マグワイアの謝罪の美学 岡森利幸 2010/1/22
R1-2010/2/1
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞朝刊2010/1/12 スポーツ面 1月11日、野球の米大リーグの元強打者マーク・マグワイア氏(46)は声明を発表し、筋肉増強剤であるステロイドの使用を認めた。01年に引退した後、05年の米下院公聴会でも明言を避け、沈黙を貫いてきた彼だったが、今季から打撃コーチで復帰するカージナルスを通じて、「私はおろかで、過ちを犯した。本当に悔いている」と謝罪した。 マグワイア氏は、米大リーグ機構が運営するメディアにも出演し、薬物使用について涙を浮かべながらインタビューを受けた。 このタイミングでの発表は唐突ともいえない。全米野球記者協会の投票による野球殿堂入りの選手が発表されたのは6日。マグワイア氏は殿堂入りの基準となる75%に遠く及ばない23.7%の得票率で4年連続で落選していた。歴代8位の通算583本塁打を放った実績は殿堂入りにふさわしい。しかし、疑惑がある限り、おそらくは道は閉ざされて、16年間の現役生活も否定的に見られがちとなってしまう。コーチとしての再出発の年にマグワイア氏の心境の変化があったのだろう。 |
The Japan
Times 2010/1/19スポーツ面 マーク・マグワイアは、ステロイドの使用を認めてから初めて公的に姿を現した1月17日、カージナルスのファンからスタンディグオーベーションを受けた。 |
マーク・マグワイアは、1998年に年間ホームラン数70本の記録を打ち立てた当時から、薬物(筋肉増強剤、ステロイド)の使用が疑われていた。かなり信憑性のある状況証拠が上がっていたのにもかかわらず、本人はそれを否定していたから、その噂はくすぶり続けていた。
その謝罪会見を聞いて、
「やっぱりそうか。あの体つきからして、ステロイドを使っていたことは明らかだった。薬でホームランを量産したんだから、とんでもない奴だ。あの栄光も地に落ちたもんだ」
「いまさら、謝罪したり、後悔したりしても遅いんだよ。会見で涙ぐんだりして、情けない男だ」
などと、憤慨した向きもあるかもしれない。
「いまさら告白して、なんになるんだ。バカな奴だ。一生黙り通せば、噂は噂のままで、大打者として名誉が保たれたのではないか。奴はハイイロをクロといってしまったのだから、身の破滅だろう。いっしょにプレーしたチームメイトにも、顔向けできないだろう。カージナルスの面汚しだ」という辛らつな声も聞こえて来そうだ。
当時は今ほどドーピングの規制は厳しくなく、ステロイドの使用は野球規約に違反したことではなかったが、それでも公にするのは、はばかられることだったし、うしろ指さされることを覚悟しなければならなかった。
しかし結果的に、今回の告白に批判的な人は少なかった。大多数のアメリカ人は好意的だった。
「よくぞ、言った。なかなか言えないことだ。おまえはえらい。変なプライドよりも反省する気持ちの方が強かったのだろう」
ということになった。
アメリカ人にはシロ・クロをはっきりさせたがる国民性がある。疑惑がくすぶり続けているのでは、たまらなく不満なのだろう。はっきりしてもらいたいという思いが圧力となって、とうとうマグワイアを告白に追い込んだという見方もできる。アメリカのメディア(あるいは世論)が政治的にも、疑惑を追及して自白に追い込んだ例は多い。ニクソン大統領はライバル政党のビルに盗聴を仕掛けた首謀者として、クリントン大統領はホワイトハウスでの研修女性とのスキャンダルを認めざるをえなくなった。一般の裁判でも、動かぬ証拠があるのに、いつまでも「わたしはやっていない、関係ない」と被告がシラを切れば、法廷でうそをついたということで、重い偽証罪にも問われる。
マグワイアが、このタイミングで告白したのは、彼の実績からすれば、野球殿堂入りになって当然なのに、今年も投票で選ばれなかったことがそのひとつの理由と考えられている。ステロイドの使用が疑われている現状では、投票者たちの心証が悪すぎるから、その心証をよくするために、謝罪したのだという。野球殿堂入りすれば、名誉なことで、マグワイアとしてもそれを強く望んでいたという。(年金も多くもらえるらしい。)
それよりも、マグワイアは今シーズンから名門チーム・カージナルスのコーチに就任し、ファンの前に姿を現わさなければならなかった事情がある。ハイイロのコーチが姿を現わせば、ファンが大ブーイングを起こすかもしれないという恐怖が彼にあったからだ、と私は考える。ステロイド疑惑の男がふてぶてしくコーチをすることにファンとしては我慢がならないことは、マグワイア自身、よくわかっていたのだろう。〈ファンに必ずヤジられる〉という確信を持ったのだ。それが数日後の1月17日(日)に予定されていたから、その前に……。
〈いつまでもブーイングされるぐらいなら、ここで謝ってしまおう。アメリカ人気質のファンなら、許してもらえるだろう〉と彼は考えたのだ。
彼の読みは当たった。彼の古巣のセントルイスで、すっきりした彼が姿を現すと、ブーイングでなく、スタンディグオーベーション(最大級の歓迎の仕方)が起きたのだ。
天皇を政治利用した小沢一郎