禁断のバナナを投げ入れる 岡森利幸 2011/7/8
R1-2011/7/8
以下は、新聞記事の引用・要約。
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毎日新聞朝刊2011/6/26 国際面 サッカーの元ブラジル代表ロベルト・カルロス選手（３８）が６月２２日、所属先のロシアリーグの試合中、観客からバナナを投げつけられた。カルロス選手は南部サマーラで出場したビジター戦のロスタイム中、観客席から足元にバナナを投げつけられ、試合終了の笛を聞かずにフィールドから去った。２月にロシアリーグ入りしたアフリカ系のカルロス選手へのこうした出来事は２度目。３月にも敵地サンクトペテルブルクでの試合前、観客からバナナを突き出された。 アフリカ系やアジア系に対する白人の差別行為として、猿の好物であるバナナを差し出したり、猿のまねをすることがある。ロシアでは人口の８割を占める白人のロシア人が、カフカス系や中央アジア系に差別意識を持つといわれる。 カルロス選手は２２日の試合後「文明的な国では許されない行為だ」と失意を語った。ロシアリーグは２４日、ソビエトフ側（その観客がサポートしたチーム）に３０万ルーブル（約９０万円）の罰金を科した。 |
アフリカ系のカルロス選手は、いわゆる黒人なのだろう。最近では、マスメディアでも「黒人」・「白人」という人種をあからさまに区分するような言い方に関して、表現を微妙に変えている。この記事の中でも「黒人」とは書いていない。
「試合終了の笛を聞かずにフィールドから去った」ことが、カルロス選手の心痛をよく表している。ブラジルで活躍した高名なカルロス選手でも人種差別の対象にされるとは、本人にとってショックであり、ロシアでの差別意識は相当に根深い。
白人が黒人にバナナを差し出すことには、とんでもない意味が込められていて、それをした観客たちにはその意味がよく分かっていたはずだが、あえてそれをやったということは、そうとうな悪意をもってやったことになる。悪質な嫌がらせだ。あるいは、酔っ払って正気を失い、悪ふざけをしたかだ。差別意識を持つのは本能的な感情として仕方ない面があるにしても、それを表に出すのは社会的にまずい。今日の世界では、犯罪行為になってしまう。それは侮辱・侮蔑行為となる。バナナを差し出す側が、サル以下の動物とされてしまう。
そんなことをすると、誇り高い黒人たちは、烈火のごとく怒るものだ。自尊心が傷つくだけでなく、嫌われて仲間に入れてもらえない惨めさがこみあげたり、歴史的に差別によって、どれだけ不利益をこうむったかが身にしみたりしているから、絶対に許せないという怒りとなる。黒人であることがコンプレックスにもなってしまうかもしれない。
ロシアリーグでは、白人系の選手が大部分で、アフリカ系の選手はほとんどいないのだろう。そんな中にロベルト・カルロス選手が入ったことが問題だったかもしれない。それでなくても、サッカーの観客は、血の気が多く、試合経過によっては鬱憤がたまりやすく、ちょっとしたことで騒ぎ出したりするものだ。カルロス選手をわざと怒らせることをしたのも、その鬱憤を晴らすためだったのかもしれないし、感情的に嫌いな黒人選手が相手チームにいて活躍すれば、なおさら敵対心が刺激されたのかもしれない。
白人たちの中に黒人に対する強い差別が本能的にあるようだ。自分たちの方が優位にあるという思い上がりだ。その感情を抑えず、すぐに行動で表してしまうところに問題があるのだろう。社会的モラルが低いせいでもある。それが本能だとしても、ある程度「慣れ」れば、そんな差別感情は薄れるものだ、と私は思っている。ロシアの白人たちは、黒人の実物をあまり見たことがないのだと思えるのだ。人種の「るつぼ」のような環境であれば、見慣れてしまい、たとえ、目の前に原人に属するような人類が歩いていたと仮定しても、違和感をもたず、無関心でいられるものだ。
だから、白人社会の中に初めて入るような黒人は、白人たちが見慣れるまで、存在感をアピールし、それなりの覚悟をもって、差別にもひるまず、逃げ出したりしないことが肝要だと私は考える。白人たちを慣らすまでが大変だが、それで、後に続く黒人たちに対し、先人の役割を果たすことになる。スポーツにおいて、その他の分野においても、白人たちと一緒にプレーを始めた黒人たちにはその苦労が付きまとうようだ。ロベルト・カルロス選手は、試合を放棄してしまい、フィールドを去ったというが、バナナを投げつけられたら、その意図はわかっても、それを拾って投げ返すぐらいの態度を見せる方がよかった。差別されたことの怒りを抑えるのも分別だ。私が彼なら、それを拾ってゴミ箱に入れたかもしれない。
「オレはサルではない。少なくともアンタより分別のある人間だ。それに、ずっと高給取りだ」というアピールを込めて……。
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