人の侍』の菊千代をもっと明るくした感じで、三船さんは本当はこういう役の方が好きなんじゃないかなぁって思わせるくらいにノッてるし、代官役の伊藤雄之助さんがまた独特のいい味だしてるし・・・私はこの人晩年の重厚な怪優というイメージしか持ってなかったんですが、こういう俳優さんだったんですねぇ。物語も悲劇の赤報隊をうまく料理していてなかなかいい作品だと思うんですけどねぇ。

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『幻の湖』(1982年/東宝)

監督:橋本忍。
出演:南條玲子。隆大介。長谷川初範。かたせ梨乃。室田日出男。

雄琴のトルコ嬢の道子は愛犬シロと共に琵琶湖湖畔をジョギングするのを日課にしていた。まだ見ぬ運命の人を求めてシロと走る道子。そんなある日葛篭尾崎でシロが道子の制止を聞かずわき道に入っていく。するとそこには一人笛を吹く男がいた。この人が運命の人なのか・・・彼に会わせてくれたシロを抱きしめる道子。その後もどこかで彼の姿を探しながらシロとのジョギングを続ける道子だったが、10月の雨の日、仕事に出かけた道子にシロらしい犬が死んでいるという連絡が入る。何者かに殺されたのだった。執拗に犯人を捜す道子は遂に犯人が有名作曲家の日夏であることを突き止める。はじめはシロを殺した報いと侘びだけを求めていた道子だが、それが叶わないこととわかったとき道子は復讐を誓う。
いやぁ、すごいとは聞いていましたが、本当にすごかった。しかもただ単にとんでもない作品だと言うならここまでカルト的な人気を誇るはずもなく、筋書きは本当にとんでもないものなんだけど、なぜか作りだけはしっかりしている(笑)。無茶なんだけど押し切られるとでもいいましょうか・・・。愛犬シロを殺されいきなり復讐に走るのかと思っていたら、まず犯人をでっち上げられ、やっと真犯人がわかったと思ったら、顔もわからない本人にも会えない。おまけに事務所の女は超ムカツク。そら殺してやりたいと思うわな・・・と思わず納得しちゃったよ。東京中の人間が自分の敵のようだ・・・という心理状況にまで追い詰められる主人公。ここんとこはさすがという作りですな。しかし・・・だからと言ってなぜにジョギングなんだ?おまけにただ相手を追いかけるっていうのじゃなくって間合いを計算してスパートの見切りつけたり・・・マラソンの駆け引きしてどうすんだよ。そしてラスト「勝ったわよ!シロ!」あんたの目的はマラソンに勝つことだったのか!?とひっくり返りそうになっちゃったよ。私の中ではこの「勝ったわよ!シロ!」は日本映画史に残る名セリフとなっちゃいました(笑)。愛犬を殺されたトルコ嬢の復讐劇にアメリカのスパイに織田信長にNASAまでくっつけちゃった日本映画が誇る名脚本家橋本忍・・・さすがだ。でも誰もがこの作品を観てつぶやく一言・・・私も同意見です。「誰もこれを止められなかったのか」

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『江分利満氏の優雅な生活』(1963年/東宝)

監督:岡本喜八。
出演:小林桂樹。新珠三千代。東野英治郎。中丸忠雄。

広告会社に勤める江分利満は36歳。なぜだか最近おもしろくない。何をやってもおもしろくない。仕事が終わり、一人飲み行く江分利。酒が入り酔いがまわると日頃のおもしろくないという意識が増長され、愚痴が多くなりからみだす。そんな彼に声をかけてきた一組の男女。彼らは雑誌の編集者でいつもの彼の飲みっぷりとそのからみっぷりに興味を覚え江分利に原稿の依頼をしてきた。酔った勢いで約束してしまった江分利は、仕方なく原稿用紙に向かう。「でも何を書こう?」悩んだ末に江分利は、金もなく才能もない平凡なサラリーマンである自分のことを書き始めるのだった。
なんでもこの作品は封切り1週間で打ち切りになったそうだ。しかも出来上がったときにはフロントに叱られたそうだ。そらそうだわな・・・とこの作品を観た誰もが納得するはずだ。普通のサラリーマンの日常の話であるはず・・・いや、あったはずである作品が戦中派の心の叫びであるかのような戦争批判映画になってるんだもん(笑)。今観るからこそ面白い作品であると思えるんじゃないかな。特に東野さん演じる江分利の父親がいい。看護婦のおねえちゃんに色目を使うシーンと病院に送ってもらうために出勤する息子の後ろをとぼとぼと着いて行き、駅に着き振り向いた息子になんとも言えない卑屈というか、情けないというか・・・のあの笑顔。素晴らしい俳優さんです。私はこの映画面白いと思いますよ直木賞受賞のあたりまでは・・・(^^;)。いや、あのあとも悪くはない・・・悪くはないのですが・・・。私にはあの江分利の「かっせ!かっせ!」という野球の話が長すぎてつらかった。しかも同じようなことを繰り返しているんですよねぇ。せめて一度にして流して欲しかった(苦笑)。

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『妖怪大戦争』(1968年/大映)

監督:黒田義之。
出演:青山良彦。川崎あかね。内田朝雄。木村玄。神田隆。

バビロニアの遺跡に封印されていた妖怪吸血鬼ダイモンが盗掘者の手により蘇ってしまう。そしてその蘇ったダイモンの向かった先は日本の伊豆半島。そこで釣りをしていた代官磯部兵庫を襲い、兵庫に乗り移りこの地を我が物にするために次々と人を襲い血を吸うダイモン。このダイモンの正体を代官所の池に住む河童が最初に気付き、外国の妖怪に日本を乗っ取られてはたまらないと古寺に住む妖怪仲間に助けを求め、ダイモンと対決することになる。しかし彼らだけでは太刀打ち出来ず、日本中の妖怪の助っ人を求めることに・・・。
アハハ!なんかいいですよねぇ。この作品。日本中の妖怪の総力を決して外国の妖怪吸血鬼ダイモンをやっつけるという発想がいい。この作品製作年度が古いから白黒なんですが、カラーじゃないから観れるんじゃないかなぁ・・・という気もする。冒頭神田隆さん扮する代官が温厚で優しかったので、「へぇ〜、この人もいい役やってるんだ」と思っていたら・・・結局乗り移られて悪役になっちゃうのね(笑)。妖怪それぞれがお国訛りで話すのもなかなか発想として面白い。しかもこの映画なんか叙情的なんですよねぇ。妖怪たちが帰って行くラストシーンには、遠い昔に失くしてしまった何かを思い出させてくれるようなほろ苦い・・・それでいて優しい風情があります。絵としてもすごくきれいなラストシーンでした。

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『浪人街』(1990年/松竹)

監督:黒木和雄。
出演:原田芳雄。樋口可南子。勝新太郎。石橋蓮司。

江戸の下町。夜鷹たちがたむろする一膳めし屋「まる太」。その店のお新と以前いい仲であった荒牧源内がまた、お新の元へふらりと帰って来た。いい加減な男とわかっていながらもヨリを戻してしまうお新。そのお新に密かに思いを寄せる刀の試し切りで金を稼いでいる母衣権兵衛。「まる太」で用心棒をしながら夜鷹たちに読み書きを教える赤牛弥五右衛門。藩への帰参を夢みながら妹おぶんと暮らす土居孫左衛門。そんな彼らが行き来する「まる太」に出入りする夜鷹たちが次々と何者かに殺害される。そして遂に「まる太」の主人太兵衛まで惨殺されてしまう。彼らが太兵衛の死を悼んでいると、夜鷹斬りの張本人であり太兵衛殺害の旗本小幡の一党が乗り込んでくるが・・・。
この映画には全然興味がなかったのですが、ネットでこの映画での石橋蓮司さんがすごくかっこいいという評を読み、これはぜひとも観なければと早速レンタル。本当にすっごくかっこよかった。こんなにかっこよくっていいのだろうか?というくらいかっこいい(笑)。ラストの立ち回りシーンには惚れ惚れします。白装束に身を包み助太刀に参上する母衣権兵衛。一人斬っては鞘に刀をおさめ、居合い斬りで相手を斬る。クールに一人決めてくれてます。でもこの映画石橋蓮司さんがかっこいいだけじゃなくって、なかなか物語も面白かった。原田芳雄さんがどうも好きではないので、全く観る気がなかったんですがね。最初は出てくるだけでうざかった原田さんもラストではまぁまぁ気にならなくなりましたし、田中邦衛さんの助太刀装束には爆笑させていただきましたし、勝新さんのラストもかっこよかったし・・・私にとってはなかなかの拾い物でした。

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『愛の陽炎』(1986年/)

監督:三村晴彦。
出演:伊藤麻衣子。萩原流行。佐野浅夫。北林谷栄。

埼玉県飯能市。田中製材所で働くルミ子には、製材所に出入りする野村運送のトラック運転手をしている岩松という恋人がいた。まだ誰にも話してはいないが、結婚するつもりで二人して貯金をして日高の高麗の里の高台に家を建てる約束をしていた。ある日ルミ子はおばあちゃんにだけその話を打ち明ける。そんなある日おばあちゃんは病院で高校生らしき女の子に付き添う岩松を見かける。ルミ子の友達の看護婦に聞くと中絶をしにきたと言う。事故の示談に使うと金を貸したルミ子はそれが中絶費用だとわかりショックを受けるが、謝る彼をそれ以上責めることが出来ないルミ子は彼を信じることに。そして土地代の手付けが必要だと言われ200万円を渡したあと、事務所であの土地は絶対に売るわけがないという話を聞き、おばあちゃんが岩松のことを調べてくれと頼んだ住職からは彼が結婚しているという話まで聞かされ、彼への怒りは頂点に達し「ぶっ殺してやりたい!」と泣くルミ子におばあちゃんは”呪い釘”をすすめる。
この作品も脚本家橋本忍さんの迷作として『幻の湖』と姉妹作とされている作品なのですが、『幻の湖』と比べるとこちらのほうが随分と普通でまともです。まぁ、女グセの悪い男にだまされ金まで巻き上げられた女が選ぶ復讐が”丑の刻まいり”っていうのがとんでもないと言えばとんでもないのですが・・・(笑)。でも私はこの作品面白いと思うんですけどねぇ。何がいいってルミ子のばあちゃんがいいんだ。こんなばあちゃんなら私も欲しい(笑)。”呪い釘”なんて効かないからもうやめる!つまんないこと言い出したおばあちゃんが悪い!って責められて家の表に出て泣いちゃうばあちゃんのなんとも哀愁のある背中。この映画の影の主役はこのばあちゃんだな。このばあちゃんがいなきゃこの物語ははじまんない。それにこの映画の主題は深いよ。映画の中盤から登場する”奥秩父の子守唄”これも橋本忍さん作詞なのですが、ただただこれを言いたいためにこういう物語になったんですよねぇ。「あの山越えてこの山越えて越えて越えても山ばかり」う〜ん深い。

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『絞死刑』(1968年/ATG)

監督:大島渚。
出演:佐藤慶。渡辺文雄。石堂淑朗。足立正夫。戸浦六宏。

二人の女性を殺害し、死刑判決を受け、死刑執行に至る儀式を経てロープにかけられる死刑囚R。踏板が落とされ刑が執行され、死亡を確認する医務官が脈拍をとるが、普段以上の時間を経過しても脈拍は正常に打ち続けていた。再度、刑を執行しようとするが、心神喪失状態にある者への刑の執行は法律で禁じられており、とにかくRの意識を戻すため医務官により手当てが施される。しかし意識を取り戻したRは自分が死刑囚であったというどころかRであるという記憶すらなくしていた。意識が戻ってもなお、心神喪失状態であり死刑の執行が出来ない所長をはじめとする死刑執行官たちは、何とかRが死刑囚であったことを思い出させるために、彼の犯した犯罪を実演し再現するのだが・・・。
あのぉ・・・こんなのアリですか?(笑)。死刑制度の有無を問いかけるのに、こんな描き方があるなんて・・・。すごい映画だ。『絞死刑』というタイトルのわりになんか軽い感じのはじまりだなぁと思っていたら・・・。まさかコメディ仕立てになっているとは、もうびっくりです。そして出演者それぞれがなんとも言えない味わいを醸し出している。渡辺文雄さんの軽いこと軽いこと、この人のこんな軽薄な演技ははじめてみましたよ。それにお母さん役をあてがわれた佐藤慶さんの白衣を前から着て割烹着に見立てた姿には感動しちゃいました。ただ教誨師役の人は一体何者?な〜んかヘタでうざったかったなぁ。とまあ楽しげな映画のようでいて、下敷きにされているのはすごく社会的なものなので、観終わってうならざるを得ない映画ですね。大島監督ってすごい監督だったんだぁ・・・となぜか過去形になってしまいましたが(笑)、観る事が出来てよかったと思える映画でした。

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『本日休診』(1952年/松竹)

監督:渋谷実。
出演:柳永二郎。佐田啓二。鶴田浩二。淡島千景。

東京下町にある三雲医院は開業から18年。戦争で一人息子を失った八春先生は甥の伍助を院長に迎え、戦後再出発してから一年目の記念日「本日休診」の札を掲げ、伍助と看護婦たちは温泉旅行に出かて行った。八春先生はのんびりと休日を楽しもうとしていたが、三雲医院に勤める婆やの息子勇作が発作を起こしたと婆やが飛び込んでくる。勇作は戦争で正気を失くし、今でも戦争中だと思い号令をかけ出すのだった。なんとか勇作を静め、昼寝を楽しもうとした八春先生の元に今度は警官が暴漢に襲われたという女性を連れてくる。そしてまた一人・・・とせっかくの「休診日」がすっかり多忙な一日となってしまう八春先生。三雲医院をとりまく人々のお話。
こういう物語を観るとなんだかホッとする。今は無き古きよき日本の日常風景。下町の人情味あふれる優しい物語に人の弱さやズルさが描かれていて観終わって本当に心の落ち着く映画でした。それにこの映画今から考えるとすごいメンバーなんですよね。佐田啓二さんに鶴田浩二さん。そして三國連太郎さんまで出てる。もちろんこの当時はなんてことないメンバーなんだろうけど、今からするとすごいし貴重ですね。しかも三國さんなんて戦争でおかしくなってしまった勇作役ですもん。そしてこれがまたいい味出しててかわいいんだ(笑)。「軍医殿!大変です航空兵が負傷しました!」と八春先生を呼びに来て、出かけて行くと負傷していたのは雁。確かに航空兵だわな(笑)。二枚目ではないこういう役をやっていたから今の三國さんがあるのかな?なんて思っちゃいました。今では絶対と言い切っていいぐらいに作られることのない物語。古き良き日本の名作の1本じゃないでしょうか。

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『昭和歌謡大全集』(2002年/シネカノン)

監督:篠原哲雄。
出演:松田龍平。岸本加世子。樋口可南子。池内博之。原田芳雄。

何の接点もない6人の少年と6人のおばさん。少年たちはそれぞれ学生だったり、フリーターだったりと生活部分の共通点はないが、漠然とした日常の憂さを晴らすための昭和の歌謡曲を歌うカラオケパーティーを儀式的に行うことで精神的に繋がっていた。おばさんたちは雑誌の特集記事で集まった同じミドリという名前の離婚経験者。ある日少年の一人スギオカに町ですれ違い様おばさんの一人ヤナギモトミドリの持つ買い物袋がぶつかったことがきっかけとなり、スギオカはヤナギモトミドリの喉をナイフで切り裂いてしまう。「おばさんだから殺された」そう感じたおばさんたちはスギオカに復讐するが、復讐が復讐を呼び、おばさんVS少年たちの戦いが始まる。
もっと壮絶なギャグ映画に近いバトルを期待していたのですが・・・ま、それは原作を知らない私が悪いんですから仕方ないですね。ただ漠然と観ていると「なんじゃ、こりゃ?」なんですが、よーく考えてみるとなんとも皮肉な映画ですねぇ。復讐は復讐を呼び最後には破滅を迎える。そして少年VSおばさんとわかりやすくしているけど、敵はなんだっていい。自分たち・・・いや、自分と違うものはすべて敵になる。それを暗喩しているような気がする。普通の金物屋でトカレフが買えたり、あっさり自衛隊のルートからバズーカが手に入ったりと、非日常的な描き方で面白おかしい作りにはなっているけど、なんとも表し難い深いものがあるような気がしてう〜んとうなりながら劇場を後にしたのは私だけだろうか?おばさんの喉を切り裂いたスギモトの行動に共感は持たないまでも、理不尽だとは感じなかった。病んだ社会にすっかり私も毒されているのかもしれない。

2003年11月15日(動物園前シネフェスタ)

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『金閣寺』(1976年/ATG)

監督:高林陽一。
出演:篠田三郎。柴俊夫。横光勝彦。島村佳江。

吃音コンプレックスを持ち、心に暗いかげりを持つ青年溝口は、幼い頃より金閣寺ほど美しいものはないと教えられ、父の死後その金閣寺の修行僧となるが、彼は空襲で金閣寺が炎の中に消えてしまうことを望んでいた。しかし戦争は終わり、彼の夢は果たされることがなくなり、彼の心の闇はますます深くなる。女性と関わりを持とうとすると現れる金閣寺。自分の人生を阻み、無力化している金閣寺。心ではなく現実に消してしまわないと何も始まらないと考える彼は金閣寺に火をつける・・・。
う〜ん・・・。これは一度ビデオで観ているのですが、私の好きな横光さんの唯一の映画作品。せっかく劇場で観られるのだからといそいそと劇場に足を運んで2度目の鑑賞。しかし・・・う〜ん・・・。どうも私はこういう観念的なものって苦手のようですな(笑)。まぁ、そもそも三島文学って私一冊も読んでないんですよね。で、なんでも『炎上』よりもこちらの方が原作に近いらしい。ということは三島文学自体が私には不向きということか・・・(笑)。原作読んでいないので何とも言えないのですが、この作品の主役溝口青年には篠田さんは優等生っぽい感じでなんか似つかわしくないような気がする。『炎上』も未見なので、はっきりは言えないけど市川雷蔵さんの方が合ってるのではないかな?ぜひとも『炎上』も観てみたいですね。そうそう・・・聞くところによると横光さん、溝口の方が演りたかったとか・・・。柏木で間違いなし。と思うのは私だけでしょうか?(笑)。しかし、ラストのあの映像は劇場で観れてよかったと思いましたよ。

2003年11月23日(シネ・ヌーヴォ)

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『いのち・ぼうにふろう』(1971年/東宝)

監督:小林正樹。
出演:中村翫右衛門。栗原小巻。佐藤慶。仲代達矢。

四方を堀に囲まれた小さな島、そこに建つ一軒の居酒屋「安楽亭」。店を構えてはいてもそこに出入りする客はなく世間からつまはじきにされた無頼漢たちが主人幾造とその娘おみつとともにここで抜荷運搬の仕事をしながら生活をしていた。ある日その「安楽亭」の住人与兵衛と定七が無銭飲食で袋叩きにあっていた質屋の奉公人富次郎を助け連れ帰ってきた。夫婦になろうと決めていた幼馴染のおきわが怠け者の父親に売られ、それを助け出そうと店の金を持ち出しおきわを探しまわっているうちにその金を使い果たしてしまったという。富次郎のために金を作ってやりたいと思う与兵衛は、灘屋が持ち込んだ仕事を引き受けると言い出すが、以前灘屋の仕事で仲間二人が殺されてしまったため、この仕事には裏があると主人幾造は乗り気ではない。ところが自分の命をかけておきわを助け出しに行こうとしている富次郎をみつけた定七が、富次郎の誰かのために命をかけるという行動に心動かされ、この命棒にふっても誰かのためになるのなら本望じゃないかと仕事を引き受けると言い出し、安楽亭の無頼漢たちは生まれて初めて誰かのために命を張る仕事に乗り出す。
この映画も皆様おすすめで、ビデオもないという映画で「観たい!」という思いが強くなっていた作品なんですが、CATV様様ですね。うまい具合に放映してくれました(笑)。「安楽亭」の無頼漢たちがそれぞれにすごくいい。誰がこうしてこうなったなんてバックグラウンドは何一つ語られない・・・唯一定七の過去だけは語られますが・・・それでもそれぞれにいわくありげな影がうっすらとかかっていて、渋すぎます。岸田森さんなんて座って楊枝削ってるだけで大変な人生だったんだね。なんて思っちゃえるからすごい(笑)。一癖も二癖もありそうな連中、そんな連中を演じている俳優たちもこれまた一癖も二癖もありそうなメンバーで、それだけでも見応えがある。物語自体はどちらかといえば地味なものだろうと思いますが、淡々と畳み掛けるような運びに引き込まれていく。そしてラストの大立ち回りも圧巻です。ただ・・・ただ・・・、一言だけ言わせて下さい。「富次郎のバカヤロー!」(笑)。

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